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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第四章 いつだって、道はある。
  イタチ

 べこんッ――
 轟音を立てて、うちはの敷地の塀が打ち破られた。千鳥の叫び声がどんどんと小さくなっていく。サスケの腕を掴んで僅かに軌道を逸らす、たったそれだけの、術も使わないそれだけの動作で自分の攻撃を避けてしまったイタチを、サスケは憎しみの踊る写輪眼で強く睨み付けた。
 ぐ、とイタチの指先に力が篭る。腕が折れそうなほどに痛んだ。グッ、とうめき声をあげる。

「邪魔だ」

 稲妻に打たれたかのような激痛が手首から広がる。手首の骨を折られて、サスケは蹲った。イタチと鬼鮫はもうサスケを看てすらいない。
 鬼鮫の構えた大刀「鮫肌」がすばやく振り下ろされた。それを両手に構えたチャクラ刀で受け止めたのは、猿飛アスマ。その後ろに立つのは夕日紅だ。黒い瞳を写輪眼に変換させて、イタチは二人を見据える。

「お久しぶりです……アスマさん、紅さん」
「イタチさんの……知り合いですかい?」

 鬼鮫が声をかけた。イタチの方を余所見しながらもかなりの力を加えることが出来るそのパワーに、アスマはおされ気味だ。紅が印を組む。幻術を使ったのだろう、彼女の体がゆらりと陽炎のように揺らめきながら消えていったが、鬼鮫はそれを意に介した風もない。

「ッ……!」

 チャクラ刀に纏わせていた風のチャクラが渦巻いて、鬼鮫の大刀に巻きついていた包帯を切り裂くのとほぼ同時に、鮫肌が思い切り振り下ろされた。咄嗟に後ろに飛んで避けようとするが、避け切れない。左腕から血が吹き出る。

「『切る』のではなく『削る』……それが私の武器、大刀『鮫肌』です。自己紹介を忘れていましたね……私は干柿鬼鮫、以後お見知りおきを」

 包帯の下から、何枚も重なった濃紺の鱗が露出する。ぱっと見て刀とは思わない奇特な造型の大刀を、彼はいとも簡単に操って見せた。

「以後なんてないわ」
「……遅いぞ、紅……ッ」

 不意に澄んだ声が聞こえ、そして同時にイタチも鬼鮫も身動きがとれなくなった。アスマが口元に笑みを浮かべ、巨木が突如として体に絡みついてくる。――幻術・樹縛殺。樹の中から現れた紅が、クナイ片手に宣言した。

「――これで、終わりよ」

 ――だめだ!!
 痛む手首を抱えたまま、サスケは心の中で叫んだ。そいつは、うちはイタチは、自分が殺すんだ。自分が殺さねばいけないのだ。そう誓った。死んだ父に、母に、おじさんに、おばさんに、一族に、そして自分に、誓った。うちはの仇を生き残りの自分が打たずして誰が打つというのだろう。
 でも同時に、いいぞ、という気持ちもある。あんなに長い間憎んだ相手が幻術に縛られて動けなくなっているのは、ある種爽快ですらある。

「俺にその程度の幻術は効かない……」

 だが次の瞬間、動けなくなってしまったのは紅の方だった。先ほど樹木に縛られていたイタチと紅の位置は、見事に逆転している。幻術返しだ、と紅は一瞬で悟った。目を合わせるだけで幻術を発動できる写輪眼の持ち主であるイタチにとって、幻術返しなど朝飯前なのだろう。
 ざっ、とイタチがクナイ片手に紅との間合いをつめる。イタチをとめなければ、と思って立ち上がり、怪我をしていない方の手でクナイを抜き取ったが、そうするまでもなかった。
 紅が唇を噛み切り、その痛みで幻術を解いたのだ。咄嗟にしゃがんだ彼女の長い黒髪が、クナイに切り取られてわずかに空を舞う。間髪入れず、イタチの強烈な蹴りが紅に叩き込まれ、彼女の体がふわりと空を舞い、そして地面に激突した。

