| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

エターナルトラベラー

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

エイプリルフール番外編 「夢」その3

木陰にバタリと倒れ込むナツはすでに満身創痍だ。

「あれ…ナツ、何か疲れてない?」

といつものように修行に集まったスイに心配された。

「あー、こいつね。どうしてか昨日から宗家のヒアシ様からしごかれてるのよ」

「ええっ!?どう言う事ですか?」

「何でもヒナタちゃんとハナビちゃんの事がバレたらしいわ。で、そんな技を教えたお前が柔拳を使えないのは何事かーと言う事になったみたいね」

「そうなんですね」

そうなのよ。

ありがとう、イズミ。しゃべる気力もなかったから正直ありがたい。

「正直俺は柔拳なんて使えなくても構わないのだが…ヒアシ様がちょー怖い…がくがく」

身のこなし、技の切れなんかでは敵うはずもなく。ぶっ飛ばされまくりました、マジで。

「ま、頑張んなさい」

「イズミ…他人事だとおもって…」

「だって、他人事だもの」

くっそ、まじでくっそっ!!


何とか体力を回復させてあぐらをかく。

「さて、今日はちょっと試したい事があるんだ」

「試したい事?」

「なんですか?」

「チャクラは人と人とを繋ぐ力」

「え、そうなの?」
「そうなんですかっ?」

「おいっ!…いや、まあ今はそれはいい」

六道仙人の教え、忍宗の教えなどもう時のかなた。皆忘れてしまっているのだろう。

…確かに俺もアカデミーで聞いたことなかったしな。

「問題は練ったチャクラを渡せると言う事だ」

「ナーツーにーいーさーまー」

「ナツにいさーん」

どうやら俺の後に修行を見てもらっていたヒナタとハナビも隙をみて抜け出して来たようだ。

「おう、こっちこっち」

さて。

「で、どこまで話したっけ」

「チャクラが渡せるって所」

とスイ。

「ああ、そうそう。つまりだ。俺が練った仙術チャクラを渡せるのじゃないかと言う事だ」

ナルトがやっていたあれだ。

スゥと目元を隈取が覆い、練り込まれた仙術チャクラ。

「ほれ」

と両手をイズミとスイに突き出す。

「えっと…」

「うーん…」

意図が分からないようだがとりあえずそれぞれ手を重ねた。

「これは…!」

「え、えっ?」

「すごい」

「何をしたんですか?」

渡した仙術チャクラで一瞬で仙人モードへと移行するイズミとスイ。

「二人とも自然エネルギーの誘引はへったくそだからな」

「ぐぅ…」
「ぐぁ…」

ささやかな俺の反撃にダメージを受けたようだ。

「で、何をしたのよ」

そうイズミが言う。

「仙術チャクラを二人のチャクラ性質に合わせて変化させて渡したんだ」

「ナツ…」

「ナツってこういう事は器用だよね」

ちょ、なんであきれ顔?

「ナツにいさま、わたしもー」

「わ、わたしも…」

ハナビとヒナタがおずおずと手を出す。

「今ので練った分は渡しきったから…」

「えー、けち」

ケチじゃなーい。

「仕方ない、こっちも試したいから」

ホレ、と手を差し出す。

「えっと」

「わーい」

コポコポと赤いチャクラがヒナタとハナビを覆い始めた。

「力があふれる…」

「なんかすごいいっぱいです」

イズミは写輪眼で見ていた。

「何をしたの、…まさかっ」

とイズミ。

「そ、六尾のチャクラを渡した」

「六尾って…」

「なにー?」

ヒナタとハナビが分からないと言う。

「まぁ、気にするな。もう少し大きくなったら話してやるよ」

しかしこれは保険だ。六尾のチャクラを分ける実験なのだ。

すべては生き延びるためにっ!まだナニもしてないのに死ねるかっ!



さて、チャクラ放出、チャクラコントロール、形態変化さらには陰陽遁を極めた先に何が有るのか。

あぐらをかいてチャクラを練り上げると全身から噴き出したチャクラがゆらゆらと揺れる。

制御しろ、制御。

まず陰遁でチャクラに形を与えて、形態変化させたチャクラを留める。

そこに陽遁で生命力を与えて操ってやれば…

ぼしゅっと霧散するチャクラ。

「だぁー…無理ー…」

「ナツがまた何か新しい修行していますよ?」

「いいのよ、やらせておけば。完成したら教えてもらえばいいのよ」

「そうですね」

おい、聞こえてるぞっ!スイ、イズミ。

「まずは舞空術を完璧にマスターしましょう」

「はい。ボク達だけ飛べないのはなんかすごくムカつきますからね」

「ええ。日向家には負けてられないわ」

とりあえず向こうは無視しておこう。

これさえ完成させられれれば。むふふ、むふふふふ。

「あははは、あっはっはっはっ!」

「なんかナツが気持ち悪い高笑いしてますけど」

「無視しときなさい。スイ」






「さて、俺達には足りないものが有る」

「何ですか?」

とスイ。

「医療忍者と医療忍者とそれと医療忍者だよっ!」

「三回言ったわ…バカね」

「うんバカよ」

イズミとスイの冷たい眼が突き刺さる。

「すみませんでしたーっ!」

とバカをやってみたが実際医療忍者が足りてない。

俺達は攻撃、捕縛面には技を磨いてきたが医療忍術に関しては習得していない。

「シズマ先生が抜けてスリーマンセル。…フォーマンセルには一人足りない、と言う事で医療忍者は必要だろう」

「でも、都合よく医療忍者が居るでしょうか」

「そうよね…」

里には小隊編成紹介所と言う所もある。

仕事の斡旋だけでは忍者はその場限りの付き合いになってしまう。

フォーメーションやチームワークを育てる為に特定の忍者とチームを組む。下忍の時代ならアカデミー卒業と同時に上忍の下で強制的に組まされるが、気が合うかは別の問題。

時間が経てば仲間が死んだり人間関係の齟齬が出るのは自明。それで崩壊した小隊がまた小隊が組めるように斡旋する。それが小隊編成紹介所だ。

「医療忍者ねぇ…」

斡旋所のおじさんが髪をかいている。

「出来れば男でっ!」

「あら、ナツにしては珍しい言葉ね」

「ですね」

「おいっ!お前ら俺を何だと…」

「そりゃあ…」

「ねぇ?」

う…でもハーレムは男の…俺の夢なんだよっ!

「で、何で男?」

スイがジト目で問いかけた。

「いやぁ、シズマ先生が抜けたら男女のパワーバランスが…」

イズミとスイが結託されると俺の立場ががが…


「やっぱり難しいですか?」

とイズミが紹介所の職員に詰め寄る。

「そりゃな…医療忍者はただでさえ数が少ない。となればやはりそう言う依頼が一番多い」

それはそうか…

「…あ、そう言えば」

うん?



……

………

「あの…油女カイユ…です…」

と額あてをした少女が自己紹介。

「女…の…こ?」

いや、幼女か。

俺達よりもさらに幼い。

「この子が斡旋所から紹介された忍ね」

「下忍ですか?」

「一応、はい…」

ヒナタと同じくらいの年頃で、ヒナタ以上に人見知りのようだ。

「私たちは医療忍者を要請したはずなんだけど…」

しかし待ち合わせの修練場に現れたのは目の前の幼女。

「医療忍術、出来るの?」

「えっと、その…」

「ほらほらイズミ、そう怖い顔で睨まない」

「睨んでなんてっ!」

どうどう。

「医療忍術は…その…出来ません」

「「「はい?」」」

三人の声が重なった。

あまりの事に団子屋に移って話を聞くことに。

「わたしは…その…油女一族出身なので…その」

「ああ、虫使いの一族だろ?」

「…っ」

ん?なんで怯えているんだ?

しかしそれがどうした、と言う目で見ると何とか続きの言葉を発した。

「当然、わたしが使う忍術は虫がメインになります…でも…」

でも、なんじゃい。

「わたしが宿す秘蟲はその…独特で…」

「油女一族なんだから独特と言っても…なぁ」

「そうなの?」

「そうなんですか?」

おい、お前らはもう少し里の中の忍者をもっと良く調べておけよ。名門の出だろ一応お前らもっ!

「そっ…そうなんですが…わたしの使う蟲は…その、一つの事しか出来なくて…」

ふむ、一点特化型か。

「何が出来るの?」

と言うとカイユはナイフで自分の腕を切り裂いた。

「カイユ?」

「ちょっとっ!なにをっ」

「だ、大丈夫なんですかっ?」

と言う俺たちの言葉が掛かり終えるよりも早くカイユの傷が塞がっていく。

「…これは?」

「これがわたしが飼っている蟲の能力です…」

「すごいじゃない。傷跡も無いわよ」

「本当です」

とイズミとスイ。

「…さっきこれしか出来ないって…もしかして」

「はい…わたしの蟲はわたしの傷しか治せないんです」



……

つまりそう言う事だ。

油女一族は体内で蟲を飼う一族である。チャクラのほとんどをその蟲たちに提供する代わりにその蟲たちの能力を借りる事が出来る。

本来の油女一族の虫使いとしての能力は万能と言っても良いほど強力で、一族の中でも秘伝の毒虫に適応出来た者などはどの暗殺者よりも凶悪な使い手となるだろう。

しかし、カイユの宿すそれは宿主を生かす能力に特化しすぎているらしい。そして他者の傷は治せない。

ならば他の虫もと思うのだが、カイユの宿すその蟲は共生は難しいらしい。

これでは医療忍者とは言えないだろうし、忍者としても失敗だ。

さらに体内で蟲を飼っているという事実が他の忍者との軋轢にもなっていて、たらいまわしにされているようだ。

「うーんとこれは…」

「正直忍には向いてない気もする…かな…」

とはスイとイズミの弁だ。

「そんな…う…うぅ…もうやだ…なんで、なんでなんでっ!わたしは油女一族なんですかっ」

「ちょ、泣かなくても…」

幼女を泣かしたと周りからの視線が俺に突き刺さる。オイ、そこのイズミとスイっ!なぜお前らも俺を睨んでいるっ!俺のせいにするつもりかっ!?

「こんなわたしじゃ立派な忍者なんかにはなれないし…油女一族の女なんて…結婚だって出来る人少ないんですよっ!?きっとずっと独り身なんだ…」

相手は虫使い。確かに同血族間、もしくは虫使いの門中でなければ結婚相手もいないだろう。

「まてまて、俺はお前が虫に憑かれていたとしても気にならないよ、な?だから泣かないで、ね?」

虫と言ってもカイユに付いているのはナノサイズの大きさの虫だ。

それが宿主の生命活動が低下すると変質し、傷口を塞ぐようにタンパク質へと変化、さらに細胞として変質し傷を塞ぐらしい。

となれば、目に見えないのならナノマシンとかのSFXに出てくるヤツと変わりない。

「そうね。私たちも別に油女一族だからと言って別に偏見はないわ」

「はい、カイユちゃん以上に変人がここには居ますから」

「おい、それは俺の事じゃねえだろうな?」

「え?」
「…え?」

うぉいっ!

「それに、きっとこの馬鹿がカイユの悩みを解決してくれるはずよ」

「ほんとですかぁ?」

おい、期待のこもった目で俺を視るな。と言うか、俺に丸投げするつもりだろう二人ともっ!

はぁと一回息を吐く。

まぁ、驚異の治癒能力を発揮しているのだ。これを何とか他者にも使えれば一級の医療忍者になる事間違いない。

であれば…

「まぁ、いろいろ試してみようかね」

「お、お願いします」

ペコリと頭を下げるカイユ。この日、なし崩し的に四人目のメンバーが加入する事になったのだった。

「とりあえず、即戦力のアップとしてカイユには俺のチャクラを渡しておこう」

「…?」

意味が分かって無いようだ。

「チャクラのほとんどを虫に食われているのならそれ以上のチャクラを俺が提供すればとりあえず普通の忍術くらいは使えるんじゃないか?」

「えっと…どうなのでしょう?」

と言う事でカイユのチャクラに合わせて練ったチャクラを渡してみたところ…結局虫たちに全部食われてしまいました。

「やっぱりだめです…ぐすん」

「な、泣かんでも…」

「ナーツー?」

イズミ、なぜ睨むし。

「ま、まあもう一度だな…」

「はい…」

と言ってぎゅっと俺の手を握るカイユ。

「あ、でもまだチャクラを練ってななななななああああああああ」

吸われる、吸われてるっ!?

