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スーパーヒーロー戦記

作者:sibugaki
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第4話 マジンガーZ危機一髪

 激戦を終えた甲児達となのは達は兜十蔵博士の居た地下施設を訪れていた。そして、其処に横たわる十蔵を見た。
 十蔵は死んでいた。もう孫達を見ても何も言わない。目も開かない。静かにその場に横たわっている姿が其処にあった。

「お爺ちゃん…嘘だろう? 何で死んじまったんだよお爺ちゃん!」
「何でだよぉ! 何で死んじゃったんだよぉお爺ちゃん! 俺にも作ってくれよぉ! 兄貴だけずるいよ! 俺にもマジンガー作ってくれよぉ!」
「シロー君」

 物言わなくなった祖父、兜十蔵を前に甲児とシローは泣き崩れていた。
 そんな二人をなのはとさやかは黙って見ていた。

「レイジングハート。どうして十蔵さんは亡くなったの?」
【兜博士はどうやら大分前から(がん)を患っていたと思われます。恐らく相当無茶をなさっていたと見られます】
「そ、そんな…あんなに元気だった十蔵さんが癌だったなんて…」

 レイジングハートから告げられた事は余りにも非情な物であった。
 それを聞いた甲児がなのはの持っていたレイジングハートを見る。

「何言ってんだレイジングハート! あんなに元気だったお爺ちゃんが癌だったなんて信じられるかよ! 嘘だと言ってくれよ!」
【残念ですが正確なデータを元に私は言っているだけです。これは揺ぎ無い事実なのです】
「ざけんじゃねぇ! てめぇには良心ってのが備わってねぇのかよ! 良くそんな冷てぇ事が言えんなぁ」

 涙目になりながら甲児は怒鳴りだした。悲しみに心が打ちつけられたのだ。大好きな祖父が死に、その悲しみがぶつけようのない気持ちを何処かにぶつけなければ自分がおかしくなりそうな気持ちになって行く。そんな甲児に冷たく言い放ったレイジングハートに向かいその憤りをぶつけだしたのだ。
 その甲児の怒りをレイジングハートを手に持っていたなのははまるで自分に言われているような錯覚を感じていた。無理もない。甲児自身は目の前の赤い球に言っているつもりだろうがなのはから見ればそれは自分に言われているような気になってくる。
怖かった。今の甲児は最初に会った時の気の良い優しい好青年の印象などまるでない。怒りの悲しみに打ちひしがれておりその怒りをレイジングハートやなのはにぶつけようとしているのだ。

「落ち着きなさい甲児君。気持ちは分かるけどなのはちゃんやレイジングハートにあたるのは大人気ないわよ!」

 そんな場面を見兼ねたのか、いきり立つ甲児をさやかが宥める。
 しかしそんな程度で落ち着く甲児ではなく、逆にさやかを突き飛ばしてしまった。突き飛ばされたさやかはそれでも尚甲児を睨む。どうやら彼女は気が強い性格のようだ。この程度の事で折れる心は持っていないようだ。

「何すんのよ!」
「五月蝿い! あんたに何が分かるってんだ! 大事なお爺ちゃんが死んだんだぞ! 家族が死んだんだぞ! あんたに分かるってのかよ!」
「ふん、何さ! 大の男がメソメソしちゃって情けないったらありゃしないわ!」
「何だと!」
「おまけにその憤りをこんな小さな女の子にぶつけるなんて、それでも貴方男の子なの?」
「う…」

 さやかのその言葉は甲児の胸に痛く突き刺さった。
 自分は一体何をしていたんだ。
 祖父を失った悲しみから我を忘れ、なのはやレイジングハートに当り散らしてしまった自分に改めて恥を感じた。
 それと同時にさっきまで胸を締め付けていた怒りと悲しみの感情がふっと消え去っていくのを感じた。そして、それと同時に自分が何と愚かな行為をしていたのだろうと言う事に気づき深く後悔していた。

「すまねぇ、俺どうかしてたみたいだよ」
「分かったみたいね。でも謝るのは私じゃないでしょ?」

 さやかが笑いながら言う。それに甲児は頷く。
 そしてなのはの方を向く。
 そうだ、俺はこんな小さな子にあんな酷い事をしちまったんだ。甲児は小さくなる思いでなのはの方を向き同様に深く頭を下げた。

「御免なぁ、なのはちゃん。それにレイジングハートも。君達に当り散らすなんて俺どうかしてたよ」
「いえ、大丈夫ですよ」

 笑いながらなのはが言う。
 その笑顔を見た甲児の顔にやっと安堵の表情が浮かび上がる。

「やれやれ、短気な兄貴を持つと弟も苦労するぜ」
「そうね、甲児君よりなのはちゃんの方がずっと大人だわ」
「そ、そりゃねぇよ皆してさぁ」

 一同からそう言われたものだから大弱りな甲児なのであった。
 そんな甲児を見てその場に居た一同が大声で笑った。
 祖父、兜十蔵の死で心が押し潰されないようにする為の回避策としての笑いだとしても、今は皆は大声で笑ったのだ。




     ***




 機械獣を破壊されたあしゅら男爵は苦渋の思いを胸にバードス島へ帰り着いていた。
 其処であしゅらが見たのは、怒り狂い自らが手掛けた機械獣を次々と破壊し続けるDr.ヘルの姿であった。

「な、何をなさっているのですか! お止め下さい。Dr.ヘル!」
「五月蝿い! 貴様にはプライドがないのか! ワシが手塩を掛けて作った機械獣がああも容易く破壊されたのだぞ! 貴様は何も感じないのか?」

 Dr.ヘルは怒り狂っていた。
 目は血走り、怒りのオーラがむき出しになっている。
 その姿は正しく地獄の魔王を思わせる風貌でもあった。
 そんなDr.ヘルを前にあしゅらは尚も意見する。

