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白い翼の剣士

作者:ウタマル
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2話

「着いたで。ようこそ青山家へ」

そう言って師匠は家の門をくぐっていった。

っていうか門って…
師匠の家は立派な門構えの武家屋敷やった。
話によるとこの中に道場もあるらしい。
現在青山家に住んでいる人は師匠だけらしく、ここに着くまでに確かに一人で住むには広すぎると言ってはいたが、まさかこんなに広いとは…
自分なんかがこんなところに住んでもいいのだろうか。


「なにやってんや。早く入んな!」

門の前で呆けていると中から師匠が声をかけてきた。
確かにここで立っていてもどうしようもないので言われるがまま、門を通って中に入る。すでに師匠の姿はなかった。もう家の中に入ったのだろう。
周りを確認しながら、玄関の戸を開けて青山家に入る。

「おじゃまします」

そう言って中に入ると玄関では師匠が待っていて、

「刹那。おじゃましますやないやろ!」

「?それではなんと言えばいいんですか?」

何か間違えたのだろうか。そんなことはないはず。
よくわからないと首をかしげると師匠はため息をもらした。

「はぁ~。刹那。あんたは今日からここに住むんや。帰って来た時はただいまやろ」

「---」

すぐに言葉がでなかった。そんなこと言われるなんて想像もしてなかった。

師匠はウチが思っている以上にウチのことを考えていてくれているみたいだ。
…ならウチもそれに応えんといかんな。


「…た、ただいま」

「うん。おかえり」


照れくさくて師匠をまっすぐ見ることができずなかったが、師匠は笑顔で返してくれた。
「おかえり」なんて両親が亡くなってから言われたことなんてなかった。
そう言われるとこんなウチでも、弱くて、まっとうな人間でもないウチでもここにいていいんだ、ここに帰ってきてもいいんだと言われているようでうれしくて泣きそうになってしまった。
他人にとっては些細なことかもしれへんけど、ウチにとっては涙があふれてきてしまうようなことだった。

師匠はそんなウチのことを知ってか知らずか何も言わずに頭を撫でてくれた。


ぐ~

静寂を壊すようにどこからか突然そんな音がした。
音の発信源はわかってるんやけどな。当然ウチのおなかから…
顔を真っ赤にしながら俯いたままのウチに師匠は声をかけた。

「あ~。そういえばもういい時間やな。ご飯作らんとな」

こんなによくしてもらったのにご飯まで催促したみたいになってしまった。
そんなことを気にしていたが、師匠は大して気にも留めていないのか笑いながらウチを見た後に向きを変え家の中に入っていく。

「それじゃ、居間でテレビでも見ながら待っててな。ちゃちゃと作ってくるわ」

そう言った師匠は居間まで案内してくれて自分は台所に消えていった。
ご飯のくだりでは師匠って料理できるのか疑問やったけどそれは口に出さないでおく。
何をされるかわからんからな。
ま、出前とか外食という手段があるのに自分から作る言ってたから大丈夫やろ。


………本当に大丈夫かな?





結果的に言えば大丈夫だった。
むしろおいしかった。
おいしいと驚きながらつぶやいた時には「もしかして料理できへんと思ってたんか?」と言われて言葉に詰まってしまった。そこは笑って許してくれたけど。




今は食後でテレビを見ながらお茶を飲んでる。
師匠は台所で片付けをしている。手伝おうとしたが「今日は疲れてるやろ?休んでな。お手伝いなら明日から頼むわ」と断られてしまったためおとなしくテレビを見ていた。

すると、片付けが終わったのか師匠が台所から戻ってきた。ウチの正面に座ると自分の分のお茶をいれて話をもちだした。

「刹那。それじゃ、明日からどうするかきめようか」

「?明日からですか?」

言っていることがよくわからなかった。ウチは師匠に剣を習いに来たわけだから稽古をつけてくれるのではないのだろうか?

「あのなぁ、さすがにウチにも仕事があるんや。一日中家におるわけやないで」

言われて気づいた。そっか師匠にも仕事があるんや。となると、師匠が仕事に行っている間はウチ一人になるわけか。

「朝仕事に出かけて帰ってくるのは夕方以降になると思う。その間刹那は家で一人になってしまうということや。だからひとまず面倒見てくれそうな人に連絡するからその間はそこで「いい!そんなことしてくれへんでもええ!一人でも大丈夫や!」

