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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
  第三節 決断 第一話(通算91話)

 
前書き
フランクリンを連れてエマは急いだ。
居住区を横断してヒルダの元へ。
唐突な言葉にヒルダには理解が及ばない。
苛立つカミーユは大声を発すしかなかった。
君は刻の涙を見る――。 

 
 カミーユにとって両親の記憶といえば、言い合いの喧嘩ばかりである。横柄な父とヒステリックな母。一体どうやって結婚したのかと思うほど、仲が悪い。

「ここにいては飼い殺しにされるだけだ」

 フランクリンは口下手な上に説明がない。于遠なことも言わないが、端的でもなく、詳らかでもないため、相手は話を飲み込めず、結果として対立してしまうのだ。協調性が低い訳ではなく、「解れ」という頭ごなしな雰囲気が、周囲と対立する結果をもたらしていた。それは家庭内においても変わることはなく、次第にヒルダとの口論が億劫になり、仕事にのめり込んだ。フランクリンだけの問題ではないが、ヒルダに主体的な原因を求めるのは難しいとカミーユは考えていた。

 実際、夫婦間の問題はどちらに非があろうとも、責任は全て両方に在る。非は分かち合えるものではないからだ。ヒルダにはヒルダの欠点がある。感情的になりやすく、ヒステリックな傾向があり、細かい点に拘るあまり、大局的な俯瞰ができない。

「飼い殺し? 何を言っているの? 何がどうなっているんです?」

 案の定、言い合いになっていた。ヒルダはカミーユの主張を信じているというより、ティターンズを信じきっているというか、ティターンズの正規スタッフである自分が、ティターンズで監禁されるはずがないと考えている。つまり、この現実を理屈で捩じ伏せて、理解していなかった。

 エマがカミーユを見る。なんとかしなさいという顔だ。カミーユは首を振って、肩を竦めてみせた。二人ともカミーユの話に聞く耳を持つようなタイプではない。他人のエマなら、体裁を考えて少しは耳を貸すだろう。カミーユの全身がそう語っていた。

――仕方ない。

 一秒とて貴重な今、ヒルダを連れていち早くMSデッキに行かなければならない。エマが手早く説明するしかなかった。カミーユからすれば、端から解っていたことだ。フランクリンにヒルダの説得は無理だと進言すれば良かったのかもしれないが、作戦を立案したのはエマである。カミーユは諮問されない限り異見を述べることはできない。それが軍隊である。

 軍隊は細分化された職能があり、個々がその職責を果たすことで集団として機能するようになっている。意見具申は可能だが、余計なことをすると目をつけられ、悪くすれば転属させられる。軍に異分子を受け入れる寛容さは期待できない。ましてや反感を持っていたエマに進言の必要を感じなかった…というのもある。作戦が失敗しても自分は生き延びられる自信があったのも事実だ。

「中尉、話は後にしていただけませんか」

 エマが割って入る。だが、それもヒルダには逆効果だ。感情的に昂ったヒルダに論理的な思考はない。
「たしか、エマ・シーン中尉でしたか……主人は何を言い出したんです?解るように説明して」
本人は穏やかに言ったつもりだろうが、聞いている者からすれば、穏やかさからは程遠い。だが、エマは抗うことの時間の無駄を考え、受け流した。カミーユはエマに年相応以上の包容力を感じた。

(ユイリィがこうなら、いいのにな……)

カミーユに対するユイリィの態度は姉か母親のようだった。ほんの少しユイリィの方が早く生まれたからと言っては、お姉さん振るのだ。

 ユイリィが嫌いなわけではない。だが、常についてくるユイリィが思春期になるにつれ煩わしかった。しかし、それは照れ隠しだ。仲間から囃し立てられたりすると、仲間外れにされたくなくて、ついユイリィにつっけんどんな態度をとってしまっただけのことだ。それでもユイリィは構わず介入してきた。幼なじみの無遠慮さか、意識的な行動なのかは、解らなかったが、多分、無意識なのだろうとカミーユは思っている。ユイリィほど色恋沙汰から無縁な存在はないと感じていた。
そんなカミーユが軍人を志したのは、力がなければ何も守れないと思ったからだ。ユイリィの笑顔を守りたい。ただ、それだけだった。それは愛でも恋でもない。

 今では、スペースノイドの自由と権利などと一丁前の口上を宣うが、根本はそこにある。もし、サイド7駐屯軍に配属されていたら、ティターンズにこき使われていたのだから、グラナダに配属されたのは幸運以外何物でもなかった。

「息子さん――カミーユ・ビダン少尉に反政府運動組織との接触嫌疑が掛かっているんです」

 エマがはっきりと口にした。
ヒルダは青ざめた顔をして、カミーユを見る。エマを後押しするように大きく頷いてみせた。

「カミーユっ!お前……」
「俺は反政府運動なんてやってない」

 唇まで血の気の引けた母親を憐れんだ目でみて、カミーユは断言した。あながち嘘でもない。《アーガマ》はグラナダの所属艦であり、カミーユはグラナダ配属のパイロットである。単にグラナダ基地の司令が反政府運動組織のメンバーだっただけだ。

 苦しい言い逃れであっても、事実は事実なのだ。その辺りの配慮はエゥーゴにもある。多国籍軍であるが故に、逃げ道を用意しない訳にはいかない。特にジオン共和国を連邦の内戦に捲き込もうというのだから、念には念を入れていた。

「一緒に脱出してくれるね?」

 ヒルダは強張った顔のまま頷いた。 
 

 
後書き
原作だとサイド7で出てきますけど、そのシーンまるまるなかったですからねぇ(笑) 
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