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仮面ライダーAP

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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第20話

 
前書き
◆今話の登場ライダー

屋島北(やしまほく)/仮面ライダーSPR-21ブロウスパルタン
 北欧某国の陸軍1等兵であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。責任感の強い青年であり、傳治の良き兄貴分でもある。彼が装着するブロウスパルタンは接近戦に特化したシンプルな構造の機体であり、それ故に安定した高出力と重装甲が特徴となっている。当時の年齢は28歳。
 ※原案は茸し先生。
 

 

 オウガスパルタンがグールベレー隊員の1人を、相討ち覚悟のライダーキックで仕留めていた頃。彼と同じ建設現場で戦っていたスパルタンの1人は、仮面の下で苦々しい表情を浮かべていた。

「大童……ッ!」

 鉄骨による骨組みだけで構成されている、建設途中の簡素なビル。縦に伸びた巨大なジャングルジムのようなその場所に居る彼は、落下するオウガスパルタンが自分の目の前を通過する瞬間を目撃していたのだ。
 先ほどまで自分の頭上で戦っていた無鉄砲な後輩(オウガスパルタン)は、一体どれほどの「無茶」をしていたのか。若手の隊員にそんな「無茶」を強いてしまった自分の不甲斐なさを恥じるように、彼は拳を震わせ、眼前のグールベレー隊員と対峙している。

「くそッ……! バイルといいあいつといい、若い連中ほど無茶をやりたがるッ……!」

 スパルタンシリーズ第21号機「SPR-21ブロウスパルタン」。その鎧を纏う屋島北(やしまほく)1等兵は、弟分である大童傳治や、敵方の隊長格(ランバルツァー)と対峙しているバイル・エリクソンの身を案じていた。

 「仮面ライダーアマゾンアルファ」のシルエットを想起させる、漆黒の外骨格。その各部には装甲が増設されており、左腕には鎖、右手には鋼鉄製の棍棒が装備されている。
 それ以上の特色は無いシンプルな構造だが、それ故に基礎スペックや装甲の密度にリソースが注がれており、安定した戦闘力を維持出来る継戦能力の高さがこの機体の強みだ。

 だがこの機体には、ソニックスパルタンやスザクスパルタンのような、形勢を逆転し得る「必殺技」が無い。これといった決定打を持たないブロウスパルタンでは、「上位互換」であるグールベレー隊員との戦いにおいては一層不利となってしまう。

 不安定な鉄骨の上での戦闘ということもあり、ブロウスパルタンも他の仲間達と同様に、かなりの劣勢に陥っていたのだ。
 自身のものよりさらに強固な棍棒を持つ、グールベレー隊員。その強敵との苛烈な殴り合いを繰り広げていたブロウスパルタンは、立っていることが奇跡と言えるほどにまで打ちのめされている。装甲の各部には亀裂が走っており、割れた装甲に切り裂かれた「中身」の肉体からは鮮血が滴り落ちていた。

(俺はああいう若い奴らに、あんな思いをさせないために戦っているのではないのかッ……! こんなところで……手こずっている場合ではないだろうッ……!)

 それでも己を奮い立たせ、戦闘を続行しようとするブロウスパルタン。彼は右手に握った棍棒を構え直していた。一方、彼と対峙している大柄なグールベレー隊員は、相手の得物より一回り大きな棍棒を肩に乗せてため息を吐いている。

「ちッ……ラムダマンの野郎、あんなパワーだけの鉄屑に殺されやがって。おかげで俺の『仕事』が増えちまったじゃねぇか」

 目の前に居るブロウスパルタンなど眼中に無い、と言わんばかりに、彼は粉々に砕け散った同胞――「ラムダマン」の骸を冷たく見下ろしていた。オウガスパルタンに敗れたラムダマンの分まで、自分が2人のスパルタンを始末せねばならない。そのように呟いている彼の佇まいは、すでに自身の勝利が決まっているかのようであった。

「どうやら俺も……あんたと遊んでる場合じゃあなくなっちまったらしい。あの愚図の尻拭いで忙しくなりそうだからよぉ」
「……お遊びは終わり、と言いたいわけか。奇遇だな、俺も同じ気持ちだ。そろそろ決着を付けようではないか……!」
「決着? ハッハハハ! そういう大口は俺と互角の勝負をしてから言ってくれ! これまであんたとは何度も殴り合って来たが……あんたの攻撃は1発も、俺の急所に当たったことがないんだぜ?」

