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リュカ伝の外伝

作者:あちゃ
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子育てのスキルとは……?

 
前書き
お祖父ちゃんと呼ばれる様になりました。
「ヘッポコ」とは呼ばない様にw 

 
(ラインハット城:王家プライベートエリア)

その日……
ラインハット城で新たな命が誕生した。
父にラインハット王位継承権第一位のコリンズ王太子。
母にグランバニア王家より嫁いだポピレア妃。

まだ誕生して幾ばくかの赤ん坊は、その二大国の血筋として生を受けた。
それがこの子にとって幸運なのか否かは、誰もが頭を傾げるだろう。
だが新生児の誕生に諸手を挙げて喜ぶのは両親や祖父母……そしてその兄妹達である。

この喜ばしい場に相応しい喜び様を体中から撒き散らしている。
しかし、そんな狂喜乱舞の祭典に入り込めない者も居る。
それは何故か?
それは……何故連れてこられたのか当人も解らないからである。



(ラインハット城:王家プライベートエリア)
ラッセルSIDE

いやぁ~めでたい。
本当にめでたい。
俺は心からそう思っている。

何がめでたいかって?
そりゃ~ラインハット王家に待望の赤ちゃんが生まれた事さぁ!
しかも男子! 玉の様に可愛い男の子だという。

うん。
王位継承問題も取り敢えずは一安心だね。
名前も色んな人が考えてきてたらしいけど、リュカ陛下曰く『珍しく強気に出やがった』との事で、ヘンリー陛下が『ウィリアム』と命名された。
命名の儀の時に何があったのかは俺には分からないが、兎も角めでたいのである!


でも何で俺がラインハットに連れてこられたの?


グランバニアからリュカ陛下やビアンカ王妃陛下が行くのは分かるよ……そりゃ当然だよ。だってお孫さんの誕生なんだし、世界の端にだって行くよ!
双子の兄上であるティミー殿下も、奥様のアルル様も分かるよ。一緒にアミー様だって付いてくるさ。

そういう意味でリュリュ様やその他の姉妹達も理解出来る。
グランバニア城内でよく見かけるリューラちゃんやリューノちゃん、更にはマリーさんも姉妹である事実に驚きを隠せないけども、リュカ陛下のお血筋なのであれば理解は出来る。

しかし解せないのは俺が連れてこられた事だ!?
日曜の明け方にリュカ陛下がリューナの下に来て『ポピーが産気づいたから皆で応援に行こう!』と俺の部屋にいた彼女を連れて行ったのだが、その際に俺までも一緒に連行された。

お産は順調だったらしく昼過ぎには無事出産された様子だ。
とは言え、明け方から訳も分からず連れてこられた俺には耐えがたい時間であった。
勿論心の奥底から無事出産と祈っていたが、それ以上に場違い感がハンパなかった。

周りの皆様はウィリアム君の誕生で安堵していたけども、俺は居たたまれない気持ちが加速していたね。
とは言え俺も直接祝辞を言いに言った方が良いのかな?
俺は謁見の間に用意された多数の椅子の内の一つに腰掛けて、リュカ陛下やヘンリー陛下などご家族が入れ替わりウィリアム君とお母様の居る部屋へ出入りしているのを眺めていた。

でもなぁ……俺ってまだ他人だしな……
近い未来にはリューナと結婚してグランバニア王家の一員になるのだろうけど、現段階では完全なる他人だしなぁ……

この部屋の隅の方には、この国の貴族だと思われる完全に血縁じゃ無い連中が、自分達も部屋に入って両王家に取り入る隙を覗ってるしなぁ……
それを差し置いて俺が行くわけにいかないよね。

そんな俺とラインハット貴族との温度差が激しい葛藤がピークに達する頃、ウィリアム君への謁見が一段落し始めてきた。
それを見逃さないのが貴族!

スススっとデール陛下に近寄って、自分もお目通りを……何て言おうとした瞬間。
「は~い、もう母子ともに休ませてあげようね。あんまり取っ替え引っ替え知らん人等が顔を見せたら、赤ちゃんもビックリしちゃうからね」
と最も騒がしくしていたグランバニア陣営のトップが仕切りだした。

今まで散々その母子に近付いて疲れさせてた筆頭なのに、自分達が満足したら他はシャットアウトする……我が国の王らしい。
丁度俺の目の前付近で、多数の貴族等が立ち往生する。
その滑稽な姿に思わず笑ってしまった。

しかし笑うのは拙かった。
滑稽貴族等に一斉に睨まれる。
慌てて助けを求める為に、ラインハット・グランバニアの両王家が集まっている方へ視線を向けた。

しかし誰もこちらには来てくれそうにない……
これは困った……
因縁を付けられたら、ベソを掻きながらリュカ様の名を叫ぶしか無いぞ!

