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リュカ伝の外伝

作者:あちゃ
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好青年

(グランバニア城)
アンディーSIDE

「お父さん、お母さん。こちらが僕の住まいです!」
今年の春に息子がグランバニアに留学し一人暮らしを始めた。
グランバニア王国とはお義父さんの仕事関係で縁を持っているので、視察の(つい)でに会いに来た。因みに今晩催される小規模の宴に出席するのが僕のメインの仕事だった。

「まぁ、思ったよりも片付いてるのね」
室内に通されて男の一人暮らしにしては片付いている事に素直に驚く。
我が息子ながらマメに掃除をしているんだな。

「うふふっ……彼女さんが片付けてくれてるのかしら?」
えっ! 彼女が居るの!?
「ち、違いますよぉ! お父さんとお母さんが来てくれると思ったので、頑張って片付けたんです」
なんだ……息子の彼女なら会いたかったのに。

「まぁそうなの? たった数ヶ月でオシャレな好青年に変身しちゃってたから、勘違いしちゃったわ」
確かにその通りだな。
数ヶ月ではあるのだが、身形がグランバニアの若者感を醸し出している。

「友達に“ホール・ギルバート君”ってのが出来たんだけど、彼の彼氏がスッゴいオシャレな人でね。僕も友達になったし、色々とアドバイスをもらったんだ」
「『彼の彼氏』って……その人、同性愛を……お、お前も……そっち系なのか!?」

「何でそうなるんですかお父さん!? 僕は異性愛者ですよ。お母さんの様な美しい女性と巡り会える事を期待している最中です。それにグランバニアでは珍しくないんですよ!」
「そ、そうなのか……?」

「そんな事より私はルディーの垢抜けた感じに驚きだわ。ナチュラルに『お母さんの様な美しい女性』って言うなんて、リュカさんの影響を感じて……お母さん少し不安だわぁ」
た、確かにそれは少しどころではなく不安だ!

「リュカ様の影響を受ける程、僕はお会い出来てませんよ。リュカ様はスッゴく忙しい方ですから」
「忙しいって……よくウルフ宰相に『仕事しろ!』って怒られてるのを見るけど?」
何時(いつ)もサボってるイメージがあるが?

「僕は仕事で忙しいとは言ってませんよ。基本的に政務はウルフ宰相に丸投げしてるみたいですからね(笑)」
そういう所とかを影響受けないで欲しいんだよなぁ……
そんな心配を他所に、息子は慣れた手つきで我々に紅茶を用意しケーキまで出してきた。

「あ、そのケーキは絶品ですよ! リューノさんに今日両親が来る事を言ったら作ってくれたんです」
「リューノさんって……リュカさんの娘さんの?」
それとも同姓同名?

「そうですよ」
ルディーは柔やかに『そうです』と言う……
リュカさんは如何(どう)言うつもりなのだろうか!?
娘さんの一人を差し向けてサラボナ家に食い込むつもりか!?

「リュ、リュカさんから直接紹介されたのかなぁ?」
「違いますよ。リュカさんは用がなければ僕に誰も紹介してはくれません。僕が追っかけをしているバンドのリーダーさんがリューノさんと仲が良くって、彼女に紹介して貰いました。お父さんが何を考えてるのか解りませんけども、リュカ様は僕を使ってサラボナを牛耳ろうなんて考えてませんよ……ってか、そんな必要は無いでしょ! リュカ様には国境なんて有って無いモノですから。サラボナを牛耳りたかったら、もうやってますよ(笑)」

「た、確かに……基本的に非常識な人だからなぁ」
「でも私達はその非常識に助けられましたわよ」
う~ん……それはそうなんだが……複雑だ。

「それにリューノさんは彼氏が居るそうですよ。既に妊娠されてますし……結構お腹も目立ってきてます」
「えっ!? に、妊娠してるの? で、でも“彼氏”って事は結婚してない……させてないんでしょ。寧ろ子供込みで面倒見させようとしてるのでは……」

「お父さんはリュカ様を警戒しすぎですよ。リュカ様が僕とリューノさんをくっつけたくても、僕とリューノさんの感情が必要になります。リューノさんは分かりませんが、僕は他人様の女(彼女or妻)に興味ありません。まぁこれはリュカ様の影響を受けてるんですけどね。あははははっ(笑)」

笑えないよぉ……
息子は暫く見ないうちに、プレイボーイになってしまったのかもしれない。
不安に駆られ妻に視線を向けて助けを求めてしまう。

「リュカさんは素敵な男性ですから影響を受けるのは良いですけど、受けすぎるのは問題なんですよ。あんな素敵な男性はそうそういませんし、居てもらっては困りますからね」
「はい。注意します」

「うん。リュカさんみたいになんてなれないからな! それより折角入学出来たんだ……絵の方は順調か?」
息子は絵画を学ぶ為に猛勉強してグランバニアの芸高校(芸術高等学校)に入学した。
勉強はちゃんとしてるんだろうか?

