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遊戯王EXA - elysion cross anothers -

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TRICLE STARGAZER
  TRSG-JP008《このアド絶対おかしいよ》

 
前書き
 ドーモ、ドクシャ=サン。月詠クレスです。……とまあ、冗談はこれぐらいにして。

 本作品のデュエル、残り2戦となることが確定しました。
 というのも、次章のテロップが上手く纏まらず、加えて執筆時間の減少からモチベーションの低下に繋がり始めています。………ごめんなさい冗談です。テロップが纏まらないのは本当ですが。執筆時間の件も本当ですが。モチベは大丈夫です。

 一番の大きな理由としては、カードプールの不足が挙げられます。
 沙耶達の転移した時間は7月6日。つまり、水精鱗のパックがまだ出てない時期です。水精鱗のことを彼らがオリカと揶揄したのはそのためです。ソンブレスがいないのはきついです。

 というわけで、一度この作品は完結に向かいます。それから次章に進むかどうかを考えます。ご理解のほど、どうかよろしくお願いします。 

 
 蓮に二人を任せ、私と黒乃は二つの死体を抱えて合流地点であるアイシア宅に向かっていた。向かっていた……うん、そこまでは良かった。

「……しまった」
「沙耶?」
「黒乃、ごめん。家の鍵のこと考えてなかった」
「おい!?」

 私達がアイシアの家に到着し、そこで初めて気づいた。中庭にこそ出られるものの、窓の鍵を閉め忘れているわけでもなし。入れないことが確定的に明らかとなった瞬間であった。

「沙耶、クレナが持ってたりしないか? あいつはいつもアイシアと暮らしてたんだよな?」
「死体から使えるものを剥ぎ取れと?」
「死んでねえよ! ちゃんと回復魔法は成功してるからな!?」

 望月黒乃の受け取った転生特典(アンコールアビリティ)、それは『"魔導書"の実体化及び使用』。夜神を《ネクロの魔導書》で蘇生するわ、クレナを《ヒュグロの魔導書》で回復させるわ……わけがわからないよ。

転生特典(アンコールアビリティ)とかお前絶対反則だろ……汚いな流石転生者きたない」
「俺達転生者にとっては死んでないお前達の方が羨ましいけどな」
「……そう思ってるの、多分あんただけよ」
「……まじで?」
「ええ」

 こいつ、やっぱり私の知ってる転生者像となんか違う。「俺はなんで死んでいるんだ(棒読み)」とかじゃない、そんな気がした。
 とりあえず中庭に移動して、死体二つを運び込む。うん、一軒家ならどこにでもあるような普通の中庭よね。蓮とゆみなが昨日デュエルしてたここは、案の定というか、私達の世界でも普通に見られる光景だった。

「で、クレナはどうだったんだ?」
「……家の鍵どころか、デッキも何も持ってなかったわ」
「デッキも……って、何があったんだよ」
「知らないわよ。少なくとも、レベル5以上の通常モンスター40枚の組み合わせはデッキと呼ばないと思うけど」
「……ああ、それはデッキじゃねえな」
「でしょ?」

 クレナのデッキ構築に違和感を感じつつ、死体を物干し竿に掛けておく。

「……そうだ、沙耶」

 夜神の死体を横たわらせた黒乃が声をかけてきた。

「俺と……って、お前何やってんだよ!」
「死体を干してるだけよ」
「だから死んでねえよ! てか下ろせ! 人を布団みたいに扱ってんじゃねえ!」

 黒乃に指摘され、ちょうど干し終わっていたクレナを下ろす。それを夜神の隣に寝かし、私は黒乃に向き直った。

「で、用件は?」
「ああ、そうだった。俺とデュエルしてくれないか? お前達の世界の遊戯王がどんな感じなのか知りたいんだ」
「ああ、いいわよ。どうせしばらくは暇だろうし」

 待っている時間も長そうだしね。首に掛けたペンダントを手に取り、水晶盤をイメージしながら起動を宣言する。

決闘展装(Duel-Transer)起動(ACTION)

 私が言葉を発したと同時に、黄色い水晶が砕け散る。光と共に現れたのは、イメージした通りの水晶盤二枚。

「それすげえな……」
「……やっぱりそう思う?」

 否定はしない。この技術レベルまで行くと、逆に謙遜など許されないだろう。
 黒乃がデュエルディスクを構えると同時に、私の横に浮遊しているスクリーンに情報が開示された。