「ですが、たかが2体のロボットでは御座いませんか。その様な輩など…」
「たわけ! あの二体など最早問題ではない! 貴様はおめおめと逃げ帰ってきたから見てなかったのだろう。これを見ろ!」

 そう言ってあしゅらの前のモニターに映像が映る。
 其処に映ったのは、先に機械獣を葬ったエネルガーZとアイアンZ。
 その二体を軽々と蹴散らす一体の巨人が映っていた。

「な、何と! 機械獣ガラダK7とダブラスM2を倒したあの二体の魔神を容易く倒したとは! あのロボットは一体?」
「恐らく兜十蔵が作ったロボットだろう。彼奴め、何時の間にあれだけのロボットを作り上げたのだ?」

 その巨人こそ兜甲児の操るマジンガーZであった。
 マジンガーZは圧倒的力でエネルガーZとアイアンZを蹴散らしたのだ。
 その光景にDr.ヘルも冷や汗を流していた。
 今の機械獣ではとても勝てる相手ではない。
 だが、このまま指を咥えているなど彼のプライドが許さない事であった。

「あしゅらよ、貴様はあのロボットの詳細なデータを集めて来い! それを元にワシはあれを凌ぐ機械獣を製造する」
「ははっ、このあしゅら、直ちに赴き謎のロボットのデータを収集して参ります」
「吉報を待っているぞあしゅらよ」

 去り行くあしゅら男爵を見送るとDr.ヘルは再びコンソールの前に座り操作を行った。
 そして、先ほどのロボットの映像を再び見直していた。

「それにしてもあれだけのロボットを兜十蔵博士は何時の間に作ったと言うのだ?」

 険しい顔でDr.ヘルはその映像を見ていた。
 すると、そのマジンガーZがアイアンZの胴体を吹き飛ばした時、Dr.ヘルは驚くべき物を見た。
 それは、なのはがジュエルシードを封印した際にその映像の一部始終が映っていたのだ。

「おぉ! あれは間違いなくジュエルシード! では、あの二体の中にはジュエルシードが埋め込まれていたと言うのか? やはりジュエルシードは素晴らしい物じゃ。あれを手に入れ機械獣に組み込めば正しく無敵の機械獣が完成する。じゃがそのジュエルシードを内臓したあの二体のロボットすらあのロボットは蹴散らしてしまった。恐るべき強さじゃ…」

 映像では最後に残ったエネルガーを蹴散らしたマジンガーZとその中にあったジュエルシードを回収するなのはの姿が映し出されていた。
 だが、その光景は今のDr.ヘルには全く気にならない事なのであった。




     ***




 此処は富士山麓の中にある光子力研究所。
 其処に兜兄弟となのはは訪れていた。
 さやかの案内で訪れたのだ。
 何せあれだけの巨体を誇るマジンガーZをそのまま町に置いておく訳にはいかないからだ。
 其処へ来ると光子力研究所の中には巨大ロボットを格納出来る格納庫がある。
 其処へ行けばとりあえずマジンガーZを格納する事が出来ると言う事なので此処に訪れた次第でもある。

「いやぁ、それにしても驚いたよ。あの兜博士にお孫さんが居たなんて。私はかつて兜博士の元で教えを受けていた事があったんだよ」

 光子力研究所内にある応接間で弓さやかの父であり現光子力研究所所長の弓弦之助が甲児達と会っていた。
 弓教授はかつて甲児の祖父兜十蔵の愛弟子であり、十蔵が引退するのを起に此処光子力研究所の所長を任されたのだ。そして、先の戦闘で自宅が崩壊してしまった兜兄弟の為にわざわざ別の家を用意してくれていたと言うのだ。そしてマジンガーZは此処に格納され万全の整備を行ってくれると言う。嬉しい事づくめである。

「いやぁ、こちらこそわざわざマジンガーZを格納してくれる上に新しい家を提供してくれるたぁ至れり尽くせりですよ」
「本当本当、俺達の家なんてさっきの戦闘でもうバラバラになっちゃったからねぇ」

 この申し出に甲児もシローも諸手を挙げて喜んでいた。
 人間住まいが無ければ道端で寝なければならない。
 それは余りにも辛いと二人は思っていた所だったので嬉しい限りなのでもあった。

「あぁ、それとなのはちゃんだったね? 残念だが先の戦闘で殆どの道路が破壊されてしまって交通出来ない状態になってしまっているんだ」
「そうなんですか」

 反対になのはの方は暗い顔になっていた。
 先の戦闘の影響か海鳴市へ行く道の殆どが通行できなくなってしまっていたのだ。
 勿論あの時使っていた獣道も例外ではない。
 パイルダーで飛んで帰ると言う方法はあるがあの甲児の運転で更に飛行までつくのであれば冗談ではない。
 かと言って自力で帰るのも無理がある。下手に飛んでる所を目撃されようものなら忽ち大問題になってしまう。それに、もう少し此処に留まりジュエルシードに関する情報を仕入れておく必要もありそうだ。
 しかし、だからと言って帰れないと言うのは9歳の女の子には少々酷な話であった。その事実を突きつけられて平気で居られる程なのはは頑強な心を持っていない。

「心配すんなよなのはちゃん。何なら俺達の家に泊まれば良いじゃねぇか」
「そうそう、なのはちゃんには兄貴が随分世話になっちまったしさぁ」
「シロー! てめぇは一言余計だってんだよ!」

 付け足すように言うシローに甲児がふてくされた顔でそう言う。
 そんな二人をなのはは申し訳なさそうに見ていた。

「でも、良いんですか?」
「なぁに、賑やかな方が俺も楽しいしさ。なのはちゃんにはあの時結構助けて貰ったからこれでおあいこさ」

 笑いながら甲児はそう言ってくれた。
 それが何よりもなのはを安心させてくれた。だが、それとは対照的にさやかは心配そうな顔していた。

「大丈夫かなぁ? 男二人の中に女の子一人で居るなんて」
「ん? 何か不味いのか?」
「だって甲児君なのはちゃんに変な事しないって保障ある?」
「さ、さやかさん! 俺ロリコンじゃねぇよ!」
「どうだか? 兄貴結構スケベだからなぁ」
「シロー!」

