偽マフティーとなってしまった。
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3話
車載テレビを見ると、電波ジャックでオエンベリのマフティーダンス抗議を生で流しているようで比較的平和に見える。
マフティーダンスを踊るオエンベリ軍に、露店を開きリンゴなどを売る人々。映像が電波ジャックで流されたものでさえなければ平和そのものだ。しかし、次の瞬間にそれは火に包まれる。
キンバレー部隊がオエンベリのそのマフティーダンス集団をグレネードや暴徒鎮圧用の股間部のバルカンなどで焼き払う。まさにバーザムでティターンズがやっていた事の焼き直しだ。
無惨にもカメラは倒れ、キンバレー部隊のモビルスーツが、子供を抱きしめる母を踏みつけ画面が赤く染まり、放送が途絶えた。オエンベリはどうなったかわからないが煙がオエンベリの方角から上がっている。
「行かないと!」
立ち上がり、行こうと言ったがツヴァイに止められた。
「やめろ。今、行ってもMSも無いんだ!逃げる難民の邪魔になってお終いだ。ならば、ここで難民の誘導をした方がまだ人が助かるはずだ。」
ツヴァイが首を横に振ると顔を引きつらせながら4人で何とか周りの民家に呼びかけて毛布などを集め、難民キャンプを作ることにした。
それから数時間後に難民達が続々と駆けつけて彼らにまずは水を振る舞う。合間を見て俺も水を飲もうとするが全然飲めるような合間が開かず、結局数千以上の難民が身を寄せる結果となった。
「大変なことになったな。」
ドライがそう言う。俺は何も言わずに頷く。
「しかし‥‥。」
難民が持ってきたテレビを車に繋げて仮設シアターが出来上がり、ニュースを見るとキンバレーの虐殺と話題になっていたが次々に特番は打ち切られ、暗転のあとに普通のテレビ番組に戻った。
焼け出された人々は怒り、一部の若者は自然と難民キャンプを背景に踊る配信をしだし、また一人、また一人と踊りに参加していく。何回もアカウントを削除されても難民達が端末を持ち寄って夜通しマフティーダンスを踊っていた。俺はただただそれを見ているしかなかった。
翌日、マフティーによるキンバレーの虐殺に対する返答なのかはわからないが地球連邦治安部の高官が暗殺された。
「これで終わりか?」
しかし、次々にサイド3などでもキンバレーの虐殺について抗議のマフティーダンスが踊られ、中にはマフティーによる報復の暗殺に反省を促すダンスなるマフティーダンスまであった。
「どうなってるんだ?わかるか?ツヴァイ?」
元々は有名大学の文学部を卒業したインテリのツヴァイは炊き出しのスープ(完全な野菜のみ)を作りながら答えてくれた。
「少しずつ、人々がマフティーに関心を寄せて来てるのかも知れないな。しかし、俺にはモビルスーツに乗るマフティーとダンスを広めたマフティーが別に思えるが、お互いにいい作用をしている。」
マフティーダンスと聞くたびに嫌な汗が流れる。
「いい作用とは?」
汗を悟られないようにすぐさま、話題を変えた。
「あぁ、マフティーの仕組みが普通なら暴力的過ぎたら離れる人たちがダンスに流れ、ダンスが平和すぎると離れるはずの人たちがモビルスーツに流れる。マフティーは踊るだけでいいから道具は必要ないしな。それにこの動画を見てみろ。」
かぼちゃのマスクを被って打ち捨てられたモビルスーツの上で踊る黒タイツの男がいた。
「こう言う風に少しの技術さえあれば訴えたい背景に嵌め込むだけで、マフティーが連邦に反省を促すんだ。これは深い仕組みだよ。力だけでも民衆だけでも駄目だがマフティーと言うコンテンツ、いや、マフティーダンスと力としてのマフティーが文化と武力で人々を導いているんだ。」
クイッとメガネを上げてツヴァイはこう言った。
「マフティーはシャアと言われていたが、ダンスを踊るマフティーはアムロ・レイなのかもしれない。二人のニュータイプが文化と武力の力で人々をニュータイプに啓蒙してるのかもしれないと話題になっている。」
ツヴァイは笑っている。冗談に聞こえるがツヴァイの発言は冗談に聞こえなかった。ついでにこの状況は冗談ではない。つまり、血眼になって連邦政府が両方を探しているということではないか。
