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やはり俺がink!な彼?と転生するのは間違っているのだろうか

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パラディ島編 第7話 訓練兵団②

あの後、俺は、自分に割り当てられた部屋に戻り、寝ようとしたところ、
 同じ部屋に割り当てられた、エレンとアルミン、
 ライナー・ブラウン、ベルトルト・フーバーに声を掛けられた。

 エレン「よっ、ハチマン。もう寝るのか?」

 ハチマン「ああ。そうしようと思ったんだが、お前らが着たから、
      あまり眠れなさそうだ。」

 ライナー「!?・・・おい、何でここに女子が寝てる?」

 俺は、そういいながら指を刺すライナーの視線の先にいる
 少女?の方に目を向ける。

 ハチマン「?何言ってんだ?そいつは、男だぞ?」


 ライナー、ベルトルト、エレン、アルミン「「「「え!?」」」」

 ハチマン「いやちょっと待て、なんでエレンとアルミンは
      驚いてる?」

 エレン「いや、髪が長くなって、女にしか見えなかった。」

 アルミン「てか、僕たちは、2年前の君たちぐらいまでしか
      知らないよ?」

 ハチマン「あっ、たしかにそうだ。」

 エレン、アルミン「「・・・。」」ウンウン

 ベルトルト「?4人は知り合いなの?」

 エレン「ああ。今寝てるやつと、目の前にいるハチマンは、
     俺の幼馴染だ。」

 ライナー「ほう?そうなのか・・・。」

 ハチマン「自己紹介も終わったし、もう寝るぞ。」

 エレン「おう。おやすみ。」

 アルミン「おやすみ、ハチマン。」

 ハチマン「おう。」

 そうして、俺は、深い眠りに落ちた。

 ---

 エレン「おい、おい!ハチマン!起きろ!」

 ハチマン「?・・・?・・・!・・・あさか・・・。」

 目の前に、エレンが、少しはなれたところにアルミンがいた。

 どうやら、エレンが寝ていた俺を起こしてくれたようだ。

 エレン「お前、あんなに早く寝たのに、なかなか起きなかったぞ・・・。」

 ハチマン「そ、そうか・・・。ファ~、あ~、眠いなぁ・・・。」

 エレン「はぁ。」

 アルミン「あはは・・・。とりあえず朝ごはんを食べに行こうよ。」

 ハチマン、エレン「「ああ。」」

 ---

 ミカサ「ハチマン、エレン、アルミン。おはよう。」

 ハチマン「?ヒョウは?」

 ミカサ「?一緒じゃないの?」

ガチャ

 そんなことを話してると、その話題の人、本人が来た。

 ヒョウ「おはよ~。」

 ハチマン「ああ、おはよう。さっきまでどこいってたんだ?」

 ヒョウ「?ああ。ちょっと体を動かしててね。汗かいたし、
     銭湯に行ってたんだ。」

 そう、なんと訓練兵団には、銭湯が在った。

 日本生まれの俺とヒョウにとって、銭湯は、まさにオアシスであった。

 ちなみに、銭湯はいつでも入れる。

 ハチマン「ああ。なるほど・・・。・・・俺も明日から朝早くおきて、
      朝風呂、しようかなぁ・・・。」

 ヒョウ「!なら、一緒に鍛錬しよう。1人じゃできることに
     限りがあったし。」

 ハチマン「!ならそうするか・・・。」

 エレン「おい、お前ら!飯食おうぜ!」

 ハチマン、ヒョウ「「ああ。(うん。)」」

 ---

 朝飯を食べ、俺たちは、集合場所へ向かった。

 並んで、時間が経つのを待っていると、他の訓練兵たちも続々と
 集合し、10分前には全員整列していた。

 力の無いものは去るしかない生き残りをかけたサバイバル生活。

 訓練兵という人類のために命を捧げる覚悟がある者のみが、
 卒業することができる篩にかけた過酷な訓練が始まろうとしていた。

 去る者は追わず。

 入団式しか行っていない昨日の時点で既に数名が離脱し、
 この場には緊張が走っている。

 一体どんな訓練が待っているのか、彼らは自信と希望に
 満ち溢れている者もいれば、不安と恐怖に怯えている者もいる。
 様々な思いを抱えたまま訓練兵になり初めての訓練がスタートした・・・。