カイユに合わせて練った訳では無いチャクラをなぜか触れ合った手を通して吸われて行っていた。

「ナツ、うるさいっ!」

「ぐもっ!!」

イズミに殴られて地面を転がると、擦りむいたのか痛む右腕をさすりながら起き上がる。

「あ、ああっ!大丈夫ですかっ!?」

「大丈夫よ、コイツ医療忍術なんていらない位自己再能力高いから」

「え、そうなんですか?あ、本当だ」

とみるみる治る傷を見て安堵するカイユ。

「まて、俺はまだ再生に必要な陽遁チャクラを練ってない」

「どう言う事?」

「あ…」

「何?」

とイズミがカイユに詰め寄る。

「いえ、その…えっと…」

とりあえず、こうなったらゆっくりと待った方が良いとイズミとスイにアイコンタクトを送る。

「たぶん…わ、…わたしの虫がナツさんの怪我を治したんじゃないかと…わたしの体から…ちょっと虫達が出て行ったのを感じましたし…」

「どう言う事でしょう?」

「さあ?私に聞かないで」

スイもイズミも揃って俺の方を向く。

「俺に聞くなよ。とりあえず、何が起こったかを考えつつ実験するしかないだろ」

「そうね」

カイユに聞けば今までこのような事は無かったと言う。

違う事と言えば他者のチャクラを注入されたと言う事くらいだ。

まぁ、仙嘗術を修めているはそれこそ医療忍術くらいなので、他者のチャクラを送り込まれる機会なんてそうそうないのだろう。

それで、カイユのチャクラ性質に合わせて練ったとは言え俺はカイユにチャクラを渡したわけで。

それにびっくりした彼女の奇快虫が騒ぎはじめ、接触面から俺のチャクラを吸収。そして虫たちはオレのチャクラから肉体情報を得て変質し、カイユの意思かはどうかまだわからないが俺の体内へ侵入、タンパク質に変貌し傷を塞いだ、と。

仮説を立てるならそんな所か。

「えっと、チャクラを貰うとですね、個体が繁殖するみたいです…それで、世代交代した親は私と言う宿主を離れ死に場所を探している…みたいな?」

「えーっと…」

「よくわかんない」

いいよ、そこの二人は理解を放棄してるだろ、。もう。

「要点だけをまとめると、カイユは他者のチャクラを虫たちに吸わせることでチャクラを渡した人の傷を治せる。そんな感じだ」

「へー」

「すごいんですね」

「すごいなぁ」

「……っ」

三人に褒められて、褒められたことなどほとんどないだろうカイユは赤面。

「でも結局戦力面は強化されたの?」

「……ぅ…」

イズミの言葉にショボーンと落ち込むカイユ。

「こら、イズミっ」

「あ、ごめん…ごめんね、カイユちゃん」

「いぃ…です」

謝ったイズミを許すカイユ。

「まぁ、それはこれからの頑張り次第じゃねーか?」

「まぁ、フォーマンセルならボク達が抜かれた時点で任務は失敗。死の可能性が高いですし、…まぁカイユちゃんの脅威的な回復力が有ればそもそも敵を死んだと欺けるかもしれません。極論、戦う力が無くても立派な戦力でしょう」

スイがそう言って励ました。

「まぁ、そう言う事なんで、カイユが嫌じゃなければしばらくよろしく、と言う事で」

「あの、その…よろしく…お願いします…」

こうして俺達の小隊はようやくフォーマンセルの形を取ったのだった。



最近イズミの様子がおかしい。何かを思いつめた表情をしている。

「私、この小隊を抜けようと思うの」

で、極め付けはこのイズミの言葉だった。

「はぁ?」
「はい?」

絶句する俺とスイ。

「や、やめてくださいっ!この変態をボク一人では制御しきれませんっ」

カイユは今日は用事があるらしく居ない。

「おーい…スイさーん」

そんな事よりも、と。

「この小隊を抜けてどうするのさ」

「それは…他の人と一緒に組む事になってるのよ」

などと言いよどむイズミ。

ふむ。

「そんなのは調べれば分かる事だからね。嘘なんてすぐに分かるよ」

「う、嘘じゃないわよ」

なるほど、表面上の事実はどうとでも繕えると言う事か。

「なんだ、暗部にでも誘われているのか?」

「うっ…」

当たりか。

「え、そうなんですか?すごい、エリートじゃないですか」

おめでとうございます、とスイ。

「で、誰に誘われたんだ」

「…ダンゾウ様よ」

ああ、一番のはずれを引いたな。せめて火影直属であれば…

ダンゾウめ、やはりうちは一族を手駒に欲しいか。

「よし、ダンゾウをぶち殺して来よう」

あいつさえ居なくなればイズミは何の脅威もなく生きられるだろう。

その後俺が里を抜けして…と、これではイタチと一緒か。ちぃ…

「なっ!?なんでよっ」

「お前はバカかっ!」

「はうっ!」

デコぴん一発。

「どうしても、と言うならば俺を倒してから行け」

「ナツ…本気?」

「お、お二人ともっ落ち着いて!」

「第23演習場で待ってる」

「ナツさーんっ!」

イズミとスイを置いて先に行く。



演習場にてイズミを待つ。

現れたイズミに俺は話を持ち掛ける。

「イズミ、一つ賭けをしよう」

「賭け?」

「お前が勝ったらイズミの事を応援するし、俺に出来る事なら協力しよう」

「ナツが勝ったら?」

「お前を暗部にはやらない。どうしても行くと言うのならダンゾウだけは殺す」

「だからどうしてよっ!」

「それはこの試合が終わってからだな」

と言って俺は身構える。

「ナツ、本気で私とやるつもりなのね」

「ああ…本気だ…」

「イズミさん、ナツっ、やめてくださいっ」

「スイは審判だ。決着がつくまで離れてみてろ」

「ちょ、ちょっとっ!」

「スイ…」

「イズミさんも…はいはい、分かりました」

と諦めたスイが下がる。

「じゃぁ、イズミ」

「うん。互いに本気で」

「ああ」

始める前にさらに飛雷神の術で遠隔地へと三人で飛ぶ。ここからは互いに本気だ。

演習場じゃ狭すぎる。


「はじめっ!」

「写輪眼っ」

「白眼っ」

スイの掛け声で互いに距離を開けると、互いに素早く印を組み上げた。

写輪眼は既に使っているようだ。

「火遁・豪火球の術」

おいおい、初っ端からかよ。

「溶遁・溶解の術」

水の性質も併せ持つ上に飛び散った溶解液は酸性だ。水滴を避けなければ肌を焼く。

「くっ…」

初見の術にただの水滴だと思ったスイの苦悶の表情で肌を焼かれていた。

「溶遁・泡沫の術」

シャボン玉の様な溶解液を多数吐き出した。

「コピーできないっ!そんなっ」

「写輪眼相手にコピーできる忍術など使うかよっ!」

「くっ…火遁・鳳仙花の術」

泡沫と炎弾が相殺し合う。しかしこの隙に近寄ると言う事は出来ない。なぜなら溶解液が空中を飛び散っているからだ。

「ナツ…あなた、木遁以外にも血継限界を…」

「ああ、だが今度は木遁だ」

木遁の術っ!

地面から木を乱立させてイズミを襲う。

「くっ…火遁・豪火球の術っ!」

ボウッと吐き出された炎弾で燃え上がるが、問題ない。

「木遁・木分身の術」

ゾワリと自身の細胞に陽のエネルギーを込めると分裂するように現れる木分身、その数三体。

「影分身の術っ!」

ボワワンとイズミも同じ数の影分身で対抗していた。

「まさか、ここまで組手が上達していたなんてねっ!」

と写輪眼の動体視力の高さで俺の攻撃を避け、また反撃するイズミ。

「それは…ヒアシ様の鬼の修行の成果だな…」

ブルブル…ヒアシ様、容赦って言葉がねーんだもんよ。

「でも、写輪眼相手に接近戦は選択ミスよ」

幻術・写輪眼。

クルクルとイズミの写輪眼か回転し強力な幻術を仕掛けた。

「ぐっ…」

「白眼の眼の良さが仇になったわね」

すべての分身に幻術を掛けられ、木分身はただの木片へと戻ってしまっていた。

「終わりよ」

とクナイを突き付けようとしたイズミのクナイを掌で弾く。

「まだだっ」

「なっ!?どうしてっ幻術は確かに…でも、チャクラが強制的に乱された…まさか六尾っ!」

「正解だっ!しかし一発で見抜くか。やはり写輪眼はチートだなっ!」

掌底をたたき込むとしかしそれはポワンと消えた。

「影分身かっ!」

「白眼では影分身を見分けられないでしょうっ!」

とイズミ。

「ああ、だがそれなら全部に攻撃すればいいだけだろう?」

木遁・樹界降誕

地面から先ほどの規模を上回る木々ら乱立する。

「甘いよっ!ナツっ」

イズミの瞳が万華鏡写輪眼へと変わる。

「万華鏡なぞっ!」

イズミの万華鏡は封印術。それで対処出来ようはずは無いっ!

「だから甘いと言っているのっ!」

「なっ!」

発生させた巨木がイズミの瞳に吸い込まれるっ!?いやまさかこれは…封印した、のか!?

「お返しよっ!」

「嘘っ!」

イズミが吸い込んだ俺の木遁が今度は俺めがけて襲い掛かる。

まさか自分の術を…木遁を返されるとはつゆにも思わず、防戦へと追い込まれた。

「溶遁・大溶解の術」

口から先ほどよりもさらに大きな溶解液を吐き出し木を焼いていきようやくこちらを飲み込まんとしていた木遁の気勢を殺ぐ。

イズミは…

「遅いっ!」

既に耀遁チャクラモードへと移行しているっ!

イズミはその死雷神の術もかくやと言う勢いで駆けリーチを仕掛ける。

飛雷神は…間に合わないっ!

イズミの攻撃に吹き飛ばされ地面を転がる。

「ぐぅ……」

傷を木遁チャクラモードで強引に治癒させると再び溶遁。

「溶遁・溶霧の術」

霧のように細かく飛ばして辺りを包み込みつつ姿をくらまし、さらに自身は溶遁チャクラモードを使う事によって溶遁によるダメージを受ける事無く隠れる。防御と攻撃の一体の技だ。

だったのだが…

グンと引っ張られるように霧が消え去る。

まさかこの霧を万華鏡写輪眼・天鈿女(アメノウズメ)で封印するとは…

さすが写輪眼…チートですよ、チート。

何か弱点は無いのかっ!

が、やはり万華鏡写輪眼は使うリスクが大きいのかイズミが片目を閉じ片膝を付いていた。

二回の封印と一回の解封。すでに三回万華鏡を使っているのだ。それに加え耀遁チャクラモードも使っている。スタミナ消費は激しいはずだ。

ここに付け入る。

俺は両手を合わせると、仙術チャクラを練る。

まだ一瞬でとはいかないが何年もの修行の賜物か、誘引速度は格段と上がっていた。

仙術チャクラを練り終え仙人モードになると瞬神の術で駆けイズミの意識を狩ろうと振るった拳は…しかし彼女に受け止められてしまう。

「なっ!?仙人モードっ!」

「私がただ黙って膝を付いていたと思うの?ナツほど上手くないけれど、影分身がずっと仙術チャクラを練っていたのよっ!」

「くっ…」

これで条件は五分に戻ってしまった。

イズミの耀遁の神速での攻撃を飛雷神の術で避けるが、飛雷神の術はマーキングのある所にしか飛べない以上パターンは読まれてしまう。

千日手とはいかなず、劣勢となるのは明らかだ。

「溶遁・泡沫の術」

「邪魔っ!」

「ちぃっ!」

再び天鈿女で封印されてしまった。

もう一発っ!

だがこれも効果が無い。

寧ろ隙を突かれて接近を許してしまう事態に陥った。

忍術は意味がない…か?

だがとっさに掌にチャクラを集め乱回転させるて出来上がった螺旋丸で迎撃するように手を突き出した。

「くっ…」

しかしイズミはこれを封印することなく避け、俺を蹴り飛ばす。

「ぐぅ……」

木々をなぎ倒してようやく止まると、急いで細胞を活性化させて回復に努める。

しかし、なぜイズミは螺旋丸を封印しなかった?

瞳力が弱っていた?いや、まだ仙人モードも切れていない。

だったらなぜ?

まさか…回数制限、か?

イズミの万華鏡写輪眼は封印と解封がひとセットだ。今まで四つ封印して一つ解封している。

…封印できるのは三つまで?

試してみるか。

「木遁・樹界降誕」

乱立する巨木を操ってイズミを拘束しようと迫る。

「くっ…」

四方八方からの攻撃にイズミは封印することなく瞬神の術で避けている。

やはり封印されないっ!

イズミの眼前に迫った木の根。それに俺の溶遁・泡沫の術が解封されぶつかり弾き溶かされた。

その後、樹界降誕の術を封印するイズミ。


「イズミのその万華鏡写輪眼…封印ストック出来るのは三つが限界らしいな」

「それが何?それが分かったからってあなたの術が私に通用しない事は変わらないわよ?」

「強がるなよ」

溶遁・溶霧の術。

再び放たれる腐食の霧。

「くっ…」

これは封印しないといけないよなぁ?

さらにチャクラがヤバいがもう一度っ!

「木遁・樹界降誕」

「なめないでっ!」

これには同種の術を使って相殺。

これでイズミの封印術のストックは溶霧の術が二つ。

だから、もう一度だっ!

「溶遁・溶霧の術」

当然消える溶霧だが…これで三つ。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

二人ともチャクラの使い過ぎでそろそろばててきている。仙術チャクラが切れるのと同時に溶遁チャクラモードも終わってしまった。

イズミの方を見れば同じように仙人モードも耀遁チャクラモードも切れていた。

溶遁チャクラモードじゃない今、溶遁・溶霧の術はただの自爆技。もう互いに使えない。

「流石ね、ナツ…」

「ああ、イズミもな…さすが俺のイズミだ…」

「い、いつ私がっあなたのになったのよっ!」

と赤面するイズミ。

「んっんん…」

と咳払いして話を続けるイズミ。

「一緒に修行をした仲だもの。私の技は大体知っているわね…あなたの技を私が知らないのは気にくわないけれど」

「あは…あはは…」

溶遁は見せてなかった。

「でも、これはどうかしら?」

と言った後に現れたのは大きな背骨とイズミを守るように現れた肋骨。

さらに両腕とドクロが現れる。

「げぇ…須佐能乎かよ…」

と言う俺の声にイズミは表情を歪めた。

「スサ…?…須佐能乎?そう言う名前なのね。…というか本当にあなたは写輪眼に詳しいわねっ!日向のくせにっ!」

これを出されては分が悪い。攻守共に最強クラスの術だ。

慌てて印を組み上げる。

「木遁・木人の術っ」

鎧武者姿の木人の頭に乗って操り、イズミの須佐能乎と四つに組んで力比べ。

「本当、ナツは私の予想を超える。こんな術も使えたなんてっ」

そう言えば木人は使った事なかったな。

「でも、私の須佐能乎をなめないでっ」

肉付いた益荒男の上をさらに包み込むように修験者の法衣に包まれるイズミの須佐能乎。

すると…

ジュゥゥウゥウウウウウ

「なっ!?」

「これは知らなかったみたいねっ」

木人が酸に焼かれてるぅ!?