 嘲笑の声を上げるグールベレー隊員。彼の言う通り、ブロウスパルタンは未だにこの戦いで「有効打」を与えられていないのだ。
 グールベレー側の棍棒の方が、サイズも威力も重量も上。とは言っても、どちらの棍棒も互いの装甲や肉体を破壊し得る威力である以上、武器の「条件」に大した違いは無い。ならば勝敗は、相手の命を絶つことに繋がる「決定打」を与えられるかどうかに懸かっている。

 その「決定打」に直結するのが、「急所」への一撃なのだ。しかしブロウスパルタンもグールベレー隊員も、互いの棍棒に秘められた威力を警戒してか、未だにその一点への「直撃」に成功していない。
 ただ力任せに殴り合うかのように見せ掛けながらも、両者は互いの「隙」を窺い、急所への打撃を決める好機を狙い合っていた。その「削り合い」が長期化していたために、防御力を含めた基礎スペックで劣るブロウスパルタンの消耗が目立ち始めていたのである。

「……急所に当たっていないのは、貴様も同じことだろう。心配せずとも、今からご期待に添える一撃をくれてやる。貴様こそ、その大口を後悔するがいいッ!」
「ハッ、面白え。いいぜぇ、どんな攻撃だろうが受け止めてやるよぉ! 下位互換の鉄屑野郎がッ!」

 このままでは、先に消耗したブロウスパルタンが隙を晒して「急所」を殴られてしまう。その前に勝負を決めなければ、彼に勝ち目はない。その「結論」に至ったブロウスパルタンが走り出した瞬間、グールベレー隊員も真っ向から迎え撃つべく自慢の棍棒を振り上げる。

「おおぉおッ!」
「……らぁああッ!」

 双方の雄叫びと苛烈な衝撃音が響き渡り、骨組みだけのビルが震え上がる。ブロウスパルタンが全身全霊を込めて振り抜いた一撃は――グールベレー隊員の棍棒に、紙一重のところで受け止められていた。

「うっ、ぐ……!」
「……確かに、今までで1番気合の入った1発だな。この重量、この威力……俺達相手でさえなけりゃあ、そこそこ通用したかも知れねぇ」

 その一撃を阻止したグールベレー隊員も、想定を遥かに上回る「重さ」に冷や汗をかいている。改造人間のエリート兵士すら戦慄させる威力だったのだろう。しかし無情にも、その一撃は彼の急所に届くことなく、棍棒によって防ぎ切られていた。

「だが……所詮は未熟な科学の産物。この程度が……あんたの限界ってことだッ!」
「ぐはぁああぁああッ!」

 次の瞬間、お返しと言わんばかりのカウンターが決まる。アッパーのように振り上げられたグールベレー隊員の棍棒が、ついにブロウスパルタンの下顎を打ち上げたのだ。とうとう「急所」を殴られてしまったブロウスパルタンが、血を噴き出しながら吹き飛ばされて行く。

 彼の身体は宙を大きく舞い、僅かな滞空を経て落下し始める。この高所から地面に激突すれば、先ほどオウガスパルタンに倒されたラムダマンのように、装甲もろともバラバラに砕け散ってしまうだろう。誰の目にも明らかなほど、絶望的であった。

(……大童、バイル、皆……! 俺は……俺は、絶対に諦めんぞッ!)

 ――だが、そんな状況でありながら。血の海に溺れながらも意識を保っていたブロウスパルタンは、戦う意志も、棍棒も手放さなかった。彼は殴られる直前、自ら足場を捨ててジャンプすることによってアッパーの衝撃を逃がし、ダメージを最小限に留めていたのである。

 それでも瀕死の重傷を負ってしまったが、彼は空中に投げ出された今も、勝負を捨ててはいない。むしろ彼にとっては、ここからが本当の戦いなのだ。

「……ぬぁああッ!」

 吹き飛ばされながらも、空中で体勢を切り替えたブロウスパルタン。彼は左腕を大きく振りかぶり、そこに装備されていた鎖を射出する。その鎖は瞬く間にグールベレー隊員の首に絡み付き、彼の頸動脈を締め上げ始めていた。

「ぐぅッ!? く、鎖……!? 往生際が悪いぜ、あんた如きのパワーで俺の首をへし折れるとでも……!」
「……思っていないさ。俺だけの力ではなッ!」
「なにィッ……!? うぉおおぉッ!?」