  午後の訓練。

 立体機動装置の使用における適性検査は、兵士になる過程において、
 最も重要な分岐点である。

 その理由は、午前中の筋力や瞬発力、持久力などといった
 基礎体力の向上を目的とした日々積み重ねの訓練とは異なり、
 立体機動装置の適性検査に限り適正無と判断された場合、
 どれだけ基礎体力が優秀なものでも開拓地へ送致されるからだ。

 巨人との戦闘に必要不可欠な『立体機動装置』は平衡感覚や姿勢は
 もちろんのこと、空間把握能力や三半規管の強さ、耐G能力など
 様々な種類の能力が必要である。

 訓練兵にはまず初めにその『立体機動装置』の適性があるか検査するのだ。

 前の世界で言うブランコのような木製で出来た土台にゴム製の紐に人を吊るし、
 どの程度姿勢を保っていられたかで適性を判断する。

 入り組んだ森やそびえ立つ崖に囲まれた訓練施設の荒れ地では4つの
 立体機動装置適性検査装置が立っている。

 訓練兵たちは4カ所に並びそれぞれ一人一人吊るされては適性を検査する。

 キース「まずは貴様らの適性を見る!
      両側の腰にロープを繋いでぶら下がるだけだ!!
     全身のベルトでバランスを取れ!
     これができないような奴は囮にも使えん!!
     開拓地に移ってもらう!!」

 威勢のよい教官の声が響き渡り、訓練兵たちの表情は一気に引き締まる。

 教官が言った言葉は脅しでなければ冗談でもない。

 やる気がある者も自らこの場を立ち去る者と一緒に退場してもらうことになる。

 俺たちは、3年間、ここに訓練するつもりで来たが、適正があるのかどうかは、
 やってみないとわからない。

 前の世界には、立体起動装置なんて物は存在していなかったし、適正があるか
 どうかなんて、体の作りが変わっているかもしれなかったし。

 4班に分かれて適性検査が進められる。

 皆危なっかしいところもあるがぶら下がることができている。

 前後左右に大きく揺れはするが逆さになるようなものはいない。

 しかし、教官はそれだけでは合格点を与えてはくれなかった。

 揺れは最小限に留め10秒程度姿勢を保つ者だけに合格点をあげていた。

 俺の前ではコニー、サシャ、ジャンなどが一発合格を言い渡されている。

 その中でもミカサやアニ、ライナーやベルトルトなどは異彩を放っていた。

 一発で合格を言われなかったものも何度かぶら下がることでコツを掴み、
 二度、三度で皆適正有と判断されている。

 そしてしばらく待った後ようやく俺の出番が来る。

 左から2番目の検査装置。

 検査装置の両側の腰にロープを取り付け、周りの者によって宙に浮く。

ギチッ

 浮いたとき、何か違和感を感じたが、難なく姿勢を保つことができた。

 にしても、さっきからベルトから鳴っている音と浮いたときの
 違和感が気になる。

 すると、急に俺は検査装置から下ろされた。

 すると、

 キース「ヒキガヤ訓練兵!一度、このベルトと交換してもう一度
     やってくれ。」

 そういわれ、もう一度、適正訓練を受けると、ベルトから出ていた
 謎の音と違和感が無くなり、ブレをほとんど抑えることができた。

 ハチマン「あの・・・、キース教官。
      できましたけど・・・。」

 キース「ヒキガヤ訓練兵!お前がつけていたベルトだが、
     整備項目に無いところが破損していた。」

 ハチマン「!そうだったんですか。どうりで違和感があったわけです。」

 キース「何はともあれ、お前は合格だ。降ろせ。」

 そう言われ、俺は地面に降ろされ、適正アリと判断された。

 キース「次!」

 そして、次の者に進んでいった。

 ---

 順番が進み、エレンの番になった。

 しかし、

 キース「おい!イェーガー!上体を起こせ!」

 エレン(な、なんだこれ・・・。)

 エレンは、身体が一気に回転し逆さまになっていた。

 ハチマン(おかしい・・・。適性が無いだけか・・・?)

