偽マフティーとなってしまった。
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5話
「クソっ!どうすればいいんだ。」
マフティー・ナビーユ・エリンという概念が、俺を困らせる。
ここ3週間、俺はギャプランの操縦に費やしたが遂に成功に至って、残りの5日はフリーとなって、考える時間が出来てしまった。無闇矢鱈と考える時間が増えれば増えるほど、マフティーダンスについて調べて、連邦政府立法長官がかぼちゃ法なるかぼちゃの生産量とハロウィンを規制する案を提案して可決されたのを知った。
かぼちゃの産地である旧サイド5や旧サイド6では、取り押さえられた農民の目の前で、地球連邦軍が61式戦車でかぼちゃを轢き潰したらしく、いつ他の農家も自分の番になるかわからないとマフティーダンスを踊っているようだ。
当然、月面都市にまでこの法案が及ぶため、月面でもマフティーダンスを踊るものが続出し、月面とハロウィンと言う組み合わせからか、エゥーゴのブレックス・フォーラのコスプレをした人々がマフティーダンスを踊り、連邦議会バッチを付けたバスク・オムのコスプレをした人物が、マンハンターのコスプレをした人々にリンチを命じる動画が流行ってるらしく、レビルのモノマネ芸人がアデレードの連邦議会議事堂前でマフティーダンスを踊り、旧サイド6に強制送還されたらしい。
ついこないだも、連邦政府議員8人を会食中にマフティー(ハサウェイ)が殺したらしく、記事にはシャア・アズナブルのマフティーとされている。もはや、ダンスマフティーの中身はアムロ・レイという説が固定化され、「ダンスマフティーの中身がアムロ・レイならば、きっと武装マフティーはシャア・アズナブルに違いない」「袖付きの行動とラプラス宣言により、アムロ・レイとシャア・アズナブルが再び人類の為に立ち上がったのだ」と言う世論が形成されていた。
「なにが、本当だと言うんだ!」
記事の内容にはまだエゥーゴのクワトロ・バジーナにしか過ぎないシャア・アズナブルたる武装マフティーが地球を破壊しようとしたのならば、ダンスマフティーをしているアムロ・レイが人々を守るために戦い、二人は人類の罪を背負い浄化の為の生贄になるだろう。地球連邦政府は反省してマフティーの意味深い行動を恐れて改革せよ。ニュータイプの二人が地球連邦をニュータイプに導く。とまで書いている。頭がおかしい。
「記事を読めば読むほどおかしくなる。テレビでも見るか。」
落ち着くために独り言を呟くとテレビをつけた。
『エンゲイスト・ブッホ氏がかぼちゃ法に反対をし、政界からの引退を表明しました。同氏によると武力による革命については思う部分があるが、学生等がやっているダンスによる平和活動を否定するのは悪しき習慣であるとし、その場で30秒間の所謂マフティーダンスを踊り、地球連邦中央委員会を勇退したとのことで一部の宇宙派議員達もそれに続いて、その場でダンスをしてから引退を表明。議会は唖然とした空気に包まれたとの事です。』
何やってんだ!ロナ野郎!お前は大人しくコロニーで私兵組織作ってろ!ふざけるなよ爺!もう許してくれよ。
『世界各地でマフティー現象は続いています。木星船団においても木星の惨状を背景に地球連邦に反省を促す人々が増えています。更にはネオ・ジオンの残党も公式フォーラムでダンスを踊っています。教授どう思いますか?』
初老のキャスターから白髪の教授にカメラは移り変わる。
『まず、皆さんはダンスのマフティーと武力のマフティーを分けて考えているようですが違います。このマフティーの深さは両方があってこそのマフティーなのです。ボードを用意してください。』
ホワイトボードにマフティーが2つ書かれる。