 思わぬ反撃に瞠目しながらも、グールベレー隊員は鎖を掴んで引き剥がそうとする。しかしその力が入り切る前に、彼は猛烈な勢いで引っ張られ、ブロウスパルタンを追うように空中へと投げ出されてしまった。

 猛烈な勢いで殴り飛ばされたブロウスパルタンと鎖で繋がったために、殴り飛ばした張本人のグールベレー隊員が、その運動エネルギーに巻き込まれてしまったのだ。1本の鎖で繋がれた2人が足場の鉄骨から放り出され、猛烈な勢いで落下し始める。

「俺の殴打による運動エネルギーを利用したってぇのか……! へっ、非力なりに味な真似をするじゃねぇか! だがな、これくらいでへし折られるようなヤワな首はしてねぇんだよッ……!」
「ふん、何も分かっていないようだな。俺がただの悪足掻きで、こんな真似をしたとでも思ったかッ!」
「あァ……!?」
「さっきも言ったはずだぞ……そろそろ決着を付けようとなッ!」

 意味深なブロウスパルタンの言葉に、グールベレー隊員が眉を顰める。彼の発言が意味するものに気付いた瞬間、その表情は「戦慄」の色に染まっていた。
 鎖で繋がれたまま、急速に落下している2人。その()を通過しようとするかのように――下から1本の鉄骨が迫ろうとしていたのだ。

(建設中の鉄骨……!? こいつ、まさかッ……!)

 真横に伸びている鉄骨はちょうど、2人を繋ぐ鎖の対角線上に位置している。鉄骨の真上を、鎖が跨いでいる形になっているのだ。
 その鉄骨が、下から迫って来ている。それが意味するものをグールベレー隊員が理解し、咄嗟に棍棒を投げ捨てた瞬間――鎖と鉄骨が衝突し、凄まじい「反動」が両者に襲い掛かった。

「うごぉあぁああッ……!」
「ぬぁああぁあッ……!」

 鉄骨の上を跨ぐ形で鎖が引っ掛かり、落下していた両者の身体が急激に止められる。それにより、全ての運動エネルギーが一気にのし掛かって来たのである。
 あまりの衝撃に、ブロウスパルタンの左腕が鈍い音を立ててへし折れてしまった。その一方で、鎖が巻き付いていたグールベレー隊員の首にも強烈な力が加わっている。咄嗟に棍棒を捨て、両手で鎖を握っていたため、辛うじて首を折られずに済んでいるようだ。

「うぐっ、ふぅうッ……! へ、へへっ……なかなかやるじゃねぇか。少しは見直してやる必要がありそうだ……!」
「それは何よりだ。……俺達に降伏するなら、その鎖を切ってやっても構わんが?」
「ハッ、それには及ばねぇよ。俺のパワーと頑丈さを侮っちゃいけねぇぜ? こんな鎖、すぐに引きちぎってやるッ……!」

 並の幹部怪人なら、今の衝撃で首を折られて即死していただろう。だが、グールベレー隊員は辛うじてこの「反動」にも耐え、鎖を引きちぎって脱出しようとしていた。
 そんな彼が見せた千載一遇の「隙」を、ブロウスパルタンは見逃さない。左腕が折れた状態のまま、彼は仮面の下に隠された鋭い双眸で、倒すべき仇敵を射抜いている。

「……そういえば、先ほど貴様は言っていたな。どんな攻撃だろうが……受け止めてやると」
「なッ……!?」
「約束通り……ご期待に添える一撃をくれてやるぞッ!」

 折れた左腕の痛みなど、意にも介さず。彼は大きく身体を振り、右手に持っていた棍棒を勢いよく相手に投げ飛ばしていた。風を切る轟音と共に、超重量の棍棒がグールベレー隊員の顔面に迫る。

(不味い……! あの重量の棍棒を頭部に喰らうのはッ!)

