偽マフティーとなってしまった。
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最終話 閃光のハサウェイ
巨大なガンダムのような青と緑に発光するサイコフレームのかたまり、同じようなフェネクスは未だに艦の外にいる。
なんでこんなことになったのかはわからない上に理解ができないが、切に思うことはなんとかしろよバナージやリディ。お前らの話だろ?まだミネバじゃなくて、リディがラプラス文章を読み上げていたら話は変わってたのに。
いや、それは責めることはできないか。閃光のハサウェイまでの期間やすべての外伝やシリーズは、全部が全部、今ならまだ間に合うタイミングでしかなかった。そのタイミングが壊された中で、結果論でしかないが、全部の関係者が大したことはないと判断したんだろう。
実際、閃光のハサウェイのハサウェイ動乱も大したことはないと片付けられた結果、クロスボーンが生まれ、宇宙大戦群雄割拠に話は進む。少しでも話が変わればというが、変わるのにもエネルギーがいる。そのエネルギーが地球連邦になかったのは想像に容易い。宇宙強硬派がティターンズになり、宥和派はアクシズやネオジオンと交渉した。だが、彼らは忘れていた。区別を作るのに必死で、彼らもまた地球連邦市民なのだということを。
そういう地球に渦巻く思念や怨念があのサイコフレームを動かしているなら、106年間の宇宙世紀の積み重なった呪いが形になったのだろう。
そうなるとアレの正体は、一年戦争で死んだ両軍の兵士、その後のデラーズフリートやらキシリア派やら一年戦争後の死者、グリプス戦役の死者にその後の死者、全ての戦死者の相乗りする一種の精霊馬なんだ。顔も見えない死者たちの母なる地球への様々な思いがサイコフレームを加速させたとするならばあのスピードも納得できるし、ドゥガチたちの屈折した感情も吸い上げるのもわかる。アレの感情の正体は“愛”だ。
それが歪んでいたとしても、ガンダムは愛の話だったわけだ。愛から始まり愛で終わる。それこそが、この叙事詩、サーガ的なガンダムというものを支持するファンが多い理由なのだろう。が、参加させられる身としてはそんなことどうでもいいわ。愛がどうとか置いといて話が通じないんだもの。有機物の人間ですら話が通じないのに、無機物のサイコフレームごときに話が通じるわけもない。
「マフティー、ツヴァイの姿が見えない。ところでお前が調べさせていたツヴァイの資料だ。」
ドライから資料をもらう。目を疑った。彼は元ボッシュの部下で退役、その後にアナハイムに再就職しカール・シュビッツに会うが、彼にアナハイムへの失望を語りブッホ・コンツェルンに入る。が、折り合いが悪く退社。そして環境保護団体に入り、過激派環境テロリストとして地球連邦の官僚を暗殺していたらしい。なんなんだよ、こいつの経歴は。おかしいが、これだけの経歴でモブなのだ。
サイコミュ実験機のテストパイロットに内定していた?何だこの主人公みたいな経歴は。俺より表舞台に立つのにふさわしいから俺はやめれないだろうか?この大統領と言う名の不自由な世界を。
大統領は何のためにあるのか?俺は何もしてない。ちょっと言論の自由や地球再生法案にサインしただけだ。なのに人々は大統領と呼ぶ。当たり前の事を当たり前にできないのが宇宙の掟なら、過去に戻れば‥‥そうか、それか。
「大尉!猛スピードで奴が近付いている。やってくれるな。」