「はい。先日授業の課題で描いた絵ですが、返却後ウルフ閣下に見せたら褒めてくれました! 今夜催される晩餐会に飾ってくれるそうでして、その時にご覧に入れますね!」
「へぇ……今夜の宴に! 楽しみにしよう」



(グランバニア城:謁見の間・パーティー会場)

本日の宴は『PONY(ポニー)の設立・MP(ミュージックプレイヤー)の販売・RS(ルーラストーン)という新商品の開発案発表及び開発状況』を祝う為に催された。
その為、PONY(ポニー)の社長含め重役方が上座の方で人々に囲まれている。

囲んでいるのはサラボナの企業……そう、僕のお義父さんを初めとする通商連合のお偉方だ。
更には甘い蜜に群がるグランバニアのその他企業も集まっている。
一応グランバニア王家主催の宴なのでリュカさんもそちらの方で和んでいる。(様に見えるがあの人の事だから判らない)

本来なら僕も一緒にPONY(ポニー)の社長(を介してリュカ国王)のご機嫌を取らねばならないのだろうけど、お義父さんから『今日は久しぶりに息子に会うんだから、そちらを優先させなさい。ワシの方から今日は欠席すると伝えておくよ』とありがたいお言葉を頂戴している。

だから本当は今宵の宴には参加しなくても大丈夫だったのだが、ルディーの描いた絵が飾られていると聞き、急遽会場へと足を運んだのだ。
「お父さん・お母さん……この絵です!」

会場の端の方ではあるのだが、朝日に照らされた港風景が描かれた絵画が一枚そこにある。
絵の端に添えられたサインは間違いなくルディーのもので、この絵が息子の作品である事が確認出来た。
「凄いな。まだ芸高校(芸術高等学校)の一年生なのに、こんな晴れの舞台で披露して貰えるなんて……お父さんも鼻が高いよ」

「本当にそうですわね。選んでくれたウルフ閣下に後でお礼を言いましょう」
「はい。僕も沢山お礼を言いましたが、全然足りないと思いますので、お父さんとお母さんからも宜しくお願いします!」
僕もそんなに実力があるわけでは無いのだが、この絵はまだまだ発展途上の技術だというのが分かる絵だ。

それなのに採用してくれたウルフ閣下には心から感謝しかない。
これを切っ掛けに息子の絵が多くの人々に観て貰えれば幸いだ。
留学させて良かったと思うよ。

「おやぁ? 君はサラボナから留学してきたルディー君とか言ったね。こんな所で会うなんて……如何(どう)やって紛れ込んだんだい!?」
突然後方から声を掛けられて驚き振り向く。

そこには息子と同年代だと思われる青年が……
傍にはかなり身形の整った壮年の男性が一人。
顔付きなどから二人が親子である事が覗える。

「ザルツ……何方かな?」
「あぁ父上……彼は私と同じく芸高校(芸術高等学校)に通う同級生です。同じように絵画を専行しています」
“ザルツ”と呼ばれる息子から、ルディーが学友である事を聞く。

「やぁこんばんはザルツ君。初めましてザルツ君のお父さん。こちらは僕の両親です」
「やぁ初めまして……サラボナの方なのかな? 皆PONY(ポニー)の社長との会話を楽しんでいる様だが……宜しいのかな?」

「あぁお気遣い無く。本来我々は今宵の宴には非参加なのですが、ウルフ宰相閣下のご厚意で息子の絵が飾られると聞いて、少しだけ観に来てしまったのです。本来は居るべきではない身分なので、この絵をもう少し堪能したら退散させて頂きます」

「なっ……こ、これは君の絵なのかい!?」
「あ、うん。課題で描いた絵を観せたらウルフ宰相が飾ってくれるって……」
「ウ、ウルフ宰相閣下と知己なのかな!?」
「あ、少しだけですけど……僕のお祖父様が……」

リュカさんもウルフ宰相も、こういう所で名前を利用される事を凄く嫌う。
この方(父親の方)もこの会場に来てるって事は、グランバニアの企業なのだろう。
今後の為に変な蟠りは残さない方が無難だ。

「ふ、ふ~ん……ウルフ宰相閣下と縁故があるってだけで、こんな程度の絵が世界の人々の目に入るなんて……君はラッキーだねぇ。羨ましいよ……私もウルフ宰相閣下と知己を得ていれば、今頃は私の絵こそが会場中を埋め尽くしていただろうね!」