「私の須佐能乎は天鈿女で封印したチャクラ性質を得る。つまり…」

「溶遁…」

そりゃあ溶けるはずだ。

どうにか須佐能乎から距離を取ると、今度は八坂勾玉手裏剣が飛んで来る。

スパンスパンと俺の木人を切り裂いた後、ジュッと切断面を焼き、再生を遅らせる。

…これは再生出来ないな。

「これでっ!」

溶遁チャクラを形態変化させて刀身を作り出したイズミの須佐能乎はそのままそれを振り上げた。

ちょ、それは流石に死ぬ、死んじゃうっ!

「犀犬(さいけん)さんっ!」

(しょうがない。チャクラを貸してやるやよ)

戦いは予備弾倉を最後まで持っていた方が勝つ。

一気に膨れ上がった六尾のチャクラを制御。そのチャクラを纏い尾獣化。

腕を伸ばし振り上げた須佐能乎の腕をつかむ。

ジュウゥと酸が焼こうとするが、こちらの腕もチャクラエネルギー。

そう、原作ナルトが見せていたチャクラだけの尾獣化モードをようやく再現したのだ。

尾獣化自体は出来ていたのだが、痛覚が有るのは何かと不便だしデメリットだろう。

二尾を気絶させたのもそれが一役買っていたのだし。

「なっ!?」

これにはイズミも驚いたらしい。

六尾にはなるだろうとは思っていたのだが、まさかチャクラだけとは思わなかったのだ。

「それって…まさか…」

「尾獣版須佐能乎と言った所か」

「まったく、あなたにはいつもいつも驚かされる…だけど甘いっ」

空いていた左手で拳を握り六尾の巨体を殴り飛ばそうと打ち下ろすが…

「甘いのはどっちだっ!」

須佐能乎の腕を六本ある尻尾を使って打ち払う。

「きゃあっ!」

ズザザーと木々をなぎ倒して地面を転がるイズミ。

「終わりだっ」

口元に貯めた尾獣玉を一度口内へと取り込み撃ち放つ。

虚空砲。

それはレーザーのような鋭さでイズミの須佐能乎を両断した。

爆風にあおられて宙を舞うイズミは気を失っているのか受け身も取らず地面へと落ちていく。

「やばっ!」

飛雷神の術で一瞬でイズミの所に飛ぶとどうにか抱きとめゆっくりと地面へと降り立った。

「イズミ…」

気を失っているイズミへと言葉を紡ぐ。

「あんまり俺の目の届かない所に行くなよ。守ってやれなくなるだろ…」

うわーっ!くっさ、なんか今俺くさいセリフをっ!!

いや、まあ誰も聞いてないよね?

イズミは気を失っているはずだしっ!

「…………………バカ」

イズミの声は誰にも聞こえず風に流されて消えて行った。



……

………

「なんですか、あの戦いはっ!怪獣大決戦ですかっ!」

と地面に降りた俺に猛抗議をしてくるのはスイだ。

「いや、な?これは俺も予想以上と言うか、な?」

「な?じゃありませんっ!地図を書き換えなきゃいけないレベルになる所でしたよっ!」

ぎりぎり地面がはげたくらい、突然森が現れたくらいで済んでいるが、どちらも幸運だったと言う事だろうか。

「だいたいっ!」

「う、…うん」

スイの説教が本格化する前にイズミが起きたようだ。

「イズミ、大丈夫か?」

「…負けたのね」

「ああ、俺の勝だ」

「あーあ、まったくもう…勝ち目なんて有るとは思ってなかったけど、やっぱりか」

「イズミ?」

「で、賭けはあなたの勝ちね。私にどうさせたいのかしら?」

とイズミがいたずらっぽく聞いてくる。

知っているくせに。

「…暗部には行くな」

「はいはい。あなたの傍ならあなたが私を守ってくれるのだものね?」

「ちょ、まさか起きて…?」

「なんですか、それ?」

と、スイ。

「ううん、何でもないの、何でも。ね、ナツ」

カァァと体温が上昇するのが分かる。メチャクチャ恥ずかしかった。

それからイズミにからかわれつつ、スイには問い詰められて木ノ葉へと戻って行った。



……

………

「ダンゾウさま。此度の暗部への誘い、うれしく思いますが私にはまだ力量不足です。辞退させていただきたく」

とイズミは一応ダンゾウへ断りの連絡を入れるべく会いに行っていた。

「そうか。それがお前の選択なら仕方のない事か」

と言うダンゾウの言葉に黙って頭を下げるイズミ。

「それでは…」

そう言って退出しようと振り返ったイズミをダンゾウは呼び止めた。

「ああ、そうだイズミよ」

ダンゾウに呼び止められて振り返るイズミ。

「これまで通りに生活しても構わないが、そもそもお主はもともと根の一員だったであろう?」

と言ったダンゾウのいつもは包帯で隠されていた右目がはがされ、その中から覗く赤い瞳。

「な、それは…」

万華鏡写輪眼・別天神(ことあまつかみ)。

うちはシスイの万華鏡写輪眼の能力で、相手に幻術を掛けたと悟られる事なく操る術である。

「そうでした、ダンゾウ様…」

「よい」

ダンゾウに命令されて膝をつくイズミ。

「うむ。まあ今日の所はよい、下がれ」

「はっ」

ダンゾウの許可を得て退出するイズミ。

「ふむ。これで使えるうちはの手駒が一つふえたわ」

部屋の中にはダンゾウの暗い笑い声だけが響いていた。



……

………

カイユを加えた小隊での任務は回復役が居ると多少の無茶が出来る。

いや、実際には毒攻撃や薬での攻撃にさえ驚異的な回復能力を見せつけたカイユの存在は素晴らしく、任務達成率を一気に引き上げていた。

「上忍昇格、おめでとうございます。ナツ兄さん」

「おめでとう、ナツ兄さま」

「あ、ありがとうヒナタ様、ハナビ様…」

おかしい…あまり目立たないようにしていたつもりがいつの間にか上忍になっていた。

なぜだっ!

「そりゃ、あれだけ任務をこなしていればね。気が付いてないかもしれないけれどAランク任務もちらほら混ざってたのよ?」

とはイズミだ。

「Aランクは中忍の仕事じゃねえ!」

「バカね、だから上忍になってるんじゃない」

そう言う事じゃねーよ。つかだいたいイズミが選んで来てたじゃんかよ任務っ!

はっ!それがいけなかったのか…もう遅いが…

「まあ良いじゃないですか。こうして皆で上忍になれたんですから」

そうスイがなだめた。

コクコクと頷いているカイユは特別上忍枠に昇格している。

中忍と上忍の間の特別な役職なのだが、戦闘能力のほとんどない彼女でもこれだけ任務に貢献していれば昇進せざるを得ない。そこで適応されたのがこの特別上忍と言う事だ。

「だから、俺は上忍になんてなりたくあたたたた」

イズミにつねられた。

「ほら、下忍になったばかりのヒナタちゃんの前でそんな事言わない」

「あ、そうだったそうだった。おめでとうはむしろヒナタ様の方じゃないか」

「あの…こう言う場で…あの、その」

「姉様、ちゃんと言わないとナツ兄さまには通じませんよ。ナツ兄さま、こう言う所では敬称は不要です。どうぞわたしの事はハナビと呼んでください」

「お、おう…」

「ほら」

「えっと…ハナビ?」

「姉様も」

「ヒナタ…?」

「まぁ良いでしょう」

なんだろう、ハナビ、本当に七歳なの…?

「それじゃあ上忍と下忍おめでとうパーティーと行きますか」

「じゃナツのおごりね」

「ゴチになります」

「こくこく…」

「うぉいっ!」

「い、いいのかな…」

「ここでおごられておくのが良い女の条件だよ、姉様」

だからハナビ、ちょっと待とうか。


ヒナタがアカデミーを卒業したと言う事は俺の命のタイムリミットも近いと言う事だ。

鬱だ…どうしよう。マジで…


「と言う事で、しばらく任務で里外へと出ている紅さんの代わりに今回の任務は俺が担当として付く事になりました」

「誰だ、コイツ。紅先生は?」

と動物の牙のようなペイントを頬にほどこしている少年が俺の言葉をまったく聞いていなかったかのように言う。

犬塚キバ。相方の忍犬である赤丸はキバの着ているフード付きのパーカーから首だけを出していた。

「まて、キバ。ここはちゃんと話を聞いていた方が良い…なぜなら…」

遠回りな言い方をするから最後まで言葉を伝えられない場面が多そうなこの男の子は油女シノと言う。

「ナツにいさんっ!」

ダッと駆け寄ってきてそのまま俺に抱き着いたのは日向の血継限界をその身に宿した…言わなくても分かるとは思うが一応、日向ヒナタだ。

「おう、ヒナタ様。ちょっとでっかくなったか?」

「もう、そんなにすぐには変わらないよぉ」

とバカップルの様なお決まりの受け答え。

「おいっ!ヒナタっ!どうしてそんな奴に抱き着いているんだよっ!」

思春期真っ盛りのキバ少年。ヒナタの事が気になってしょうがないようだ。

「…?…なにか変?キバくん」

「普通におかしいだろっ!」

と地団駄。

「まぁあんまり外でやる事でもないな」

この子、生まれた時からの付き合いだからか、ヒアシ様が厳格なために俺に対しては実の両親よりも気安いのではないだろうか。

「とりあえず話を進めるが、今回はこの四人で人探しの任務だ」

ムスっとしているキバと冷静なシノ、空気が読めていないヒナタに長期任務になると告げ、里外へ出る準備をしてくるようにと告げると解散。

俺は依頼人を迎えに行って待ち合わせの中央門へと向かう。

「てめっ!オレ達には長期任務だと言って荷物を用意させておいてテメーは手ぶらかよっ!」

キバが声を荒げて突っ込んだ。

「き、キバくん…あ、あのね、ナツ兄さんは…」

「あー、依頼人の前だ。静かにするように」

そう言って隣に居た女性を紹介する。

「今回の任務の依頼主であるシラナミさんだ」

「シラナミです」

と言ってペコリと頭を下げたのは20歳ほどの女性。

「今回の任務はトナミさんの護衛と、人探しになる」

「人探しぃー?いったいどんなヤツだってんだよ」

と早速キバが話題に噛みついて来た。

「その方はザブロウザさんと言って、私はその方を追って西に東に時には忍者の護衛を雇って探しているのです」

まぁ要約するとこの彼女が住んでいる街にふらっと現れた風来坊に一目ぼれした彼女はいなくなったその彼を探しているらしい。

「一応波の国に入ったと言う情報はつかんだのですが…そこで前に雇っていた忍者さん達との契約も切れまして…」

と言う事で木ノ葉隠れの里に依頼を出した、と。

「その探し人ってあんたの何なんだ?」

とキバ。

「えっと…あの、その…」

と真っ赤にそまった頬で何となく皆理解した。

「しゃーねぇ、きっちり見つけ出してやろうぜっ!なぁ、みんなっ!」

「ああ、そうだな」

「う、うん…でもね?そう言うのは…部隊長であるナツ兄さんの仕事…」

「なんだ、ヒナタなんか言ったか?」

「う、ううん…なんでも」

犬は上下関係をはっきりさせないといけないが…キバ、お前は人間だろうに…もう少し俺を敬え。

しかし波の国、か…今がどのタイミングかは知らないけれど、イヤな予感がする。…ぶっちゃけ行きたくねぇ。



「て言うかそれは卑怯だろっ!」

とは最初の野営で吼えたキバの声。

「何が?」

「なんで巻物から道具が出てくるんだよっ!」

俺が手ぶらだった理由は簡単だ。俺の荷物は巻物一本だったからである。

「時空間忍術の一種だな。巻物に物質を封印し、必要な時に口寄せする」

「だから手ぶらだったて言うのかよっ!そう言う術が有るなら教えろってんだっ」

「教えても良いけど、時空間忍術って結構難しいぞ?下忍になりたてのお前に出来るか?」

「ぐぅっ余裕だってんだよっ!」

誰彼構わず噛みつくなよ。弱く見えるぞ。

「クッソ、なんで出来ないんだよっ!」

「まぁ向いてないんじゃね?そもそもお前はまだまだチャクラコントロールが雑だ。木登りの行から始めるべきだな」

「木登り?そんな子供じみた事を今更できるかっ!」

「ナツ兄さん、夕飯の準備出来ました…ってキバくん、どうしたの?」

ヒナタが夕飯の準備が出来たので呼びに来たようだ。

「ヒナタ良い所に、こいつに木登りの行を見せてやってくれ」

「…?いいけど」

「お、おいヒナタ、今更木登りなんかって、え、え?」

ブゥンと足元に集めたチャクラで吸着しゆっくりと木を登っていくヒナタ。

「手を使わずに?」

「忍者の修行なんだから当たり前でしょ。ま、最初は助走を付けてでも良いからてっぺんまで登って見せろ」

「そんなの、簡単だってんだよっ!」

ウララララララっ!