 少し、エレンのベルト辺りを観察してみた。

 ハチマン(もしかしたら・・・!やっぱり!)

 ハチマン「キース教官!」

 キース「なんだ、ヒキガヤ訓練兵。」

 ハチマン「イェーガー訓練兵と自分のベルトを一度、交換して
      もう一度させてもらえないでしょうか。」

 キース「!・・・いいだろう。イェーガーを降ろせ!」

 そういい、エレンを一度降ろしてもらった。

 ハチマン「エレン。」

 エレン「・・・!なんだ?」

 ハチマン「一度、俺のベルトと付け替えて、やってみてくれ。」

 エレン「?わかった・・・。」

 エレンにそういい、ベルトを交換して、もう一度やってもらった。

 エレン「おお・・・!」

 すると、今度は普通に姿勢制御ができた。

 キース「ふむ・・・。どうやら、ベルトがまた破損していたようだ。
     ヒキガヤ訓練兵、なぜ分かった?」

 ハチマン「イェーガー訓練兵のベルトから自分が使っていたベルトと
      同じ音がしたからです。」

 キース「ほう、なるほど・・・。イェーガー訓練兵!
     合格だ。これからも訓練に励め!」

 エレン「!よし!」

 ---

 300名以上が訓練兵に志願し昨日開拓地へ送致された者を除くと
 適性検査を受けた者は284名。

 その中で適正有と判断された者が250名以上という例年にない好成績らしい。

 教官たちが舌を巻く一方で数十名は翌日の再検査を受けることになった。

 適性検査終了後、訓練兵たちは慣れない訓練で疲れたのか
 愚痴を零しながら宿舎へ歩いて行った。

 かくいう俺もエレンと一緒に宿舎へと向かっていた。

 ハチマン「エレン。合格できてよかったな。」

 エレン「ああ!ハチマン、ありがとな!
     おかげで、適正アリって言われたよ。」

 ハチマン「気にすんな。俺は、自分の気になったことを確かめただけだ。」

 エレン「!・・・そうか。」

 そんなことを話しつつ、俺たちは、兵舎に向かう。

 適正検査をした日から、3日。

 俺は、馬小屋の掃除をしていた。

 何でと思うかもしれない。

 でもな、これ、当番制なんだよ・・・。

 この訓練兵が教官の独断と偏見により6~7人班で分かれて、
 当番制で交代していって、洗濯や掃除をする。

 クリスタ「あっ、ハチマン!馬小屋の掃除終わった?」

 この少女は、クリスタ・レンズ。

 俺が所属している班のメンバーの1人だ。

 ちなみに俺の班メンバーは、

 3班

 班長 ヒョウ・ギルデット

 班員 アリス・カドール

    シリウス・チルド

    ヌルク・フロルド

    クリスタ・レンズ

    ハチマン・ヒキガヤ

 という班である。

 ハチマン「いや、まだだ。でも、もう少しで終わる。」

 クリスタ「!なら、手伝うよ!」

 ハチマン「いや、別に大丈夫だ。」

 クリスタ「でも、二人でしたほうが早く終わるよ?」

 ハチマン「いや、でも・・・。」

 クリスタ「だめ・・・?」

 ハチマン「うっ・・・。」

 うっ、そんな目で見ないでくれ・・・。

 かわいすぎて、浄化されそうになる・・・。

 ハチマン「・・・分かった。手伝ってくれ。」

 クリスタ「うん!」マンメンノエミ

 ハチマン(かわいい。」

 クリスタ「ふぇっ!?」\\\\

 ハチマン(ふぇって、かわいい」

 クリスタ「うぅ・・・。」