ジェガンを持ち出してきたキンバレーの馬鹿は騙せるだろうがケネス大佐は騙せると思えない。なんで、人々の悪ふざけがここまでの事に、いや、こんなにも事態を動かすんだ。
「だが、このままなら収まるだろ?だってダンスだぞ、これ。」
ここまでマフティーダンスが踊られたら人々は飽きると思う。いや、飽きてほしい。
「連邦に人々のマフティーが屈するまで続くよ。誰が正体かわからないからな。マフティーと名乗ればみんながマフティーに成れる。武力のマフティーとダンスのマフティーを両方同時に捕まえなければ、後続がマフティーになって続くよ。誰だってマフティーになれるコンテンツが出来てしまったからな。」
マフティーって最早何なのかわからないが、兎も角、インテリ曰く止まらないらしい。
「仮にこのマフティー騒動が収まるとしたら?」
ツヴァイはスープをこちらに渡して、口角を上げた。
「マフティーの代表と講和して連邦の閣僚に入れるぐらいしか無いが、マフティーに代表なんていると聞いたことあるか?偽のマフティー代表を用意したところで、マフティー・ナビーユ・エリンがソイツを粛清するよ。だから、終わらない仕組みなのさ。」
スープを飲む気が失せて、近くにいた難民に渡すとまだマフティーダンスを踊る集団を背に眠りについた。変に疲れたせいか久しぶりに泥のように眠りについた。
「起きろ。朝だ。オエンベリのマフティーがこちらに向かっていたキンバレー隊とマンハンターを撃墜したらしい。それで、オエンベリのマフティーがジェガンやマンハンターの装甲車の上でマフティーダンスを踊ってニュースになったようだ。」
起きがけに情報のシャワーを浴びせるとは、お前はアニメかなにかのインテリ野郎か?いや、そうだった。なんで、BARで踊った踊りがここまでの事態に‥‥。
「見てみろ。まだ、アイツラ踊ってやがる。あれはどういうことなんだ。」
さっきからずっとドライが話してくるが辞めてほしい。寝起きの乾いた喉で話せるわけ無いだろ。理解しろ。
「あぁ、悪かったな。これを飲め。」
水を受け取り飲もうと開けようとした矢先にツヴァイが声をかけてきた。
「まずい、インターネットの位置情報を割出して、オエンベリのマフティーには、陽動を仕掛けてたようだ。こっちにキンバレー隊の本隊が向かってきている。」
たかがマフティーダンスを踊っているだけの難民だぞ。どういうことだ。
「なんだ、キンバレーはマフティー・ナビーユ・エリンに親でも殺されたのか?」
俺の問いかけにツヴァイはいや、それよりもたちが悪いと切り捨てた。
「マフティーが激化してきて、もう直キンバレーは転勤にされるらしい。その前に目に見えるマフティーを倒した戦果が欲しいのさ。ジオンの連中だってそうそういる訳じゃないしな。」
確かにそうだが、ここで火星と木星とブッホ・コンツェルンの話をしたら流れが変わって、キンバレーがそいつらを倒しに‥‥行ってはくれないな。目先の手柄と未来の手柄を両取りするだろう。ジェガンのビームライフルで市民を焼き払うやつに良心はないだろう。いや、良心が無い存在でいてほしい。
良心があるなら、俺がマフティーダンスをしたせいで、人が死んだことになる。
こんなところで、落ち込んでる場合ではない。
「どうする?キンバレー隊には敵わないぞ。相手はジェガンだ。逃げるなら今だが。」
ちらりと難民を見る。確かに、あれだけ叩かれていれば手荒な真似は出来そうにもないが、バスク・オムならやれる。キンバレーがどこまでかは知らないが毒ガスを撃ち込んできても不思議ではない。
「オエンベリには旧式の兵器が幾らかあったはずだ。それが残ってるなら、キンバレーはミノフスキー粒子を撒かないほどバカだと言われている。61式戦車でゲタを落とせば退くだろう。ただ、問題は61式戦車とかを何人が動かせるかだ。」
難民の中から動かせる人材を探すしかないが大変な作業だ。
「この中で従軍経験があるものは?」
40〜50代がほとんど手を上げたために事情を説明をして、戦車の話をする。
「確かに何両も動かせるでしょうが大丈夫なんですか?武器を持ったテロリストだとして殺されませんか?」
確かにそうだが、現実が現実だ。
「よく考えてもみてください。非武装のダンスデモをたとえオエンベリだとしてもやっていたところにMSを使ったんですよ?信用できますか?」
