仮面ライダーAP
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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第25話
「ぐおぉおおッ!?」
グールベレーの「No.2」である副隊長。その巨漢の脇腹に炸裂したパンツァースパルタンのトンファーは、250cmもの巨体を容易く転倒させてしまう。苛烈な轟音と共に倒れ伏した副隊長は、苦悶の声を上げていた。
「しょ……少佐……!?」
「心堂少尉、待たせたな。……俺が目覚めるまで、よくぞ耐えた。礼を言うぞ」
「少佐ッ……よく、ご無事でッ……!」
その強烈な一撃を以て自身の完全復活を証明して見せた、パンツァースパルタンことアレクサンダー・フォン・シュタイン少佐。
そんな彼の勇姿を見ることは叶わずとも、尊敬する上官の復活を知った心堂一芯少尉は歓喜に打ち震え、地を這いながらも拳を握り締めている。
「ぐぅうッ……ば、馬鹿な……! 貴様の『タンクスパルタン』に接近戦用の装備など無かったはずだ……!」
一方、なんとか起き上がって来た副隊長は悔しげな表情を露わにして吼えている。彼が口にした「タンクスパルタン」とは、パンツァースパルタンの外骨格を指す正式名称のことだ。
「……」
敵側のグールベレーがそこまでの情報を掴んでいる事実。それが意味するものを察したシュタインは、仮面の下で怜悧な双眸を鋭く細めていた。彼はすでに、グールベレーの背後にかつての恩師が居ることに気付いている。
「ふん……調べが甘いな。それはランバルツァー大佐が失踪する前のデータだ。今のこの機体は……俺が隊長にも、エドゥアルド主任にも秘密で独自に改修した、『パンツァースパルタン』。このビームキャノンに実装されたトンファー形態は、さすがに貴様らも知らなかったようだな?」
「な、なん……だと……!? 信じられん、上官にも開発主任にも無断で機体を改造するなどッ……!」
シュタインは遠距離戦用機として開発されていたタンクスパルタンを独自に改修し、近接戦闘にも適応した機体――「パンツァースパルタン」を造り上げていたのだ。スパルタンシリーズの情報が漏れている可能性を想定し、味方さえ欺く改修を施していたシュタインの奇策に、副隊長は驚愕の声を上げる。
「信じられんことをしなければ、貴様らには到底勝てんからな。だが、これを活かせる『間合い』に入ることが出来なければ、宝の持ち腐れで終わるところだった。……その千載一遇の好機を俺に与えてくれたのが、貴様が矮小と見下した心堂少尉だ」
「……!」
部下の健闘を讃えるシュタインの言葉に、心堂はハッと顔を上げる。彼の決死の行動が副隊長の注意を引き付けていたからこそ、パンツァースパルタンは仇敵を打ちのめせる「間合い」に入り込むことが出来たのだ。
「確かに、ビームキャノンの威力は貴様の方が上回っている。まさに俺の『上位互換』と呼ぶに相応しい。だが……接近戦はどうかな?」
「ぬ、ぬぅッ……!」
心堂の献身に報いるべく、パンツァースパルタンは両腕のビームキャノンをトンファー形態に変形させ、接近戦の構えを見せていた。さらに背面の装備をパージすることによって身軽になり、機動性まで獲得している。これまでの礼を10倍にして返してやる、と言わんばかりの攻撃的な姿勢だ。
「その身を以てよく覚えておけ。これが貴様が見下した、人間の力だッ!」
「う、うぐぉあぁああぁあッ!」
遠距離戦用のタンクスパルタンを仕留める役目を引き受けていた副隊長。そんな彼にとって、接近戦にも秀でているパンツァースパルタンの攻撃はまさしく「最悪の奇襲」であった。2本の巨大なトンファーによる猛烈な乱打は、副隊長の巨体を徹底的に打ちのめして行く。
大気を掻き切る猛烈な轟音と共に、激しく回転する2本のトンファー。その得物は圧倒的な質量と遠心力を武器に、体格で勝る副隊長の肉体に打撃の嵐を叩き込んでいた。完全に裏をかかれた副隊長は防戦一方となっている。
「……舐めるな人間風情がァッ! 独自の武装が……貴様だけだと思うなァアッ!」
「ぬぅううッ!?」
だが、このまま攻められるばかりの副隊長ではない。彼は自身のビームキャノンでトンファーを受け止めると、力任せに押し返しながら後方に飛び退いて行く。
次の瞬間、彼のベルトに装着されていた両腰部の装置が眩い閃光を放ち、パンツァースパルタンの視覚を麻痺させてしまった。
「うぐ、あッ……! 音響閃光弾射出装置、だとッ……!? い、いかん、これではッ……!」
視界がホワイトアウトしてしまったパンツァースパルタンは、心堂のように前が見えなくなってしまう。失明したわけではないので一時的な症状に過ぎないのだが、この死闘においてはその僅かな時間が致命的な「隙」となる。
相手の姿を見失ってしまったパンツァースパルタンが、ビームキャノンにエネルギーを溜めつつ辺りを見渡す中。彼の背後に回り込み、勢いよく地を蹴って空中に跳び上がっていた副隊長は、相手の頭上から最大火力の一閃を撃ち放とうとしていた。命中さえすれば、今度こそパンツァースパルタンが大破する威力だ。
(……この俺をここまで追い詰めるとは、人間にしては上出来だ。その奮闘に免じて……シェルターもろとも、最大火力の一撃で葬ってくれるわッ!)