 ハチマン「・・・?どうした?クリスタ。」

 クリスタ「もう!何でもないよ!早く掃除しよう!」

 ハチマン「?」

 ---

 クリスタ「うぅ~。」

 クリスタ(ハチマンにいきなりかわいいっていわれたぁ~。
      た、たしかにハチマンかっこいいし、
      こんな私でも気遣ってくれるし、
      やさしいけど・・・。)

 クリスタ「うぅ~。」(どう接すればいいのぉ~。)

 ---

 入団式から、早くも3ヶ月が経った。

 そして今日、ついに、

 キース「本日は立体機動装置訓練、空中感覚について訓練を始める!!
     まず初めはあの崖の上から腰に巻いたロープを使って、
     下まで降りる降下訓練だ!
     降下にかける時間は10秒弱。
     それを目指して訓練を開始する!!」

 訓練兵たち「「「はっ!」」」

  今日の午前訓練は、座学とランニングだった。

 立体起動術について、理解を深め、体を温めるために
 ランニングをする。

 しかし、座学は睡魔との、ランニングでは重りと体力との戦いである。

 立体起動では、10キロ程度の鞘と装置を腰と足につけて、空を飛ぶ。

 つまり、下半身を10キロの物に耐えさせながら、体と装置を
 操作して飛ばなければならない。

 ランニングでは、それに耐えるために10キロ程度の重りをつける。

 まだ未熟な訓練兵にそれは相当きつい。

 実言う俺もまあまあきつい。

 いい鍛錬になっているが。

 今からする訓練は飛び降りる恐怖心を無くすための訓練だ。

 数十メートルある崖の頂上から腰に巻かれたゴム製のロープ一つだけで
 下まで落下する訓練。

 命綱があるとはいえ、ビル15階相当の高さから落下するというのは、
 度胸試しの様で一歩が踏み出せない。

 一応地面にはマットのようなクッションが何重にもして置かれているのだが、
 それでも絶対は無い。

 万が一落下してそのまま打ち所が悪ければ最悪命を落とす。

 実際に過去、この訓練で命を落とした人もいるらしく、
 その言葉を聞いた瞬間彼らから笑みが消えた。

 (元から、笑みを浮かべられる訓練など無いが。)

 キース「第1班降下訓練開始!」

  この訓練で気を付けるべき点は4つ。

 ・落下中は崖の側面と向き合って下りる。

 ・片足ではなくきちんと両足を使って踏み込みながら下りる。

 ・一気に下りるのでは無く、複数回に刻みながら下りる。

 ・足に力をいれていないと滑って落下する危険があるため注意する。

 この4つを気をつければ、多少は生存確率は上がる。

 キース「よしっ!第2班降下訓練開始!!」

 第1班がおよそ10分程度かかりながらも全員無事に下まで降下した。

 皆へっぴり腰で崖を飛ぶことなどできず一歩一歩の落下だったため、
 時間がかかっていた。

 第2班のメンバーには、エレンも居るようだ。

 エレン「くっ。」プルプル

 ・・・さすがにこの高さじゃ、さすがにエレンも足がすくむか・・・。

 ヒョウ「・・・。」

 ヒョウ「はぁ・・・ッ!、エレン・イェーガー!」

 ハチマン「!?」

 エレン「!」

 ヒョウ「その程度の恐怖で臆しているようでは、巨人など
     到底駆逐できん!
     本当に駆逐したいとおもっているなら!
     その程度の恐怖などに億さず、打ち破って見せろ!」