「ヘンリー様……こんなお目出度き日に、私の様な部外者を招いて頂き、誠にありがとうございました。実の娘の様に育てていただき、実の姉(笑)の様にポピレア様には接して頂いた我が身には光栄の極みですわ」

突如、両王家陣の中から一人の美女が声を張ってヘンリー陛下にお礼を言う。
当然その美女ってのは俺のフィアンセなんだけどね。
でもそうか……自身はグランバニア王家とは無縁って事になっているから、完全に両王家陣営の中に居るのは不自然なのか!

しかも説明口調で自分が幼い頃よりラインハット王家に育てられた事をアピールして……?
「何を言うかリューナ。お前は私の娘も同じ! 留学先のグランバニアから駆け付けてくれて嬉しく思うぞ!」
ヘンリー陛下も説明口調でリューナとの会話を進めている。
何だこれは?

「そう言えばグランバニアで新事業を起ち上げたと聞くが? 流石だな。飛び級で留学するだけはある……優秀だな!」
そう言えばリューナは1年飛び級留学だったな。
若いとは思ってたけど、俺って手を出しちゃって大丈夫だったのか?

「“優秀”だなんて……私などまだまだでございますわ。起ち上げた会社も、現状では大赤字でございますし、些か調子に乗っていたのかもしれません」
いやいやいや……大赤字なのは計画のウチでしょ!?

大赤字になってでも世の中にMP(ミュージックプレイヤー)を浸透させて、後に利益を得るのが作戦でしょ!
一応関係者な俺はツッコミを入れるべきか悩んでしまう。

「何と素晴らしい! その若さで他国へ留学し、尚且つ企業を起ち上げるとは……赤字など一時の事だと思います。幼き頃よりラインハット王家の教育の賜でしょうか?」
新王太孫殿下へのお目通り……を理由に王家への取り入りを目論んでいる貴族連中の中から、一人の貴族様が声を張って出張ってきた。

「ありがとうございます。失礼ですけど……貴方様は?」
「これは失礼。私はミザン。先日引退した父の家督を継いだミザン・ファン・ネル子爵です。以後お見知りおきを……」

何だコイツは急に現れて?
リューナを狙ってる……様には見えないかな?
何故かチラチラとリュカ陛下の方を見ているが……?

「お噂はかねがね」
「私も同じです。貴女のお噂は両陛下から聞き及んでおります。とても優秀な義理の娘であると」
リューナはラインハット城で育ったから娘同然なんだな。

「お恥ずかしい限りですわ。私としましては、グランバニアだけでは無くラインハットでも活躍出来る企業にしたいと思っているんですけども……まだまだ先の話ですわね」
「いやいや大したモノですよ。しかも既に世界展開を考えてるのですね! 両陛下のご信頼もありますし、私は大成功すると確信しております!」

そりゃぁリューナは天才だからね!
しかも後ろにはグランバニア王家も付いてるしね。
何故だか俺も誇らしくなる。

「どうでしょうか? グランバニア国内であれば兎も角、ラインハット国内となれば企業展開出来るか否か……? 何せ事務所を起ち上げようにも土地の確保にも難儀すると思います。私はまだ若く、何方とも縁故はありません故」
それはヘンリー陛下が色々と便宜を図ってくれるんじゃ無いのかな?

「なるほど……ですが私は貴女の成功を確信しております。如何でしょうか……ラインハットに進出の際は、我がネル子爵家に協力させて頂けませんか!?」
「宜しいんですか!!?」
何だコイツ。何を企んでるんだ?