それもそうだなと言う声が高まっていく。とりあえずオエンベリから戦車を持ってくると決まりかけたところで、一人の男が立ち上がった。
「いや、それだけじゃ駄目だ。アイツラに正当性を与えてしまう。なら、俺はアイツラの前で踊って、撃たれながら死ぬ。それが残されたものの定めだ。」
何言ってるのかわからないが戦わないらしい。確かに戦わなくても良い訳だが捨て置こう。戦車部隊などは川沿いの湿地帯の森に隠れ、逃げることができるものは出来るだけ逃がすことにした。かの男性はどうするかは分からないが。
布陣と偽装も済んだところ、やっとキンバレー隊がやってきた。わざとらしいトラックにわざとらしく救援物資の様にしてるが、荷台の中に61式のサーモカメラが捉えている歩兵の姿。全宇宙に中継されてもなお、難民を皆殺しにすれば救われると思う浅はかさに吐きそうになる。
「テロリストの皆さん。連邦軍のキンバレー、キンバレー・ヘイマン大佐が救いに参りました。投降するなら物資と命だけは保証しましょう。しかし、抵抗するならジェガンの力を身を持って知ります。5分だけ、時間を‥‥。」
キンバレーが言い切る前にかぼちゃのマスクを被った黒タイツの男が現れ、キンバレーは目を輝かせている。度重なるミノフスキー下での戦闘に適応させられた61式戦車のスコープはそこまで捉えれた。
スコープにエネミーが入る。エネミーは文官出身らしい、決められた時間を守るらしく黙っていた。
そして、テントから出てきたかぼちゃのマスクはキンバレー隊の目の前で踊りだす。皆が息をするの忘れて見ていた。
そして‥‥。
「5分が経ったが投降するのか?マフティー・ナビーユ・エリン。」
キンバレーはイライラしながら言っているのは声でわかる。助けに行きたいが61式戦車では待ち伏せ以外はただ殺されるだけの可能性が高い。一両が死んだら数百人以上のオエンベリの人間が死ぬ。助けにはいけない。
何も言わない偽マフティーはゆっくりとあるポーズをとった。それは事務仕事をパントマイムでしたのだ。そして、電話をかけて寝てろと踊りで表すとキンバレーは拳銃を引き抜いて、抑え込もうとする部下を振り払い、偽マフティーの頭を撃ち抜いた。
そして、難民キャンプを破壊しようとジェガンが背中を向いた。
「撃て!」
そこを見計らって10両の61式戦車の20門の砲が集中砲火し、一気にジェガンを中破させると驚いたキンバレーは逃げ帰っていった。
「おかしい奴だったけど、アイツはキンバレーの目くらましになるようにあれをやってくれたのか。」
しかし、後日、彼の行動はそうではなかったと知る。
その後のニュースを見るとあのキンバレーに殺された男は自称ダンスのマフティー・ナビーユ・エリンと名乗っていたかぼちゃの中身と言っていた男だと判明した。
何故わかったかというと数人の自分を信奉するマフティー支持者に一部始終を撮らせており、キンバレーに殺されて死ぬことにより、本物のダンスをしていたマフティー・ナビーユ・エリンに成り代わったのだ。
一種の殉教者として、非暴力非武装で面と向かって暴力に訴えかけてきたキンバレーに挑み死ぬ動画により数段彼の崇高なる理念として一部で持ち上げられた。
「どういうことなんだ?調べるしかないな。」
一部の電子雑誌などからは非暴力・不服従を訴える清廉なマフティー活動家として紹介された。例え、一人がマフティーとして死んでもかぼちゃを被り、不服従でいれば自ずと皆がマフティーになれる。
マフティー・ナビーユ・エリンは真実、正当な預言者の王として不当な暴力にでも正当な理念により打ち倒す正義の執行者として扱われた。
「そんなバカな!?」
暴力ではなく、非暴力・不服従はインドのガンディーから来ていると思われ、マフティーはやはり、インドでニュータイプに覚醒した。もしくはインドに居るのか噂通り、アムロ・レイかも知れないと締められていた。
「本物はどうなってるんだろうか?」
本物のマフティーも持て囃されており、概ねツヴァイが予想した内容のままであった。
そして、キンバレー部隊の失態は強い情報統制で揉み消そうとするも消えずにくすぶり続けている。俺は残り一ヶ月に迫ったハイジャックをどう対処するかに頭を切り替えることにした。
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