「ぐあっ」

思いっきり駆けて行ったようだが二歩目ですでに落っこちていた。

「き、キバくんっ!」

「ヒナタ、放っておいてやれ。男はカッコつけたいものだ」

駆け寄ろうとしたヒナタを遮るとキバを置いて夕ご飯へと戻って行った。


「キバくん…大丈夫かな…」

ヒナタが心配するように連日、暇を見ては木登りの行を行っているようだ。

「シノくんはやらなくていいの?」

「オレには必要ない。なぜなら、オレのチャクラはすべて虫にやっているからだ」

「そ、そうなの?」

「必要ないと言うより出来ないのさ。あ、別にけなしている訳じゃない。そこは間違えないように」

とシノに一度視線を送るとつづけた。

「油女一族はその秘伝の忍術を体内に寄生させている虫を媒体とする。その代わりにそのほとんどのチャクラを虫たちに提供している。一つのギブアンドテイクだが、そのために普通の忍術は扱えないのさ」

「物知りですね…ナツ兄さん」

「と言うかヒナタも知っているだろ、カイユは油女の一族だ」

「そ、そう言えば…そうでした」

そんな感じで波の国へと入る俺達一行。

「それで、どんな感じの人なんですか?ザブロウザさんて」

とヒナタがシラナミさんに聞いた。

「それはぁ…キリっとしてて、口元は…見た事ないわね。マスクでいつも隠しているもの。眉毛をそっちゃっているのか少し強面な所もあるんだけど、でも絶対心根は優しい人。その優しさを表面に出せない不器用なひとなのっ!」

「は、はぁ…」

盛大にのろけられた…

「とりあえず、情報収集しつつ捜索と言う事で二チームに分かれる。キバ、シノ、赤丸と俺とヒナタ、シラナミさんだ」

「えーなんだよ、それはっ!」

ヒナタに良い所を見せたいのだろうが、文句を言ってもこれ以外の組み合わせは無い。ヒナタから目を離せば…ぶるぶる…ヒアシ様の鉄拳制裁が待っているからだ。

しかしそう簡単に情報が得られるはずもなく。しばらく外れが続き次へ次へと進んでいく。

波の国は海が近いが、川や湖も多い。

そんな湖の上に立ち互いに拳を構える俺とヒナタ。

「行きますっ」

「来いっ」

バシ、バシっと型を確認するような柔拳による乱打。

バシャリバシャリと足元の水は波紋を描くが互いに湖に落ちる事は無い。

ヒナタの柔拳は、流れるようにしなやかで美しい。

にわか仕込みの武骨な自分とは研鑽の時間が違うのだ。

「ナツ兄さん、さすがですね」

「ヒナタ様に褒めてもらえるとは…ヒアシ様の鬼ち…地ご…ご指導の賜物ですね」

「いいえ…私なんて…でも、本当に見違えました。今の私なんかよりもよっぽど柔拳使えてまえんか?」

バシ、バシと互いに拳を受け流しながら受け答え。

「いやさぁ…聞いてくれよ」

といきなり砕ける。

「ヒアシ様のハードルまじで高けぇの。しかも一足飛びで上げてくるものだから本と鬼の所業…で、出来ないとさらにキツくなるんで…もう裏技を使って練習したよ…とほほ」

「裏技…影分身ですか」

「そう言う事」

印を組むとポポンと現れる二体の影分身。

影分身の経験値は還元される。

「わ、私もっ」

ポポンと現れたヒナタの影分身。

三人に増えた俺とヒナタは三対三で乱打する。

ガサリと木の葉がこすれた後遠くで「ちくしょーーーーーー」と聞こえた気がしたが、あれはキバか。

木登りの行が出来た程度でヒナタに褒めてもらおうとか、若いな。

「さて、最後の街になる訳だが」

くるりと渡航地から大きくない波の国を一周。次の街で最後だった。

「…っ!居ました、ザブロウザさんです!」

と言って今にも駆け出してしまいそうな…いや、駆け出しているシラナミさん。

「ちょ、おいっ!この辺りにはまだ誰も居ないだろうがっ」

とキバ。

「私の一族は自分の一族を繁栄させてくれるパートナーを直感で選ぶんです。そしてその人がどこにいるか大体分かるんですよ」

何…そのストーカー気質…

「くぅん」

「ああ、そうだな、赤丸…」

キバが何かに気が付いたようだ。

「どうした?」

「かすかだが血の匂いがする…ちょうどこの方向だ」

「白眼っ…誰かが…戦ってる…でも霧で良くみえない…」

とヒナタ。

「ええっと…シラナミさんの探し人はこの先に居て、怪我を負っているのか戦闘をしているって事ね」

面倒な。

「だが、このままでは手遅れになる。なぜなら…」

「依頼内容はシラナミさんの護衛と、探し人の捜索…だから」

ヒナタさーん、シノの言葉を最後まで言わせてあげよう?

「シラナミさんっ!ザブロウザさんの特徴はっ!」

「い、いつもマスクをしていますっ」

「お前たち、シラナミさんを護衛して後から着いて来い」

「ナツ兄さんは?」

「俺は先に行くっ」

両足にチャクラを集めると瞬身の術で駆ける。

「はええっ…腐っても上忍ってか?」

「キバくん…ナツ兄さんの事を弱いように言わないで?」

ビキビキと血管を浮かせた眼で睨まれたキバ。

「ご、ごめん…ヒナタってこんなに怖かったか?」

「どんな理不尽な理由でも女性を怒らせるものではない。なぜなら…」

「かー、お前の言葉はいつもすっとろいんだよっ!」


霧の中に入る前に白眼で感知してみればチャクラは七つ…ん、増えたな…なんだこれは…犬、か?

チッチッチと言う空気を割く音が耳に付く。

そしてようやく視界にとらえたマスクの男が…二人っ!?

って、やっぱりかっ!俺の運の悪さもここに極まれりって感じである。

何故なら…だってマスクの男ってカカシと再不斬なんだもの…

どっちのマスクが探し人?ザブロウザさんって?

いや、なんとなく分かるけどさ。もう少しマシな偽名を使っておけよ、ね?

白眼で見ればまさにカカシが再不斬に千鳥を突き付けようとしている所で、そこに割って入るにはもう一歩足りない。

そこに高速で駆け寄る存在を感知。

「ぐあっ!」

俺はその物体…人のようだったが…それを足蹴に最後の一歩を飛んだ。

その誰かを蹴った反動のままマスク男二人の所へと乱入。

「ちょっとごめんよっと」

「お前はっ!?」

今まさに突き入れる一歩手前の千鳥。驚くカカシの肘を掴み軽く軌道をそらせてやると軽い力で宙を舞っていた。

さらに俺は忍犬に拘束されている再不斬の足を払い地面に倒し込むとそのまま体重をかけ肋骨を折り腕を拘束した。

「ぐっ」

再不斬の苦悶の声が聞こえたが、無視して拘束を強めると、ようやく霧が晴れて来た。

「てめぇ」

首を向けて睨みを利かしているようだけどこういう時、白眼の真価が発揮するのよね…

点穴を突いて相手のチャクラを練られないようにして抵抗を殺ぐ。生け捕りには持って来いなのだ。

チャクラの練れない忍者などそこらの一般人よりも少し体が鍛えられている人間でしかない。

そして操るチャクラが切れたのか、忍術で出来ていた霧が霧散する。

「お前、その眼は…日向家の」

カカシが俺の瞳を見て言う。

白眼の血継限界を色濃く継いでいる俺は、分家だがまだ日向を名乗れるほどに眼は薄紫の虹彩をしていて特徴的だった。

「再不斬さんっ!」

「はい、動かないでね」

とカカシが俺に足蹴にされた少年を拘束する。

「な、何が起こったんだってばね?」

金髪の少年…あれがナルトだろう…が突然の事に叫んでいた。

「それで、何しに来たの?」

そうカカシが言う。

「当然任務です」

「そいつはS級の犯罪者、百地再不斬と知っての事なの?」

「え?俺の班が請け負ったのは護衛と捜索の任務ですよ」

「はぁ?どう言う事?」

「俺達の依頼人の探し人が…」

「ザブロウザさーんっ!」

そこにヒナタたちに連れられてシラナミさんが現れた。

そして俺の真下の再不斬へと猛ダッシュ。

あ、やっぱこっちなのね。

「なんだ、おいお前はっ…シラナミかっ!?」

「そうですっあなたの奥さんのシラナミですっ」

「再不斬…結婚してたの?」

とカカシも半眼で呆れている。

「ば、バカっ!そんなもの俺がする訳ねーだろっ!だいたい、俺は鬼人再不斬と恐れられた…」

「知ってます。自分の様な人間をこれ以上生まない為に自里でクーデターを起こそうとした事とか、失敗しても慕ってくれた仲間の為に一生懸命仕事を探していたとか」

「へぇ…そうだったんだ小鬼ちゃん」

と言ってカカシさんがニマニマと笑っていた。

「カカシってめぇっ!ぶっ殺してやるっ!」

しかし体が思うように動かない。まぁ俺が拘束しているのだけれど。

「日向一族の柔拳は優秀だ。しばらくチャクラは練られないよっ!」

それは俺のセリフではなかろうか。虎の威を借るなよ、カカシィ。

「小悪党ぶる所も、実は部下に誠実な所も全部ぜーんぶ私は知っています。だから、私の旦那様なんです。それはもう会った時から分かってました」

「おい、そこの日向…」

「ナツです」

「それじゃナツ。この娘…大丈夫なの?」

「至って通常状態ですよ…」

「苦労したのね…」

いや、たぶん再不斬が絡まなければそれほど面倒でもないのだが…今は暴走してますね。

「と言う事で、私の里に帰りましょう。そして祝言をっ!」

「か、カカシっ!お願いだ、助けてくれ…コイツ話が通じないんだっ!」

慌てる再不斬。しかし体はまだ動かない。どこにそんな怪力があったのかシラナミさんは俺から再不斬をひったくると肩をかしていた。動けない再不斬をお持ち帰りする気まんまんのようだ。

「おうおう、良い感じに弱ってるじゃないか、再不斬」

「ガトー…てめぇ」

ジロリと再不斬はガトーを睨むが、ガトーは後ろに控えた何百もの護衛に強気の態度を崩さない。

「あいつは?」

「俺の依頼人だ。…いや、だった、か?」

再不斬は抜け忍。正規の忍者ではない為に依頼に関する信頼関係など皆無。別に金を払わなくても、と思ったのだろう。

「なるほど、お金を払うのがもったいなくなってこの期に始末しようって事なのね」

「どうするんだってばよっ」

「オレ達が争う理由もなくなってしまったな」

「ああ…」

カカシの言葉に返す再不斬。依頼人が裏切ったのだ、対立する必要ももうなかった。

「オレらの任務はタズナさんの護衛だ。正直再不斬がどうなろうと知った事じゃないが…」

とカカシはナルトの言葉に答えてからこちらを向いた。

「俺達の任務はそこのシラナミさんの護衛兼対象者の捜索なので」

しかたない、とヒナタたちを呼ぶ。

「ヒナタ、キバ、シノっ」

「ようやくお呼びか?」

「キバくん…」

「この状況もこちらが不利とは言えない。なぜなら俺らは…」

「忍者だからなっ!」

「な、ナルト…」

ナルトが他の班の依頼だと言うのにかなり乗り気でガトーの手下と構える気を見せる。

「離してください。ボクにももうあなた方と戦う理由が無い…それより」

とカカシが拘束を解いた少年、白がガトーの前に出る。

「ボクが再不斬さんを守ります」

武器として使用している千本を手にまず白が駆けた。

「あーあ…しょうがない…三人とも、少し懲らしめて来てやって」

「へ、そういう命令を待ってたっ!行くぞ赤丸っ」

「アンアンッ!」

「き、キバくん…まってっ」

「ふっ」

キバ、ヒナタ、シノとガトーの手下に向かっていく。

「オレもいくぜっ!影分身の術」

ボワワンと影分身をして突っ込んでいくナルト。

子どもながらにチャクラを操る忍者とただの人間では天と地ほどの差がある。一般人相手に傷も追わないだろう。

逆にヒナタ達は上手く手加減していた。

「うわあああああっ!」

「ば、化け物だっ!」

と、仲間がやられて恐慌状態に陥るガトーの手下。

ヒナタたちも良くやっているが、そのなか本物の殺気をまき散らし戦場を駆ける童子。

白はその手の千本を投げつけ事の元凶であるガトーの息の根を止めていた。

依頼主が倒れた事でガトーの手下は総崩れ、三々五々に逃げ惑っていく。

追う必要もないとヒナタたちを下がらせ、一見落着。

忍の世界では人の生き死には安いものだが、自分が殺した訳では無いとは言え目の前で人が殺されヒナタ達も少し心の整理する時間が必要だろう。

白にやられて倒れていたサスケもどうやら息を吹き返したみたいだし、カカシ班、再不斬達双方にもはや禍根は無い。

「世話になったな、カカシ。次に会った時は背中に気を付けるんだぜ」

「次なんてありませんよ、あなたは私と結婚して米の国の大名となるのですから」

「はぁ?」

なんだそれは、と再不斬。

「言ってませんでしたっけ?私は海の向こうの国から見分を広めにやって来たんです。私の国やその周辺国には忍は居らず、だからあなたの力が必要なのですよ」

「何を言ってやがる」

「さあ、かえって祝言を上げましょう」

「おい、助けろ、白…はーくっ!」

「いえ、これはこれで面白そうなので…ボクの居場所は再不斬さんの傍と決めてますから」

「あなたがライバルって事ね。でも第一婦人の座はあげないわよ?」

「ええ、大丈夫です。ボク、これでも男なので」

「ええええっ!?」

驚くシラナミ。その気持ちは痛いほどわかる。こんなにかわいい顔をして男と言われてもな…

「カカシっ!助けろ、…いや、助けてください」

「さ、任務の続きと行こうか。一応ガトーからの脅威は去ったが契約はまだ満了されていない」

とさっくり無視をするカカシ。

「こっちは満了印を貰いましたからもう里に帰ります…ええ、もう付き合ってられませんよ」

白が居ればとりあえず並みの相手では敵うまい。任せても大丈夫だろう。

こうしてなぜか波の国に赴いた俺達の任務は波乱の内に終了する事になった。



「中忍試験?」

「はい…今度の中忍試験を受けてみないかって紅先生が…」

休日の昼下がり。皆で甘味屋でお茶をしているとヒナタが言った。

「もうそんな時期か…」

やばい、本格的にやばいっ!