ブライトの声で現実に戻され、モニターに映る巨大なラストシューティングガンダム、宇宙世紀の神話の象徴にして、ニュータイプやサイコフレームというものの象徴。なぜサザビーが選ばれなかったのかは、額に傷があるがスネに傷が有りすぎて額の傷やノースリーブグラサンが無視される4番のおっさんのせいではない。奴は立派に道化を演じたんだ。『今更、わかりきったことを言う。』謎のハマーンにサングラス外され屈辱、抱きついたらあの兵器は使えまいと撃墜され、脱出スピードだけはコーラサワー超えの素直に「頼む」も言えないダカールゲリラ芸人の声がした。
死人は黙ればいい。老人よりも死人が死んでないからリタだってあんな悪霊にもなる。サイコフレーム悪霊とかいうアマクサのバイオ脳の方がマシなことになるんだ。生者が時代を動かさねば、禍根と言われる重力で命を吸い付くされる。民族や歴史を超えて地球連邦と名乗るのなら、それくらいやってみせろ!やれるよな!やれるんだよ!柵なんか俺にも今を生きる者たちにもない。なら、「簡単なはずだよなアムロ‥‥。」ぼそっと小声で話してしまった所で格納庫に向かい準備を始める。
ラー・カイラム級などの戦艦から延びるケーブルの先には、アナハイムのユニバーサル規格で統一されたモビルスーツの群れ。手にハイパー・メガ・バズーカ・ランチャーをどれも手に持ち、コロニーレーザーなどの軌道もあのサイコフレームのガラクタに照準を合わせる。そうして今回もカムランが持ってきた核ミサイルの山が第二の矢として放たれ、それでもだめなら無人の旧式の戦艦や巡洋艦たちを奴にぶつける予定だ。
「サイコフレームは未知数だろうが、物質として形を作ってるからには有限な存在に過ぎない。ならば活路だってあるはずだ。そう思わないか?ブライト。」
モニターの中のブライトは頷くと作戦名を告げる。
『みんな!作戦名はオペレーション・ラプラス。宇宙世紀の始まりにして汚点だがそこには希望があった。だから、俺は地球連邦軍人ではなく、ただのブライト・ノアとして頼み事をする!お願いだ!俺と一緒に地球を!アムロとシャアが守った、そんな水の星を救うのを手伝ってほしい!』
いや、シャアは守ってないけど。あのおっさんは負け惜しみおじさんだっただろうが。ふざけてるのか顔を隠さないとダメなおっさんなのに。大佐はロリコンとか、だからみんなに信じられるんだよ。お前、ナナイアとかアナ姫とか好きそうだもんな。マリア主義も究極的には母性に神秘と神格を足して黄巾党で固めただけだからして、本質はシャア・アズナブルなんだよ。
「引き付けてから撃てよ、ハサウェイ。」
焦って撃つとこっちが負ける。というかあれなんなんだよ。フェネクスよりなんなんだよ。気持ち悪いな、機械なのか?何だあれ。
『言われなくても!』
ハサウェイは元気だが果たして‥‥。
第一陣でコロニーレーザーが放たれ、そしてジャックが持ってきていたヨルムンガンド級3門のプラズマが、ネェル・アーガマなどのハイメガ粒子砲が次々に撃ち込まれるが、それでも広がったサイコフィールドを貫けない。そしてハイパー・メガ・バズーカ・ランチャーや戦艦などの主砲に核ミサイルも続くが、それでもサイコフィールドを貫けるかはわからない。
「だとしてもやらねばならない!」
なんでだと自分の意志が声をかける。これ以上続けても辛いだけだろ、もう諦めたって誰も損はしない。なぜなら俺はもう頑張ったんだからもういいだろう、と。そう思ってるのはいつもそうだろう?と。しかし、もう俺は。
「大統領になってしまったからには大統領の責任を果たさねばならない。それは戦士や兵士としてその命を全うしたシャアやアムロに対して失礼だろうが!俺は恥知らずにはなれないんだよな!それに。」
ちらりとラー・カイラム級を見る。
「俺には、まだ僕には帰れる所があるんだ。だったらやるのが普通ってことだよな!嬉しいことにさ!」
俺一人が先陣を切って、サイコフレームのカタマリにぶつかる。しかし、不思議とサイコフィールドに阻まれはしない。むしろまた温かい。なんだと言うんだ!
