ある白猫の生涯
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白猫の最期
9月になったのだろうけど、直ぐに我が家の全員が急に慌ただしく出掛けて行った。皆が留守になった家にポツンと残された俺のところにすずりちゃんがご飯を運んでくれて
「あのね ミナツちゃんがね・・・死んじゃったんだって・・・ 岩ちゃん・・・」
『えーぇー すずりちゃん なんて言ったんだい?』
「語学学校に暴漢が入ったみたいでー 何人か襲われたみたい 大学の入学式も直ぐなのにねー」と、言いながら涙を流して、俺を抱きしめてきていた。
俺には、なにがなんだかわからなかったけど・・・ミナツちゃんとは もう 会えないんだってことだけはわかった。それに・・・俺も・・・最近は 身体が自分のもので無くなってきていると感じていたのだ。先行き 長くないなって 思っていた。俺は、ミナツちゃんのことを守れなかったのだ。
何日か後、この家の人が帰って来て、家の中が暗い感じなのはわかったけど、俺はお父さんにバッグに押し込められて、どこかの建物に連れて行かれた。そこは、犬猫が何匹か居て、俺はあちこちを触られて、嫌がっているのに針を刺されて帰ってきた。
それから、数日後、朝 すずりちゃんがおはようの挨拶で声を掛けられて後、お父さんが庭にコンロを出してきて目刺しを焼き始めたのだ。
「岩 ミナツもあっという間に居なくなってしまってなー これから 素敵な人生を迎えるという時だったのにー それに 岩も・・・なぁー エイズでもう手の施しようがないって 命少ないって ヤブ医者が言っていた 多分 獣かノラ猫から感染したのだろうって お前 ウチの為に 守っていてくれたものなぁー よく やってくれていた」と、心無しか泣いているように思えた。
「ほらっ まだ 目刺し 食べられるか」と、軽く焼いたやつをくれたけど・・・俺にはもう嚙み砕くことさえ出来なかったのだ。なんとか歯でクシャクシャしている俺の姿を見兼ねたのか、お父さんが小さくちぎってくれていたのだ。
「岩 せめて お前だけでも ミナツの側に行ってやってくれよなー ミナツと会話してたみたいだもんなー」
『ニャーん』
「おぉ 僕の言葉もわかるのか? もう少し長く お前とも付き合っていきたかったよ ミナツといい・・・」本当に涙をぬぐっていたのだ。
そして、お父さんが片付け始めたとき、俺は『ニャー ワ』と別れのつもりだった 大きく啼いて よろめきながら雑木林に向かっていた。お父さんにも すずりちゃんにも 感謝して 出来ればミナツちゃんのもとに と 思っていた。もう 一度 この子達を守らなきゃーと・・・
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