 さやかとシローの両挟みを受けて甲児はタジタジの状態でもあった。
 そんな甲児を見てなのはは苦笑いを浮かべていた。

「あ、そうだ。ユーノ君も一緒で良いですか?」
「あぁ、別に良いぜ。お前もそれで良いよな? ユーノ」
「キュ~」

 甲児の問いにユーノは鳴き真似をして答える。
 普通に返事しても良かったのだが彼の事情を知らないさやかや弓教授、それにシローを余り驚かせたくないと言う思いもあったからだ。
 甲児のその応対になのはは安堵し、懐の中から赤い玉、レイジングハートを取り出す。

「ん? なのはちゃん、それは一体何だい?」
「あ、これですか? これはレイジングハートと言いまして…」
【始めまして。レイジングハートです】
「うっ! いやぁこりゃ驚いた。一体何処から声が出ているんだ?」
「良かった見てみます? 良いよね、レイジングハート」

 なのはがレイジングハートを目の前に持って行き尋ねる。

【私は構いません。ですが、くれぐれも分解はしないで下さいね】
「良いみたいですよ」
「いや、悪いねぇなのはちゃん」

 なのはからレイジングハートを受け取り、それを繁々と見つめる弓教授の目は真剣そのものであった。

「ふ~む、見れば見るほどに分からん。明らかにこれにはわれわれの世界にはない技術が詰め込まれているみたいだ。一体何処で作られたと言うのか?」
【マスター、彼に私の詳細をお教えてしましょうか? それとも黙認しておきますか?】
「別に大丈夫だよ。教えてあげよう。私も知りたいし」
【分かりました。弓教授、それでは私たちデバイスについてお教えします】

 そう言うとレイジングハートから光が発せられた。
 その光は天井に当てられ、映像が映し出される。

【私はマスターの戦闘を補助する目的で作られたデバイスと言う類の物です。
そのデバイスには様々な種類が存在しております。ですが、其処までの知識は備わっておらずあるのは私の種類は自我を持ったデバイス「インテリジェントデバイス」と言う事だけが判明しております】
「デバイスだって? 聞いた事ない言葉だ。」

 弓教授の目がどんどん活き活きとなってきた。
 彼も科学者の一人だ。未知の技術に興味が沸くのは勿論なのだろう。
 そんな弓教授にレイジングハートは続けた。

【私を扱うには相当の量の魔力資質が必要となるのです。其処へ来ると今のマスターは素晴らしい才能の持ち主ともいえます】
「何、魔法だって?」
「嘘みたいに思えるでしょうけど、言ってる事は本当なのよお父様」

 驚く弓教授にさやかが付け足した。

【ですが、今のマスターは戦闘面ではまだ未熟な面が多い事が欠点となっております。其処は兜甲児様と同じようですね】
「ちぇっ、おしゃべりなデバイスだぜ」

 自分の事を棚に挙げられたのが余程不満だったのか不貞腐れる甲児。
 やがて、一通りの説明を受けた後、弓教授は溜息を放っていた。

「いやぁ凄い技術の結晶だよこれは。我々の世界では絶対に真似出来ないだろうねぇ」
【それは私達も言えます。私を作った物達の技術力ではあのマジンガーZは恐らく作れないだろうと思います】
「あぁ、あのマジンガーZは私の恩師兜博士の血と涙の結晶と言っても良い。嫌、何と素晴らしい作品を遺して下さった事か」

 ふと、そう言った弓教授の目から一筋の涙が零れ落ちた。彼もまた、兜博士の死を嘆いていたのだ。
 そんな弓教授を甲児は見ていた。

「っと、何時までも積もる話をしている訳にはいかないな。さやか、早速甲児君達が住む家の掃除に取り掛かってくれ」
「分かったはお父様」
「あ、それなら私も手伝いますよ」

 さやかに続いてなのはも立ち上がってそう言う。

「良いわ、それじゃついてきて頂戴なのはちゃん。これから一緒に手伝ってくれる人達を呼んでくるから」
「頼むぜさやかさんになのはちゃん。俺達は元居た家から家財道具を持ってくるからさ」

 そう言うとさやかとなのはは手伝ってくれると言う者の元に向かい、甲児とシローは家財道具を持ってくる為にかつての家に取りに行った。
 その間、弓教授達は格納したマジンガーZの整備を行う事となった。





「それでさやかさん、その手伝ってくれる人ってどんな人達なんですか?」
「すぐに分かるわ」

 そう言ってさやかが訪れたのは伐採が終わり未だに工事が終わっていない地帯であった。
 其処には数台のバイクに乗った青年達が我が物顔で走り回っていた。
 するとその中の一台がさやか達の所へやってきた。

「よぉ、さやかぁ!」
「ボス。ちょっと頼みたい事があるんだけど」

 バイクに乗ってやってきたのは大柄な青年であった。
 大きな顎に丸目玉、そして太い眉毛にオレンジ色のシャツを着た青年であった。

「頼みも何もさやかちゃんのお頼みだったら喜んで引き受けるぜぃ!」
「あら頼もしい。それじゃこれから行く所の家の掃除をして頂戴な」
「へ? 何で?」

 頼みと言うから聞いてみれば嫌に面倒な事を言われた為に嫌そうな顔をするボス。

「今度その家にある男の子が引っ越してくるのよ。だからその子が何時来ても良いように掃除しなきゃいけないの。分かった?」
「ちぇっ、わぁったよ。ところで…そのちっこいのは誰だ?」

 ボスがさやかの後ろに乗っていたなのはを見る。今までさやかばかり見ていた為に気づかなかったのだろう。横に回る事でようやく小さな少女を発見出来たのだ。

「あ、始めまして。高町なのはって言います」
「あら嫌だ! そのお年の割りに何て礼儀正しい子かしら」
「ボスより良いかもね? それじゃお願いね」

 そう告げ終えるとさやかはバイクを操りその場を後にしていった。
 そんなさやかとなのはの後姿をボスは物悲しそうに見つめる。
 其処へ二人の青年がやってくる。ボスの子分のヌケとムチャであった。