『大尉!お付き合いさせてください!』
『覚えてますか?カール・シュビッツっていうギラ・ドーガのパイロットを!』
またはしゃいでるおっさんたちがサイコフレームを押すが、あのドゥガチにぶつかった時よりも全然押し返せない。それほど地球にまとわりつく情念は深いことを示している。
「しかし、俺はまだ諦めない!」
全員でまた押すがびくともしない。これは地球を救いたい意思までコイツが吸い込んでいるのか!俺はここで諦めてパワーダウンのフリをして離脱すれば、行方不明という形で合法的に大統領もやめられる。しかし。
「今更やめてなんになる。これは俺が手を加える形になって俺が始めてしまった物語だろ!その先にどんな地獄があっても道は続くのだから止まるわけには行かない!希望や人々の感情は前に進むんだ!その結果、荒廃しようとも人の意志で行われたという行為にこそ意味があるんだ!それこそが自由と言われるものなんだ!自由に縛られることもなく、自由の家畜や奴隷にもならずに自由になるべきだろう。それが、民主主義というものだと俺は習った!なら、反骨の象徴たるガンダムの姿をお前がするなら、その自由を履き違えた人々の愛の奴隷になるな!」
徐々にサイコフレームに押し込まれ、地球の引力に近付いている。これが俺の話の結末なのか?それでもいいか。いろんな主人公や人物に囲まれて、その中で劇的に死ぬ。まるでメアリー・スーだが、これがゴールだっていいはずだ。ハサウェイだって、ケネスに「ン……ハサ、好きだぜ?」とか言われる辺りに言っていただろう?「死ぬぐらいは、みんなやってきたことだ。ぼくにだって、ちゃんとできるはずだ。」とな。
だとすればこれは最高のガンダムファン、ガノタの夢だろ。彼らの中で死ねるのなら俺は成功ってやつだよな。さらばだ、ヨシユキ・トミノ!俺の物語はここで終わりってやつらしい。しかし、最高に格好いい死に方を出来るのだから俺は幸せだよな?そうだよな。誰か教えてくれよ。
通信が入ってモニターにこちらの直通で映像が映る。その姿はツヴァイだ。何を今更しようというのだろうか?
『マフティー、君は死ぬかもしれないし、これで地球は終わるかもしれない。しかしだ。君の勇姿をみんなに忘れられないように、今、俺はポイント・ラプラスにいる。ここでジャックやジョージ・ジョンソンが君のために用意したものがある。それは。』
モニターに謎の機械が映る。そんなものより押すのを手伝えよ。インテリはどうしてそう、そんな風にばかりやってしまう?
『これは長距離のレーザー通信を全世界に届ける。重力井戸だろうがコロニーだろうが関係ない。これでマフティー、いやミハイル自体が世界に知られる。君の名は永遠になるだろう。ダンスマフティーと武装マフティーの正体こそが同一人物で、なんでもない兵士だったミハイルだと知られれば人々に希望の炎が灯る。君は現代のプロメテウスになるのだ。それこそがマフティー・ナビーユ・エリンだろう。人類のためにも希望になってくれ!ミハイル!』
知らんがな!お前よぉ!全部が全部人に被せてお前は主体性は無いのかよ、俺に何でも背負わせようとするな!だから嫌だったんだよ、大統領!
「ふざけているのか!戯言はよせ!」
何故か俺の機体が緑に発光して、またそれが次々にサイコフレームの機体などが反応して輝く。まさか、俺はニュータイプだったのか。本当に?だとしたら、尚更ツヴァイが言うような人類のための希望になるわけにはいかない。英雄になるのはただの人でなくてはいけない。ニュータイプ神話などまた作るべきではない。やっと世界がニュータイプとオールドタイプで和解できて、スペースノイドもアースノイドも和解しつつあるのだ。今度はニュータイプを生む環境であるスペースノイドが特権階級化して、アースノイドを差別するだろう。そんなことを許すことは出来はしない!
「俺はそれだけは許せない!何よりも!」
俺がこのあとに眠って暮らせなくなるだろうが!俺はこれが終わったらすべての責任を取り、引退をして失踪すると決めている。俺の自由への道を邪魔するな!
沸き立つ光、次々に推進力が増える押している艦隊や機体達。まるで天使に後押しされてるが如く、釣り合いが取れてきた。
「絶対に俺は諦めない!」
そう、俺は諦めないんだ!普通の生活とやらをな!負けはしない!
『あと10秒で世界に配信される!』
はぁ?ふざけんなよ、そこは感動をして止めるとかだろうが!何だお前!
