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歌舞伎町の夫婦

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第二章

 旭は両親の下で育ち高校を卒業すると料理の専門学校に通いつつ店の手伝いを本格的にする様になった。その中で。
 ふと店に入った若い客達のうちの一人と顔を見合わせてお互いあっとなった、そうして店の奥にいた両親にこっそりと話した。
「昔俺に歌舞伎町の店だからって」
「変な店かってか」
「言ってた子が来たの」
「それで普通の居酒屋だって言い返した多けどな」
 その時はというのだ。
「本当かとか笑ってたんだけどな」
「その子と会ったか」
「そうだったのね」
「大学に進学したって聞いてたけどな」
「それなら普通に来るだろ」
「二十歳から飲めるしね。あんたの同級生だったら」
「ああ、同級生だよ」 
 旭はその通りだと答えた。
「二十歳でな」
「それじゃあ飲めるしな」
「うちに来ても不思議じゃないわよ」
「それで歌舞伎町にも来るだろ」
「東京にいたらね」
「そうだよな、考えたら」 
 東京にある日本一の繁華街だ、東京にいて酒を飲むかカラオケが好きか風俗が好きなら一度は食る場所だ。
「来る可能性はあるな」
「そうだろ、だから会ってもな」
「不思議じゃないわよ」
「そしてお客さんだ、今は」
「ならわかるわね」
「ああ、お客さんんとして接するよ」 
 両親の言いたいことはわかった、それでだった。
 店に戻ってかつて自分に言った同級生と普通に店員として接した、注文を聞いてその酒と料理を持って来てだった。
 その上で他の客達とも接客し料理を作り酒も出した、そしてその彼と一緒にいる彼の友人達の勘定もしたが。
 彼は旭にだ、勘定の後で言った。
「あの時は変な店じゃないかって言って悪かったな」
「いいさ、これでわかったろ」
「いいお店だな、それでな」
 カウンターの中で働く旭の両親も見て話した。
「いい親御さん達だな」
「そう言ってくれるか」
「ああ、酒も料理もよかったしな」
 このこともあってというのだ。
「また来たいけれどいいか?」
「またの来店をお待ちしています」
 旭はこの時は店員として明るく応えた、そうしてだった。
 彼と笑顔で別れた、そして両親に閉店後彼と話したことを伝えると両親は笑顔で息子に言ったのだった。
「そう言われると恥ずかしいな」
「働いているだけだからね」
「真面目に働いてるのがいいみたいだな」 
「そうか、それじゃあな」
「これからも働いていくよ」
 両親は笑顔で頷いた、そして実際に働いていって息子に跡を継がせた。跡を継いだ彼はいつも両親の様にと思い働くのだった。


歌舞伎町の夫婦   完


                  2024・1・17 
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