インフィニット・ストラトス~黒き守護者~
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これはこれで……
翌日。
俺はIS学園の寮の一室で昨日会った山田真耶というこの世界によくいる女尊男碑に染まっている女性とはかけ離れた女性と生活を共にしている。
「スー、スー」
隣で寝息をたてて寝ているその女性を見て、やはり本当に女性かと疑ってしまう。どう見ても20代だとは思えない。
時期も時期だったのでIS学園も既に春休みに突入しており、寮にはあまり滞在している女生徒が少ないために今日はここに泊まることになったが、さすがに年齢が離れているとはこれはどういうことだろうか? さすがにまずいのでは?
時間を確認すると既に5時を過ぎていて、俺は時間も自由にあるというのでのんびりしておいていいだろう。軽めに体操しておこう。
昨日の時点で俺のことをニュースにはならなくなった。もちろん俺が拒否したこともあるが、すぐ逃げ出すような人間をニュースにするわけにはいかないだろう。現時点でも黙秘されており、ほぼ軟禁状態だ。………ある格好をすれば話は別だが。
だから俺はその格好をして外にランニングをしに行こうかと思ったけど止めた。
(……よく考えたら女装するほどでもないな)
それは後でしよう。そうしよう。うん。
これでも俺は男として通っている。昨日は確認のためとやらされただけだ。
仕方がないので軽く体操でもしておこう。
それが終わってからすぐに昨日渡された教科書を開いて勉強を開始する。
そして1時間後………
「真耶さん。起きてください」
「ん~、後5分……」
「怖い先輩に怒られるって聞きましたけど?」
「起きました!」
(その先輩はどれだけ怖いのだろうか?)
そう思いながら既に用意しておいた朝食を置き、箸を渡す。
「あれ? 風宮くんって料理できたんですね」
「ええ、まあ」
俺の素性はあまり話していない。ただの旅人で日本に通りすがってたまたまISの適性試験会場に居合わせただけと言ってある。だから経歴も何もない。いつから旅なんて覚えていない。
「ですがすみません。材料があるとはいえ勝手に料理なんて………」
「いえ。こんな朝食を久しぶりに食べられたので。私も作れますけど、さすがに……」
「旅の最中には現地で仕入れることがありますからね。その時に自分で工夫しているのでその過程でかと思われる」
とまぁ、半分本当のことを話す。確かにそんなことをしたからな。
俺たちは話しながら食事を摂っていると、
「―――山田君、いつまで寝ている。さっさと朝食を食べに―――って、何をしている!?」
いきなり真耶さんの部屋に入ってきたのは織斑千冬。元日本代表でISの世界大会『モンド・グロッソ』の初代ブリュンヒルデ。だが二回目は諸事情により棄権したらしい。
「ただ朝食を作っただけです。一応、昼のおにぎりもありますが」
「………私も食べてもいいか?」
「俺は構いません。真耶さん、どうですか?」
「私も大丈夫ですよ」
そしてもう一食分作って千冬さんの分のおにぎりも渡した。
■■■
ここは生徒会室。
そこではある資料を見ていた現生徒会長がため息を吐いていた。
「どうしました?」
会計を務める女生徒が彼女に声をかける。
「………虚ちゃん。今日の仕事は?」
「会いに行くのは控えてくださいね」
「虚ちゃんの鬼~!」
「………」
彼女はそう言うと同時にしまったと顔をする。何故なら本当に辛いの相手であって生徒会長ではないからだ。
「……う、虚ちゃん?」
「大丈夫ですよ、お嬢様。私は気にしていませんから」
だけどその言葉は、どこか弱々しかった。
■■■
持ち物の一つであるノートパソコンを起動させ、俺はISの情報を仕入れる。
今話題の代表候補生―――特に俺と同じ年齢の専用機持ちをチェックしておいたほうがいい。
ちなみにこのパソコンはどういうわけか俺の性にあっていて、悪天候なところはともかく、ここみたいに通信設備が整っている場所などだと普通に繋がる。
「まぁ、今は情報を集めないと」
そして見つけたのは、『セシリア・オルコット』という名の外国人だった。
彼女はIS学園の入試を主席で合格し、さらには専用機を持っている。しかも射撃能力が高いらしい。
ほかに注意する人間は特にないな。精々その主席の人間に期待するか。
『風宮くーん。今大丈夫ですかー?』
部屋の外で真耶さんが声をかけている。
「大丈夫です」
「失礼します」
何故か自分の部屋なのにそう言って部屋に入ってきた。まぁ、一種の礼儀というやつだろう。
「どうしました?」
「あの、実は風宮くんに試験を受けてもらおうと思いまして」
「試験?」
そこでふと、視線をパソコンのディスプレイに戻す。まだセシリア・オルコットのページが開いていて、そこにはIS学園の入試と表記されているところだ。
「俺、自信ありません」
「大丈夫ですよ。風宮くんの入学は決定していることなので通過儀礼のようなものです」
それは少しばかり安心した。
俺はここに生きるため、そして手に職を付けるためにここに来ている。それがいきなり試験を受けて不合格ではなかったら追い出されて旅巡り再開となるところだった。
「で、俺は何をすればいいんですかね?」
「それはですね。データ取りのためにISで戦ってもらいます」
■■■
最近、俺が俺でなくなってきている気がする。
そう思いつつ、俺はISスーツを受け取って更衣室で着替えた。
「風宮くんって、結構鍛えてますよね?」
「……ま、まぁね……」
まぁ、場所が場所だから? それも仕方がない気がする。そうでもしないと生きられなかったのは事実だ。
そこで俺がさっきから気になっていたことを指摘した。
「ところで真耶さん」
「何ですか?」
「確かそれ、デュノア社製の『ラファール・リヴァイヴ』ですよね? まさかと思いますけど、真耶さんが戦うんですか?」
「はい。よろしくお願いしますね」
そう言って先にフィールドに出てしまった。
そして後ろから二機のISが降りてくる。
「風宮、お前にISを用意した。打鉄とラファール・リヴァイヴのどちらかを選べ」
千冬さんの言葉に俺は従い、今朝勉強したことを思い出す。
・打鉄 日本産の量産型第二世代。近接戦を主眼にしていて、防御力が優れている。
・ラファール・リヴァイヴ フランス産の同じく量産型第二世代。豊富な後付装備により、どんな距離にでも対応できる。
「ラファールで!」
そう言って触れると、ラファール・リヴァイヴが吹き飛んだ。
「「……………」」
俺と千冬さんは呆然としてしまう。
「風宮」
「何ですか?」
「何をした?」
「……いえ。何もしてません」
いつもの装備はちゃんと量子化して置いているし、ほかにはお守りだけだろうし。
俺はいつも死なないようにお守りを首から下げている。特に効果はないのだが、それでも願掛けってやつだろう。
「……もしかして、これか?」
そう言って外に出すと、
「待て。お前それをどこで手に入れた?」
「え? ずっと持ってましたけど」
「何……?」
途端に千冬さんの顔が険しくなっていく。だから俺はこれ以上余計なことを言わせないようにあることを言うことにした。
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