『マフティーが今までの仕組みと違うのは、ダンスのマフティーは連邦政府に抗議をする大枠で参加者を集めて、それでは気持ちが収まらないスペースノイドには見える形で鉄槌を下し、アムロ・レイとシャア・アズナブルと言われるように二人のニュータイプで表現され、武力と思想を分割し、武力で負けても、思想が生き残り、思想が負けたら武力による革命を促すという正に、力だけでも思いだけでも成就出来ない思いを、2つのエンジンにより、加速度的に2つのターボエンジンとして押し出してるのです。』
真面目な顔して何を言っている。インテリは暇だからこじつけに走る。ロナ爺と同じじゃないか。
『何より、この仕組みの深さは武力による急改革をインテリジェンス層。エスタブリッシュメントがある程度支持をして、インターネットやラジオやテレビでしかニュースに触れれない低所得者層、特にサイド1等ですが彼らは掻い摘んだ情報などにしか触れられません。生活に忙しい者ほどテロリストのマフティーより、ダンスのマフティーしか目にしません。ですからダンスのマフティーを支持します。わかりますか?この仕組み。』
知らんよ。マフティーはマフティーだろう。マフティーダンスが流行る意味がわからない。
『マフティー・ナビーユ・エリンは、3つの言語で構成されています。スーダン語、アラブ語、古アイルランド語です。まず真実、正当な預言者の王と言うのが通説ですが、単語としてみるべきだと思います。マフティーはマフディー、スーダン語で救世主、ナビーユは預言者です。二人のマフティー・ナビーユ・エリンを考えたときに、救世主は武力により救世することが多く武力のマフティーはマフディーを担当し、ダンスのマフティーはナビーユとして人々を導くのを担当していると思います。』
教授がコップの水を飲むと初老のキャスターが食い気味に『では、エリンは?』
と聞いているが俺には茶番にしか見えない。
『エリンはアイルランドという意味です。ここでなにかに気付きませんか?アイルランドにはジャック・オー・ランタンというかぼちゃの化け物がいます。それにコロニー落としの被害地域で、ダブリンから人々が逃げられなかったのは地球連邦政府が否定したのも要因です。そして、ジャック・オー・ランタンとはなにか説明しましょう。』
ホワイトボードに書かれるかぼちゃと満足そうにそれを描く教授。
『ジャック・オー・ランタンとは、生前に悪行を成した人生を送り、反省しないまま死んだ魂が死後の世界への立入禁止をされて、悪魔からもらった火種を入れたランタンを片手に持って彷徨っている悪霊の姿とされています。
違う説には悪賢い人間が悪魔を騙して、例え死のうが地獄には行かないという契約を結んだが、その肝心の死んだあとに、生前の悪行から天国へも行けず、悪魔との密約が発揮し地獄にも移住できず、安住の地を探して現世を彷徨っている姿だとも言われております。』
つまりと教授はホワイトボードを叩き、熱弁している。もうどうにでもしてくれという感じだ。ノストラダムスの予言を聞いている気分だ。
『連邦政府とジオン公国の要素を同時に入れた象徴がこのかぼちゃの仮面であり、死人の代弁者でランタンつまり明かりを持つ水先案内人なのです。そして、黒い全身タイツで死者とケルトの入れ墨を表しています。高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変にそういった表現をなさる。従って相当な学識を持つインテリゲンチャがマフティー・ナビーユ・エリンの正体だと思います。』
あながち間違ってない分析で終えるのはやめろよ。ハサウェイはインテリなんだから。なんで、そんなにアイルランドにこだわるんだ。アイルランドに親でも‥‥。
「うわっ。」
教授の名前を見たのだがジョージ・ジョンソンというらしく、明らかにイングランド系である。いやいや。
「時間を無駄にした。寝よう。」
やはり、インテリは暇なんだろう。暇じゃないならマフティー・ナビーユ・エリンでここまで語れないだろう。ふざけんなよ。俺がこんなに神経が苛立つのなら、ハサウェイはどうなっているんだろうか?
