バーにいた美人と
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第一章
バーにいた美人と
サラリーマンの柳沢壮亮は金曜日仕事が終わるとバーに行くことにしている、一週間働いた自分へのご褒美である。
それで今行きつけのバーのカウンターで飲んでいるが。
「昔は幾らでも飲めたのが」
「今はですか」
「五十代に入るとね」
皺が出て来た顔で若い男のバーテンダーに話した、長方形の顔で小さく優しい感じの目で唇はやや分厚い。白いものが増えてきている髪の毛もセットしている時に量が気になってきている。一七五ある背も身体測定でやや縮んだと言われ腹も実はたるんでいる。
「カクテルを二杯かな」
「それで、ですか」
「終わりだよ」
「そうなんですね」
「これが歳を取ることかな。立場も出来て」
会社では部長である、仕事もそれだけのものがある。
「何かと苦労も多いし」
「大変ですか」
「うん、歳を取ったと思うだけで」
まさにそれだけでというのだ。
「本当にね」
「そうですか」
「何かと衰えを感じるよ」
「それじゃあ」
バーテンダーは柳沢の話を聞いてカウンターの中で彼が注文したカクテル、ピーチフィズを作りつつ話した。
「可愛い人を見ても」
「若い頃はいいと思ってもね」
柳沢は笑って答えた。
「やっぱりね」
「それでもですね」
「今じゃ何もだよ」
「そうですか」
「このことでも歳をね」
取ったことをというのだ。
「感じるよ」
「それなら」
バーテンダーはその話を聞いてだった。
店の奥に沙羅ちゃんと声をかけた、すると。
丸顔で黒い光沢のある髪の毛を左で束ねた長い睫毛の切れ長の二重の目と奇麗なカーブを描いた眉に深紅の小さな唇と雪の様な肌に一五〇程の小柄な抜群のスタイルの娘がバーテンダーの制服を着てやってきた。ズボンの脚も長い。
その彼女を呼んでだ、バーテンダーは柳沢に話した。
「舞洲沙羅ちゃんといいまして」
「新入りの娘かな」
「見習いのバーテンダーでして」
こう話すのだった。
「大学に通いながら」
「働いてるんだね」
「そうなんですよ。可愛いですよね」
「凄い美人だね」
柳沢もそれはと答えた。
「そちらでも人気出そうだね」
「この娘が来てからしょっちゅう芸能事務所の人が来てます」
バーテンダーはこうも話した。
「スカウトに」
「私はバーテンダーになりたくて」
その彼女も言ってきた。
「芸能界は」
「興味ないんだ」
「はい」
こう柳沢に答えた。
「ですからいつもお断りしています」
「成程ね」
「この娘可愛いですよね」
バーテンダーはまた柳沢にこう言った。
「そうですよね」
「そうだね」
「それじゃあ毎日このお店にとかは」
「いや、金曜だよ」
柳沢は笑って答えた。
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