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仮面ライダーAP

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女湯編 エージェントガール&レジスタンスガールズ 後編

 
前書き
◆主な登場ヒロイン

真凛(マリン)・S・スチュワート
 ノバシェード対策室の元特務捜査官であり、かつてはヘレン・アーヴィングの同僚にして師匠のような存在だった日系アメリカ人。気高く凛々しい才色兼備の女傑だが、独断専行が災いして1年前に対策室から追放されており、現在は消息不明。裏社会で暗躍する女探偵として名を馳せている……という噂もあるが、真相は定かではない。年齢は28歳。
 スリーサイズはバスト116cm、ウエスト62cm、ヒップ105cm。カップサイズはK。


 

 
 かつて、この某国が旧シェードに侵略された時。改造人間が相手であろうと臆することなく立ち向かい、多くの国民を守り抜いた英雄達が居た。

 その名も「マルコシアン隊」。約12年前の2009年当時、陸軍最強の武人と謳われたジークフリート・マルコシアン大佐が率いていた精鋭部隊だ。彼らが命を賭して旧シェードの攻撃に抗ったからこそ、この国は今も独立国家として存続しているのである。彼らは正しく、救国の英雄なのだ。
 それ故に彼らの奮闘は今もなお、この国の歴史に深く刻み込まれている。人の身でありながら怪人の脅威に屈することなく抗った、豪傑達の英雄譚として。

 ――だが、その戦いでジークフリートを除く隊員は全滅。唯一生き残った彼は改造人間に対する憎悪を募らせ、行き過ぎた言動を見せるようになった。
 やがて彼は軍部に危険視され、退役を余儀なくされた。表向きは右眼の負傷に伴う勇退であったが、それは事実上の「追放」だったのだ。首都のエンデバーランドに在る国立中央公園には、今も彼の銅像が聳え立っているのだが、国民はその張本人の「末路」を知らぬままであった。

 その後の彼が辿った「末路」を、ヘレンはよく知っている。この国の人々が今も英雄だと信じている男が、軍部を追放された後に迎えた「末路」を。

(……あの子達がもし、銃を捨てることが出来ずにいたら。戦いから解放されていなければ。いずれは、あの男のようになっていたのかも知れない。最後の最後まで戦いに取り憑かれていた、あのジークフリート・マルコシアンのように……)

 仮面ライダーGと仮面ライダーAPの活躍によって、旧シェードが滅亡した時。ジークフリートが矛を収め、憎しみを捨て去ってさえいれば。彼は名実共に、今も絶対的な英雄としてこの国の軍部を率いていたのかも知れない。彼がこの国に残っていたなら、今回のテロも早期に解決していたのかも知れない。
 だが、そうはならなかった。ジークフリートは憎しみに囚われるあまり軍部から追放され、絶対的なカリスマ性を持っていたマルコシアン隊の消滅に伴い、軍部の勢いも大きく衰えた。その結果、この国の正規軍は全盛期の頃から大幅に弱体化し、ノバシェードのテロを阻止出来なくなっていたのだ。

 かつての救国の英雄は、真相を知る上層部にとっての触れてはならない禁忌の存在(アンタッチャブル)となり。その追放と引き換えに、正規軍はかつての精強さを失った。その判断の代償は、あまりに重いものだったのである。
 そんな窮地からこの国を実質的に救ったのが、ニッテ達――「オーファンズヘブン解放戦線」だったのだ。それを思えば、彼女達がマルコシアン隊の再来と呼ばれたのも、頷けることではあった。だが、ヘレンはその現状を良く思ってはいなかった。

 人の身でありながらノバシェードを退けたことで、マルコシアン隊の再来と呼ばれるようになったニッテ達だが。彼女達はマルコシアン隊とは違い、誰一人欠けることなく生き延びることが出来た。そして銃を捨てたことにより、闘争に生きる道からも解放された。
 この分かれ目が彼女達の運命を大きく変え、より良い未来に繋げて行くのだと、ヘレンは確信している。彼女達は、滅びに向かっていたマルコシアン隊の再来などではないのだと。

(何より……そんなことを「彼ら」が望むはずがない。「娘」の幸せを願わない「父親」なんて、居るはずがないのだから)

 ジークフリートの部下として旧シェードに立ち向かい、命を散らしたファルツ中佐。バレンストロート大尉。ロスマン中尉。そして、イェンセン少尉。彼らは皆、優秀な軍人であると同時に1人の父親でもあった。
 彼らの忘れ形見となった愛娘(ニッテ)達の幸せこそが、父親としての本望であると信じるならば。最後の最後で銃を捨てることが出来た彼女達の決断は、最大限に尊重せねばならない。マルコシアン隊の隊員達が遺した孤児達の未来が、悲惨なものであってはならない。