「ボシュ~、良いんですかぃ?」
「良いように使われてるだけなんじゃねぇの俺達?」
「うっせぇ! さっさと行くぞてめぇら!」

 負け惜しみに似た叫びを放ちながらも、ボス達はさやか達の向かう家へと道を急いだ。




 それから暫くして、甲児とシローを乗せたトラックが次に住まう家に向かっていた。

「兄貴ぃ、引越しって楽しいよなぁ」
「勿論さ。新しい友達が一杯出来るしな」
「それに光子力研究所から近いからマジンガーに乗るのも簡単だしね」
「その通り! って、これって引越しの良い所なのか?」

 ふと、疑問に感じた甲児は顎に手をあてる。
 そうこうしている間にトラックは家の前に来た。二階建ての結構洒落た作りの家だった。良く言うペンションみたいな物だろう。
 その家の前では数人の青年達が掃除を行っていた。

「おや? 誰か掃除してるなぁ。誰だろう?」
「よぉ、お前さんが此処に住むって言う奴かい?」
「そうだ、俺は兜甲児。あんたは?」

 トラックから降りて甲児が自己紹介をした。
 だが、それに対し甲児に向かってきたのは青年の言葉ではなく拳だった。

「おっと! 何しやがんだ!」
「へっ、ちぃとばかしイケメンだからって良い気になるんじゃねぇよ! その面南瓜みてぇにしてやらぁ!」

 そう言うなり再び拳が放たれる。が、またしても甲児はそれをかわす。

「へっ、面白ぇ! 丁度腕がウズウズしてたところだ! 喧嘩なら買ってやるぜ!」

 すっかりその気になり殴りかかってきた青年をあべこべに殴り返してしまった。
 その拍子に後ろにぶっ倒れる青年。

「や、野郎~、よくもこのボス様を殴ったな~」
「何ぃ? それが名前なのか? 変な名前だなぁ」
「やっかましい! これはあだ名だよあだ名! 因みに本名は作者も分からないから伏せられてんだよコンチクショウ!」
「それじゃ名前と大差ないじゃないか!」

 言うなり激しい殴り合いが始まった。
 ボスが殴れば甲児が殴り返し。甲児が殴ればボスが殴り返す。
 一長一短の戦いが其処にあった。

「ボシュ~! やっちまえぇ!」
「其処だ其処だぁ、畳んじまえぇ!」

 子分のヌケとムチャがボスに声援を送る。
 その横でシローも同じように声援を送り二人の喧嘩を見ていた。
 だが、其処へ騒ぎを聞きつけたさやかとなのはがやってくる。

「ちょっと、貴方達何してるのよ!」
「わわ、甲児さん止めて下さいよぉ!」

 さやかは呆れたように止めに入りなのははかなり慌てた様子で止めに入った。どうやらなのはにはこの様な喧嘩は物珍しいのであろう。
 二人の仲裁を受けた甲児とボスは仕方なく喧嘩を止めて立ち上がる。

「さやかさん、酷ぇ歓迎だなぁ」
「まぁ、うふふ」

 どうやら二人して相当面白い顔だったのかさやかが口元を抑えて笑い出す。
 それを見た甲児とボスが二人して意味が分からず首を傾げていたのであったが。
 とにもかくにもボス達の協力があってか甲児の自宅の掃除は終了し、皆は自宅の中で一休みしていた。

「するってぇとあれか? 鎧はそのマジンガーZってのに乗ってるってのか?」
「兜だ! 人の名前位すぐに覚えろよこのゴリラ!」
「誰がゴリラだ! 俺様はボスと敬われてんだぞ!」

 相変わらず甲児とボスの喧嘩が絶えない様子である。
 既に子分であるヌケやムチャもお手上げ状態となり二人から遠ざかっていた。
 さやかは呆れた顔で二人を見ており、なのははと言うとシローと楽しそうに話をしていた。

「へぇ、君海鳴市に住んでんだ。あそこ一度行った事あるけど結構海綺麗だよなぁ」
「うん、夏とか良く海水浴に来る人でにぎわうんだよ」

 掃除が終わった家の中では楽しそうな会話が続いていた。
 だが、その様子を小型のスパイカメラが捕らえている事など誰も知る由もなかったのだ。




     ***




「ふん、マジンガーZの操縦者は兜博士の孫か。唯のガキだな。これならDr.ヘルのお手をわずらわせる事もあるまい」

 スパイカメラから映し出された映像を見てあしゅらはニヤリとする。

「兜甲児を我等の仲間にしてやろう。そうして貴様等と同じ鉄仮面を被せてくれる。そうすればこの日本で我等に対抗出来る者は居なくなると言うものよ」

 あしゅらが笑いながらたたずむ鉄仮面を見ていた。
 その笑いに鉄仮面は只頷くのみであった。しかし忘れてはいけない。Dr.ヘルの命令はマジンガーのデータ収集である。しかしその件にはぬかりはない。既に光子力研究所近辺にもスパイカメラを送った。そして、マジンガーのデータも既に改修済みだ。
 しかし詳細なデータと言うには程遠い外見的なデータしか取れなかった。まぁ、取れただけでも充分と此処は思うしかない。

「あしゅら様。ご報告の件はいかがしましょう?」
「送って置け。さすればDr.ヘルが新たな機械獣をお作りになって下さる」

 あしゅらの命に鉄仮面は頷きその部屋を後にする。
 残った数名の鉄仮面にあしゅらは先ほどの命令を送った。
 それを受けたどの鉄仮面もニヤリと口元を持ち上げていた。





 時刻は夜。
 片付けを終えたのでさやかやボス達は既に帰宅し、なのはは家に帰れそうにないと言うので自宅に連絡をしておき今は兜邸でお世話になっている。
 現在は甲児やシローと三人でテレビを見ている最中であった。そのテレビには絶景の自然と湖が映っていた。