 エレン「!・・・やってやる!」

 そういい、エレンはすぐに降下を始めた。

 そして、

 エレン「ふぅ・・・、よし!」

 他の班員よりも速く降下訓練を終わらせた。

 アルミン「エレン・・・。喜んでるね。」

 ヒョウ「ふっ、根気注入した甲斐があったな。」

 そして、ついに

 キース「・・・ふむ・・・。よしっ!第3班降下訓練開始!!」

 俺とヒョウを含む3班の番になった。

 周りが恐怖で足が竦んでる中で俺は、いち早く降下を開始した。

 そして、その1秒も経たないうちに、ヒョウも降下を始めた。

 さっきまで視界には、他の訓練兵たちが移っていたが、今はもう
 尖った岩の壁に埋め尽くされた。

 ---

 半分ほどまで来た。

 一番初めに下り始めたが、怖いものは怖い。

 事実、ここまで来るのに、体感7分くらい掛かっているよう感じる。

 ちなみにヒョウは、俺より少し程度の速度で付いてきている。

 下を見ると、やはり半分ほど残っている。

 やはり、一度飛んだ方がいいと思い、足に力を入れ、膝を曲げ、
 飛ぼうとした瞬間、

 ハチマン「・・・え!?」

 訓練兵たち「「「きゃぁぁぁぁっ!?」」」

 マルコ「何をしているんですか!?教官!?」

 ロープから力が抜けたような感覚と、
 上からの叫び声が聞こえ、
 俺、いや俺たちは落下した。

 俺は一瞬、頭が真っ白になったが、すぐ、肌身離さず持っていた
 骨のナイフを岩の壁に突き刺し、勢いを弱めた。

 その作戦は成功し、崖の下からだいたい5メートルのところでなんとか
 止まることができた。

 一方、ヒョウは、

 ヒョウ(・・・どうやらロープを切られたようだ・・・)

 そう思い、ハチマンから渡されていた骨のナイフに切れたロープの
 残りを結び、ハチマンのように、崖にナイフを突き刺した。

 何とか無事にナイフが突き刺さり、7メートル付近で止まった。

 ヒョウ(よし・・・!)

 そして、ヒョウはナイフに結んだロープを使い、
 崖から先ほどと同じ要領で降りていった。

 なんとか闇討ちに耐え、崖の下に降りた二人。

 対して、崖上は、

 マルコ「教官!!どうしてロープを切ったのですか!?」

 クリスタ「ハチマンは、ヒキガヤ訓練兵はどうなったんですか!?」

 多くの訓練兵がさっきの状況を作り上げた張本人、
 キース教官の元に行き問いただすように凄い剣幕で責め立てていた。

 対して、教官は平然とした顔で訓練兵に向けてこう言い放つ。

 キース「訓練を甘く見るな!現場に出れば常に死と隣り合わせ!
     安全とわかりきった訓練など貴様ら訓練兵には必要ない!
     訓練中に運悪く死んでしまうような者が、
     巨人と戦うことはいずれにせよ不可能なのだ! 
     人類のため、心臓を捧げたのだろう!?
     ならば死ぬ覚悟を持っていたのではないのか!? 
     この訓練に堪え抜いた者だけが、ここを卒業できるのだ!」

 教官の鬼気迫る表情と荒声に訓練兵たちは何も言えず、
 閉ざすことしかできなかった。

 覚悟していたつもりだったが、いざ目の前に
 死というものの恐ろしさを見せられては誰も反論することができなかった。
 
 死の恐怖を乗り越えた者が生を横臥する権利を得る。

 彼らは、それをこの訓練で理解しただろう。

 ---

 キース「まさか闇討ちを無事に対処する奴が出てくるとはな・・・。」

 降下訓練が終わり鬼教官の顔が僅かに緩んだ表情に変わっていた。

 茶葉の優しい匂いを振りまく紅茶を流し込みながらキースがそう呟いた。

 同じ教官の兵士達もわずかだが興奮した様子でその話題について
 議論の的になっている。

 キースが呟いた【闇討ち】という単語。

 【闇討ち】とは立体機動装置の訓練の1つであり、
 立体機動装置を使いこなすためには、体力、脚力、耐G能力、
 空間把握能力等が必要となってくるが、
 特に空中において自分の状況を素早く認識し、
 パニックにならない為には、並大抵でない精神力が必要となる。