 その一心でニッテ達を出迎えた時から、ヘレンは独り固く誓っていたのである。彼女達のような子供が、もう2度と銃など握らなくても良い未来を築かねばならないのだと。

 ――そんなヘレンの決意は、彼女自身の「過去」にも関わっていた。ジークフリートの顛末は、彼女の「先輩」だったとある女性捜査官のそれを想起させるものだったのである。

(行き過ぎた正義の意志と力は、ジークフリート・マルコシアンや彼女(・・)のように、望まれない未来を引き寄せてしまう。……ライダー達もその恐ろしさを理解していたから、あの子達に銃を捨てさせたのね)

 かつての「先輩」だった、ノバシェード対策室の()特務捜査官――真凛(マリン)・S・スチュワート。新人時代のヘレンに近接格闘のイロハを教えた「師」とも言うべき存在であり、ヘレン以上の美貌と抜群のプロポーションを誇る才色兼備の女傑であった。
 水中からの潜入任務を得意とし、槍術においても右に出る者がいない、対策室きっての武闘派。そんな彼女の「容姿」は特務捜査官とは到底思えぬほど妖艶であり、その匂い立つような色香は娼婦のそれすらも遥かに凌いでいた。もはや、淫魔そのものと言っても良い。

 長いまつ毛に、鋭くも蠱惑的な眼差し。整い尽くされた目鼻立ちに、扇情的な甘い吐息を吐き出すぷっくりとした唇。同性であるヘレンでさえ、思わず生唾を飲んでしまうほどの色香の持ち主。男を狂わせる魔性のフェロモンを、瞳から、唇から、そしてその身体から振り撒く対策室最強の()エース。それがヘレン・アーヴィングの知る、真凛・S・スチュワートという女であった。

 ウェーブが掛かった黒髪のロングヘアに、スラリとした180cmの長身。規格外の存在感を誇り、身動ぎするたびにどたぷんっと弾む、116cmのKカップという超弩級の爆乳。そんな巨大な果実に対し、鍛え抜かれ細く引き締まっている62cmのウエスト。そのくびれからは想像もつかないほどに大きく膨らみ、むっちりとした安産型のラインを描いている105cmの爆尻。
 そんな扇情的過ぎる肢体と熟成された女の芳香は、敵味方問わず多くの男を虜にしていた。敵として対峙したノバシェードの戦闘員達も、共に戦う仲間である対策室の同僚達も、真凛の美貌と肉体には釘付けだったのである。その視線はヘレンに対しても同様であったが、真凛の身体から滲み出る甘く芳醇な香りは、ヘレン以上に強く男達の鼻腔を擽っていたのだ。

 雄の本能を狂わせる特濃のフェロモンを隅々から振り撒く、白く豊穣な極上の女体。そのグラマラスな肉体をより淫らに彩る青のチャイナドレスは、サイズが小さかったのかそのボディラインにぴっちりと張り付き、今にも破けそうなほどに張り詰めていた。肢体の激しい凹凸をありのままに浮き立たせるドレス姿を見た男達は皆、その薄布の下に隠されている生まれたままの姿を絶えず想像させられていたのだという。さらに、その裾には太腿を露わにする深いスリットが入っており、そこから強調される肉感的な美脚は特に濃厚な色香を纏っていた。
 20代後半という、女として最も「脂が乗っている」時期。その熟れた肉体に備わる豊穣な乳房は男達の視線と欲望を誘い、妊娠・出産に最適な極上の爆尻は、子孫繁栄という使命を帯びた雄の本能を苛烈に焚き付けていた。彼女が華麗なハイキックを繰り出すたびにドレスの裾が舞い上がり、露わにされるTバックのパンティ。特大の尻肉にむっちりと食い込んだその「絶景」から、目が離せる男は居なかったのだという。