『9!』
ゼク・トロイメライの金色の機体から後頭部が広がって周りを見回す感覚に囚われる。
『8!』
ゼク・トロイメライに、転がっていたネオ・ジオングの残骸やらグロムリン・フォズィルの残骸等から、サイコフレームが俺の機体に纏わりつく。
『7!』
そのサイコフレームが増殖する。そして巨大な翼になり、押す力が追加される。
『6!』
サイコフレームの増殖がサイコフレーム搭載機に伝播する。
『5!』
俺はただ前を向いて先に向かい続ける。
『4!』
色々な機体が青い光を纏い、まるでフェネクスのようなオーラが出ている。
『3!』
ジリジリと押し返す。もはや、地球から少しではあるがサイコフレームのカタマリは戻されつつある。ガンダムの姿で下がるのは、それは‥‥。
『2!』
そして、サイコフレームのカタマリは形を変えた。
『い〜。』
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ちと言い終わる前にサイコフレームのカタマリはボロボロのコア・ファイターに形を変えて、押し返された勢いで内宇宙へと消えていった。
『ま、まさかそんなことが!ありえない!いや、マフティーとはマフティー性とは、つまりは人々の!』
いや、何言ってるんだよ。怪文書を話すな!
結果だけを言うとこのマフティー動乱はこれで終わった。そして、ツヴァイは満足げな顔で逮捕された。
ミハイルの秘密は隠されたままではあるが、俺は大統領から解放はされなかった。まず失踪はできなかった。そして、あのサイコフレームのカタマリは金星へとぶつかり、サイコフレームの共振により一部をテラフォーミングさせ、そこから木星とティターンズのデータにより金星に入植事業が活発化されて、金星初代大統領にケネス・スレッグが就任をしたのだ。
火星のテラフォーミングも加速し、ジオン残党たちとの平和条約の締結とジオンにコロニーではない大地を与えるとしたために、初代大統領はアリシアに大差をつけてモナハン・バハロが就任した。彼はまずはキシリア派復権運動を始めとした政策を打ち出した。その上でアナハイム技術部が開発したEカーボンの模造品の実用化を推し進め、火星には何個にも及ぶ惑星軌道エレベーターをつくり、火星の奇跡と呼ばれるほどに経済を復活させた。
俺はというと大統領を辞めたかったので、地球連邦政府の強権を弱め、サイドに自治権を与え、地球上に旧国家群を復活させた。それにより支持率の低下を狙ったのだが、逆に支持率は上昇してしまった。何をしても裏目に出る。
最後ではあるが。
宇宙世紀133年、オリヴァー・マイの書いたマフティー・ナビーユ・エリンという本が映画化をされて上映された。そして、寂れた木星の映画館に俺は居た。
「与太話の映画だよな。」
どれもこれもトンデモだ。だが、事実である。地球連邦政府は太陽系連邦政府に変わり、今の大統領はなんとハサウェイ・ノアだ。ブライトは堅物すぎるのか政治家としては大成しなかったが、彼の開いた喫茶店は様々なパイロットや艦長たちが訪れ、一種の博物館のようになり、アルベルト・ビストの手助けによりチェーン化に成功したようで、アルベルトは再び起業家として大成した。
「まぁ、悪くない人生だったかもな。」
俺ももう60近くだ。そして隣にある男がいた。
「この時と立場が逆になりましたね。マフティー大統領。」
ハサウェイがそう言ってきた。全く。
「だが、俺もお前も変わらないだろう?ニュータイプに憧れただけの存在さ。ある意味、ジオン・ズム・ダイクンの原理主義者だったのかもしれない。だからこうやって、俺たちは政府への生贄になったんだろう。」
知らないけど。
「それも悪くはないでしょう。こうして平和にもなった事ですし。バナージたちもあなたに会いたがってましたよ。それに‥‥ある備忘録が出ていましてね。」
備忘録?なんだろうか、嫌な予感がする。
「ダンスマフティーの正体も、武装マフティーの正体も貴方だったんですね。だから俺はあなたにマフティーとは何かと聞けたのかもしれません。」
はぁ?お前、今とんでもない事を言ったぞ!せっかく俺は木星の暮らしを立て直すとして、太陽系連邦政府の大統領を辞めれたのに、それでは‥‥。
「だから最後に聞きます。貴方の正体は?」
そこまでは書いてなかったのか。俺は悩みながら口から言葉を発した。
「俺の正体はな‥‥」
それは木星の映画館のスクリーンの喧騒に飲み込まれたが、ハサウェイはその劇場の閃光に照らされて満足げな顔を浮かべていた。
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