―――― Turn.0 Are you ready? ――――

1st/Kurono Mochizuki
◇LP/4000 HAND/5
◇set card/mo-0,ma-0

2nd/Saya Amakawa
◇LP/4000 HAND/5
◇set card/mo-0,ma-0


「さてと。御託はなしにして、さっさと始めましょうか!」
「ああ。よろしく頼む!」

「「デュエル!」」


Turn.1 Player/Kurono Mochizuki
 1st/Kurono Mochizuki
  LP/4000 HAND/5→6
 2nd/Saya Amakawa
  LP/4000 HAND/5


「俺の先攻だな。ドロー!」

 さっきまで蓮と共闘していた男、望月黒乃。その能力からして、彼のデッキは【魔導書(ジュノンビート)】と考えていいでしょうね。

「来たぜ! 手札から速攻魔法《魔導書の神判》を発動!」

 黒乃の頭上に突如として色鮮やかな物体が出現した。虹色の光を放つそれは、神秘的である反面なにか恐ろしさを内に宿しているような気がした。

「で、これの効果は?」
「こいつの効果が発動するのはエンドフェイズだ。発動した時点では何も起こらない」
「あ、そう……」

 うわ、余計に嫌な予感がする。

「そして、手札から永続魔法《魔導書殿エトワール》を発動!」

 またか。またオリカなのか。

「《魔導書殿エトワール》は、俺が"魔導書"と名のついた魔法カードを発動する度に魔力カウンターを乗せていく永続魔法。そして、このカードに乗っている魔力カウンター1つにつき、俺のフィールドにいる魔法使い族モンスターの攻撃力を100ポイントアップさせる!」

 うわ、面倒な……え、じゃあ《魔導法士 ジュノン》の打点が《セイクリッド・プレアデス》の2500を確実に上回ってくるってこと?

「さらに《グリモの魔導書》を発動! デッキから《()()()士 バテル》を手札に加え、召喚!」

 あ、やっと知ってるカード。オリカ混ぜまくっても、案の定というかこの2枚は鉄板のようね。

 魔導書殿エトワール
 M0→1

 魔導書士 バテル
 ☆2 ATK/500→600

 彼の場に現れたのは、青い法衣を纏った少年。「∞」の紋様が施された帽子をかぶっている。そういえば、タロットのThe Magicianも頭の上に同じ模様が描いてあったわね。

「《魔導書士 バテル》が召喚に成功したとき、デッキから"魔導書"と名のついた魔法カードを手札に加えることが出来る!」

 でしょうね。《魔導書士 バテル》の効果の発動タイミングは召喚時とリバース時。どっちも扱いやすくて困る。すかさず私は手札から一枚のカードを取りだした。

「申し訳ないがサーチはNG。手札から《エフェクト・ヴェーラー》の効果を発動させてもらうわ」
「なっ!?」

 《エフェクト・ヴェーラー》。手札から墓地に送ることで相手モンスターの効果をエンドフェイズまで無効にする効果を持っている効果モンスター。
 発動タイミングが相手メインフェイズのみという欠点こそあるものの、手札からのモンスター効果であるが故に相手に突破されにくい。また、相手の先攻第1ターンから発動できるというのは他のカードには存在しない大きな利点だ。

「させるか! 手札から速攻魔法《ゲーテの魔導書》を発動!墓地に存在する《魔導書の神判》と《グリモの魔導書》をゲームから除外し二つ目の効果を宣言! 《魔導書士 バテル》を裏側守備表示に変更!」
「……え、まじで?」
「ああ。これにより《エフェクト・ヴェーラー》が不発に終わり、"バテル"の効果は無効ににならなくなる!」

 術士の周りを金色の結界が包み込む。私も知らないうちに近づいていた緑髪の少女(エフェクト・ヴェーラー)が障壁に弾き飛ばされる。

 魔導書殿エトワール
 M1→2

 ……ちなみに、"ヴェーラー"だけでなく他の効果無効系カードの大半は《月の書》とかに突破される。さすがにこれはどうしようもないわ。

「"魔導書"2枚を除外して《月の書》……ま、どうせそれだけじゃないんでしょ?」
「まあな、効果はあと2つある。……と、"バテル"の効果で《魔導書院ラメイソン》を手札に加えるぜ」