 だが、高潔でプライドが高い彼女は終ぞ誰の物にもならなかった。対策室の同僚達ばかりか、上流階級の有力者達からのアプローチも呆気なく袖にしていた真凛は、世界的なヒーローとして支持を集めている新世代ライダーの美男子達にさえ興味を示さなかった。彼女の心と身体を手に入れられるのは、全てにおいて彼女を凌ぐ「強く逞しい雄」だけなのだろう。
 真凛に目を付けていた一部のノバシェード戦闘員達も、虎視眈々と彼女の肉体を手に入れようと目論んでいたのだが、その悉くが惨敗に終わっている。ヘレンの鋭い蹴りは対策室の間でも恐れられているのだが、その技術を彼女に伝授した真凛の脚技はそれ以上なのだ。チャイナドレスによって露わにされた白い美脚。そこから繰り出される真凛のキックは、仮にも改造人間である戦闘員でさえ、当たりどころによっては一瞬で気絶させてしまうほどの威力なのである。

 ――人を捨ててまで得た力が無ければ、何も出来ない。それじゃあ、初めから人間じゃないのと何も変わらないわよ。あなたもそう思うでしょう? ヘレン。

 下衆な悪党達に向けて吐き出される、あの冷酷な皮肉。凶悪な怪人達を妖艶に射抜く、凛々しくも蠱惑的な眼光。獣欲塗れの男達に包囲されても、決して怯まぬ気高い勇姿。そして、ノバシェードの戦闘員すら一撃で昏倒させる鋭い蹴り技の数々。そんな「師匠」の背中は今も、かつての「弟子」であるヘレンの記憶に深く焼き付いている。

 ――あなたのように、純粋で真っ直ぐな眼をしている子は好きよ。そういう子にこそ、平和な世界を謳歌して欲しいのよね。彼らのような汚物が全て駆逐された後の、清らかな世界を。

 その強さと気高さが、改造人間達に対する苛烈な「憎悪」に由来していることを、ヘレンは本人から聞かされていた。約12年前の2009年頃、当時16歳だった真凛は優れた身体能力に目を付けられ、旧シェードに誘拐されていた。しかしその後間も無く、改造人間の適性が無いことが発覚し、当時の傘下にあった人身売買組織に売り払われたのだという。
 両親を殺され自身も拐われた挙句、後からその価値も無かったと言われ、美貌と身体だけは金になるからと犯罪組織に売り渡されたのだ。これほど人間の尊厳を破壊する行いが、かつてあっただろうか。その後、「買い手」の慰み者にされる寸前で隙を見て逃げ出し、レスキュー隊に保護され生還した真凛は、やがてノバシェード対策室の特務捜査官にまで登り詰めたのである。

 両親の復讐。未来の被害者達の救済。混じり合う正義感と復讐心の赴くまま、旧シェードの再来を騙るノバシェードへの憎悪を原動力に、彼女は12年に渡る鍛錬の成果を存分に発揮していたのである。彼女が普段から身に付けているチャイナドレスも、犯罪組織を通じて闇の有力者に買われた際に着せられたものを、敢えてそのまま使っているのだという。その日に味わった恥辱の記憶を、憎しみの炎を、決して忘れないために。

 ――待って、真凛! あなた、本当にこれでいいの!? 対策室を辞めてしまうなんてっ……!

 しかし。その女傑は己の正義に固執するあまり、上層部の命令に背いてでもノバシェードの追跡に執着し続けるという、ジークフリートにも通じる危うい一面を秘めていた。その結果、最も多くの成果を挙げた対策室のトップエースでありながら、約1年前に命令違反の累積が祟り「追放」されてしまったのである。

 ――ヘレン。私はもう十分、好きにさせて貰ったわ。短い間だったけど、思うがままに自分の正義を貫けた。あなたも、あなたが信じるもののために戦いなさい。

 ――真凛っ……!

 ――あなたの正義なら、きっと皆に認めて貰えるわ。あなたを鍛えた私が保証してあげる。達者でね、ヘレン。

 自分を鍛えてくれた恩人が、自分よりも遥かに優秀だった特務捜査官が、戦いの中で孤独な「正義」に染まり、対策室から立ち去って行く様を目の当たりにしていたからこそ。ヘレンは誰よりも、その危うさを肌で理解していたのだ。



(……真凛。良くも悪くも(・・・・・・)……あなたには教わってばかりだったわね)

 その真凛・S・スチュワートは対策室を去って以降、ジークフリートと同様に消息を絶っている。現在は裏社会で探偵業を営んでいる……という噂もあるが、真相は定かではない。
 真凛と言えば最近、約12年前に彼女を買っていた(・・・・・)という有力者が汚職容疑で逮捕されたのだが、その決め手になった証拠は「匿名」で警察に届けられていたのだという。しかも、警察が有力者の自宅に踏み込んだ時にはすでに、その張本人は何者かに股間を蹴り潰され気絶している状態だったらしい。だが、探偵になったという真凛との関連性は不明だ。ヘレンはただ、彼女が今もどこかで無事に生きていることを祈るしかなかった。