『自然が残る竜ヶ森湖の景色は絶景です。皆様もお休みには是非此処竜ヶ森で絶景を楽しんではいかがでしょうか?』

 丁度テレビでは旅番組が流れており其処に映ったのは綺麗な湖であった。木々が立ち並び湖に映る日の光が幻想的であった。それを見て三人も正にその通りだと思っていた。自然は何時になっても人の心を和ませてくれる癒しの場なのだ。

「良いなぁ、今度の休み皆で此処にキャンプにでも行くか」
「流石兄貴! 良い事言うぅ!」
「おいおい、おだてたって何もでねぇぜ。それとなのはちゃんも一緒にどうだい?」
「え? 良いんですか?」

 急に話を振られたので驚いたなのはが目を大きく開いて甲児を見る。
 それに甲児は頷いた。

「遠慮すんなよ。暫くは家で過ごすんだし此処はど~んと来いってんだぁ」
「でも竜ヶ森って福島だろぉ? 大丈夫かよ」
「平気平気、いざとなったらマジンガーで移動すりゃ良いしさ」
「おお怖っ、生兵法で動かすのだけは勘弁な」
「うっせぇやい!」

 楽しそうに話し合っている時であった。
 呼び鈴の音が鳴り出した。どうやら来客であろう。しかしこんな時間に一体誰だ?
 新聞が来るには早過ぎるし出前など取って居ない。さやかやボスと言う線もあったがそれもない。もしそうならその前にバイクのエンジン音が響いて来る筈だ。
 呼び鈴が仕切りに鳴らされている。

「誰だろう? こんな時間に」
「おいシロー、ちょっくら見て来いよ」
「へぇい、ったくあんなに鳴らさなくたって良いのによぉ」

 愚痴りながら扉を開く。目の前に映ったのは中世の鎧を模した服だった。眉を顰めながらシローは視線を上へと向ける。
 其処にあったのは鉄仮面を被った何者かであった。その姿にシローはギョッとする。
 そいつは手に両刃の長い剣を持っており迷う事なくシロー目掛けて振り下ろしてきた。

「うわわっ! 兄貴ぃ! 人殺しだぁ!」
「大丈夫かシロー!」
「ひ、人殺しぃ!」

 シローの叫びを聞き甲児となのはが駆けつける。
 すると剣を持った何者かが甲児を睨んだ。剣の切っ先を突き出して甲児を睨んでいる。明らかに殺気が篭っている。しかし、それよりもこいつからは人間が放つ生気が感じられない。
 まるで機械だ。

「貴様が兜甲児だな? お前の体、一度死んで貰うぞ」
「何だって!」
「そして、あしゅら軍団の戦士として蘇るのだ。安心しろ、痛いのは一瞬だけだ。頭を出せ。そうすれば一瞬で頭を割って死なせてやる」
「へぇ、そうなんだ。そんじゃ一丁頼むわ」

 そう言って素直に頭を出す甲児。
 それを見た鉄仮面が思い切り甲児目掛けて剣を振り下ろしてきた。

「わぁぁ! 気でも触れたのかよ兄貴ぃ!」
「こ、甲児さぁん!」

 二人の悲鳴が響く。
 だが、その間も剣は真っ直ぐ甲児の後頭部目掛けて飛び込んできた。
 その剣が正に甲児の頭を真っ二つに叩き割る―――

「ばっかやろう!」

 事はなかった。
 そうなる前にその剣を持っていた腕を掴み背負い投げの要領で投げ飛ばす。
 予想外の反撃を受けた為に鉄仮面の持っていた剣を落としてしまった。
 甲児はそれを拾い上げて得意げになる。ニヤリと微笑みながら今度は甲児が鉄仮面に剣の切っ先を向けていた。

「けっ、何処の世に進んで頭を割って貰おうって輩が居るんだよ! 簡単な嘘に騙されやがって!」

 形勢は逆転した。
 鉄仮面は丸腰。反対に甲児は武器を手にしている。それが甲児に余裕を生んでくれたのだ。

「次代遅れな鉄仮面なんざ被りやがって。てめぇ何者だ!」

 確かに時代遅れであった。あの鉄仮面の下は一体何なのだろうか?
 甲児は剣を使い鉄化面を引っぺがして中を見る事にした。
 剣が見事に鉄仮面に辺り弾かれる。その為鉄仮面の中に隠された素顔が明かされた。だが、其処から見えたのは三人の度肝を抜くには充分過ぎる代物であった。

「うっ!」
「うわぁっ!」
「きゃあああああ!」

 その素顔を見た途端、甲児は言葉に詰まり、シローは仰天し、なのはは絶叫した。
 其処にあったのは脳がむき出しにされ、それを制御装置のついた拘束具で固定した状態の人間の顔が出てきたのだ。その姿は余りにもおぞましかった。

「フフフ、この鉄仮面は俺達の頭蓋骨に当たるのさ。これが無いと脳が剥き出しにからな」

 そう言って落ちていた鉄化面を拾い被る。おぞましいとは正にこの事だ。こいつは拉致され、忠実な人形になるように改造を施されたのだ。余りにもむごすぎる光景だった。

「なるほどな、お前は一度死んで脳に機械を埋め込まれたんだな。誰かの命令で自在に動く操り人形の様にされたって訳だな?」
「その通りだ。楽で良いぞ。何しろ自分で考える必要もない。命令どおりに動けば良いのだからなぁ」

 甲児の言葉に鉄化面は淡々とした口調で答えた。
 其処に感情など微塵も感じられない。気持ちが悪かった。
 吐き気がしてくる。こんな奴のようになりたいと思えるだろうか?
 いや、断じて思えない!

