栄光の架橋
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第四章
そうして九回を待った、その九回表だ。
「ピッチャー岩崎」
「よし、来た!」
俵はストッパー岩崎優の名を聞いて会心の声を出した。
「これで後はや」
「岩崎さんが抑えるだけね」
「それでや」
「阪神優勝ね」
「その時が来たんや、そういえば」
ここで俵は岩崎のあることを思い出して言った。
「岩崎投手横田選手の同期やったな」
「そうだったわね」
妻も言われて頷いた。
「岩崎さんは大卒でね」
「横田選手は高卒でな」
「弟さんみたいに可愛がっていたそうね」
「そうらしいな」
「その横田さんの想いも胸に」
「今から投げるな」
「そうよね」
夫婦でこうした話をした、この時まで二人も他の誰もが岩崎はそのまま出て来ると思った。だがそれは違った。
「あれっ、この曲は」
「岩崎の登場曲とちゃうぞ」
「何やこの曲」
「待て、この曲って」
阪神を愛する者達はすぐに気付いた。
「栄光の架橋やないか」
「横田の曲やないか」
「そうか、岩崎横田の想い背負って投げるか」
「天国の横田の為に」
「横田に優勝見せるんや」
「ヨコ、見てるか」
実際に岩崎はマウンドに向かいながら言った。
「これから優勝する、わしが抑えてお前に優勝贈るわ」
「な、何ちゅうことするねん」
これにはネットの向こうの俵も驚いて言った。
「ここでこの曲流すなんて」
「岩崎さんが頼んだみたいね」
「今日の為にな」
「横田さんに優勝を届ける為に」
「同期やったな」
「そうよね」
「頼むわ」
俵は今祈る様にして言った。
「ほんまな」
「ここはね」
「?今度は」
俵は甲子園が変わったことに気付いた、何とだ。
球場全体が歌いだした、その栄光の架橋を。
「わし等も歌うんや!」
「横田聴いてくれ!」
「阪神今から優勝するで!」
「優勝見るんや!」
こう言って合唱した、満員の甲子園の観客達が栄光の架橋を歌い。
岩崎はマウンドに立った、横田そして甲子園の観客達全ての阪神を愛する者達の想いを背負ったピッチングはぶれることなく。
巨人打線を抑えた、そしてだった。
「やった、優勝や!」
「やったわね!」
俵も妻も喜んだ、夫婦は阪神の歓喜の渦を観つつシャンパンで乾杯し。
そのうえで胴上げを観た、まずは監督の岡田が胴上げされ。
次にストッパーの岩崎となったが。
「見て、岩崎さんの手に」
「阪神のユニフォームあるな」
「二十四って」
「横田の背番号や」
「そうよね」
「ほんまな」
俵は満面の笑顔で話した。
「岩崎投手はな」
「横田さんに優勝見せたのね」
「阪神のな」
「そうよね」
「栄光の架橋かけて」
そうしてというのだ。
「横田選手の想い背負ってな」
「投げてくれて」
「優勝決めてくれたんや」
「そうよね」
「これ以上はない」
そう言うべきというのだ。
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