「水遁・水鮫弾!」
「水龍弾ッ!!」

 不意にサスケの体が持ち上げられた。後ろに向かってぐいぐいと引かれていくのと同時に、湧き起こった水の塊が衝突した。

「ふ、ふはははははははははは……ッッ! 久しぶりだな鮫くん、木ノ葉を荒らしてくれるとはいい度胸じゃないか、ええ!?」
「……あなたは」

 煌く水しぶきの中、眩しげに目を細めつつ高らかな笑い声をあげた人物はシソ・ハッカだ。普段は着ていない中忍ベストを羽織り、ところどころに擦り傷をつくったり、絆創膏を張ったり、包帯を巻いたりしている。それらに加え、リュックサックを背負っているあたり、恐らく任務帰りだろうというのが看てとれた。

「走れっか、サスケ」

 サスケの前で盛大な舌打ちをしつつクナイを構えているのは狐者異マナと、彼女そっくりに変化した紅丸だ。双方傷だらけで、恐らく任務帰りであろうというのが看てとれる。

「マナ、お前……」
「フカヒレ食べたかったけどよ、相手明らかにヤバそうだから、兎に角逃げるぜ!!」
「なっ」

 サスケの返事を待たず、紅丸がサスケを担いで走り出す。担がれたまま、サスケはイタチを見た。イタチの写輪眼と視線が合う。一度は小さくなりかけた憎しみの炎が、またしても燃え上がり、ぱちぱちと爆ぜた。

「邪魔を、するなッ!」

 身をよじって紅丸から離れ、痛む手首を伸ばす。おいやめろ、と叫ぶマナの声には耳を傾けようともせず、拳を固めて猛然と突進する。
 ふわりと、イタチの羽織ったコートが翻った、と同時に、サスケは吹っ飛ばされていた。ザッ、と塀に体を思い切りぶつける。背中から広がる痛みに耐えながら立ち上がった彼の肩に、手がかかる。

「まあ、そう焦るなって」
「カカシ……ッ! 手ェ出すな、これは俺の――ッ!」

 影分身らしい。もう片方のカカシはクナイをイタチの首元に当てており、左目の写輪眼でイタチを睨み付けている。ハッカとアスマは二人して鬼鮫を相手に戦っている。任務帰りであることと、水もない場所で水を一気に大量発生させたことも相俟って、ハッカはそれほど本調子ではなさそうだ。アスマもアスマで、鬼鮫の鮫肌による攻撃を受けてしまったことにより、左腕をうまく動かせずにいる。
 ざぶん、と水が湧き起こってカカシにまともに打ちつけられる。と同時に、カカシが水の塊となって瓦解した。水分身ですか、と鬼鮫が楽しそうな笑みを浮かべ、そして現れた本体に向かって鋭く鮫肌を一閃させた。
 ザッ、とイタチの左横に立ち、鮫肌を構える。

「そういうことですよ……これはイタチさんと弟さんの戦いだ。手出しは無しにしましょう」

 上忍四人を目の前に、鬼鮫がにたりと笑う。尖った歯がずらりと並んだ。

「マナ! サスケを連れて早く――」
「ふざけるなぁッ!!」

 カカシの声を遮って、サスケが怒鳴った。ぐっと拳を握り締め、紅蓮に染まった写輪眼でじっとイタチをねめつけている。

「俺はこの日の為だけに生きてきたんだ……ッ! この日のためだけに!!」

 思い出せ。
 心が弱って死にたいと感じた時は、何時だって何時だって、イタチのあの言葉を思い出し、彼に殺された一族の者を思い出し、心の憎しみの炎に息を吹きかけてきた。
 イタチを憎みイタチを怨み、イタチを殺す、ただその為だけに自分を磨き、修行を重ねてきた。全てはこの日の為だけに。
 だから誰だって、自分を邪魔することは許されない。
 例えそれがナルトやサクラやカカシでも。
 誰でも。

「おい、サスケ……」

 捕まえて来るマナの腕を振り切る。小柄なマナがよろめいたのも、何もかも視界に入らない。ただイタチが、憎い憎い兄の姿だけが眼に映った。

「うおぉおおおおおおおおぁああああああああああ!!」

 走り出す。殺せ。殺せ殺せ殺せ。うちはイタチを、殺せ。
 向かってくるサスケを、イタチはじっと見つめている。
 感情の読めない、写輪眼で。
 
 

 
後書き
アスマと紅とカカシとハッカとマナと紅丸と鬼鮫とうちは兄弟の入り乱れるカオスな闘い。ナルトは次の話くらいを予定いています。 
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