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父親はそんなもの

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第一章

                父親はそんなもの
 上田家は母親一人娘三人である、そして父親は一人だがその父親の勇気は世界的な企業グループ八条グループが経営している居酒屋のチェーン店八ちゃん梅田店の店長である、その彼が近所の系列店のハンバーガーショップの店長であり大学時代同期だった長内景昭に仕事が終わって自分達が飲む時になって二十四時間のファミレスで言った。
「家女ばかりだろ」
「ああ、居場所ないんだな」
「最近そう思えるんだよ」
 こう言うのだった、皺が目立つ卵型の顔で目は小さく収まりの悪い短い黒髪で唇は薄く背は一七〇位で痩せている。
「どうもな」
「お前昔は違うこと言ってたな」
 長内は上田にこう返した、男らしいラテン系を思わせる顔立ちで縮れた黒髪である。顎の先は割れていて一八〇近い筋肉質の身体である。
「結婚したら女の子に囲まれてな」
「ああ、大学時代はな」 
 長内もそれはと答えた。
「そうだったけれどな」
「それが変わったか」
「稲尾さんになってな」
「鉄腕稲尾和久さんか」
「西鉄のエースだったな」
 神様仏様稲尾様と言われ昭和三十三年日本シリーズでは邪悪の権化にして全人類普遍の敵である巨人を成敗してもいる。
「あの人娘さんばかりだったな」
「四人な」
「三人どころかか」
「王さんと中西さんは三人だったけどな」
 王貞治だけでなく中西太の話もした。
「俺はだよ」
「稲尾さんか」
「娘四人でな」
 それでというのだ。
「嫁さんもいるんだぞ」
「女の人五人か」
「俺は一人でな」
「発言弱いな」
「PL学園の一年生程じゃないけれどな」
「あれは極端だな」
「話を聞くとな」
 どうにもというのだ。
「そうだな」
「日本軍真っ青だよな」
「防衛大学も凄いらしいがな」
「PLはもっとみたいだな」
 上田はファミレスのボトルのワインを飲みつつ言った。
「本当に」
「そうみたいだな」
「流石にそこまでじゃないさ」
 家ではというのだ。
「けれどかなりな」
「家じゃか」
「もう話も料理も観る番組もファッションとか趣味の話もな」
「全部女の子か」
「わかるか?女ものの下着ばかりでな」
 家の中はというのだ。
「ぽつんと俺のトランクスがあるんだぞ」
「想像するだけで嫌になるな」
「最初は一人でな」
 家の女の人がというのだ。
「二人三人四人になって」
「五人か」
「稲尾さん大変だったろうな」
 鉄腕と言われた彼の家庭での立場を思って言った。
「本当に」
「家で孤立してるんだな」
「ああ、邪険にされてなくてもな」
 それでもというのだ。
「もうな」
「余所者感凄いか」
「そうだよ、世の中女の人が必要でもな」
「家が女の人、女の子ばかりだととか」
「家族でもな」
 そうした近い間柄でもというのだ。
「男一人だとな」
「そうなるんだな」
「ああ、けれど受け入れるしかないよな」
 ここで上田は長内に達観した顔と声を見せた。 
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