「そんなの…そんなの人間じゃないですよ!」
「その通りだよお嬢ちゃん。だから我々は死を恐れない。例え目の前に銃を持った者が立っていても我々は恐れず前に進むのさ。何せ、一度死んでいるからねぇ」

 そう言いながらズカズカと前に進んでくる鉄化面。
 甲児の剣を持つ手が震えだした。
 甲児とて普通の学生だ。こうして武器を持つ機会など今まで一度だってなかった。それが今この場で武器を手にしたからと言ってそれを使えるかと言われたら使える筈がない。
 目の前に迫る異形の恐怖で心臓の鼓動が早鳴りしだす。怖い、こいつからは恐怖しか感じられない。そいつが真っ直ぐにこっちに迫ってくる。
 異形は笑っていた。不気味に笑っていたのだ。

「く、来るな! き、来たら……こ、これでぶっ刺すぞ!」
「どうぞ、刺すが良い。君に人殺しが出来るのならね? 私の喉を思い切り刺してご覧。君達の中に通ってるのと同じ赤い血が流れ出すよ。そうすれば私は死んで動かなくなる。だが、君に人殺しが出来ればの話だがねぇ、ヒッヒッヒッ」

 不気味な笑い声をあげながら鉄仮面が近づいてくる。
 徐々にその距離が縮まってきた。
 殺す? 殺すしかないのか?
 甲児の奮えが更に増した。出来る筈がない。俺は学生だ! 人殺しじゃないんだ!
 だが、目の前に居る奴は果たして人と呼べるのだろうか?
 改造され、考える事を止めた奴を果たして人間と呼べるのだろうか?
 呼べない、あいつは只の化け物だ。化け物なのだから殺さなければならない。しかし甲児には出来なかった。例え化け物だとしても奴を殺せば自分も人殺しの仲間入りを果たしてしまうからだ。

「兄貴! そんな気持ち悪い奴ぶっ殺しちまえよぉ!」
「シロー…」
「遅い!」

 甲児の中にあった一瞬の躊躇いを感じ取った鉄仮面が甲児を殴り倒す。
完全に不意を突かれた形で甲児は居間に倒れこむ。
 そんな甲児に鉄仮面が飛び掛ってきた。

「ハレー! お兄様~!」
「甲児さん!」

 二人が叫ぶ。その時だった。
 鉄仮面の背中に赤く汚れた両刃の剣が突き抜けてきたのだ。見れば甲児が鉄仮面の胸板を持っていた剣で刺し貫いていた。
 其処から赤い血が止め処なく流れ出てくる。

「ガフッ!」

 更に口から夥しい量の血を吐き出し、それは息絶えた。

「イヤッホー! 流石兄貴だぜ。カッチョイィ!」

 シローは飛び上がって喜んでいるが、なのはは喜べなかった。
 寧ろ青ざめていた。体中が恐怖で震えている。
 無理もない。目の前で人が死んだのだ。嫌、正確にはその者は既に死んでいた。
 だが、先ほどまではそれでも動いて息をして言葉を発していたのだ。
 その者も、今では何も言わず其処に倒れている。大きく目を開いたまま絶命していたのだ。その顔が余りにもなのはには恐怖を感じさせる要因となっていた。
 それは、甲児もまた同じであった。
 嫌、甲児の方が遥かに恐怖に打ち震えていた。何しろ自分の手でその者を殺してしまったのだから。足が竦んでしまい立ち上がる事も出来ない。
 そんな甲児やなのはを見てシローは首を傾げていた。

「おかしいなぁ。寒さを感じるにはまだ早いし…」

 等とシローが呟いていた時だった。
 甲児の居た箇所は丁度窓を背にする位置だったのだ。其処から鉄仮面が数人飛び込んできた。

「うわぁ! 兄貴ぃ!」

 シローが叫ぶが満足に動ける甲児ではない。
 そんな甲児に向かって鉄仮面の剣が容赦なく振るわれる。
 だが、その時だった。
 突如鉄仮面達の体を奇妙な輝きを放つ鎖が彼等を雁字搦めにしてしまった。

「な、何だこれは!」

 驚く鉄仮面達。どうにか振り解こうとするがかなり頑丈なのかとても引き剥がせない。その間に甲児は立ち上がりその場から下がった。

「こ、これって?」
「間に合って良かったよ」

 声がした方を向くと其処にはユーノが居た。どうやらあの鎖を放ったのは彼のようだ。

「ユーノ、あれやったのお前なのか?」
「はい、あれはバインドと言って対象の動きを封じる事が出来るんです」
「凄ぉい! ねぇユーノ君。それって私にも出来る?」

 すっかり安心しきって皆がユーノに話しを聞いている。
 だが、そんな中、鉄仮面達全員がバインドを引き千切ろうと力を込め出したのだ。ミシミシとバインドが千切れ始める音がしている。
 それにギョッとする一同。
 そんな時、外の方から数発の銃声が響いた。見ると、先ほど立っていた数人の鉄仮面達は地面に倒れていた。
 驚き一斉に外に行くと其処には警官隊がやってきており発砲した後があった。

「よう、大丈夫か? てめぇら」
「助かったよ警官隊のおっちゃん」

 警官隊の到着によりどうにか一安心できた甲児達だった。




     ***




『あしゅら男爵、失敗です! 兜甲児の元には警官隊がついてしまいました』

 鉄仮面が通信を発する。
 それを聞いていたあしゅらが苦虫を噛んだ顔をしている。

「うぬぅ、兜甲児を生きたまま捕らえようと思っていたが、こうなれば機械獣を使って兜甲児を殺してやる! 機械獣ドグラと機械獣マグラを出す!」

 あしゅらがそう言ってある部屋に入る。それは巨大なロボットを格納する格納庫であった。そして其処には一体の機械獣が居た。

「機械獣よ! 兜甲児を殺せ! 奴が死ねばマジンガーを操る者が居なくなる。即ちこの世界でDr.ヘルに対抗する者が居なくなると言う事だ!」

 そう言って持っていたバードスの杖を掲げる。するとそれに呼応し機械獣が雄叫びをあげる。




     ***




 その頃、甲児の家の回りでは多数の警官隊が守りを固めていた。
 そして、家の中では警官隊を指揮していた人と甲児達が話をしていた。

「とりあえずこれで一安心だな。今日は俺達警官隊が守りを固めているから安心だ」
「あの人達、助かるんですか?」
「無理無理、死んでるしな」
「それって、俺殺人罪になるんですか?」