 あと2つ……1枚除外と3枚除外かしら。あるいは4枚と6枚とか。

「そして、今加えたフィールド魔法《魔導書院ラメイソン》を発動!」

 フィールドにそびえ立った、未来都市の建造物……よね、どう見ても。明らかに魔術じゃなくて科学って感じね。

 魔導書殿エトワール
 M2→3

 てか、これフィールド魔法か。これの相方する羽目になるなんて……蓮、本当に苦労したんでしょうね。

「最後にカードを2枚セット。そして、ターンエンド前に《魔導書の神判》が発動!」

 あ、そうそう。それを忘れてたわ。
 虹色のモーメントから発せられた光が、黒乃へと降り注ぐ。


「"神判"の発動以降に発動した魔法カードの数だけ、デッキから"魔導書"を手札に加えるぜ!」


 ………はぁ!?

「発動したカードは"エトワール""グリモ""ゲーテ""ラメイソン"の計4枚、よって、デッキからサーチできる"魔導書"は4枚!」
「インチキ効果もいい加減にしなさい!」
「文句はカードつくった奴に言ってくれ! とにかく"神判"の効果で"ゲーテ""ヒュグロ""アルマ""セフェル"の4枚を加える!」

 おかしいでしょ!? 手札使いきったはずなのに、どうしてそうなるのよ!?

「さらに、この効果で手札に加えた枚数以下のレベルを持つ魔法使い族モンスターを特殊召喚する!」
「ファッ!?」
「デッキからレベル3《魔導教士 システィ》を特殊召喚!」

 まだ来るか! なによこのアド差は!?

 魔導教士 システィ
 ☆3 ATK/1600→1900

「そして、俺が"魔導書"を発動した場合、ターンのエンドフェイズ時に《魔導教士 システィ》の効果が発動! "システィ"をゲームから除外することでデッキから《魔導法士 ジュノン》と《魔導書の神判》を手札に加える!」
「好きにしなさいよ、もう………!」

 ねえ、これサレンダーしていいわよね? したって誰も文句言わないわよね!?

「これでターンエンドだ……沙耶?」
「……ああ、うん。私のターンね………?」


―――― Turn.1 End Phase ――――

1st/Kurono Mochizuki
◇LP/4000 HAND/6
◇《魔導書殿エトワール》Continuous/M3
◇《魔導書院ラメイソン》Field
◇set card/mo-1,ma-2

2nd/Saya Amakawa
◇LP/4000 HAND/4
◇set card/mo-0,ma-0


 あえて言おう、これは酷い。あそこまで回しておいてこの手札枚数である。とくにあの《魔導書の神判》……だったわね、あれが壊れすぎてる。どうせ手札合わせのために二次創作の作者が作った壊れオリカの類いなんでしょうけど。

「……はあ。私のターン、ドロー」

 まったく、どうしろってのよ……。


Turn.2 Player/Saya Amakawa
 1st/Kurono Mochizuki
  LP/4000 HAND/6
 2nd/Saya Amakawa
  LP/4000 HAND/4→5


「……あ」

 ちょっと待って? これ引いちゃった?

「これを、こうして……うん、これを撃ち込めば………!」

 そうか、相手の手札に"ヴェーラー"がいないことは確定的に明らかなんだ。
 そして、トップドローは《大嵐》! これは前言撤回する必要がありそうね―――!

「手札から《大嵐》を発動するわ!」
「なんだと!?」

 破滅の風が吹き荒ぶ。天へとそびえる棟を砕き、地を照らす水晶を削り。後には何も残らない、セットされたモンスターを除いては。

「破壊されたこの瞬間、《魔導書院 ラメイソン》と《魔導書殿 エトワール》のもう一つの効果が発動!」

 ……ですよねー。そんな予感してたわ。

「"ラメイソン"の効果は、墓地に眠る"魔導書"の数以下のレベルを持つ魔法使い族モンスターを手札かデッキから特殊召喚する効果。"エトワール"の効果は、破壊された時点で乗っていた魔力カウンターの数以下のレベルを持つ魔法使い族モンスターをデッキから手札に加える効果だ」

 だから、アドがおかしいでしょうが……!