 このため、バンジージャンプや器械体操、果ては命綱を教官が
 故意に切ってその対応を見る訓練のことを【闇討ち】という。

 そしてこの【闇討ち】を初めて受けて冷静に対応し、
 尚且つ無事だったものは過去いなかった。

 しかし、あの少年たちは人間離れした精神力で対処し、
 かすり傷一つつけることなく訓練を終えた。

 否が応でも彼に注目が行くのは仕方のないことだった。

 教官1「ハチマン・ヒキガヤ・・・、いったい何者なんでしょう?」

 教官2「出身地はイェーガーやアッカーマン、闇討ちに対応した
     もう一人であるギルデットと同じシガンシナ区のようです。」

 教官3「!・・・なるほど、それならあのずば抜けた精神力にも
     納得がいきます。」

 教官4「同じ出身地であるミカサ・アッカーマンも初見の降下訓練を
     規定降下速度の約半分の速さで降りてきました。
     エレン・イェーガーもヒョウ・ギルデットに根気注入され、
     第2班の中で一番最初に降下した少年ですし。」

 教官5「ミカサ・アッカーマンにハチマン・ヒキガヤ、
     ヒョウ・ギルデットにエレン・イェーガー。
     どのように成長するか、楽しみですね!」

 教官たちは訓練兵団に志願するときに全員から提出された履歴書のような
 資料を机の上に広げながら話しのネタにしている。

 教官3「まあ、彼らがどの兵科を希望するのか、注目しておきましょうか。」

 シガンシナ区陥落以降訓練兵たちの志望兵科が極端な結果になりつつある。

 また、唯一入団条件が設けられている憲兵団に至っては志願倍率が
 10倍以上にも跳ね上がっている。

 年によっては訓練兵全員が憲兵団を希望するなど平和で
 豊かな暮らしを求める訓練兵が増えた。

 今年は、調査兵団に入ろうとする訓練兵が5人ほど既におり、
 教官たちは、今までとは違う訓練兵たちの未来が気になり、
 興奮しているようだ。

 キース(ふっ、やはりな・・・。)

 キース(さすがは、10歳前後の年齢で命の重みと知識を知り、
     私を改心させた少年たちだ。)

 それは、鬼教官であるキース教官も例外ではなかった。

 キース(しかし、彼を崖の上から見たとき、目が
     青と黄色、紫に光っていたのは、気のせいか・・・?)

 ---

 教官らが呑気に紅茶で喉を潤し流暢に口を動かしていた頃、
 本日の訓練を終えた訓練兵たちはそれぞれ個人の時間へと移っていた。

 夕食まではまだ時間があり、このコテージには人が疎らにいる程度。
 しかしその少数ながらも全員の注目を浴びる2人の男女が
 周りへ見せつける様にイチャイチャしていた。

 ミカサ「あの禿げは調子に乗りすぎた・・・、
     いつか私が然るべき報いを・・・。」

 ハチマン「お、おい。落ち着けミカサ。
      てか、まさかそれってキース教官の事を言ってるんじゃ・・・。」

 ミカサ「・・・それはおいといてハチマン。大丈夫だった?」

 ハチマン「え?あぁ、見ての通り怪我もないし大丈夫だから
      ・・・って、ち、近いんだけど?」

 ミカサ「ハチマンは無理をする。私が面倒をみてないとダメ。」

 ハチマン「おいおい、ミカサ・・・。」

 般若の如く無言の憤激した表情から屈託した表情でハチマンを見つめる。

 そして、毎回ミカサはハチマンの頭を胸元にグイッ、と持ってきて、
 後頭部を確かめたり、ハチマンの腰部分に抱き付き背中を擦ったりと
 妙に身体を近づけて身体検査をしている。

