ドナーを待って
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第二章
「僕達は裏社会は知らないけれど」
「裏はよく聞くわね、臓器売買のことを」
「うん、けれどそうしゃなくて」
「表で今すぐにでも移植出来るのね」
「順番を抜かす形で」
ドナーの順番のそれをというのだ。
「出来るそうだけれど」
「けれど私達が先になったら」
妻は難しい顔で言った。
「先に待っている人が困るわね」
「そうだよ、ゆみりより大変な状況の人もいるだろうし」
「若しその人が手術が間に合わないで亡くなったら」
「そう考えるとね」
その話に躊躇した、それでだった。
肝心のゆみり、母親によく似ているが小学生らしいあどけなさを見せている彼女にどうしたいか尋ねた。
「今すぐ移植してもらえるそうだ」
「他の人より先にね」
「今は順番待ちだが」
「そうしたお話があるけれど」
「私待つわ」
ゆみりは両親に即座に答えた。
「だって私が順番ぬかしたら先に待ってる人達が困るわよね」
「それはな」
「やっぱりね」
「私よりずっと大変な人もいるよね」
心臓の状態がというのだ。
「その人達に先に移植してもらって」
「ゆみりはいいんだな」
「待つのね」
「うん、そうするから」
両親ににこりと笑って答えた。
「三年でも幾らでも待つわ」
「そうか、わかった」
「じゃあ待ちましょう」
夫婦で娘の言葉に頷いた、この時二人は自然と笑顔になってそして泣いていた。自分達の娘の心を知って。
そして三年後ゆみりは移植手術を受けて拒否反応もなく元気になった、夫婦はそんな彼女を見て話した。
「待ってよかったな」
「そうね」
「本当に」
今は元気に遊ぶ二人を見て話した。
「若し順番を抜かしたら」
「その分困る人がいたかも知れないし」
「ゆみりも待つと決めた」
「そして助かったわ」
「僕達は正しい選択をしたよ」
「ゆみりもね」
「そしてゆみりは何と素晴らしい娘なんだ」
こうも言うのだった。
「自分のことなのに迷わず待つと決めた」
「他の人のことを考えて」
「まだ子供なのにそれが出来たなんて」
「私達は素晴らしい娘を持ったわ」
「誰よりもね」
このことも感じた、そして幸せを噛み締めるのだった。誰よりも素晴らしい心を持つ娘が元気になったというそのことを。
ドナーを待って 完
2023・6・24
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