と俺は内心葛藤する。

「へー、中忍試験か…なつかしいなぁ」

「そうですね」

イズミとスイもそんな相槌を入れていた。

カイユは中忍試験は受けていないのでスルー。目の前のオレンジジュースをチューチュー啜っていた


「にしても早くないですか?」

そうスイはアカデミーを卒業してからの日数を数えて言った。

「私たちも一年以上は様子をみたものね」

「ですね…と言うか、ナツがしっかりと任務をこなしていたら…もっと早く中忍試験を受けられたとは思います…」

「うぉい、俺の所為だっていうのかよっ」

「違うの?」

違わないです…

「んっうん…」

「あ、ごまかした」

スイさん、そう言う事は言わなくていーのっ!

「まぁ、受ける受けないは自分で決めて…受けるなら一つアドバイス」

「なんですか?」

「命大事に…中忍試験程度で死んでしまってはもったいないでしょ?」

「何、そのアドバイス…」

「ですね…」

呆れるイズミとスイ。

「人間だもの、忍者だからと試験に命を懸けるのはバカらしいだろ…まぁ命の懸け時は何かを守る時だけで十分だ」

「何かを守るとき…」

「…ナツ」

イズミとスイが何かを思い出したようだが、それ以上は何も言わなかった。

「…何がもったいないのかは分かりませんが…分かりました」

と言ったヒナタは今期の中忍試験に出てみる事にしたようだ。

しかし…ヒナタの強さが絶対原作より強化されているのだが…大丈夫だろうか…?



……

………

一次試験はペーパーテスト。でもカンニングを許容しているテストは白眼の透視能力が有ったので簡単だった。

でもやはり甘くないと思ったのは二次試験。

巨大生物や毒虫などが居る直系10㎞もあるサバイバル演習場…

そこで天と地のどちらかの巻物を渡されて中央の塔へ天地の巻物をそろえて持ってくる事。

と、やる事は簡潔だが、ここからは下忍どうしの殺し合いも許されてる。

私たちの班は運よく罠にかかった敵チームが反対の巻物を持っていたので早い段階で天地の巻物がそろったの。

だけど、それに気をよくしたキバくんが他チームを蹴落とそうと駆けよった所…砂を操り相手を惨殺する砂隠れの忍だったの。

その残忍さに私たちは息を殺して潜んでいたのだけれど…

白眼で見れば私たちを囲むように飛ばされている砂。これはさっき敵の忍を圧殺したものだろう。

…相手は私たちを見逃してくれる気はないんだ。

だったら、こんな所で震えているなんて出来ない。…こんな所で死ぬなんて出来ない。

ナツ兄さまとの約束もある。

砂につかまる位ならと私は地面を蹴って飛び出すと砂の忍三人と対峙する。

「お、おい」

「…ふむ」

飛び出したヒナタに続いてキバとシノも飛び出した。


「てめーらっ!こっちが気配を消して忍んでいたからっていい気になりやがってっ」

ヒナタは優しい。その優しさは生まれ持った才能にすら蓋をするレベルだ。

しかし、相手の善意で優しく光ってばかりは居られないのが忍。そしてあのハナビとの対決の日、相手の悪意を受けえて照り返す事を覚えた。

そう、今のヒナタは気性の粗さで相手の悪意をかみ砕く、月読ヒナタさんである。

「ヒ、ヒナタ?お前どうしたんだよ」

「女性の内面をすべて知っている気になってはいけない。…なぜなら、女性は元来取り繕う生き物だからだ」

「うるせぇ!」

「…いたい」

ヒナタにシノが殴られずざざーと地面をころがった。

「ほ、本当にどうしちまったんだ?」

「ああ?お前も殴られたいのか?」

とキバを睨むヒナタ。

「どうした事じゃん?おどおどした気配が消えてるじゃん」

と隈取をした少年が言う。

「どうでも良い…少しは骨がありそうなのが出て来たな」

「どうするカンクロウ?我愛羅がこうなっちまったらもう止められねーよ」

とくノ一の少女があきれたように手綱を緩める。

「シノはあの陰険そうなツンツンヤローだ。キバはそのいけ好かないバカ女」

「誰がバカ女だっ!こいつぶっ殺してやろうかっ!」

「やめろテマリ。そいつはオレの獲物だ」

「我愛羅…ごめん」

我愛羅と呼ばれた少年がジロリとテマリと呼ばれた少女を睨むと、蛇に睨まれたカエルのように縮こまった。

「ヒナタ、なんでオメーが命令してやがるっ」

「ああんっ!」

ビキビキと白眼に血管が浮かぶ。

「…な、なんでもないです…こえーよ、赤丸」

「くぅーん…」


「いくぞっ!」

と言う言葉でそれぞれがそれぞれの相手に向かっていく。

我愛羅の獲物はヒナタのようで、それに手を出すと自分も殺されかねないのかカンクロウとテマリは援護もせずに向かって来たシノとキバの相手を務める。

スススっと忍び寄る砂粒。

「ふん、バカの一つ覚えみたいにっ」

そう言ったヒナタはバク転で距離を組むと日向はあまりしない忍術印を結んだ。

「水遁・泡沫の術」

ポウポウとヒナタの口からシャボン玉が広がる。

「ヒナタのやろう、水遁だとっ!」

驚きの声を上げたのはキバだ。

彼は同じチームメイトだが、ヒナタは日向宗家の人間。当然白眼と柔拳だけだと思っていた所にまさかの水遁である。

シャボン玉は砂粒にあたるとポポンと音を立てて破裂。中を漂っていた砂粒は爆風にあおられた。

「っ!?」

シャボン玉の巻き込まれた砂を再び操ろうとして我愛羅は驚く。

「操れないだろう?他人のチャクラが混ざったものは操りづらいものだっ!」

ヒナタが隙を付き駆けた。

月読ヒナタはヒナタが扱いきれないポテンシャルを余すことなく発揮し我愛羅に掌打。

しかし砂の盾がオートで我愛羅の身を守る。

「甘いっ!」

「なんだとっ!?」

スパンと振りぬかれた掌打は砂の盾に込められたチャクラを弾き飛ばす。

更に…

「八卦二掌っ!、四掌っ!八掌っ!」

と我愛羅の点穴を突こうと繰り掌手。

「これは…っ…砂を身に纏ってっ」

剥がれ落ちるのは我愛羅を覆っていた砂の鎧だ。

笑っていた。剥がれ落ちた口元の砂の中で我愛羅は邪悪な笑みを浮かべていた。

楽しい、とでも言うように。

「くっ…」

突如として足元の砂が槍のように突き上がるのを白眼でとらえたヒナタは瞬身の術で距離を取る。

「間一髪か…」

ツゥとヒナタの頬から血が滲(にじ)む。どうやら掠(かす)ったようだ。

「お前…なかなか強いな」

と我愛羅。

「それはどうも」

「だが、どうしてお前はそんなに強い?いや、強くなった」

「兄が優秀なもので、妹は付いて行こうと必死なのよ」

「他者との繋がりか…オレには存在しないものか…ならばその繋がりがどれほどのものか、このオレに見せてみろっ」

ポコリポコリと赤いチャクラが噴出したかと思うと我愛羅の周りを覆っていく。

「それ、まさかっ!?」

が、それも一瞬。すぐさまその周りを砂が覆った。その姿は大きな狸のよう。

「ほう、貴様これを知っているのかっ、だったらっ」

地面を蹴って振りかぶった我愛羅の右腕。

「くっ…」

その右腕はチャクラを砂で固めた物。当然伸縮が可能だった。

グンッと伸びた右手がヒナタに迫る。

当然ヒナタは柔拳をたたき込むが、チャクラ強度が段違いだ。

「きゃあっ」

我愛羅の振るった拳を殺ぎきれず食らってしまうヒナタ。

「風遁・練空弾」

「印も結ばず、チャクラだけで…くっ…間に合うかっ…?」

獣の相を見せて来た我愛羅が口に圧縮した風の塊を吐き出したのだ。

ヒナタも急いで印を組み上げる。

「水遁・泡沫の術っ」

無数の泡を口から吐き出して相手の練空弾を弱めると、どうにか着弾前に体を捻る事に成功し直撃は免れたが、かすっただけで結構良いダメージを貰ってしまった。

「ははは、すごいなお前。ここまでオレの前に立っていられたヤツは久しぶりだ」

気分が高揚し始める我愛羅。

くっ…やっぱり尾獣だ。相手は尾獣を封印された人柱力…つまり相手はナツ兄さまとおんなじチャクラを持っている。

バージョン1の内に勝負を決めないと…

襲い来る砂の腕を白眼と柔拳でいなすが、チャクラ量で圧倒的に負けている。

だんだん劣勢になるヒナタ。

「くっ…っ…」

脇腹をかすめた我愛羅の腕。出血は少ないが、後どれほど戦闘が出来るだろうか…

「ははは、面白い、面白いなっ!お前っ」

そう言った我愛羅の尾獣チャクラが高まるとペリペリと肌がめくりあがり黒く染まる。

「やばいっ!バージョン2っ!」

とヒナタが叫ぶ。

「やべーじゃん」

「我愛羅のやつキレやがった」

そうカンクロウとテマリが焦る。

「おい、どうしたんだよっ!アイツ」

「お前らも逃げた方がいいじゃん?」

キバの問いに律儀に助言をしてカンクロウは我愛羅から距離を取った。

「待ちやがれっ!」

「………」

逃げれば追うハンティングの習性かキバとシノはテマリ達を追う。

地面の両手を付いてしゃがみ込むとお座りをしたような恰好で天を見上げたその口の先に黒い球体が収束されていく。

ゾクリとヒナタの肌が震える。

ヤバイヤバイヤバイ…あれを撃たせてはならない。

直感でそう悟ったヒナタの行動は早かった。

「ちょっとだけ練れた…」

相手の行動も止まった事で自身の自然エネルギーを練り仙人モードへと変貌。

…と言っても攻撃一回分。これで決めないと。

練れた仙術チャクラは僅かだ。

瞬身の術で地面を蹴ると今まさにその黒玉を口に含んだ我愛羅を思い切り殴る。

「はぁっ!」

ドンと地面に叩きつけられた我愛羅だが、収束されたチャクラは逃げ場を求めその場で爆発。

「くっ…」

全身のチャクラ穴からチャクラを放出し身構えるが…

ダメ、足りない…

絶望に染まるヒナタの体から赤いチャクラが放出された。

「これは…ありがとうナツ兄ィ!」

ヒナタは前面にチャクラを放出し何重ものチャクラの壁を作ると荒れ狂う爆風をひたすらに耐える。

木々をなぎ倒しながら地面を転がるヒナタ。

「かはっ…」

自爆の体を見せているがやはりその威力は高く、吹き飛ばされた先でヒナタは意識を失った。

「なんだよ、これは…」

キバの呟きもその凄惨な光景を見ればうなずける。

「ヒナタは…あっちか」

匂いですぐにヒナタを見つけ出したらしい。

「我愛羅のやつ…」

「ここは双方痛み分けって事で仲間の救出が優先じゃん?」

「ちっ…シノ、赤丸…行くぞ」

「了解した…」

双方目の前の敵を同行するよりもまず仲間の安否を最優先し離れて行く。

その後、我愛羅を回収したカンクロウとテマリはキバ達を追う事なく、また怪我を負い気絶しているヒナタを回収したキバ達もその場を離れたためにこの戦いは一旦お開きとなる。

が、しかしヒナタは無理が祟ったのか二次試験はキバの背中で寝続けている間に終了し、三次試験はやはり戦える状況じゃなかったためにネジにボロ負けし彼女の中忍試験はそこで終わったのだった。



……

………


それを一番最初に感じたのは十二年前。最近では六年前。

そして来なければいいと思っていた日がまたやってくる。

今日だ。

ヒナタが受けた中忍試験の本線。

それが今日始まる。

中忍試験予選が始まった頃から俺は幾度も葛藤し、具合が悪くなって一日寝込んだりと言う日もあった。

今日、歴史に大きな変更点が無いのなら三代目火影は木ノ葉の里の壊滅を企んだ大蛇丸に殺される。

また、その襲撃で多くの命が失われるだろう。

俺は死なないように鍛錬を重ねて来たし、俺の仲間…イズミやスイも絶対では無いがそう簡単にやられはしないはずだ。

未来を知る俺の決断一つで歴史が変わってしまう節目。それを考えると本当に吐き気が止まらない。

三代目火影には穢土転生された初代、二代目火影の魂を封印して死んでもらわなければならず、大蛇丸には両腕を封印されても生きていてもらわねばならない。

穢土転生は強力だ。いや、初代様がおかしい能力の持ち主だと言う事だが…大蛇丸に再び利用されないためには初代と二代目の火影は死神の腹の中に封印されていなければ困る。

この結果を変えようものならイズミが生き残っているなんて言う波紋以上の事が必ず起きてしまうだろう。

イズミは小石だが、火影は大木だ。水面に投げ落とせば広がる波紋は大きい…いったいどうすれば良いのだろうか。

答えは出ない…

いや、本当は答えを先送りしているつもりで既に出していたのだろう。

答えが出せない、が答えだったのだ。

それが言い訳であろうとも。

中忍試験本線は主催里である木ノ葉の里では大きなイベントである。

闘技場の観客席は忍者、一般人、大名などの招待客で埋まっている。

一応上忍、名門の家系には優先的に入場券が配られるので入場には問題が無かった。

俺はヒナタ、ハナビ、イズミ、スイ、カイユと供に一般ゲートから入場。…宗主の立場のヒアシ様は特待者通路を通るので、ハナビがこちらに来た瞬間めっちゃ睨まれたが、宗家は日向の顔。一般通用門を通る何てことは出来ない。