「まず"ラメイソン"から処理するぜ。墓地の魔導書は"ゲーテ""ラメイソン""エトワール"、そしてセットされていた"トーラ"の計4枚、よってレベル上限は4。デッキからレベル3の《魔導召喚士 テンペル》を守備表示で特殊召喚。後は"エトワール"の方だな、乗っていた魔力カウンターは3……レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》を手札に加えておくか」

 ……しくじった。《魔導書殿エトワール》はサーチ効果だったのか。"ヴェーラー"持ってこられたのがすごく痛い。

「……仕方ないか。手札から《フォトン・スラッシャー》を特殊召喚するわ」

 安定の"奈落"チェッカー。相手の場にセットがなくてチェッカーにならないことがあるのは御愛嬌。
 こいつ、結構な割合で初手に来るのはなんでだろう。1枚しか積んでないのに。

「《セイクリッド・ポルクス》を召喚!」
「【セイクリッド】だと……!?」
「Exactry.当然、続けて《セイクリッド・カウスト》を召喚するわ!」

 私の場に描かれたのは双子座と射手座の紋章。それぞれに宿る光の騎士が姿を現した。

 セイクリッド・ポルクス
 ☆4 ATK/1700

 セイクリッド・カウスト
 ☆4 ATK/1800

「いやちょっと待て! この世界に"セイクリッド"のエクシーズはまだ存在してねえぞ!」
「……あ、やっぱり?」
「やっぱりって……まさか!?」
「うん、ごめん。"オメガ"と"プレアデス"と"トレミス"はもう出しちゃった」

 ……クレナ、実はあんた起きてるでしょう。絶対寝たふりしてこの会話聞いてるわよね?
 黒乃が色々と諦めたように溜め息をついた。そして、私に……

「………終わった」

 ……私にそう、言い放った。

「終わったって……何が?」
「【セイクリッド】って……遊戯王ELYSIONのラスボスなんだよ………!」
「…………マジで!?」

 それって、もしかしなくても相当やばいわよね!? なんでこういう大事なことを黙ってたのよ、あいつは……!!

「……お前、まさか原作見ないでこっちに来たパターンか?」
「ええ、そうなるわ。そもそもELYSIONなんて原作、私達の世界にはなかったから」
「あ、そういう……。とにかく、これ以上この世界で"セイクリッド"のエクシーズは使わないでくれ」
「わかったわ……《セイクリッド・カウスト》の効果発動! "カウスト"のレベルを1上げて5にするわ!」
「話聞いてたか!?」

 聞いてるわよ、失礼ね。それに、だったら()()()を出せばいいわけでしょ?

「もう一回"カウスト"効果! "ポルクス"のレベルを1上げる!」
「言ってるそばから"プレアデス"を狙うんじゃねえ! 手札から《エフェクト・ヴェーラー》をチェーンだ!」

 放たれた二つ目の矢は、しかし透明な布に軌道をずらされ、あらぬ方向へと落ちていった。

「……いや、"ティラス"出すつもりだったんだけど」
「紛らわしいことするなよ……」
「てかさ、ここで撃っちゃってよかったの?」
「……え?」


()()()レベル4」


「………あ。」
「《フォトン・スラッシャー》《セイクリッド・ポルクス》の2体をオーバーレイ!」


 (われ)(きざ)みしは(せい)なる(つるぎ)()しき(むくろ)への(さば)きの(ひかり)

 現世(うつしよ)()ける機甲(きこう)(かげ)よ、宵闇(よいやみ)()いて(あく)()て!

    ☆4×☆4=★4

 エクシーズ召喚(しょうかん)殲滅(せんめつ)せよ、紫電(しでん)剣閃(けんせん)


「《機甲忍者ブレード・ハート》、光臨!」

 紫色の甲冑を纏い、しかし軽やかに両手で刀を構えた忍。間違ってもユニーク=ジツとかは使わないはず。

 機甲忍者ブレード・ハート
 ★4/2 ATK/2200

「《機甲忍者ブレード・ハート》の効果発動! エクシーズ素材を一つ取り除き、このターン中の2回攻撃を可能にするわ!」

 戦士族レベル4を2体要求するエクシーズモンスターに、《H-C エクスカリバー》がいる。あっちは単発火力4000を相手ターン中まで維持できるけど、今みたいに手数が欲しいときはこっちの《機甲忍者ブレード・ハート》が優先される。