 対してハチマンは、それを頬を少し赤くしながら、
 少しでも逃れようとしたが、無駄な抵抗だと思い、
 為されるがままになっている。

 尤も、彼らはこれを見せつけようとしているのではなく、
 ミカサが毎回やってくるので、周りも日常風景に、
 ハチマンにとって、これは公開処刑のようなものだが、
 いくら言っても、ミカサはやめないし、
 彼の座右の銘が、
 『押して駄目なら引いてみろ。引いても駄目なら諦めろ。
  諦めきれないのなら、とことん抗え。』
 というものなので、もう既に諦めて、それを受け続けている。

 ただ、ハチマンはそんな中で、

 ハチマン(ミカサさん!毎回思うんですが、あなたのそのやわらかいモノが
      顔に当たってるの!俺の理性を毎回ゴリゴリ削っているんだよ!)

 と、内心理性と本能で戦っていたりもしてたりする。

 周りは、それを見て、

 訓練兵たち(((ああ、ミカサだしなぁ・・・。)))

 と、まるで微笑ましい物を見る目で見ている。

 一部の人、主に馬面の男がワンワンと吠えているが、ハチマンには恩が
 有ったり、単純にそういうのが好きなヒョウのお怒りに触れるのが
 怖くて文句をいう事ができない。

 エレンは、小さい頃のミカサを知っているからか、
 そのままハチマンと仲良くなり、思いが結ぶことを望んでいる。

 とまあ、ミカサが過保護なのはおいておくとしよう。

 ハチマン「いや、本当に大丈夫だから・・・。」

 ミカサ「いや、念のため、ふ、服の中の方まで見ないと・・・。」ハァハァ・・・

 ハチマン「!?お、おい!そ、そこまで確認する必要はないだろ。」

 ミカサ「大丈夫。痛くしないから・・・。」

 ハチマン「!?お、おいおい!何しようとしてらっしゃるミカサさん!?」

 そういい、ハチマンの服を捲ろうとするミカサ。

 それを阻止しようとするハチマン。

 あるコテージの一角で、そんなカオスな状況が作られていた。

 アルミン(!?ま、まずい!今、人がいる状況でそんな事したら、
      ハチマンを意識する人が増えてしまう!)

 アルミン「ライナー!ミカサをとめてくれ!」

 ライナー「ああ!さすがにここではそんなことさせられん!
      言ってくる!」

 ライナー「ミカサ!今それをここでやるな!
      やるんだったら、別の、もっと人のいないところでやりなさい。」

 ハチマン(そっち!?そこは止めろよ!)

 ヒョウ「・・・くっ、ぷはははっ、あ~っはははっ!」ゲラゲラ

 ハチマン「おい!」

 ヒョウ「ぷっくくく・・・、はぁはぁ、ミカサ。
     悪いが、こいつと俺は、掃除をしに行かなきゃ行けないんだ。」

 ハチマン「あっ!そうだ!当番だった!」

 ミカサ「!・・・そういうことなら仕方ない。」

 ハチマン「行って来る。」

 ミカサ「うん。」

 ---

 クリスタ「もう!遅いよ!」

 ハチマン「悪い。ミカサにつかまってな。残りは俺がやるよ。」

 クリスタ「ううん、いいよ。私もやるから。」

 ハチマン「大丈夫だ。俺だけでできる。」

 クリスタ「!・・・そう。うん、分かった。」

 ハチマン「!」

 ハチマン(あの目、あの表情。見たことある。
      誰かに必要とされていないと思ったときに出る表情だ。)

 ハチマン「クリスタ!」

 クリスタ「?」

 ハチマン「なぁ、そにょ・・・、てつだって・・・くれないか?」

 クリスタ「!うん!」

 クリスタは、満面の笑みでそういい、掃除を手伝ってくれた。

 

 
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