白い翼の剣士
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3話
「知らない天井だ」
目を覚ましてからそんなことをつぶやいた。
知らない部屋。
布団の中に居る自分がいることに驚きながら、昨日あったことを思いだそうとしていた。
そういえば昨日里から出て、師匠の家に転がり込んだんだった。確か、昨日は師匠がお風呂から出るのを待っていたような…
今布団に横になっているということは、あの時に寝てしまって、師匠が運んでくれたのだろう。
布団から体を起こして、目覚めたばかりの頭で考えをめぐらせる。
「寒い」
季節は冬。朝早くまだ外は暗みがかっている。
もう一眠りしよう。
そう思いまた布団にもぐることにしたが、
「刹那。朝やで!そろそろ起きな!」
そんな自らの起床を促す声が外から聞こえた。
もう起きないといけないわけか。
温かい布団が名残惜しいがしかたない。師匠を待たせるわけにもいかないし、なにより今日から朝は師匠が稽古をつけてくれることになっている。昨日師匠と話した通り、時間は限られているため無駄にはできない。
部屋を出るがもうそこに師匠の姿はなかった。もう居間に行ってしまったのだろう。
ウチも居間に行くと既に師匠が待っていた。師匠はもうすでに着替えていて道着を着ている。昨日とは違う格好をしているからだろうか、師匠の周りの空気が昨日よりぴしっと張りつめているように感じる。そのせいだろうか少しばかり緊張感を感じた。
とりあえず、朝のあいさつをする。
「おはようございます」
「おはよう」
「今から稽古ですか?」
「そうしようと思うんやけど、これ道着や。とりあえず着替えな」
そう言い師匠に服を渡された。これに着替えろということだろう。
「それはウチが、子供の時に使ってた道着や。サイズは合うかわからんけど、大丈夫やろ。さすがに普段着でやらせるわけにもいかんしな。じゃあ、ウチは道場で待ってるから急ぎなよ」
「わかりました」
そう言って師匠は居間を出て行った。
早く着替えて道場に行かないと。あんまり師匠を待たせるわけにもいかない。それに時間は限られている。師匠が何時に家を出るのかはわからないが朝ごはんも食べないといけないし着替える時間も必要だろう。そう考えると着替えに時間をかけている場合ではない。
ん?ちょっと待てよ。道場?あれウチ道場の場所知らんし。
あー。これはちょっとまずいかも。
「はぁ、とりあえず着替えよ」
ため息を1つしてからまず順番にやるべきことを片付けることにした。ま、昨日屋敷の中をまわってみたからだいたいはわかるし、どうにかなるやろ。だから、今は着替えをさっさと終わらせんとなんもできん。
着替えようと道着を広げてみるが、
「師匠~。これってどうやって着るんですか~」
道着の着方もよくわからなかった。
「今日はここまでやな」
「はぁはぁ、はい。ありがとうございます」
あの後、なかなか道場に姿を見せないウチの様子を見に来た師匠に道着の着方を教えてもらい道場まで案内してもらった。なんでも師匠は弟子をとるのは初めてらしくまだ勝手がわからないらしい。師匠自身、子供のころから剣道をやっていたらしくまさか道着の着方がわからないとは思わなかったとか。
一人でも道着が着れるようにと何度か練習しているうちに大分時間が経ってしまい、今日の稽古は礼と素振りだけで終わってしまった。
それだけでも新しいことはたくさん教わった。まだ上手く素振りが出来るわけではないがこれから練習していこうと思う。初めてのことだったせいもあるだろうが、大した数やっていないのにすぐに息が上がってしまった。
「それじゃあ、刹那はシャワーでも浴びてきな。昨日も結局お風呂には入れんかったしな。その間に朝ご飯作っとくわ」
そう言うなり、師匠はウチを風呂場まで案内するとタオルと着替えを押しつけて台所に行ってしまった。
手伝いでもした方が良いのではないかとも思ったが、冬とはいえなれない稽古で汗をかいてしまっているし、ましてや昨日お風呂に入っていない身としては汗を流したいと思っていた。そのため、ここは師匠の言葉に甘えることにした。
明日からはご飯の支度を手伝おう。シャワーは師匠が仕事に行ってから浴びさせてもらうえばええ。
先ほど何度も着たり脱いだりを繰り返した道着を脱ぎ、脱衣所から風呂場へと入っていく。
蛇口をひねりシャワーを浴びながら考える。
今日は短い稽古ではあったがわかったことがいくつかあった。短い時間しかやっていないからとはいえ素振りは上手く出来ているとは言い難い。なによりも竹刀が重い。最初は大して気にならない程度の重さしかないが、素振りを続けていくうちにどんどん重く感じるようになる。最後のほうでは竹刀を振ることがやっとの状態になってしまっていた。剣士がまともに剣も振れないのは大問題だ。筋力をつけなければならない。それに、今日は短い時間素振りしかしていないのに息が大分上がってしまった。稽古を長い時間続けるためにも体力が必要になってくる。
まだまだ至らない点ばかりだ。
そんなことを思いながらシャワーから落ちてくる水滴を見つめていた。
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