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幽雅

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第一章

                幽雅
 春はあけぼの、枕草子の言葉である。
 だがこの時柏木敦弥はそんな気分ではなかった、彼は極めて不機嫌だった。
 彼は旅館の布団から起き上がってだ、憮然として言った。
「飲み過ぎたな」
「先生昨日幾ら飲んだんですか」
 一緒に寝ていた緒方雅弘が言ってきた、若く黒髪をショートにした細面の美男で大柄でレスラーの様な体格で四角く岩の様な顔の彼とは正反対である。ちなみに緒方の職業は出版社の編集者で柏木は彼が担当している作家である。二人共旅館の浴衣姿だ。
「一体」
「日本酒一升か、豆腐が美味くてな」
「そこまで飲まれますと」
 それならというのだ。
「二日酔いも当然です」
「そうか」
「はい、じゃあまずは」 
 緒方も酒が残っている、頭痛と倦怠感を感じつつ柏木に言った。
「お風呂入ります?」
「朝風呂か」
「二日酔いにはこれですよね」
 風呂だというのだ。
「何といっても」
「そうだな、じゃあな」
「まずはですね」
「風呂に入るか」
「そうしましょう」
 こう話してだった。
 二人で旅館の朝風呂に入った、そこですっきりしてだった。
 一緒に朝食を食べた、そこで緒方は柏木に言った。二人共スーツになっている。
「さて、今日は何処を取材しますか」
「金閣寺行くか」
「あちらですか」
「あそこに行ってな」 
 そうしてというのだ。
「取材するか」
「そうしますか」
「ああ、そしてな」
「そして?」
「何を書くかを考えていくか」
「それですね」
 緒方は柏木に編集者として応えた。
「何といっても」
「京都を舞台にした作品を書くにしても」
「京都の何処を書いていくか」
「それが大事だからな」
「内容についても」
「ああ、何かとな」
 柏木は緒方に朝食を共に食べつつ話した、京野菜も味噌汁も美味いと思いつつ白いご飯を楽しんでいる。
「話していくか」
「そうしていきましょう」
 緒方は今も編集者として応えた。
「今夜は」
「じゃあ金閣寺に行くか」
「今日は」
「その周りも観よう」
 こう話してだった。
 二人でだ、朝食の後実際に金閣寺の方に行った、そうしてだった。
 金閣寺だけでなく北山の方を観て回った、その中で。
 竹林を見たがここでだった。
 柏木はそこにいる若い桃色の振袖の女性を観てふと目を止めた。
「あの人随分と奇麗だな」
「あの若い女の人ですね」
 緒方もその女性を観て言った。
「確かにそうですね」
「ああ、黒髪もな」
 膝まであるそれは絹の様である。
「凄くな」
「色白で顔立ちも整っていて」
「ああ、しかしな」
 ここでだ、柏木は竹林を背にして歩く美女を観て言った。 
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