「んっ……ふぅっ」

 そして。白く豊満な裸身をなぞる滴を隅々まで拭き終えたヘレンは、師匠(マリン)の影響で穿き始めたTバックのパンティに白く扇情的な美脚を通し、むっちりとした尻肉に深く食い込むように引き上げて行く。今となってはすっかり癖になってしまった、その「密着感」に甘い吐息を漏らしつつ、薄布の両端から手を離した彼女はふと顔を上げ、ある一つの「点」に思考を巡らせていた。

(……それにしても、気掛かりだわ。ケージ達からの報告によれば、最後の怪人は妙に鮮やかな動きで街から撤退したという話だけれど……)

 穹哉達が最後に戦った、始祖怪人(オリジン)の一角・仮面ライダーRC。そのロボット怪人が見せた不可解なまでに迅速な「退却」は、報告を受けたヘレンにも「嫌な予感」を齎していたのである。最近キツくなって来たJカップのブラジャーのホックを留めながら、彼女は独り眉を顰めていた。白く豊穣な乳房の肉が、ブラの裏地を張り裂けそうなほどに強く圧迫して行く。

 ――異様に強力な怪人の出現は、今回のオーファンズヘブン事件に限った話ではない。約2ヶ月前の2021年7月頃には、アメリカ合衆国のノースカロライナ州に設けられていた研究施設が、得体の知れない強豪怪人(レッドホースマン)達により襲撃される事件も起きている。そこは、新世代ライダー達とは異なる枠組みの「仮面ライダー」の研究が進められている施設であった。
 ソロモン72柱の悪魔に近しい名を冠し、「ジャスティアタイプ」とも呼称されている72機の特殊な仮面ライダー。その外骨格の鍵となる変身ベルト「ジャスティアドライバー」。そして、それら全ての開発を件の研究施設で進めていた稀代の天才女科学者・一光(にのまえひかる)博士。彼女の命と、彼女の「作品」全てを狙っていた強豪怪人達も、恐らくただの構成員ではない。

一博士の研究所(ニノマエラボ)を襲ったという怪人達も、今回のロボット怪人と同じく……他の構成員達とは何かが違う。しかもその件にも、オルバスが出向いていた。こんな短期間で2度も戦わせるなんて、自分達との交戦経験を与えているようなものじゃない……)

 ジャスティアシリーズ第55番機「仮面ライダーオルバス」。公安機関に正式に「貸与」されたその外骨格を運用している忠義(チュウギ)・ウェルフリットは、同じジャスティアタイプの仮面ライダー達の中でも特に豊富な実戦経験を持ち、今回のオーファンズヘブン事件の解決にも貢献している。そして、約2ヶ月前のノースカロライナ研究所襲撃事件の当事者でもあった。

 2度に渡る謎の強豪怪人の出現。その両方の事件が新世代ライダー達の活動圏内で、それも僅か2ヶ月の間に起きている。まるでライダー達に、自分達との戦いを慣れさせて(・・・・・)いるかのように。これを単なる偶然と言い切るには、あまりにも不気味であった。

(あの襲撃事件といい、今回の件といい……腑に落ちないわね。もし今回のテロ自体が、ライダー達との決着を目的としていない「小手調べ」なのだとしたら……次こそはきっと、かつてないほどに激しい戦いになるわ。私達の力では、足手纏いにしかならないほどに……)

 その「嫌な予感」が的中していた事実が明らかになるのは、この日から約3週間後の2021年10月7日。
 東京の某放送局を戦場とする、新世代ライダーと始祖怪人の最終決戦が勃発した時であった――。

 ◆

 そして。エメラダの「見張り」のおかげで気兼ねなくシャワーを堪能し終えたヘレンは、ニッテ達に支給されたものと同じ作業服に着替え、独り夜風に当たっていた。月夜の下に吹き抜ける涼風が、ヘレンの肢体を包む漆黒のロングコートをふわりとはためかせている。

「あっ……」

 解放戦線の仲間達と肩を組み合い、夜の祝宴を楽しんでいた最中。そんなヘレンの姿を見つけたニッテは、豊かな乳房と桃尻をばるんばるんと弾ませながら、黒コートを靡かせていた彼女の背中に駆け寄って行く。

 彼女の気配に振り返った金髪美女の爆乳も、その弾みでどたぷんっと揺れ動いていた。祝宴の喧騒から遠く離れた場所で、独り夜空を仰いでいた絶世の美女。その怜悧な美貌に息を呑むニッテは、緊張した様子で口を開く。