 先ほどの衝撃から首を守るために棍棒を手放してしまった以上、得物で防ぐことは出来ない。宙吊りにされているこの体勢では、回避も間に合わない。そして――「下位互換」とはいえ、かなりの質量を持っているブロウスパルタンの棍棒で「急所」を打たれては、グールベレー隊員とてタダでは済まない。

 それらの「結論」を瞬時に弾き出したグールベレー隊員は、眼前に迫る危機を切り抜けることにのみ集中する。彼は咄嗟に鎖から手を離し、両手を突き出すのだった。

「ぐぉおッ!」
「……!」

 彼は渾身の力で、ブロウスパルタンが投げ付けた棍棒をキャッチしてしまったのである。「急所」を狙った必殺の一投を凌がれてしまい、ブロウスパルタンは今度こそ打つ手がなくなってしまう。

 そんな彼を嘲笑おうと、グールベレー隊員は口角を釣り上げる。だが、彼は致命的な過ちを犯していた。

「へへ……お望み受け止めてやったぜ? 得物を手放しちまった以上、あんたにはもうまともに戦う術ッ、もッ……!?」

 鎖から手を離したことで、その圧力は何の抵抗もなく首に集中していた。さらに、超重量の棍棒をキャッチしたことにより――その重さまでもが、首にのし掛かってしまったのだ。

「……がッ……!」

 次の瞬間、首の骨が砕けたことを意味する、鈍い音が上がる。驚愕の表情のまま事切れたグールベレー隊員の手から、ブロウスパルタンの棍棒が滑り落ちていた。
 グールベレー隊員は自らの意思で、自らの手で。自らの首を、へし折ってしまったのだ。彼が手放したブロウスパルタンの棍棒はそのまま落下し、ラムダマンの首の隣に真っ直ぐ突き刺さってしまう。

 その光景はさながら、この戦いに敗れたグールベレー隊員の墓標のようであった。その光景を見届けたブロウスパルタンは鎖を切り離し、地上に着地する。それと同時に、首を折られ即死したグールベレー隊員の死体も、地面にべしゃりと墜落していた。

「……術など要らんさ。貴様が死ぬ以上はな」

 その最期を見届けたブロウスパルタンは、仇敵の無惨な死に様を憐れみながらも、地面から棍棒を引き抜いて踵を返して行く。無辜の人々を傷付けるような悪鬼共には、墓標すら与えない。そんな非情さが、その所作に表れていた。

「屋島さんッ!」
「……無事だったか、大童。先ほどの一撃……見事だったぞ」
「はいっ、ありがとうございます! ……って、屋島さん!? その腕、一体どうしたんですか……!?」

 そこへ、戦いを終えたオウガスパルタンが駆け付けて来る。彼は頼れる兄貴分(ブロウスパルタン)の生還を喜んでいたが、へし折れた左腕を目にして心配げな声を漏らしていた。しかし、ブロウスパルタンは苦しむ様子ひとつ見せない。

「心配するな。この程度、何ともない」
「いや、何ともないわけないでしょう!? 完全にブチ折れてるじゃないですか! 後は俺や皆で何とかしますから、屋島さんは先に退却してください!」

 明らかに骨折している兄貴分の身を案じて、オウガスパルタンこと大童傳治は仮面を外し、素朴な素顔を露わにする。彼は懸命に退却を促しているのだが、当のブロウスパルタンは全く聞く耳を持たない。

「……ふんッ! よし……治った」
「え、えぇ……」

 そればかりか。その場で折れた左腕を掴み、苛烈な激痛も厭わず強引に整復してしまうのだった。ゴキリ、という嫌な音が響いたかと思えば、彼は何事もなかったかのように左腕を自在に動かしている。
 耐え難い激痛は間違いなく続いているはずなのだが、彼は全くその苦しみを表に出さない。下手な改造人間より遥かに怪物染みているその鉄人振りには、傳治もただただドン引きするしかなかった。

「さて……まだ部隊の皆も戦っているはずだ。直ちに加勢に向かうぞ!」
「……は、はいッ!」

 しかし、たじろいでいる場合ではないことも事実。ブロウスパルタンは建設現場の前に停めていた、サイドカー付きのスパルタンハリケーンに跨り、素早くエンジンを始動させる。そんな彼に続く形で、仮面を被り直した傳治ことオウガスパルタンも、慌ててサイドカーに乗り込んでいた。

 あまりに強力なパワーを持っているオウガスパルタンでは自分の車両(スパルタンハリケーン)を破壊しかねないため、移動時にはブロウスパルタンの側車付専用車(サイドカー)を利用する仕様となっているのだ。

「皆、無事でいてくれ……!」
「……大丈夫ですよ屋島さん、皆ならきっと……いいえ、絶対に負けません……!」

 2人を乗せた専用スパルタンハリケーンは爆音を上げ、建設現場から勢いよく走り去って行く。今この瞬間も、彼らが向かう先からは戦闘の轟音が鳴り響いていた――。
 
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