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歌舞伎町の夫婦

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第一章

                歌舞伎町の夫婦
 新宿歌舞伎町は日本一の繁華街であり様々な店がある、その中の一店に昔ながらの居酒屋があるが。
 その店は夫婦でやっている、野村健と妻の久美子は毎日夜はそこで汗を流して日々の糧を手にしていた。 
 二人共四十代でいつも動きやすい服装である、健は長方形の顔で小さな目と大きな口と太い眉を持っていて背は一七五程で痩せているが腹は出ている。久美子は茶色にした髪の毛を後ろで束ね大きな切れ長の目と薄いカーブを描いた眉に小さな赤い唇と大きな耳を持っている。背は一六五位ですらりとしている。
 その夫婦にだ、店の二階の自宅で高校生の息子の旭父の顔の形と口に母の目と眉に耳を受け継いだ背の高い痩せた彼はある日夕食の時に両親に言った。
「俺また言われたよ」
「店と家が歌舞伎町にあるからか」
「それでよね」
「いやらしい店やってるのかってな」
 おかずの豚カツにソースをかけたものを食べつつ言った、おかずは他には野菜の漬けものとトマトスライスだ。どれも店のものである。
「言われたよ」
「そりゃそんな店もあるさ」
 父は何でもないといった口調で茶色の髪をショートにしている息子に言った。
「ここはな」
「色々なお店があるところだし」
 母も言った。
「そんなお店もあるわよ」
「それもかなりな」
「裏通りは危ないし」
「やばい店もあるさ」
「だから言われたよ、けれどうちはな」
 息子も言った。
「普通の居酒屋だしな」
「ああ、ここに昔からあるな」
「そうしたお店よ」
「だからそれ言ったよ、居酒屋の何処が悪いんだってな」 
 息子も言った。
「悪いことなんてしてないってな」
「それでいいんだ」
「居酒屋は立派な仕事だからね」
 夫婦で息子にその通りと答えた。
「あんたうちの店継ぐしね」
「将来はここの店長だぞ」
「だから胸を張ってよ」
「仕事するんだぞ」
「ああ、しかもうちこれでお客さん多くてな」 
 夜の歌舞伎町は人が絶えない、昔ながらのこの店は料理も酒もサービスもよくそしてその昔ながらの雰囲気が評判でいつもその人の絶えない中で繁盛しているのだ。
「儲けてるしな」
「それなら何が問題だ」
「悪いことしてなくて儲かってるからね」
「だから気にするなよ」
「そんなこと言われてもね」
「ああ、俺も将来はな」 
 豚カツをおかずに白いご飯を食べつつ答えた。
「この店継いで頑張るな」
「そうしろよ」
「色々仕込んでいくからね」
 夫婦で息子に告げた、そうしてだった。 
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