ヒナタ、ハナビ、カイユと下段に座らせ、その上段に俺とイズミ、スイが座り中忍試験開始を待った。

「始まりますね」

ワクワクと言う感じのハナビの声で第一試合が始まる。

第一試合はうずまきナルト対日向ネジ。

「がんばれー、ネジ兄様っ」

「そ、その…両方…が、がんばって…」

「もう、ヒナタ姉様はどっちの味方なんですかっ!」

「だ、だって…どっちも…その…」

まぁ、ネジにゲンコツを落として以降表面上はヒナタとも上手くやっているネジである。原作ほどの確執は無かったためにどちらを応援すればよいのか分からないようだった。

外延部の席の為会話は殆ど聞こえないのだが…

ネジが何かを言ってナルトがキレたようだ。

「すごいです、ネジ兄様…白眼をあれほどまで」

と瞳術が使えるハナビとヒナタ、俺は白眼を、イズミは写輪眼でその試合を覗いていた。

「うわー…瞳術使いばっかり…ボク達ってすごく場違いじゃないのかな…ね?カイユちゃん」

「…こくこく」

なんてスイが愚痴っているが、知らん。

試合はネジに点穴を突かれたナルトが九尾チャクラを滲み出して辛くも勝利を修めた。

「ナツ」

「ナツ兄さん」

「ナツ…」

「ナツ兄様…」

「………?」

イズミ、ヒナタ、スイ、ハナビとあれは?と言う視線が向けられた。最後のカイユは分からないけど向いてみたと言う感じだろう。

「ま、人柱力だろうね」

それは分かっていた答え。今更俺が言う事でもない。

「何尾の…?」

「木ノ葉に居るんだぞ?」

分かるだろ、と。

「イズミ…お前の仇は何も知らされずに人柱力にされたナルトなのか?」

年齢を考えれば九尾を封印された時は赤子だろう。

「っ………違う、わ」

ぐっと力を霧散させるイズミ。

「それに、力のあるやつが自分からわざわざ人間と言う弱者を襲うと思うか?少なくとも六尾はそんな快楽で人間を傷つける存在ではないぞ?」

何か事情があったのだろう、と。

まぁ、実際はオビトに操られていたのだが。

「…はぁ…わかったわよ、もう」

はいはい、分かりましたーと拗ねるイズミ。

二回戦。

始まるのは奈良シカマルとテマリの試合。

「あ、影縛りの術だ」

とスイ。

「今は影真似って言うらしいぞ?」

「え、そうなの?」

おい、オメーが知らねーのかよっ!

なんて突っ込んでいるとシカマルのギブアップで試合終了。

さて試合は順調に消化していきついに一回戦最終組であるサスケと我愛羅の試合が始まる。

「ナツ兄さん、…あの子と二次試験で戦ったのですが」

「へ、へぇ…」

戦ったのかよっ!と言うか良く生き残れたなっ!

「あの子もその…人柱力、なんですよ」

「尾の数は?」

とイズミ。

「一本までしか見てませんが…狸みたいでした」

「…それは一尾で間違いないな」

「人柱力のオンパレードね」

「この試合…大丈夫でしょうか、サスケくん」

「まぁ、危なくなったら試験監たちがどうにかするでしょう」

「どうにかなりますか?」

「尾獣化しなければ…たぶん…」

砂の我愛羅は砂を用い鉄壁の防具でサスケの攻撃をしのぐ。

サスケはサスケでこの本線までのひと月で仕上げて来たようで技の切れ忍術共に下忍のレベルではない。

「あれは?」

防御態勢で引きこもった我愛羅に距離を取ったサスケは印を組むと右手がバチバチと放電し始めた。

「カカシさんの勇名に一役買っている彼の技。雷切り、正確には千鳥と言うらしいけど」

「相変わらず物知りね」

知ってる事だけ知ってるの。

「写輪眼でコピーは?」

「雷遁みたいだし、バッチリ」

「あ、そう…」

写輪眼、便利だね…

いいなぁ…写輪眼……

ゾゾっ

「ナツ兄さん…?」

「何かな?ヒナタ…」

「白眼、かっこいいですよね?」

「は、はいっ!!」

さて、写輪眼の洞察力で我愛羅のカウンターを見切り正面からその千鳥を突き付けるサスケ。

だから…

あ、はい、うん分かってるからそう睨まないでくれヒナタ…

と言うかハナビまで増えてるっ!

土遁には雷遁が有効。その関係で我愛羅の防御を突き破るサスケの雷切り。

「写輪眼…もう開眼しているのね」

そうイズミが言う。だがお前は何歳で開眼したよ?

まぁ、サスケとイズミの接触を極端に回避させ続けて来たのだから仕方ないが。

…これは決まったか?と皆が思った瞬間にひらひらと舞い散る幻影の羽。

「これは…幻術っ!?」

イズミ、スイと幻術返し。

カイユは体内の虫が幻術を解いていた。

このまま幻術に掛かったふり…は流石に出来ないか。イズミやスイと一緒に幻術返しの修行もしていたからね…

「解っ!」

ついでにヒナタとハナビの幻術も解いておく。

「うっ」

「あれ…これは…」

とヒナタとハナビ。

「幻術だ…そして」

シュンと風切り音を立てて襲い来る何者か。

「はっ!」

「やっ!」

イズミとスイが襲って来た誰かに拳を当て弾き飛ばす。

「戦争だっ!」

撃退した誰かの額あてを見れば音隠れの里の額あて。周りを見れば砂隠れの額あてもちらほら見える。

ついに大蛇丸が木ノ葉崩しを仕掛けて来たのだ。

「流石に暗部だけに任せる事は出来ない、私たちも行くわ」

「はいっ」

イズミとスイはすぐに駆け出す。

俺は三人を守らないと。

ハナビ、ヒナタは日向家宗家。敵の忍がこの気に攫う事も考えられる。

「はぁっ!」

「やぁっ!」

……護衛、必要ないかな?

二人とも既に下忍を超える実力だ。いざとなれば渡してある六尾のチャクラが呼応するように仕組んである。

そう簡単にはやられないはずだが…

「行ってくださいっ!イズミ姉さん、スイさんと一緒に里を、火影様をお願いします」

「こっちは大丈夫です」

とヒナタとハナビが力強い声で宣言。

「…怪我は私が治しますので」

カイユが居れば大怪我はない。

攫われたのなら飛雷神の術で助け出す事が出来る。

「まぁ一応…木遁・木分身の術」

一人分の木分身を残し俺はイズミの元へ。

「火影様っ!」

白眼でイズミを追えば、結界忍術・四紫炎陣で隔離されていた三代目の所へ耀遁チャクラを纏って強引に結界を通り抜けた。

「…おいおい、無茶をする」

四方を覆う炎の結界を無理やり通るとは…まぁ今回は属性が炎だったからこそ、か。

「ぬぅっ!誰じゃっ…ってしまったっ!」

そりゃ驚くだろう。四紫炎陣を抜けて来るものが居るとは、ね。

て、タイミングが悪いっ!?

「三体目だとぉっ!?」

俺が驚いたのは穢土転生で現れた三つめの棺。

「大丈夫ですか、火影様」

「ぬ…イズミか。大丈夫ではあるのだが…ちとタイミングが悪いのぅ」

「へ?」

大蛇丸が呼んだ穢土転生は本来は二体。それは三体目の口寄せを三代目が阻止したからだ。だが…

棺から現れたのは初代様、二代目様…そして四…

ちがうっ!

ヤバイ…ヤバイヤバイヤバイヤバイっ!

「これはどうしたもんかの」

「兄者、これはワシの穢土転生の術じゃ」

「ほう、それでか。懐かしい顔がそろっておるの…のうマダラ」

「…これは?穢土転生か…」

初代、二代目火影と来て、四代目…な訳がなかったのだ。

四代目は屍鬼封尽で死神の腹に封印されているため冥府におらず口寄せできない。

それなのに三体目を呼ぼうとしていた大蛇丸。解術が間に合わず呼ばれてしまった三体目が一番の凶悪なアノ…

「サルよ。このような結果になって残念だが、ワシらはお主と戦わねばならぬようだのぅ」

「いつの世も戦いか…」

「二代目様、初代様、申し訳なく…」

「よい」

「………オビトめ、失敗したのか?」

三人目はヨボヨボのジジィであった。


「思い出話に花を咲かせてあげられる時間は無いの。さあ、子弟どうし、また歴代最強と言われたうちはの棟梁の力、みせてちょうだい」

ズブズブと三人に命令符が埋め込まれると人格が縛られたのか表情が失われた。

「火影様…彼らは…?」

「あの人たちは初代様、二代目様とお主の一族最強の男だったうちはマダラよ。穢土転生は冥府よりその魂を呼び寄せる。…生きた人間を贄にしての。大蛇丸め、自分の配下すら道具のように使いおって」

「そんなっ!?」

「さあ、私にあなたたちの力をみせてっ!」

と言う大蛇丸の言葉が合図になったようで、いきなりマダラが高速で印を組み上げた。

「火遁の印っ!?」

「火遁・豪火滅却」

それでも写輪眼でコピーしたイズミは威力は落ちるが遅れて豪火滅却を使うが、相殺できず。

「水遁・水壁陣」

三代目が水柱を吐き出し押し負け始めたイズミの火遁事遮った。

「木遁秘術・樹界降誕」

くっ…いくらイズミが結界内に入っているとしても流石に劣勢かっ!

俺は飛雷神の術でイズミの傍に飛ぶ。

「お主っ!」

「ナツっ!?」

「逃げるぞっ」

イズミと三代目を連れて外へと飛ぶ。

すると結界の中を埋め尽くさん限りで樹木が生え絡まっていた。

「お主…今すぐワシを結界の中へ戻せ」

「なぜですっ!」

「結界が有るから木ノ葉の里に被害が及ばぬのだ。大蛇丸の狙いはワシよ。ワシがおらねば結界は必要ない。それでは木ノ葉の里がこれ以上被害が出る」

くぅ…

「ナツ、飛べる?」

「クナイは置いて来た…」

「ならば早くせいっ!」

三代目の恫喝。

「くそっ!」

結界の中に戻るしかない…

俺が拾い上げた小石(イズミ)はきっともう大きな波紋を水面に波立てていたのだろう。

俺の不安をこれでもかと増大するような何かは、しかし俺は後悔したくない。

イズミを助けた事。これまで一緒に生きてきた事。その全てに…だからっ!

「え、ナツ?」

ふっと戦っていたスイの隣に飛雷神の術で飛んで現れ疑問を口にした瞬間にもう一度今度はスイも連れて飛んだ。

木遁による蹂躙がひと段落した四紫炎陣内へと。

「え、え?どういう状況?」

とスイ。

「敵は相手の術で甦った初代火影、二代目とうちはマダラ、後は首謀者の大蛇丸の四人」

「ええっ!?何その最強タッグっ!?」

「だけどこれでこちらも四人、これで」

「だが、穢土転生で甦った死者はどれほどの事をしても死なない。たとえ腕がもげてもすぐに再生されてしまう」

「お主、詳しいのう…禁術じゃぞ?」

「あは、あはは…」

とりあえず三代目の追求を笑ってごまかしておいた。

「ええっ!?何そのパーフェクトゾンビはっ!?だめじゃん、ボク達勝ち目ないじゃん」

「やりようは有る。幸い、大蛇丸はまだ全盛期の力で呼ぶまでには至ってないようだからかなり劣化している」

「あれで劣化?」

イズミは先ほど強烈な火遁を相殺できずに力負けした所だった。

「じゃ、じゃあ術者を殺っちまえばいいてことですか?」

「残念ながらこの術は術者をぶっ殺しても止まらない。と言うか相手は大蛇丸。伝説の三忍の一人だぞ?」

倒せると思っているのか?と。

「う…」

「術者を倒しても止まらない。死者はどんな事をしても死なないなんて、無敵の術じゃないのっ!」

「でも何事にも戦い方はある」

スイの言葉にイズミが応える。

「封印…せねばならぬのう」

と三代目。

「封印術ね」

「誰ぞ封印術を使えるかの?」

イズミの言葉に三代目も続ける。

「ボクは影を使った封印術は一応…」

「俺もオーソドックスなのなら…だが、それじゃ意味がない。相手が術を解除してしまえば魂は封印術を抜けて冥府に帰ってしまう。となればまた呼ばれてしまう可能性が出てくる」

「…なら封印術はワシが使う。お前たちは援護じゃ」

「三代目…まさか…」

「どこまで知っているのか分からぬが、今は何も申すな」

くっ…



「ネズミが何匹が侵入したわね」

と大蛇丸が言う。

今の初代様たちはそれこそ大蛇丸に操られる傀儡。自立行動は命令が有るまでしない屍だ。

「その眼、白眼に写輪眼…日向にうちはね…欲しいわぁ…」

ゾゾゾ…

お姉言葉のヤローに嘗め回すように見られた…しかも伸びた舌で舌なめずりされた…イヤーっ!

「それと、あなたは…別にいらないわ」

「要らないって言われたっ!?ボクは確かに血継限界は持ってないけどっ!」

「じゃあ欲しいって言われたかったのか?」

とスイに問うとものすごく微妙な顔をされた。

「それはずぅえったいにイヤっ!」

「あら…生意気な子ね」

大蛇丸が面白いものを見たような声で言った。

「さて、初代は俺、二代目はスイ、マダラはイズミが足止めする」

「出来るかしら、あなた達に」

嘲笑する大蛇丸。

「出来るっ!」

スゥと隈取が現れた。

「…あなた、それはっ!」

影分身は中々の自然エネルギーを練ったようだな…これなら…

「イズミ、スイ」

それぞれコクリと頷くと俺の手を取った。

「お前たち…そいつは、初代様の」

俺から自然エネルギーを受け取ると仙術チャクラを練り二人にも隈取が現れた。

「…仙術…あなた達それをどこで…」

「独学だがな…それでも上手く練りこめていると思ってるぜ」

「木遁・挿し木の術」

様子見と初代様の木遁が飛んで来る。

「木遁・木錠壁」

眼前に現れるシェルター状の防御壁。

「木遁っ!?日向のあなたが…?サルトビ先生、まさか初代の細胞を日向の子に…あなたもワタシを責められないわねぇ」

「まて、ワシは知らんぞ…まさか根が」

「いや、三代目も暗部の根も関係ない。俺の努力だ」

「努力で血継限界を…?何というセンス。…仙術だけでも驚きじゃと言うのに」

「この話は後で、イズミ、スイっ」

「うん」
「はいっ」

散!

