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仮面ライダーAP

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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第26話


「……馬鹿な……!」

 グールベレー隊員達の死。その事実は前線指揮所のみならず、孤児院跡地でかつての教え子(バレットスパルタン)との肉弾戦を繰り広げていたアビス・ランバルツァーにも届けられていた。部下達全員の生命反応が途絶えたことに驚愕するランバルツァーは、返り血に濡れた拳をわなわなと震わせている。

(……信じられん……! この俺が直々に鍛え上げたグールベレーが……! パワーだけなら俺の上を行くパイマンまでもが……スパルタンシリーズに敗れたというのか!?)

 自身に次ぐ実力を持つ「No.2」の副隊長――「パイマン」。彼がパンツァースパルタンに敗れたことを悟ったランバルツァーは、残った食屍鬼(グール)はもはや自分独りなのだと思い知らされる。

 改造人間の超人的身体能力と、自身が陸軍で培って来た戦闘技術。その結晶たるグールベレーの隊員達が全て、スパルタンライダー達に敗れてしまった。人間としての誇りに拘ったジークフリートの部隊が、人の身を捨ててでも力を求めたグールベレーを超えた。

 その「結果」は、仲間も故郷もかなぐり捨てて理想を追い求めたランバルツァーのアイデンティティを、根底から崩壊させるものであった。人間を辞めてもなお絶対的な力が手に入らないというのなら、自分は何のために全てを投げ打ったというのか。

 自らの選択が生んだ「報い」を前に、ランバルツァーは動揺を露わにしている。彼の眼前で仰向けに倒れていたバレットスパルタン――バイル・エリクソンは、そんなかつての師を鋭く睨み付けていた。

 どうやらランバルツァーの表情から、仲間達の勝利を悟っていたらしい。すでに瀕死の重傷を負っているというのに、仮面に隠されている彼の双眸は、揺るがぬ闘志を帯びて熱く燃え滾っている。

「……俺達は皆、あんたが居なくなった後も……あんたの教えを守り続けた。絶対に諦めない……! その先に勝利があるって、信じ続けた!」
「……ッ!」

 何度パンチをかわされ、何度殴り倒されても。装甲を打ち砕かれ、血みどろになるまで叩きのめされても。不死身の如く何度でも立ち上がり、抗い続けて来た不屈の少年。彼は周囲の瓦礫を掴むと、そこを杖代わりにして立ち上がって来た。

 「例え全世界が絶望したとしても、お前達だけは最後まで諦めるな」。それはランバルツァーがバイル達に授けた、最初の教えだった。バイル達はその言葉を胸にここまで戦い抜き、師の想像すら超えるほどの強さを身に付けていたのである。

 その中でも――ジークフリートとランバルツァーの手で、幼少の頃から育てられて来たバイルは。マルコシアン隊において最も深く、ランバルツァーの教えを受けて来た隊員なのだ。

(……見ていてくれよ、隊長(ボス)。部隊の皆。……そしてッ……!)

 かつての師であり、父であった男を超えるため。この戦乱で命を落とした、想い人の魂に報いるため。スパルタンシリーズの一つを自身に託した隊長(ボス)や仲間達の信頼に応えるため。バレットスパルタンは鮮血に塗れながらも両の脚で立ち上がり、ファイティングポーズを取る。

「今度はあんたに教えてやるよ……! これが、あんたが育てた俺達の……マルコシアン隊の、真価だってなぁあぁああッ!」
「……思い上がるなぁあぁあッ!」

 そして、けたたましい叫びと共に――最後の拳闘(ファイナルラウンド)に臨むのだった。勢いよく地を蹴って飛び込んで来るバレットスパルタン。そんな彼を迎え撃つランバルツァーは、心を乱されながらも鬼神の形相で吼え、ファイティングポーズを取っていた。

 例え血で繋がっていなくとも、やはり「親子」なのだろう。決戦に臨む両者は、全く同じ構えで間合いを詰めていた。バレットスパルタンとランバルツァーは、互いの拳が届く間合いに入った瞬間、同時に己の鉄拳を振りかぶる。

(どれほど意気込もうと……お前の拳が俺に届くことはない。お前の負けだ、バイル!)