「……あ、あのっ! アーヴィング捜査官っ!」
「ヘレンでいいわ、ニッテさん」

 今や国民の誰もが知っているエンデバーランドの英雄を前に、上擦った声を上げてしまうニッテ。そんな彼女の緊張を解そうと、ヘレンは穏やかな佇まいで声を掛ける。
 ヘレンはすでに、ニッテも自分やエメラダと同じ、「仮面ライダーを愛してしまった女」であることを見抜いていた。それ故に、ニッテが問おうとしていることを表情から察し、静かに言葉を待っている。

「……ヘレンさんは……受け入れられますか? 仮面ライダーが……その、要らなくなった世界なんて」

 そんなヘレンの前で力無く俯き、ニッテはか細い声を絞り出す。気丈な振る舞いで解放戦線を率いていた頃からは想像もつかない、弱々しい声だった。
 その言葉に暫し沈黙した後、ヘレンはぷっくりとした艶やかな唇を開き、答えを口にする。それはニッテにとって、思いもよらないものであった。

「そうね……半々、ってところかしら」
「半々?」
「嫌だと思う気持ちもあるし……楽しみに思う気持ちもある。不思議よね」
「楽しみ、ですか……?」

 仮面ライダーが居なくなった世界を楽しみだというヘレンの言葉に、ニッテは困惑と悲しみの表情を浮かべる。「仮面ライダーケージ」こと鳥海穹哉に惹かれていたニッテにとって、それは決して容易に受け入れられる言葉ではなかった。

「私はいつか、会ってみたいのよ。戦士ではなく、1人の人間として生きられるようになった彼らに。きっとそれが……私が1番に知りたい、本当の彼らだから」
「本当の……」

 だが、ヘレンの言葉は仮面ライダーとして戦い抜いて来た者達を否定するものではなく。むしろ、彼らの仮面の下にある素顔を求めての言葉だったのである。

「それともあなたは、カッコ良く戦ってくれる戦士としての彼らじゃないと嫌なのかしら? 仮面ライダーじゃなくなった彼らなんて、頼りなくてカッコ悪い?」
「そ、そんなことないです! 私だって知りたい……! あいつらのこと、もっとちゃんと知りたいんですっ! あいつら、戦いが終わった途端にロクに休みもしないで行っちゃうんですからっ……!」
「そうね……その気持ち、痛いほど分かるわ。それなら……いつの日か、嫌というほど知りに行けばいい。彼らが守り抜いてくれたのは、そういう『自由』なのだから」
「自由……」

 嵐のように戦ったかと思えば、風のように去ってしまう。そんな仮面ライダーの生き様に散々困らされた女の1人として、ニッテに深く共感していたヘレンは、彼女の細い肩を抱き寄せると――95cmの巨乳に、106cmの爆乳をむにゅりと押し当てる。たわわな果実が密着し、その隙間からは極上のフェロモンが匂い立っていた。
 彼女の口から紡がれた「自由」という言葉を噛み締めるニッテは、愛する男がこの救いようのない世界で戦い続けて来た意味を考え、神妙な面持ちで目を伏せる。

「かつて、正規の対テロ組織として創設された旧シェードがそうだったように……正義の意味なんて、時代の流れでいくらでも変わる。けれど、何を選ぶかという『自由』だけは、例えどんな時代だろうと、どんな正義があろうと犯されてはならない。だから彼らは人間の正義ではなく、『自由』を守るために戦って来た」
「……」
「私達人間には選ぶことが出来る。何が正しいかではなく、何が望ましいかで考える『自由』がある。それは重い責任を伴うことだけれど……その責任なくして、人は人として生きて行くことは出来ない」

 何が正しいか、何を選ぶかという「自由」。それを当然の権利として享受出来る尊さに気付かされ、ハッと顔を上げたニッテは――やがて、「決意」に満ちた表情に染まって行く。
 仮面ライダーが命を賭して守り抜いた「自由」を、決して壊されてはならない。戦いが終わった後も、この世界で生きて行く自分達が、何としても守り通して行かねばならないのだと。

「あなた達ならきっと、選べるわ。本当に正しいかどうかは問題じゃない。それが正しいと、胸を張って心から信じられること。その道を選ぶ『自由』を行使すれば、きっとあなた達は望んだ未来に向かって行ける。私も、そう信じてるわ」
「は……はいっ!」
「……そうよね、真凛」
「え? ヘレンさん、何か言いました?」
「ふふっ……別に、何でもないわ」