「でも、まだ刹那小さいやろ?ほんと大丈夫か?」

「大丈夫。一人でも大丈夫だから」

師匠の提案を途中で遮って拒んだ。師匠がウチのこと考えてくれての提案だというのはわかる。けど、知らない人と一緒に過ごすなんて考えたくなかった。
なによりも怖い。師匠はウチのこと知っててそれでも一緒にいてくれると言ったけど、誰しもがそういうわけではないと思う。みんなが受け入れてくれるなら、ウチは里であんな目にもあわんかったやろうし。それにここは人間の住む町や。ウチみたいな化け物がいてはいけない場所…。ばれたら問題になることは火を見るよりも明らか。そうなったら師匠に迷惑をかけてしまうし、おそらく引き離される。そしたらまた昨日までの生活に逆戻りや。

そんなのは嫌だった。それなら一人で師匠の帰りを待っていたほうがずっといい。なにより一人でいることには慣れてるから。


「…わかった。そこまで言うなら連絡はしないでおく。けど、もしなにかあったらその時は誰かのお世話になってもらうからな。それでええか?」

「うん。それでええ」

師匠は心配そうな顔をしていたけど折れてくれた。まだウチは小さい子供やから家に一人でいさせたくないのは当然だと思う。でも、ウチにとってはそっちの方が楽なんや。師匠すいません。

「そっか。ほなそういうことで。次は稽古のことや。今言ったけどウチは昼間は仕事やから面倒みれん。だから、稽古は早朝とウチが帰ってきてからやろうと思う。それでええか?」

「うん。それしか時間ないからしかたないやん」

本当はもっと長く稽古つけて欲しかったけどしかたない。さっきもわがまま言ってしまったし、これ以上師匠に迷惑をかけるわけにはいかんからな。それに昼間は一人やから暇やろうしな。その時にでも鍛錬すればええ。

「とりあえずはこれくらいやな。後の細かいことはその都度決めてけばええやろ。そうやった、刹那の部屋が必要やな。ま、空き部屋ならいくらでもあるから好きなとこ選べばええよ。荷物運んどいてくれれば布団はウチがもってくから」

「部屋はどこでもいいですよ」

「そっか。なら、急がんでもええか。っと、それじゃ先お風呂入らせてもらおうかな」

もう話すことはなくなったようで、師匠はお風呂に入りに行ってしまった。師匠がでたらウチも入らせてもらおう。そんなことを考えながら自分の部屋の候補探しのために居間を出た。部屋はいくつもあったが半分ほどしか使われていなかった。いくつか目星をつけながら屋敷の中を歩いていると中庭を見つけた。まだ師匠がお風呂からでるまで時間があるだろう。
縁側に座って中庭をながめてみるが月明かりだけではよくわからなかった。中庭は明日にでもじっくり見ることにしよう。


ふと、見上げると綺麗に月が見える。満月というには少し欠けている。そんな月だった。周りには星がいくつか輝いている。

…里の方が星が綺麗だったな。

そんな、良い思い出などほとんどない里のことを思い出す。もうあの里には二度と帰らないだろう。そう思うと、嫌なことや辛いことばかりだった場所なのに急にさびしくなる。思い出すのは楽しかったことばかり。もういない両親と過ごした場所…



いや、そんな思いでに浸っていてもどうしようもない。自分を変えるために、強くなるために里を出て師匠についていくことを決めたのだから。

明日から師匠が稽古をつけてくれる。剣なんて使ったこともなければ持ったこともない。上手く扱える自信なんてなにもないけど、それでも強くなるために頑張っていこう、そう思う。だって、ウチにはもう、帰る場所はないのだから…



Side 鶴子

「刹那。出たえ~。次早く入りな」

髪をタオルで拭きながら居間に戻って来たのだが、居間には刹那の姿がなかった。

「あの子どこいったんや?早く入らんと冷めてまうのに…。はぁ、探しに行くか。迷子になってるかもしれへんしな」

初めてきた場所。まだ小さい刹那に、決して狭くはないの家。そのため部屋を探しに行って帰ってこれなくなってしまった可能性は十分ありうる。一つ溜息をついてから刹那を探すために居間を出た。






結果としてはすぐに刹那を見つけることはできた。
刹那は縁側に座り柱にもたれかかって寝ていた。

これはお風呂には入れられんな。ま、今日はいろいろと大変やったやろうし、疲れてるんやろ。

そう思い、適当な部屋に布団をひいて刹那を起こさないように寝かした。

まるで子供ができたみたいやな。…まだウチ結婚もしてへんのに………
明日からは刹那に稽古をつけることになったわけやし、なにやるかも考えんとな。
明日から忙しくなりそうや。





 
 

 
後書き
この刹那4才という設定です。
刹那は誕生日が1月なので今保育園でいうと年中にあたります。
いや、大人びすぎでしょって言うのは勘弁してください。
作者の力量では表現に限界が… 
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