 どちらも、回避や防御を度外視した攻撃優先の姿勢だ。となれば、この先に待っているのは拳打の交錯(クロスカウンター)。しかしその場合、リーチでもパワーでも上回っているランバルツァーの方に軍配が上がるだろう。

(……!)

 だが、最後の力を振り絞ったバレットスパルタンは、ランバルツァーの予測を超える速度で間合いに飛び込んで来る。そのタイミングで同時にパンチを繰り出した瞬間、ランバルツァーは己が不利(・・)であることに気付かされた。

(この間合いでは……俺の拳は近過ぎる(・・・・)ッ!)

 体格、リーチ、パワー。それら全ての面でバレットスパルタンを凌いでいる「上位互換」。そんなランバルツァーに存在する唯一の欠点は、パンチに威力が乗る「適切な間合い」が相手とは違うことにある。

 拳にパワーを乗せ、威力を高めるための踏み込み。最も勢いが乗った瞬間のパンチを、相手に着弾させるための間合い。その最適な距離感が、バレットスパルタンのそれとは大きく異なっているのだ。

 それは手脚の長さが違う以上、当然のことと言える。ランバルツァーの拳打が最も猛威を振るう間合いならば、バレットスパルタンの拳は伸び切ってしまい威力が落ちる。ただでさえ基礎腕力で劣っているのに、間合いの関係でも威力を損なっていたのだ。

 無論、そんな距離感と実力差では勝ち目などあるはずもなく。バレットスパルタンは今まで何度も、師父に叩きのめされていたのである。

 ――だが。最適な間合いの違いに基づく威力の増減は、真逆のケースにも言える。パンチの威力を高い水準で保つためには、近過ぎても遠過ぎても駄目なのだ。

 もしバレットスパルタンに、最も高い威力を発揮出来る「間合い」に入り込まれたら。今度は対象に近過ぎるランバルツァーの拳が勢いを乗せられなくなり、威力が一気に減衰してしまう。

 だからこそ、ランバルツァーはこれまでバレットスパルタンを何度も「牽制」し、彼の「間合い」に入らせないようにしていた。しかし今回、動揺していた隙を突かれて接近を許してしまい、彼の「間合い」が完成してしまったのである。

「……ッ!」
「あんたって人は……よぉおぉおぉおッ!」

 バレットスパルタンの拳が、最も高い威力で着弾する距離。それはランバルツァーにとって、あまりに近過ぎて拳の威力が落ちてしまう距離でもあった。だが、基礎腕力ではランバルツァーの方が上。プラスマイナスの要素が絡み合った両者の条件は、この瞬間において「互角」となる。

「だらぁあぁあぁああーッ!」
「……ぬぅあぁああーッ!」

 雄叫び共に拳を振るう両者。その鉄拳が真っ直ぐに突き出され、双方の顔面に炸裂する。天を衝く轟音が、この孤児院跡地に響き渡っていた。彼らの足元にビシャリと叩き付けられた夥しい鮮血が、その威力の凄絶さを物語っている。

「ぐぉあ、あッ……!」

 この一騎打ち(ラウンド)を制したのは――バレットスパルタンだった。最大限まで威力を引き上げた渾身のストレートパンチ。その一撃を顔面の急所に受けてしまったランバルツァーは、よろよろと後退りして行く。すでにこれ以上戦える状態ではないことは、その不安定な動きが証明していた。

「……この間合いも。パンチも。全部……あんたがくれたものだぜ、大佐」

 一方、拳を突き出しているバレットスパルタンも、今にも倒れてしまいそうなほどに消耗し切っている。血みどろのラウンドを制した彼は、かつての師父への「返礼」を果たし――複雑な表情を浮かべていた。
 
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