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海底で微睡む

作者:久遠-kuon-
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狭間-茜 暁の海に浮かぶ鳥居

 流れ星を見つめていると、いつの間にか、少しずつ遠くの空がピンク色に染まり始めていた。
 そろそろ、夜が明けてしまう。星々が、強い光にかき消されて、また姿を隠してしまう前に——もう少し、この美しさを心に刻んでおきたかった。

 その時、風景が変わった。

 気がつくと、海に浮かぶ朱色の鳥居が目の前にあった。茜色に染まる空と、参道に並ぶ石灯籠の柔らかな光の組み合わせがとても美しい。波音が静かに響いて、空気にはほのかに潮の香りが漂っている。

「……あ。ここ、知ってる」

 あの星空に続いて、この景色にも覚えがある。
 確か、私が六歳の時だった。

『ハクネには、綺麗なものをたくさん見て、覚えて、素晴らしいものをたくさん知っている大人に育ってもらいたいの』

 そう言って、お母さんとお父さんが張り切っていた覚えがある。休日の早朝、まだ薄暗いうちから車で出発して。少し遠い道のりだったから、移動に疲れてぐずる幼い私を、『ごめんね、あとちょっとだからね。きっと、ハクネも気に入ると思うの』とあやしてくれたお母さんを思い出す。

 到着した時、朝日が海から昇って、鳥居を金色に照らしていた。
 お父さんが私を肩車してくれて、お母さんが「ほら、綺麗でしょう?」って笑いかけてくれた。

 あの時は、ただ綺麗だなって思っただけだった。
 でも今は、その美しさの意味がわかる。お母さんとお父さんが、私に何を見せたかったのかが。

「お母さん……寂しいよ」

 声に出すと、涙が頬を伝った。
 この美しい風景を、もう一度お母さんと一緒に見たかった。 
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