木錠壁から飛び立つとそれぞれの相手に向かう。

「イズミ、スイ出し惜しみは無しだっ!」

と言う言葉でイズミは耀遁チャクラモードの上に万華鏡写輪眼を、スイは遥遁チャクラモードで駆ける。

遥遁とは風と陰のチャクラを混ぜた血継限界。スイが俺とイズミに置いて行かれないようにと身に着けた努力の結晶だ。

さて、これじゃ俺も見劣りするな。

溶遁チャクラモードで酸を纏う。

今の俺にうかつに触れば火傷じゃすまないほどに強濃度の酸を纏い地面を蹴る。蹴った地面が焼けたほどだ。

「木遁・挿し木の術」

初代の木遁忍術により無数に飛来する枝葉。

「溶遁・溶解の術」

ブワッとまき散らした酸が挿し木の術が届く前に溶かしつくした。






「さて、数を増やすとしましょう」

ポポンと二代目火影の影が生み出された。

「影分身、それは二代目火影が生み出した禁術なのよね」

と大蛇丸。

「遥遁影分身」

スイの体がいくつも現れる。

「影分身かっ!」

三代目も驚いているが、スイのそれは影分身ではない。風は偏在する。すべてが実体であり、すべてが残像。

「火影を侮らない方が良いわよ」

技の切れは戦乱の世であった二代目火影の方が上か。

キィンとクナイが投げられる。

「これは…っ!」

飛ばされたクナイへと飛んで突如現れた二代目火影がもっていた忍者刀でイズミを切り裂く。

「スイっ!」

狙われたのは本体のスイであると言う事実に三代目火影が声を発する。

だが…

切り裂かれたスイは風となり消えた。

「分身…じゃとっ?いつの間に」

いや、あれはやられる前までは確かにスイの本体だった。

しかしあれが遥遁影分身の効果。たとえ本体がやられても、次の自分の分身体へと本体が移動する。

影分身の上位術。それが遥遁による分身術だった。

「でもボクが出来るのって本当に少ないんだよね」

分身体に出来た影も操り影縛りの術を使うスイ。

飛雷神の術で回避する二代目だが…

「飛雷神の術はイヤと言うほど使われてるからねっ!」

二代目が飛んだ瞬間に投げたクナイへと影を伸ばす。

「…ほう、やるな、奈良の…名は?」

「スイ…奈良スイです。二代目様に名前を聞かれるとは、ボクもなかなか成長したかな?」

と胸を張るスイ。

「うむ、見事ワシを止めたのう」


「「木遁・木分身」」

ゾゾっと体か出穂(しゅっすい)するように木で出来た分身が現れる。

それぞれ二体出して相対する。

それぞれ取っ組み合う。

「ほう、木遁を使うのかっ面白いのう。木遁が使えるのはワシだけでちと寂しい思いをしたものよ」

ちぃ…体術ではまだ初代が俺の上を行くかっ…いや、当たり前かもしれないけど。

更に面倒な木遁には木遁を当て相殺せざるを得ない。

「ははは、楽しいのう」

楽しむなよっ!

「だが、まだまだ木遁の制御があまい」

そりゃあ俺は木遁だけに時間を使えてないからなっ!

初代の攻撃あ体に当たると言う瞬間、木分身とすべてで飛雷神の術を使い飛雷神の術で飛雷神の術を回す。

まだこの酸の威力を見せる所じゃない。

「ほう、これは扉間の飛雷神かっ!やりおるのうっ」

「この技は知らないだろうっ!」

飛雷神を回しながら螺旋丸を使い初代を攻撃。

「やりおるっ…だが、あまいのう」

ズズっと体から木が生えてきて俺を刺し貫くように攻撃する初代。

ここっ!

だが、その攻撃は体に触れるとチャクラの酸に溶かされて焼けた。このために今まで初代の攻撃を酸で受け止めなかったのだ。

「溶遁・螺旋丸っ!」

螺旋丸が触れると一瞬で人一人を飲み込む大きさまで広がり乱回転した酸の嵐が中に入った獲物を溶かし焼き尽くす。

これほど焼き尽くせばとりあえず復活には時間が掛かるだろう。

ちらりと三代目を見れば影分身をした上で大蛇丸と戦いつつ封印術の用意をしていた。

さて、後は…

「うちはの者がオレの前に立ち塞がるとはな、因果なものよ」

「うちは…マダラ…」

「ほう、写輪眼は開眼しているか…どれ少し遊んでやろう」

「「火遁・豪火球の術」」

ボウと互いの炎弾がぶつかり合う。

「くっ」

キィンキィンと隠れて飛んできた手裏剣を手裏剣を飛ばして撃ち落とすイズミ。

「良い眼をしている」

「はやいっ!…きゃあ」

マダラは渾身の力で拳を振りぬいた。

ジュッと耀遁チャクラに触れた瞬間にマダラの腕は燃え上がるが…

「ふん、不死の体だとこういう面白みのない戦いもできる」

燃えた部分を手刀で切り離すと燃え尽きた右手に再びチリが集まり再生されていた。

「さて、次は眼で語る戦いをしよう」

写輪眼には写輪眼で相手をする。ナツの選択は間違っていない。

イズミとマダラが写輪眼で互いに相手の攻撃を先読みし、牽制しながら戦っている。

「…瞳力が弱いな、この程度の穢土転生ではオレも柱間も全力とは程遠い」

「あら、言ってくれるわね」

と大蛇丸。

「この程度しか出来んとなると、本当に出来の悪い…これでは万華鏡も上手く使えん」

だが、まあとマダラ。

「ひよっこ相手にはまだ丁度良いハンデよ」

「火遁・豪火滅却」

ボウとイズミの火遁が炸裂する。

「ほう、一度のコピーでもう自分のものとしたか…だが」

マダラも高速で印を組む。

「火遁・豪火滅失」

「っ!?」

豪火滅却を上回る火勢がマダラから放たれる。

…マズイ、これを後ろにやるわけにはいかないっ!

イズミの決断は速かった。

スゥと写輪眼の勾玉が寄り集まって万華鏡へと。

そしてマダラの炎弾を封印する。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

これほどの火勢を封印するのはかなりのチャクラを使ったようで方で息をするイズミ。

「ほう、万華鏡まで…中々に良い眼だなしかし…」

とマダラは嘆息する。

「万華鏡まで開眼しているにしては闇が足りん…ふむ、あいつか」

ジロリとマダラはナツをみる。

「千手とうちは、木遁使いと写輪眼、水と油のはずなのに良く混ざっている…」

面白い、とマダラ。

「少し教育してやろう。そしてもっと闇の深淵を知れ」

「……っ!万華鏡…写輪眼…」

そして現れたのは巨大な肋骨。更にそれは上半身のみの巨体となっていく。

「これが伝説に聞くうちはの須佐能乎…」

恍惚につぶやく大蛇丸。しかしマダラの表情は不満そのもの。

「…この程度か…まぁひよっこ相手にはちょうど良いか。どれ、教育してやろう。うちはの戦いと言うものを」

現れた須佐能乎はまだ修験者の法衣を着込んでいない裸体。そして武器も何も持っていない巨人である。

だが…

具現化したチャクラの塊はそれ自体が脅威。

振るわれる巨大な質量による須佐能乎の拳。

「ほう…須佐能乎か…本当に良い眼をしている」

「はぁ…はぁ…はぁ…」

イズミの周りに具現化する巨大な肋骨。それがマダラの須佐能乎の拳を受け止めていた。

「それまでの闇を知りながらなお深淵に堕ちないとは…」

「ああああああっ!」

一気に炎が舞い上がりイズミの須佐能乎を包み込んだ。

「…それも性質変化も加えてある。本当に…惜しい」

封印したマダラの火遁のチャクラ性質変化で法衣を纏いイズミの須佐能乎が完成する。

「須佐能乎…あの娘…ダメね、イタチくん以上に薹(とう)が立っているわね」

「大蛇丸、油断している隙などあるのかっ!お前の相手はこのワシじゃ」

と封印術の準備が出来た三代目火影が戦線に上がってくる。

「老いぼればしゃしゃり出て来て何になると言うのっさっさと殺してあげるわっ」

大蛇丸と三代目の戦いが繰り広げられているが、誰も目の前の相手に加勢は出来ず。


「ではその須佐能乎がどれほどのものか、見せてもらうとするか」

「生きている人間の進歩をなめないでっ」



イズミとマダラの頂上決戦をよそに三代目火影の封印術が初代と二代目の火影に決まり封印された。

「屍鬼封尽…三代目…」

「俺も大蛇丸を…」

「大蛇丸はワシにまかせい、お主とスイはイズミの援護に迎え。マダラを止めるのじゃ」

「だけどっ」

「行けぃっ!」

弟子を止めるのは師匠の役目と譲らず。

「くっ…スイ…」

「う、うん…」



三代目火影に恫喝されてマダラの所へ。

「三対一か…これは流石に分が悪い…それに…向こうも…」

封印術が決まればもうマダラは復活できない。

だから俺たちの役目はマダラの動きを封じ三代目の封印術の援護を待つ事。

「どうにもこちらを縛る力も弱くなっているようだな…今封印される訳にもいかん…」

「何を言っているのよ…?」

「この場にもう用は無い」

「ま、まてっ!い、イズミ、封印をっ!」

「くっ須佐能乎を使いながらでは…」

クソっ!

マダラの魂が穢土転生の縛りから抜け出し昇天していく。

「た、助かった…」

とスイが言う。…だが、俺は…出来ればマダラを封印してしまってほしかった。

「三代目はっ!」

振り返れば大蛇丸に屍鬼封尽を施していた。

このまま大蛇丸を封印してしまえば…だが、やはり三代目火影の残りのチャクラでは大蛇丸を封印する事は叶わず。

両腕だけの封印で大蛇丸を逃がしてしまった。

「三代目っ」
「火影様っ」
「三代目様っ」

駆け寄るとまだ息が有るようだ。

「すぐに回復を…」

「無駄じゃ…屍鬼封尽を使った術者は死神にくわれて死ぬ…ワシの命はもう尽きる」

「そんなっ!?」

「何とかならないのっ!ナツっ」

三代目火影は俺が知るものがたり通りに死のうとしている。

これで良い…これで良いはずだ…だが…これで元通りだと見捨てていいのだろうか?

俺はもうそろそろ決意する頃だろう。

「イズミっ」

「な、なに?何か助ける方法が有るの?」

「ああ。屍鬼封尽は死神と契約して自らの魂を捧げる封印術…だったら、その死神を封印してしまえば良い」

「なるほど、そう言う事ね」

「何を…する…気…なのじゃ?」

「三代目の腹に手を当ててみろ」

と言う俺の言葉でイズミは従い手を当てるとどうやら見えたようだ。

「これは…」

「それをイズミの万華鏡写輪眼で封印する」

「やってみる…」

グンとチャクラが目に集中される。

「チャクラが足りない…」

「頑張れ、イズミ」

「頑張ってください」

俺とスイがイズミの両肩に手を置くとそこからチャクラをイズミに流し込む。

イズミの万華鏡写輪眼がぐるぐると回ると三代目の腹にある八卦の封印式に死神を封印した。

「くっ…う…」

「これなら三代目もしばらくは延命できる」

「延命…なんですか?」

とスイ。

「三代目の命は初代、二代目を封印するときに消費してしまっている。もう忍として戦う事も出来ないほどになるだろう」

「…でも、助けられてよかった…良かったよぉ」

と言ってイズミはぽろぽろと泣いていた。

木ノ葉崩しは多大な被害を起こし、多数の死者を出したその戦いはこうして終わった。

ただ一つ俺が知っている歴史と違うのは三代目火影は死ななかったと言う事だろう。だが、それが今更なんだと言うんだ?