 甲児が不安になる。
 事故とは言え甲児はあの鉄仮面を剣で刺し殺してしまったからだ。以下に化け物とは言え元は人間、それも改造されたとは言えその時まで生きていた人間を刺し殺してしまったのだ。下手したら殺人罪は免れない。
 が、それに関してはその人は笑っていた。

「なぁに、お前さんのやった事は正当防衛で無罪だよ。大体小説の主人公はそうなるって決まってるしな」
「はぁ、俺主人公で良かった」

 ホッと胸を撫で下ろす甲児。
 だが、その時であった。外の方で激しい地響きが起こった。

「な、なんだ!」

 皆が外に出る。
 外では巨大な機械獣が襲ってきていたのだ。
 警官隊の皆が応戦しているが所詮人間の力では機械獣に立ち向かえる筈がない。

「やべぇ、逃げろ! 人間の力じゃ機械獣に対抗できねぇや!」
「おっちゃん、シローとなのはを頼む! 俺は家の中にあるパイルダーを取ってくるからよぉ」
「マジかよ兄貴ぃ!」

 パトカーに乗り込むシローの前で甲児が家に向かい走っていく。
 だが、なのはも乗り込もうとした時足が止まった。振り返り甲児達の家を見る。

「いけない! レイジングハートも家の中にあったんだっけ!」
「危ないよなのは! 僕もついていく!」

 なのはの肩に乗りユーノも一緒に家の中に入っていく。

「ってぇ、何でなのはまでついてきてるんだよ?」
「御免なさい。でも家の中にレイジングハートを置いてきちゃってるんです」
「マジでか! 何処に置いてあるんだ?」
「確か、パイルダーの近くに置いてた筈です!」

 どうやら向かう所は同じようだ。
 急ぎパイルダーとレイジングハートの置いてある場所に辿り着く。
 其処にはパイルダーとレイジングハートが置かれていた。

「良かった。ちゃんと置いてある」
「急げなのは! このままだと生き埋めになっちまうぞ!」

 パイルダーに乗り込んだ甲児が叫ぶ。その時、天井が凄まじい力で揺さぶられた。機械獣が家を叩いているようだ。
 既に大きな亀裂が走り出している。走っての脱出は無理だ。

「間に合わねぇ。乗り込めなのは! このまま研究所へ直行するぞ!」
「は、はい!」

 頷きパイルダーに飛び込む。それを確認した甲児はパイルダーを起動させて家から飛び出した。
 その直後、甲児達の家が機械獣の攻撃により完全に破壊されてしまった。

「畜生! 折角用意してくれた家を壊しやがって! 見てやがれよ機械獣め、マジンガーで叩きのめしてやる!」

 自宅を壊された甲児が怒りを露にしながら操縦桿を握り締める。
 目指す先は勿論光子力研究所。そして、それは機械獣も同じ事であった。
 兜甲児の操縦するパイルダーを追って。研究所内に治められている光子力エネルギーと超合金Zを奪う為に。機械獣は光子力研究所を目指していた。

「こ、甲児さん! 機械獣が!」

 なのはが後ろに向かって叫ぶ。見ると機械獣が空を飛んでいたのだ。
 驚きであった。今度の機械獣は空を飛べるようだ。瞬く間に距離を詰められていく。

「畜生! なのは、しっかり捕まってろ! ちょいと無茶するぜぃ!」
「えぇ! わっ!」

 言うや否やいきなりパイルダーの速度が増した。
 それだけでなく角度が急に変わったりしているのだ。
 ジェットコースターを拘束具なしで乗っている感覚がなのはの中に襲い掛かってきた。

「ご、ごうじざあああああん! め、目が回るううううううう!」
「黙ってろ! 舌噛むぞぉ!」

 叫ぶ甲児。
 目の前にはやっと光子力研究所が見えてきた。

「頼むぜマジンガー、俺と一緒に戦ってくれ。マジーンGO!」

 甲児が叫びながら手元のボタンを押す。
 するとそれと連動して目の前にあった貯水槽が開き、その中からマジンガーZが現れた。それとドッキングしようとZの上空に飛ぶ。
 だが、其処へ機械獣の攻撃が繰り出された。

「うおっ!」

 咄嗟にそれを回避しそのまま直角に落下していく。

「パイルダーON!」

 叫びと同時にZの頭部とパイルダーがドッキングした。
 Zの両目が輝き中の計器が光り輝く。
 パイルダーとZが、兜甲児とマジンガーZが今一つになった瞬間だ。

「行くぞ機械獣!」

 Zを動かし機械獣と向き合う。

”ギャオオオォォォン!”