「バトルフェイズ! 《セイクリッド・カウスト》で裏側表示の《魔導書士 バテル》を攻撃!」

 カウストが金色の矢を構え、放つ。青い法衣を貫かれ、魔術師は光となって消えた。

「"バテル"がリバースしたことで、デッキから《魔導書殿エトワール》を手札に加える」
「続けて《機甲忍者ブレード・ハート》で攻撃宣言!」

 忍者の姿が闇に溶け、その姿を隠す。

闇を裂く闇・紫電連閃(アンダーナイト・インヴァース)!」

 そして、私の指令の下に二つの刃が標的を切り裂いた。一つの刃は杯を手にした召喚士を、もう一つの刃はその主―――望月黒乃を。

「がっ………!」

 Kurono LP/4000-2200=1800

 一応先手は取った。だけど、多分ここまでだろう。
 彼の手札には六枚の"魔導書"と《魔導法士 ジュノン》がいる。さらには、効果未知数の《ゲーテの魔導書》や、発動すらされていない《セフェルの魔導書》《アルマの魔導書》まで存在している。その中に相手のカードを除去する効果が含まれていたら……きっと、次のターンで死ぬ。

「……やれるだけのことはやった。ターンエンドよ」

 私の手札、残された最後の一枚は………《オネスト》。
 もし"ジュノン"が"カウスト"を攻撃することがあるとするならば、それが私の勝利に直結するだろう。だが、それは彼のプレイングミスがあってのこと。


―――― Turn.2 End Phase ――――

1st/Kurono Mochizuki
◇LP/1800 HAND/7
◇set card/mo-0,ma-0

2nd/Saya Amakawa
◇LP/4000 HAND/1
◇《セイクリッド・カウスト》ATK/1800
◇《機甲忍者ブレード・ハート》ATK/2200
◇set card/mo-0,ma-0


 ―――間違いなく、私は詰んでいた。


 ― ― ― ― ― ― ― ―


 泣き疲れて眠ってしまった紗姫姉を背負って、俺達は家までの夜道を歩いていた。

「風見君」

 赤信号で立ち止まったとき、ゆみながふと口を開いた。

「ん?」
「……紗姫先輩、私達の世界にいますよね?」

 ……あー、うん。紗姫姉、俺達の世界にいます。生きてます。
 だけど、今確かにこの世界にも転生者として紗姫姉は存在する。原作キャラに憑依するという珍しいパターンで。

「……ゆみなにはまだ話してなかったか」

 俺達がゆみなと知り合ったのは高校になってから。高校から呉風学園に入学してきたゆみなが知らないのは、当然と言えば当然か。

「紗姫姉、前に俺を庇って車に轢かれちゃったことがあってね」
「――――っ!?」
「紗姫姉はそのとき高1だったかな。確かに転生者としてここにいるのは高1の頃の紗姫姉だよ」
「じゃあ、どうして……」
「……たぶん、何らかの形で生き返ったんだと思う。そして、それはきっと俺達の手によって」

 俺がそう言い切るのと信号が青になるのは同時だった。再び歩を進める俺達。

「私達が……紗姫先輩を?」
「うん。そうじゃなきゃ、今の俺達……生徒会長の紗姫姉に部活申請しに行った俺達は存在してないでしょ?」
「それはまあ……そう、ですね」

 とはいっても、それ自体は俺達が元の世界に帰れるという保証にはなっていない。保証されたのは、あくまで紗姫姉だけだ。

「それに、紗姫姉のスキンシップが激しくなった理由が未来(いま)の俺達だって説明つくし」
「……あー、わかりました」

 退院後、紗姫姉のスキンシップは目に見えて激しくなった。沙耶姉いわく、ブラコンはもっと前からあったらしいけど。
 ………もしそれが、俺達との永遠の別れが嫌だからだとしたら? それはつまり、俺達は二度と帰ることはなかったという証明なのではないだろうか。大事な家族との別れがすぐそこまで来ているなんて知ってしまったら………ああなることも頷ける。

「………風見君は、紗姫先輩の気持ちに気づいてるんですか?」
「気づいてるって……何に?」
「ですから、あの……紗姫先輩が、風見君のことを好きってこと………」
「………うん」