翌日、12時にブリーフィングに呼ばれると被る仮面が配られた。当然、俺はかぼちゃの仮面を拒否したが無理矢理被ると決められてしまって、行動部隊のマフティー・ナビーユ・エリンとして彼らを導いて行くらしい。何に導くと言うんだ。
紅茶を飲もうとアイスティーを作り、飲もうとストローを口に入れたところでドライに話しかけられ、ストローから口を離す。
「しかし、アインス。連邦政府がかぼちゃ狩り部隊を新設するそうだ。名前はウィッカーマン隊らしい。隊長は悪名高いエコーズから選ばれたニール・ニールセン少佐らしい。思想犯取締で死ぬほど恐れられてるらしいぜ。」
誰だよそいつはドライなんでそんなに嬉しそうなんだ。
「コレで、地球連邦政府はマフティーが持つマフティー性を認めたということになる。ジオン・ズム・ダイクン以来の新たな思想だ。」
ツヴァイがまたマフティー性という常軌を逸した単語を出してきた。踊った本人がマフティーダンスにマフティー性なんて言う謎要素がないと思ってるからあるわけ無いだろ。
「マフティー性は人々をマフティーにする。よく考えられたものだよ。30秒の忙しい庶民の為のインスタントダンスと4分強の長編ダンス。まるでコマーシャルのような宣伝性だ。マフティーの深さはザビ家のシステムを超えているかもしれない。マフティーに聞いてみたいよ。どうしてこの仕組みの深さを思いついたのかをね。」
ハサウェイに聞いたら殺されると思うがな。ダンスマフティーに夢を見過ぎだろう。
「マフティーは、マフティー性なんか考えてないかもしれないぞ?武装マフティーとダンスマフティーは別かもしれない。個別の事象で見たほうがいいと思うな。ところでギャプランだが。」
ツヴァイに反省を促す。コレでマフティーが止まるだろう。
「マフティーがマフティー性を考えていないのならば、日々働いて納税するだけのために生きる愚民にマフティーという武器を与えたとなる。ならば、マフティーはダカール演説以上の偉業を成したことになる。それはかえってマフティー・ナビーユ・エリンこそが真の人々の革新を呼ぶニュータイプって証明になるはずだ。」
お前、頭ジャックか?そういえば高学歴環境テロリストだったなツヴァイ、ならばこうもなろうというものだ。
「そうかも知れないな。しかし、マフティー性よりもハイジャックの話をしなければならない。あと3日程度もないんだぞ。リーダーにされたからには結果を残さねばならん。スポンサーは無理難題を仰るものさ。」
アイスティーを手に取ると飲もうとした時に、ドライが俺から取り上げて、飲み干した。ふざけるなよ。
「飲み物を横取りされたら苛つくだろう?ダンスマフティーと武装マフティーが違うなら、今のお前よりも苛ついてるはずだ。しかし、武装マフティーはダンスマフティーの邪魔はしていない。なら、少なくとも二つのマフティーは協力関係にあるんじゃないのか?」
ドライの発言でなるほどと思った。確かに希望的な観測ではハサウェイは怒っていない。ハサウェイとケネスさえなんとかすれば、ブライトも来ないから怖くない。火星ジオンのオリュンポス砲程度だろう。ロナもミームを踊るおもしろおじさんに成り下がったので、ミノフスキークラフトだけは勘弁してほしいと言うものだ。
「見てみろ、アインス、ドライ、フィーア、これを。」
コラージュ動画のようだ。そこにはマフティーダンスを踊る連邦閣僚の動画がそこにはあって、マフティー・ナビーユ・エリンが連邦政府に反省を促すとされていて一気に再生数が増えており、続いてブライト・ノアなど地球連邦軍の有名な人間がコラージュで踊らされていたが、すぐにチャンネルが閉鎖された。
「いつもより、マフティーダンス動画の対応が早い。これがエコーズの力というものだよ。こうやってふざけているのさ。連邦の犬はマンハンターよりも始末が悪い。そんなに取り締まりたいならアデレードでおねんねしてる連中こそが、マフティーを生み出したマフティー性の根源というのに、枝払いだけで幹を切らねばいくらでも枝が出ると言うものだ!」
ツヴァイが怒っている。確かにネットミーム風情にエコーズを投入するバカらしさはない。エコーズよりも、ジョン・バウアーに予算を与えたほうがよっぽど良さそうだが、そうなったら取り締まられてしまうから嫌だな。
「で、エコーズのお手前は拝見したがそいつは草刈りならぬかぼちゃ狩りの農家に過ぎないんだろう?ジェガンの一つでも目の前に出されなければサイドを回る麻薬探知犬程度の脅威に過ぎないだろ?」
ドライの指摘は尤もだ。
「キンバレーの失点が多いから、キンバレーの代わりにこいつ等が来るかもしれない。キンバレーよりもエコーズが来た日にはオエンベリのマフティー殿は負けるだろうさ。相手は“暴徒鎮圧”とやらのプロだからな。」
やはり、ハイジャックは成功させるしかないと皆で無言で頷いた。
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