 突如機械獣が雄叫びを挙げた。
 それを聞いた甲児が一瞬驚き竦みあがってしまう。だが、すぐに我に返った。

「何を怖気ずくんだ。俺は今唯の人間じゃないんだ。超人兜甲児なんだ。あんな機械獣なんかに負けるかよ!」

 自身を叱咤して奮い立たせ、気力を上げて機械獣に臨む。
 地響きを立ててZが走り、目の前の機械獣に向かっていった。

「この野郎! マジンガーの鉄拳を食らいやがれ!」

 甲児がZを動かし、Zがそれに応えて拳を突き出した。
 だが、その時、信じられない事が起こった。何と、目の前で機械獣が二体に別れたのだ。
 前のドグラ、後ろのマグラ。二体が一つになる事で機械獣ドグラ・マグラは完成していたのだ。
 二つに分かれたドグラとマグラがZの両腕を押さえ込み動きを封じた。

「や、やべぇ!」
「こ、甲児さぁん!」

 なのはの悲鳴が響く。
 目の前では二体の腕がパイルダー目掛けて迫ってきているのだ。

「う、うわぁ!」

 甲児も叫んだ。
 その際に咄嗟だったのだろう。レバーを引いた途端、Zが押さえ込まれていた力に抗ったのだ。二つに分かれていた機械獣はZの力によりまた一体に戻されてしまう。

「す、凄い…マジンガーZのパワーは想像以上だぜ。あの機械獣を相手して…」

 改めてマジンガーZの力に驚かされる甲児。
 だが、その時だった。突如一つになった機械獣が空を飛び出したのだ。そのままZごとグングン高度を上げていく。

「や、やばい…このままの高度で落とされたらマジンガーは平気でも中の俺達がやられちまう!」
「な、何とか出来ないんですか?」
「駄目だ、ガッチリ捕まれてて振り解けねぇ」

 先ほどのようにレバーを動かしているのだが全く無反応であった。
 まだ上手くマジンガーを操縦できていないツケが此処に来て出てしまったのだ。そして、遂に上空約5千メートル辺りに差し掛かった所でマジンガーは機械獣から切り離されて落下していった。

「うわあああああああ!」
「きゃあああああああ!」

 二人が悲鳴を上げる。だが、どうしようもない。
 飛行能力を持たないマジンガーには成す術がなかったのだ。5千メートルの高さならマジンガーでなら落ちても問題はない。
 だが、甲児となのはは別だ。ショックで気を失う危険性がある。16歳の甲児でそれなのだから若干9歳のなのはには死活問題であった。最悪臓器が破裂し死に至ってしまう。

(畜生、こんな所で死んで溜まるか! お爺ちゃんのマジンガーをあんな奴等に渡して溜まるかよぉ!)
(嫌だ、嫌だよぉ! 皆とお別れなんてしたくない。死にたくないよぉ!)

 だんだんと地面に近づいてきている。成す術がなくなったと知り、甲児もなのはも目を瞑り死を覚悟した。やがて、Zの巨体が地面に激突した。

【プロテクション】

 その瞬間だった。レイジングハートから音声が発せられた。
 かと思うと甲児となのはの体を薄い魔力の膜が覆っていたのだ。そのお陰か二人とも外傷もなければ痛みもない。

「な! 生きてる…俺、生きてるぞ」
「い、今のって…もしかして、レイジングハートが?」
【その通りです】

 なのはが持っていたレイジングハートがそう告げる。
 どうやら落下の直前に防御結界を張ってくれたようだ。これのお陰で二人共無事で済んだようだ。

「有難う、レイジングハート」
【マスターが居なくなっては私を扱ってくれる存在が居なくなりますからね。デバイスとしてはマスターの命を守るのは当然の義務です】
「なぁ、それだと俺を守ったのってついでって事になるのか?」


 甲児が自身を指差して尋ねる。それに対しレイジングハートは【無論です】と無情にも応えた。それを聞かされた甲児はガックリと首を落とす。

「ひ、ひでぇ…ちょっとショック」
「こ、甲児さん! 前、前ぇ!」
「えっ?」

 なのはが仕切りに指差す方を見る。
 其処には再び二つに分かれたドグラとマグラが迫ってきているのだ。

「くそぉ、何とかしてあの分裂を止めねぇと」
「止める…そうだ! さっきユーノ君がやってたバインドを使えば」
「無茶だよ。バインドって言ったって限界があるんだ。あんな巨大な機械獣の動きを封じるなんて普通じゃ出来ないよ。それに素人の君じゃ―――」
「やってみなくちゃ分からないよ」

 ユーノの静止を振り切りなのはは目を閉じて集中する。
 勝負は一瞬。外せば多分こっちが負ける。決して許されないのだ。
 カッとなのはが目を開いた。そして目の前にやってくる二体の機械獣を睨む。

「お願い! 行って、バインド!」

 なのはが叫ぶ。
 すると、突如Zの中から桜色のバインドが複数放たれた。それは寄って来た機械獣の胴体、両手足にとりつけられ再び一体の機械獣に戻されてしまった。しかも互いの手で拘束されている為満足に振るう事も出来ない。

「出来た! 出来たんだ! 甲児さん、今ですよ!」
「おうよ、次は俺が決めてやるぜ!」

 なのはの言葉に答える為にも甲児は目の前に迫る機械獣を見る。
 上手く歩けないのか足取りは遅い。格好の的であった。

「よくも俺達の家をぶっ壊してくれたな! たっぷり礼はしてやるぜ。ブレストファイヤー、ゴー!!」

 甲児が叫び、ボタンを押す。
 それに連動してZの胸に取り付けられていた赤い放熱板に光が灯り、其処から熱線が放たれた。とても熱い熱線であった。
 それを全身に浴びた機械獣はドロドロに溶け出して行った。その時間は僅かに10秒足らず。目の前にはかつて機械獣であったであろうゲル状の物体がその場に落ちていた。

「か、勝った…見たか機械獣め! これがマジンガーZの力だ!」

 勝利を確信し、天に向かって拳を突き出して叫ぶ甲児。

「やりましたね。甲児さん」
「有難うよ。でもなのはちゃんのお陰だぜ。君が居なかったら今頃どうなってたか…」

 思わず身震いする甲児。もしあの時彼女が居なかったらきっと勝てなかっただろう。そう思えたのだ。
 だが、それらも全て過去の話。こうして彼女が居てくれたお陰で甲児は機械獣を倒し、静かな夜を取り戻す事が出来たのだから。




     つづく 
 

 
後書き
次回予告

少女は少年達と共にある物を見つけた。
それは遥か宇宙の彼方からやってきた新たな敵であった。
そして、青年はある物を受け取る。
それは光の力を宿した正義の戦士の力であった。

次回「ウルトラ作戦第一号」

お楽しみに
 
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