 そんなニッテの貌に微笑を浮かべるヘレンは、彼女の肩を抱いたまま踵を返し、共に祝宴の輪へと歩み出して行く。
 リーダーのニッテが戻って来たことに加え、国民的英雄のヘレンまで参加して来たことにより、祝宴の喧騒はさらに賑やかなものになって行くのだった――。

 ◆

 ――そして。新世代ライダー達とノバシェードの戦いが終結を迎えてから、さらに約2年が過ぎた2023年6月頃。南雲(なぐも)サダトと番場遥花(ばんばはるか)の婚約が正式に決まったこの時期、かつて新世代ライダーとして世界各地で戦っていた男達は、人生における大きな転換期を迎えていた。

 かつて「仮面ライダーボクサー」と呼ばれていた南義男(みなみよしお)警部と、「仮面ライダーイグザード」こと熱海竜胆(あたみりんどう)警部の2人は、共に「仮面ライダー」として戦っていた男達のために、東京の高級ホテルを借りて「婚活パーティー」を催していたのだ。
 ノバシェードとの戦いが終わり、仮面ライダーとして戦うことも無くなったのだから、そろそろ結婚の素晴らしさというものを仲間達に教えてやりたい。そんな2人の思惑から始まったこの婚活パーティーには、身を固めるどころか恋人すら作っていなかった「独り身の男達」が集められていた。

 元新世代ライダーである男性陣の多くは、このパーティーにはあまり乗り気ではなかったのだが、義男と竜胆の熱意に押し切られてしまったのである。一方、彼らの名声に釣られた「お相手」の女性達は、ノリノリでこのパーティーに参加しようとしていた。

 ところが。パーティー当日になって突然、その女性達が全員「一身上の都合」とだけ言い残し、参加を辞退してしまったのである。そして、彼女達に代わって席に座っていたのは――華やかなドレスに袖を通した、絶世の美女達であった。
 本来の参加者達よりも遥かに見目麗しい美女達が来たのだから、普通なら手放しで喜ぶ場面だったのだろう。だが、その顔触れを目にした男達は絶句し、青ざめていた。

 そう。参加予定の女性達を無言の圧力で引き下がらせ、取って代わるようにパーティーの席に着いていたのは――かつて「オーファンズヘブン解放戦線」のメンバーとして銃を取り戦っていた、あの女傑達だったのだ。
 この約2年間で、かつて街を救った鳥海穹哉、忠義・ウェルフリット、本田正信(ほんだまさのぶ)、ジャック・ハルパニア以外のライダー達とも出逢っていた北欧の女傑達は、それぞれの想い人を見つけていたのである。

 元解放戦線メンバーの一部である彼女達は、交友関係にあった新世代ライダーの女性陣からこのパーティーの開催を聞き付け、はるばる某国から飛んで来ていたのだ。しかもその中には元メンバーだけでなく、ヘレン・アーヴィング捜査官の姿まであった。
 自分達の預かり知らぬところでコッソリ身を固めようとしていた意中の男達に対し、強く美しい女傑達は華やかな笑顔を向けていたのだが――その眼は、全く笑っていなかった。それはまさしく、絶好の獲物を捉えた「捕食者」の眼だったのである。

 元より、期待に胸を膨らませて来たわけではない。それでも、かつて仮面ライダーとして世界を救った男達は皆、心の底から叫ばざるを得なかったのだという。来なきゃ良かったと――。
 
 

 
後書き


 地の文で語られていた通り、この女湯編から僅か3週間後には、特別編第10話以降で描かれた最終決戦が始まることになります。さらに特別編第15話では、世界中の人々がその決戦の様子をハラハラしながら生中継で見守っていたことが語られているのですが、実はその中にはヘレンやニッテ達も含まれておりました。凶兆編、北欧編、女湯編で描かれて来た北欧某国での物語は、この第15話の冒頭で触れられていた内容を掘り下げるためのものだったのです。ここまでかなり長くなってしまいましたが、本エピソードも最後まで見届けて頂き誠にありがとうございました〜!٩( 'ω' )و



Ps
 元解放戦線メンバーの中でも特に血の気が多い阿須子やティエナ辺りは多分、生中継の途中からライダー達のピンチに我慢出来なくなって、武器を持ち出して日本に駆け付けようとしてたんじゃないかなーと思ってます。そして当然の如く空港で止められてしまう……(´-ω-`) 
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