パンツァースパルタンや心堂が守り抜こうとしていたシェルターもろとも、全てを焼き尽くす。その裁きの炎を以て、彼らの全てを否定する。それが、この角度から熱線を撃とうとしている副隊長の目論見であった。
視界を奪われている今のパンツァースパルタンでは、その動きを捕捉することは叶わない。彼が敵の動向を察知出来ずにいる間に、副隊長の両腕に装備されたビームキャノンが、極限までエネルギーを収束させて行く。
「少佐ァッ! 奴は背後の空中ですッ! 6時の方向、仰角60度ッ! ビームキャノン2門ッ!」
「……ッ!?」
だが、絶体絶命かに見えたその時。突如、パンツァースパルタンの足元で倒れていた心堂が、絶叫を上げる。彼の叫びに、パンツァースパルタンも副隊長も驚愕の反応を示していた。
心堂は、副隊長が地を蹴った際の振動音――「反響」を感じ取り、敵の位置を正確に看破していたのである。彼は視力を奪われていながら、目が見える者よりも遥かに優れた探知能力に目覚めていたのだ。
「何だと……!? 確かなのか、少尉!」
「……委ねます! 少佐ッ!」
その事実を知らないパンツァースパルタンは、心堂の言葉が真実であるかを問う。そんな上官に心堂は、己の誇りと運命を委ねるのだった。
一方、無力な人間と侮っていた心堂に自分の位置を見破られていた副隊長は、忌々しげに顔を歪めながらビームキャノンを撃ち放とうとしている。狙いを読まれている以上、発射を急がねば迎撃されかねない。
「……ええいッ! 貴様ら如きに……人間如きにこの俺がぁああッ!」
副隊長の怒号が轟くと同時に、ビームキャノンに収束されたエネルギーが最大限に達する。だが――それよりも速く。勢いをつけて振り返ったパンツァースパルタンが、両腕のビームキャノンを振り上げるように構えていた。
副隊長よりも先にエネルギーの充填を始めていた彼のビームキャノンは、この瞬間に最大火力での発射準備を整えていたのだ。心堂の言葉を信じると決めたパンツァースパルタンは、視力の回復を待つことなく、部下の情報通りの角度に砲口を向ける。
「……委ねられたぁあぁああッ!」
やがて――副隊長の砲口が火を噴くよりも、僅かに速く。パンツァースパルタンの両腕から解き放たれた最大火力「スパルタン・ギガブラスター」の一閃が、仇敵の巨体を飲み込むのだった。巨大な熱線が空を裂き、副隊長の巨躯を跡形もなく焼き尽くして行く。
「うっ……ぐぉあぁあぁああぁあーッ! そ、そんなァアッ、馬鹿なァァアァアッ!」
その業火に飲み込まれた副隊長は断末魔を上げ、灼熱の閃光の中へと消えて行く。その絶叫が聞こえなくなった時――彼が居た座標には、塵一つ残っていなかった。最大火力の熱線に焼き尽くされた副隊長の身体は、文字通りこの世から完全に「消滅」したのだ。
「……敵兵、完全に沈黙……! 少佐……我々の……勝利です……!」
「いや……違うな。お前の勝利だ、心堂少尉」
目が見えずとも、その際の轟音でパンツァースパルタンの勝利を確信していた心堂は、敬愛する上官に賛辞を送る。そんな部下の傷付いた身体を抱き上げながら、パンツァースパルタンはゆっくりと自身の愛車に向かって歩き始めていた。
あまりに屈強で岩山のような巨漢であることや、坊主頭といった特徴からか、周囲からは恐れられることも多いシュタイン。しかし、その心根が情に厚い好漢であるということは、彼の人となりを知る者達の間では周知の事実であった。心堂一芯もまた、その1人となったのだろう。
――そして、この瞬間。隊長であるランバルツァーを除くグールベレーの全隊員が、戦死を遂げたことになる。
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