金木犀の許嫁
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第二十九話 質素な充実その九
「普通に見るとね」
「面白い人ですね」
「面白過ぎて」
夜空は笑って話した。
「好きになったのよ」
「そうですか」
「佐京君がいなくて」
許嫁の彼がというのだ。
「今あの人がいたらね」
「交際ですか?」
「そう思ったかも」
「そこまでの人ですか」
「人たらしで有名で」
そうであってというのだ。
「思いやりや気遣いもね」
「あったんですね」
「全然偉そうじゃなくて」
総理大臣そして公爵にまでなったがだ。
「その辺りで歩いていたりとか」
「その辺りですか」
「ボロボロの服でね」
「それは凄いですね」
「お爺さん達の碁を覗いたりね」
「ざっくばらんですね」
「そういうところも面白いから」
だからだというのだ。
「若しもよ」
「兄さんがいなかったら」
「そして今おられたらね」
「お付き合いもですか」
「したかったわ」
「そうですか」
「物凄い女好きでも」
このことは兎角有名である。
「節度あったしね」
「無名の芸者さんとだけ遊んでいたのよ」
真昼が言ってきた。
「それも色々言われてるけれど無理強いもね」
「しなかったですか」
「そうだったのよ」
「紳士だったんですね」
「権力とか腕力でね」
そうしたものを用いてというのだ。
「どうかする人じゃなかったのよ」
「総理大臣になっても」
「そうだったの」
伊藤博文はというのだ。
「これがね」
「そうでしたか」
「夜空ちゃんもあの人好きだけれど」
「真昼さんもですか」
「好きよ」
「そうですか」
「実際に人生経験もね」
今話していることもというのだ。
「凄かったしね」
「だからですか」
「私も好きなの、ただね」
「ただ?」
「今見るとね」
ここで真昼はこうも言った。
「小さいって言われるかもね」
「体格はですか」
「当時の日本人って小さいでしょ」
「そうでしたね」
白華も言われて頷いた。
「確か大人の男の人で一五五位ですね」
「伊藤さんもそれ位だったのよ」
「そうでしたか」
「だから今伊藤さんがいたら」
「かなり小柄ですね」
「当時では平均でもね」
それだけ体格でもというのだ。
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