確かに、会場内では端の方だし、まだまだ大々的に世間に発表する程の絵ではないが、言い方にトゲがあってイラッとする。
とは言え彼等が誰なのかは分かってないし、下手に不興を買って後日お義父さんの邪魔にもなりたくないし、今はこの場を早々に離れて穏便に済ませよう。

僕は妻に視線を向けて立ち去ろうと無言で合図を送った……
だが妻は視線を会場の奥に向けて伏し目がちに言う。
「アナタ……手遅れでしたわ」

言われて僕も視線を向ける。
そこには……
「やぁアンディー! 今夜は来ないって聞いてたのに、何忍び込んでるんだよ(笑)」

見つかってしまった……いや、来てしまった!
「も、申し訳ありません陛下。ここに息子の絵が飾られてると聞いて、勝手に来てしまいました。ですが本日はこれで失礼させて頂く予定です」

「へ~……これ、ルディーの絵なの?」
「あ、はい。ウルフ閣下が褒めてくれまして……飾ってもらえる事になりました」
息子はリュカさんに物怖じする事無く事の経緯を簡潔に説明する。

「うん、聞いてる。『まだまだ荒削りだけど将来有望な画家の絵だから飾りたい』って言ってた。僕も観たけど、悪くないと思ったから許可した。まぁ僕は美術眼が全然無いけどね……そこの青年が大声で言ってたし!」
そう言ってザルツ青年を指差す。

「い、いえ陛下! 私は陛下の事は……」
「僕、性格悪いからさぁ……自分に向けられた悪口って忘れないんだよね。先刻(さっき)君言ってたよね『ウルフ宰相閣下と縁故があるってだけで、こんな程度の絵が世界の人々の目に入るなんて……君はラッキーだねぇ』って! それって僕は良いなぁと思ったこの絵が、世の中的には低価値って事だよね! 僕の美術眼がドン底って事だよねぇ!?」

「そ、そういうことでは……」
「じゃぁ何でこの絵を貶したの? この国の王様で、この城の主が気に入って飾ってるであろう絵を……何で貶したの!?」

「そ、その……私も絵を描いてるのですが……羨ましくて、悔しくて……」
「じゃぁ他者の絵を貶す事でお前の絵が評価されるの? お前は他人の絵を貶す事で、自分の絵の技術が向上するの?」

「いえ……されません」
「じゃぁさぁ……努力の方向性を間違えてない?」
「はい……間違えてます……」
「うん。じゃぁもう大丈夫だね。間違いを認めたら、今度はそれを修正すれば良い」

「は、はい!」
「他者の成功を羨むのは良い事だ……そこから何か技術を学べればより良い事だ。後はお前次第……頑張れるかい?」

「は、はい! い、何時(いつ)かはグランバニアで催される宴を飾る絵は、全て私の絵になる様頑張ります!」
「良いねぇその心意気。……所で彼はルディーの友達かい?」
珍しく人を威圧しないで事態を収束させるリュカさんは、急にザルツ君の存在が気になりルディーに問うた。

「いえ違います……ただの同級生です」
しかし素直なルディーは事実だけを言う。
ザルツ君も俯いてしまう。

「ですが“ただの同級生”だったのは先刻(さっき)までです。今からは同じ目標を持つライバルで友達です」
そう言ってザルツ君に右手を差し出し握手を求める。
僕の息子は何て良い子なんだ! あぁ……自ら“性格が悪い”って言うリュカさんの影響は受けて欲しくない!

「よ、よろしく!」
ガシッと力強く握手する二人の青年。
何度か腕を上下に振って手を離す。

離した手を見詰めルディーがポツリと呟いた。
「やっぱり僕も筋トレしないとなぁ……」
如何(どう)やらザルツ君の握力が強かったらしい。

「もっと握力があれば、握手に見せかけてザルツ君の利き手を粉々に出来たのに(笑)」
な、何って事を!?
「あはっはっはっはっ! ルディーも意外に性格悪いなぁ! ウルフの影響か?」
貴方の影響じゃないんですか!?

「ウルフ閣下が三割と……その上司さんが七割ですかね」
やっぱり!
環境が悪すぎる!

「こ、今後君と握手する時はガントレットを装備する事にする」
「負けないぞぉ~(笑)」
ルディーは笑いながら右手をニギニギさせる。

息子は如何(どう)なってしまうのだろうか?

アンディーSIDE END



 
 

 
後書き
当初の予定ではザルツ君は
ここでリュカさんかウルフにコテンパンにされて
嫌な奴だったってキャラになる予定だったんだけど、
リュカさんがなんか青少年に優しすぎて生き残ってしまった。
ドン君で馬鹿キャラは書き切ったから思い浮かばなくなっちゃったのかな? 
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