「手前味噌な出来事ですが、先日我が家の末弟が結婚致しました。お相手はグランバニアで生まれ育った女性です。平民ではあったので周囲から些かですが“疑問”の声も上がったのですが、弟は『この女性と結婚出来ぬなら死を選ぶ!』との“心意気”でして。子爵家の家名を捨てて婿入りした程なのです。グランバニアという国の“素晴らしさ”を弟を通して“痛感”しておりますので、ラインハットで生まれグランバニアで学び起業した貴女を応援したいのです。是非とも協力させて下さい」

そんな理由で初対面の女性が起ち上げた会社に協力したくなるか?
しかも現状では大赤字企業なのに!?
あまりにもアヤシくてネル子爵の事を凝視していると……

「おい、お前のフィアンセが見ず知らずの貴族にナンパされてるのに、ボケッと傍観してて良いのか(笑)?」
と、何時の間にか俺の後ろに回り込んでいたリュカ様に嗾けられた。
場違い感に萎縮していた所為で言われるまで動けなかった。
ここは俺がフィアンセである事をアピールしないと!

「リュ、リューナ……よ、よかったなぁ! ラ、ラインハット王国……内に、も、縁故が出来た……じゃぁあないかぁ!!」
ダ、ダメだ……お偉いさんが大勢居る状態で声を張り上げたから、上擦ってしまった

「おや君は?」
ネル子爵は突然声を張り上げた俺に振り向き、状況確認をしている。
ただ気になるのは、俺の更に後ろにリュカ様が居たのだが、そちらに視線を移すと怯えてる感じがする。リュカ様は怒らせなきゃ怖くないぞ!

「は、初めまして……お、俺はリューナのフィアンセのラッセルと申します」
右腕と右足・左腕と左足が同時に前に出る歩き方でリューナの下に近付いて隣に立ち、少し強引に肩を抱き寄せる。
天才美人彼女が他の男にナンパされてる事に慌ててる様子がダサい。

「君は彼女のフィアンセなのかい。いやぁ羨ましい」
「そうなんです子爵閣下。彼はグランバニア王宮で宮廷画家を生業にしておりますのよ。何で今日はウィリアム殿下の絵を描いて貰おうと、リュカ陛下に無理を言って連れてきて貰ったのですわ」

え、そうなの!?
ヤベェ……そんな事は考えてもなかったから、道具も何も持って来てないぞ!
ひ、一言くらい言ってくれれば……いや、そのくらいは自分で気付かないと!

「それは素晴らしい! あのグランバニア王国で宮廷画家をしてるなんて……若き起業家にお似合いの天才芸術家って事だね」
「え……あ……ありがとう……ございます」
あれぇ? 思っていたより友好的なだなぁ。

「ほぅ……貴様がリューナのフィアンセか。宮廷画家との事だが、本当に優秀なのか? 俺にとってリューナは娘同然なんだ……不幸にしたら許さないぞ!」
あれぇ?? ネル子爵よりもヘンリー陛下の方が攻撃的だぞぅ!

「聞き捨てならんなヘッポコ! その男は僕自らが実力を認めて雇った男だ! 優秀か否かをお前に如何(どう)こう言われる筋合いはない! 喧嘩売ってんのかコノヤロー」
あれあれぇ??? 何故だかリュカ様の方が怒りだしたぞぅ。

「あ、いや……そう意味じゃないんだが……」
如何(どう)言う意味だと言うんだ? 『娘同然』とまで言った娘が選んだ相手なのに、それを疑うって事か? お前は自分の子育てスキルがヘッポコだって公言してるんだぞ(笑)」

「うぐっ……ヘ、ヘッポコ言うな……」
「安心しろ。お前の子育てスキルは確かなモノだ。今日の主役であるウィリアムの父親がその証明だ……嫁に選んだ娘が完璧だからな!」
流石リュカ様だ……遠回しに自分の娘さんを完璧と褒めてる。

でもそれが良かったのか、ネル子爵を含む周囲の人々(貴族様方は別)から柔らかい笑いが巻き起こる。
それを機にネル子爵がリューナから離れた。
リューナの美貌に魅入られて、もっとしつこくナンパしてくると思ったんだけど、「ふぅっ……」っと胸を撫で下ろす。

一仕事終えた感が凄い。
あとリュカ様への警戒心(?)も凄い。
ネル子爵はリュカ様を怒らせた事があるのかな?

リュカ様はそう簡単に怒ったりはしないんだが……

ラッセルSIDE END



 
 

 
後書き
ネル子爵が末弟の結婚について語った台詞が気に入ってます。
弟さんは幸せ者だなぁ…… 
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