 俯きながらされたゆみなの質問に、俺は肯定を返した。
 俺の恥ずかしい誤解でなければ……たぶん、紗姫姉は俺のことが好きなんだと思う。家族としてでなく、一人の異性として。
 さすがにどこぞのテンプレ主人公じゃあるまいし、あそこまでべったりされれば流石にそう思ってしまっても仕方ない……とは思う。
 ……だけど。

「……だけど、今はまだ答えが出せないんだよ」
「それは……?」
「俺は、紗姫姉のことを家族としてしか見られない。もしも今、紗姫姉に告白されたとしたら……いいよ、とは言えないと思う」

 俺も紗姫姉のことは好きだ。だけど、俺のそれは……家族として。沙耶姉に対してと同じように考えてるから、そうなんだろう。それに―――俺は、

「風見君!」
「……どうしたの、ゆみな?」

 ………ふと立ち止まったゆみなが、後ろから俺を呼んだ。
 ステージのスポットライトのように、電灯の明かりに照らされたゆみな。その目はいつもよりも遥かに真剣に、まっすぐ俺を見つめている。


「今ここで、私が風見君の……蓮君のことを好きだと言ったら、あなたはどう答えてくれますか?」


 ………そのゆみなから、まさか今ここで告白されるなんて、全く思っていなかったわけですが。


    to be continued... 
 

 
後書き

 とある駅前のカードショップ。その店内で、携帯電話の着信音が鳴り響いた。しかし大会を間近に控えていたためか、その音さえも店内の騒音の中に溶け込んでいく。

「うわ、マナーモードにするの忘れてた!」

 そんな中、一人の少年が慌ててポケットから赤い端末を取り出した。言うまでもなく、音源はそこである。ケータイの音量を消し、メールの送り主を確認する。
 御剣(みつるぎ)(てる)。それが少年の名であった。赤銅色の跳ねた髪は整えられたものではなく、所詮寝癖である。

「メール?」
「ああ」

 彼に一人の少女が声をかける。黒く長い髪を腰の辺りまで伸ばした少女もまた、彼と同じく大会のためにこの店に来ていた。
 と、彼女の携帯電話も振動する。少女は慣れた手つきで携帯電話を操作し、メールの主を確認した。

  FROM:沙耶

「さーちゃんからだ」
「沙耶から……あれか? また向こうで武力介入するから遅れるってか?」
「あはは……沙耶ちゃんならやりかねないね」

 恐らく武力介入に付き合わされるであろう蓮とゆみなには同情の意味を込めて心の中で合掌する準備をしておく。
 二人が同時にメールの本文を開く―――その内容は、しかし彼らの予想を大きく外れたものだった。

  ―――曰く、交通事故の犠牲者が立ち去るのをを目撃したため帰る……と。

「「…………はい?」」

 二人の思いは、もはや言うまでもなく一つになっていた。どういうことなの、と。
 一枚の写真がメールに添付されていたことに気づき、それを二人は開く。

「……なんだよ、これ」

 写真に撮されていたのは、車道を歩く血まみれの少女。その瞳は不気味に紅く煌めき、黒髪であるが故にその少女が常識から外れた存在であると理解させる。
 彼女こそが沙耶の記した交通事故の被害者なのだろう……が、何故そこまで平然とした表情をしているのだろうか。本来ならば、そのような表情はおろか、あまりの苦痛に立つことさえ遮られてしまうはずだ。かつて交通事故に巻き込まれ、運良く一命をとりとめたことのある彼にはわかる。
 ……では、これは何だ? この表現することも憚られる、現実から遥かにずれた画像は何だ?

「……なあ、これどういうことか分かるか?」
「嘘……でしょ………!?」

 照が意見を聞こうと振り向いたとき、少女は愕然とした表情で携帯の画面を見つめていた。携帯の画面を閉じ、突如彼女は走り出す。

「ごめん、照くん! 私、沙耶ちゃん達迎えに行ってくる!」
「は? え、ちょっ、おい!」

 彼を取り残して、少女は慌てて店を出た。呉風学園に向かう一本道を出せる限りの全速力で走っていく。その姿を、照はただ呆然と見ていることしか出来なかった……。 
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