俺は俺の選択ですでにイズミの命を救っているではないか。

つまりはそう言う事だ。

そう言う事なのだ。



三代目は生きてはいたが、この事件でいつまでも火影でいるには弱い。

そこでやはり新しい火影を選出する事になった。

候補は三忍の一人である自来也。しかしやはり自来也は固辞し、同じ三忍の一人である綱手を探してくると言う。

木ノ葉を襲った大蛇丸の策略は様々な傷跡を残し、しかし皆忍び堪えて復興へと向かう。

「この光景を見るのも二回目だな」

と木ノ葉の里の外延部の城壁に座って里を眺めながら独り言のように言う。

俺が記憶している一度目は九尾襲来での事だ。

「そう思うだろう?イタチ」

「バレていたか」

すっと俺の背後に音もなく忍び寄ったイタチが言葉を発した。

「お前のチャクラは覚えているよ。忍ぶつもりなら写輪眼くらい閉じておくんだな」

白眼の感知能力で警戒すれば来ていたのは分かっていた。

「お前ほどの相手にそれは油断だ」

「そうか?」

「イタチさん、この方は?」

と大刀を背負った魚のような眼をした大男が問いかけた。

「鬼鮫か…昔ちょっとな」

「あ、でもこんな所で見つかっちゃって目的が達成できなくなってもつまりませんし、私がやっちゃいましょうか?」

と言って大刀を握る鬼鮫。

「やめておけ。俺が殺しきれなかった男だ」

「イタチさんほどの人がですか?」

「ああ、それにコイツをやっても意味は無い。こいつは分身だ」

そう言うとイタチの写輪眼が鋭く光った。

「あらら、その眼…ますます冴えているね。まさか木分身(こいつ)を見破るとは」

「白眼のお前に褒められるとはな」

「だから、白眼を持ち上げないでくれる…?白眼は睨んだだけで相手を幻術に掛ける事も、視界を媒体にして炎を操る事もできねーって」

「この人、イタチさんの万華鏡写輪眼の事に詳しいみたいですけど、大丈夫なんですか?」

「……用心しておけ。分身と言えどコイツは油断ならん。使う忍術もどこかおかしなものばかりだ。邪道とはまさにコイツの為にある言葉だ」

「あらら、イタチさんがそこまで褒めるなんてね」

褒めてたのか…

「…イズミは元気か?」

「元気にしているぞ、それもスゲー美人になった。まぁ絶対に会わせないがな、さすがにお前に会ったら殺し合いになりそうだ」

「ふっ…そうか…」

イタチにどんな理由があったとしても、一族の…母親の仇である事実は変わらないのだから。

「このまま…」

とつぶやくイタチ。

「なんだい?」

「このままうちは一族の勇名を知る世代が居なくなれば、うちはは穏やかに生きられるだろうか」

と。

「サスケの子供辺りの時代には本気でうちは最初の火影となる時代も来るかもな」

「そうか…それは」

楽しみだ、と目を細めるイタチ。

「通すのか?」

「ん、ああ…きっとイタチは失敗する、と思っているよ」

木ノ葉に潜入しようとしているイタチを止めない俺に対しての言葉だ。

「…そうか」

「なぁ、もし…」

「なんだ」

さっきと立場が逆だな。

「俺がもし、もっとちゃんとお前と一緒に居てやれたら…他の選択枝があったと思うか?」

と言う問いにイタチはゆっくりと目を閉じて黙考。

「……いや、結果は変わらない。うちはは滅びる」

「…そうか」

と言う会話の後、木分身は鬼鮫の鮫肌にチャクラを削り取られて木偶へと変じた。


と木分身がイタチと会話している頃、本体の俺はイズミ、スイと共に三代目火影ヒルゼンの私室に呼ばれていた。

話をしたいと言う三代目の言葉に俺はご意見番とダンゾウが居ないのならば、と答えると彼の私室へと招かれたのだ。

「人払いは済ませてあるよ」

そうヒルゼンが言う。

まぁ、白眼を持っている俺の前でこの手の嘘をついてもしょうがない。

「先日の件なのじゃが」

「何もお答えする事は出来ません」

「ナツ?」

「つれないのう。しかし、それも仕方のない事か。ワシはもう引退を決めたし、忍として戦えぬ身。ワシが知っていたとしてももう守ってやれる事でもないからのう」

このまま弱ればダンゾウにさえその権力で抜かれてしまうだろう。

「まぁじゃから、どうやってなどとはもう聞かん。ただ、これを受け取ってほしいだけじゃ」

と言って渡されるのは一本の巻物。

「巻物、ですか?」

とスイ。

「ワシの火の意思は里の皆に確かに芽吹いておる…そっちは何の心配もしておらん。じゃからお主たちにはワシの術を託したい」

「術?」

とイズミ。

「ワシが生涯を掛けて研究してきた術の数々じゃ。四つもの血継限界を己で開発したお主たちならワシが集めた術も使えるじゃろうて」

ああ、バレてるよね…耀遁、溶遁、遥遁と三ヨウ遁を使っていたし、木遁も披露している。

巻物を開いてみる。

「口寄せの契約の巻物?」

「それはワシが仙猿の里から預かっている契約の巻物じゃ。利き手を出し血文字で名前を書くが良い」

と言われてスススと三人とも血判。

「そこにワシの集めた術を残してある」

そこ、とは仙猿の隠れ里の事なのだろう。

「それを俺達にどうしろと?」

「伝え、継承していくことも先人の務め。ワシが集めた術をお前たちに託す。お前たちはいつかその弟子たちに託せ。良いな」

と言うヒルゼンの言葉に俺達三人は言葉は無く、ただ深く頭を下げるだけだった。


契約猿の逆口寄せで仙猿の隠れ里へと移動すると、飛雷神の術の術式を刻んだので後は好きな時に来れる。

この仙境は自然エネルギーで満ちていて周りには多種多様な猿が暮らしていた。

姿かたちが猿と言うだけでその暮らしぶりはむしろ人間と遜色ない。

「ヒルゼンの頼みじゃから口寄せ契約自体は認めるがな、じゃからと言って皆が口寄せに応じる訳じゃないぞ」

と老猿の猿魔が言う。

「こっちじゃ」

そう案内された先には岩で出来た猿の形をした屋敷があり、その中に数多くの巻物が乱雑に置いてあった。

「…これ?」

とイズミ。

「ボク達の最初の仕事はお片付けと言う事ですか?」

スイも呆れたように言う。

「まぁ、そうなるだろうね…とほほ」

とりあえず、影分身で掃除をした後、巻物の中身を確認し分類する作業。あまりにも多い蔵書に終わるまでに一週間以上かかってしまった。

で、途中襲い来る猿共をちぎっては投げちぎっては投げと舎弟に下していく。

ぶっ飛ばすのは俺のなのだが、その俺がイズミとスイに殴り飛ばされる光景で力関係を悟ったらしい。

イズミとスイには最初から従順な態度を取る猿共だった。

「はぁ…はぁ…まさか仙術まで身に着けているとはのう」

とは最後に戦った猿魔の言葉。

「はぁ、はぁ…自己流だがな…はぁ…しかし、まさかここが水簾洞だとはね」

互いに全力で戦った為に息も切れ切れ。

四尾の故郷である水簾洞。

どうやら彼の眷属である猿たちには己が仙術を教え込んでいたらしい。

「出来れば…もう少し早く来たかったよ…そうすればもう少し楽だったかもしれない」

「それだけ上手く練りこめているのはたゆまぬ努力の賜物じゃぜ。来なくて正解じゃったのう」

そうなのか?

「それに、我らとにた仙術じゃな」

「えっと…教えてもらったのも仙猿なので」

「長は留守じゃが…どこで何をしておるのやら」

「さて、どこかに旅でもしているんじゃないですかね」

「ふむ…まぁ長は一所に留まる気質じゃないしのう」

あ、そうですか。

「そう言えば、何かを忘れているような気がするんだけど」

「え?何かあるか?毎日家には帰っているだろう」

そうイズミの声に返す。

「ボクもなんか忘れている気が…いや誰か足りてない気も…」

「誰かって………あっ!!」

「あ…」
「ああっ!」

後日、めっちゃカイユさんに怒られました。

「………うぅっ……」

それはもう涙目で無言で訴えてくるんですよ…こちらは誠心誠意、ただ平謝り。土下座を続けてようやく許してもらえましたとさ。


「おまえらわぁあああああっ!」

「「「ひぃっ!?」」」

火影室に怒声が響く。

「里がこの忙しい時期に休暇とは、良い身分だなっ」

と五代目火影である綱手の怒号。

「は、初顔合わせでいきなりソレは…」

「お前たちだけだぞっ!私とまだ顔を合わせていない上忍達はっ!…いったい何をしていたのだ」

「いやぁ…先代の書庫の整理を…あはは…」

流石に教授(プロフェッサー)と呼ばれた忍。その集めた術は千を超えていたのだ。時間も掛かろうと言うもの。

「まったく、もう少し早く戻ってもらえれば危険な任務を下忍となりたての中忍になど任せはしないと言うのに」

「何があったのですか?」

とイズミ。

「サスケが連れ去られた…いや、状況を見るに里抜けしたと言った所か」

「サスケがっ…なんでっ」

「大蛇丸にかどわかされたと見て間違いないだろう」

「でも、どうして里抜けなんて」

とスイ。

「この間うちはイタチがこの里に現れてな」

「なっ!イタチ君が…」

イタチはうちは一族を虐殺した張本人。つまり生き残りであるサスケとイズミの仇でもある。

「イズミ」

「…大丈夫よ。ありがとう、ナツ」

そっと握ったイズミはどうにかイタチへの憎悪を振り払う。

「いくら婚約者でもこういう場面では…」

「なんだ、スイ。それじゃあお前も繋ぐか」

「え、ちょっと…ええっ!?」

握ってやれば真っ赤に顔が染まった。

「ラブコメは他所でやれっ!」

綱手の恫喝。独り身だからって…

ジロリ

あ、いえ何でもありません。

おずおずと手を放す。

「そしてそのサスケの復讐心に付け込まれたと考える。イタチとの力量差に焦ったのだろう」

「それで里抜けか…サスケくん」

「サスケを連れ戻せる戦力が現時点ではひよっこどもしか居なかったが状況が変わった」

木ノ葉崩しのせいで上忍も下忍も関係なく忙しそうに任務をこなしていた。

そこに手空きが緩い顔で現れたら…そりゃ怒鳴られるな。

「向かわせておいてなんだが、イヤな予感がする。砂の国にも増援を頼んでいるが…お前たちに任務を与える」

任務は先に追っていったシカマル達の小隊の援護。

今回の任務は戦闘能力、移動速度の低いカイユはお留守番。

「どっちに行ったの?」

仙人モードと白眼とを合わせて感知すれば行先は分かる。

「この先だな…戦場は分散している」

「ここまで来れば私たちでも追える」

「そうですね」

「それじゃぁ…散っ!」

バラバラに森林を駆ける。

さて、と…一番近いのは…

飛雷神の術は瞬身の術では無く一種の瞬間移動。その為通常移動はカイユを除けば一番遅い。

それでも並み以上の瞬身であるとは思うのだが…イズミとスイが速すぎる。

サスケは…間に合うのならイズミに任せよう。それが一番だ。

さて、俺は…結果が変わらないのなら行く必要など無いが…さて…

と白眼で辺りを見渡すとなぎ倒されていく樹木が空を舞う。

「かぜぇっ!?」

風弾と言うよりもはや真空刃…かまいたちが駆け抜ける。

どっちに逃げるっ!?

と思っていたら樹木とは別の物体が飛んできた。

おいおい…まさか…

今まさに踏ん張って方向を変えようとしていたために一瞬静止し巨木に体重を掛けてしまっている。

神憑り的にタイミングが悪い。

「いったっ…」

「かはぁっ」

俺にぶち当たった何者かは、さらに追撃するように鼬の口寄せ獣が迫る。

やっべ…

とりあえず瞬間的に飛雷神の術で飛ぶ。

飛んだ先は…深く考えてなかったからカイユに持たせたクナイの元だった。

鼬の口寄せ獣からは逃れたが、地面を蹴ろうとしていた力はそのままに飛んだ為に飛んだ先で盛大に転がる。

ドンガラガッシャンっ

机をなぎ倒し、資料を巻き上げ壁に激突してようやく止まる。

「……っ!!」

「何事かっ!」

「いっつ……」

辺りを見ればどうやら火影室のようで、カイユは綱手の資料整理の手伝いをしていたようなのだが、巻き散らかされて涙目だった。

「おまえ…どこから…いや、それは四代目の…ふむ」

一人納得する綱手。

「それで、そいつは?資料によれば音の忍のようだが…」

「シカマル達の救援に向かったんですがね、どうやら砂の忍の方が速かったらしく、砂の忍の大規模風遁に巻き込まれたみたいで…」

「それとこの状況と何の関係が有る」

気を失っている音の忍を見て綱手が言う。

「スゲー運が悪かったんです…方向転換しようとした所にぶつかって来て…さらに口寄せ獣に追われて…あのタイミングだと俺ともどもと言う感じで…」

「それで飛雷神の術で飛んできた、と」

はぁとため息をつく綱手。

「後で何を目印に飛んできたかは話してもらうとして…」

あ、そうね。火影室に自由に出入りされてはね。

すっと音の忍…たしか多由也だったかに近寄る綱手。

「大蛇丸の情報も吐いてもらわねばならん、応急処置程度だが死んでもらっても困る。手伝え、カイユ」

綱手の言葉にコクコクと頷くと多由也を拘束、治療を施すらしく医療塔へと向かって行った。

取り残される俺…どうしよう。

あれほどボッコボコにされてる上に伝説の三忍の綱手にはいくら多由也でも勝てないだろうから安心は安心なのだが…

とりあえず、待機かな…多由也がボコられたと言う事はそろそろこの事件も終わっているだろうし。

結局、イズミ、スイ、ともに負傷者の回収を優先したためにサスケの里抜けを許してしまう結果となった。



サスケが里抜けして数日。

「それで綱手さま、俺がここに居る理由は?」

と、俺は綱手さまに尋問中の多由也の元に連れてこられていた。

「お前が助けたのだ。お前が面倒みるのが当然だろう」

イヤ、情報を聞き出した上でもう殺されているものかと思ってたのだが…

「大蛇丸に関する情報は薬や秘術で洗いざらい調べつくしてある」

さようで…流石忍者、汚い。

「言うのも何なのですが、どうして殺さないんです?」

「殺さないと言うよりも殺せないのだ」

「…どういうことですか?」

「取り調べの結果、渦潮隠れの里のうずまき一族である事が判明した」

はぁ…で?

「渦潮隠れの里と木ノ葉隠れの里はかつて協力関係にあった。今はもう滅亡してしまったがその関係は木ノ葉のベストの意匠にあしらわれているうずまきのマークが証拠だな」

つまり、同盟里であった渦潮隠れの里壊滅の負い目のある木ノ葉の里としてはその生き残りを助けざるを得ない、と。

「大蛇丸による精神支配は?」

「それは段階を踏んで私が何とかしよう」

医療のスペシャリストの綱手様が受け持つのなら間違いはないか。

「で、それとここに俺を呼んだ理由は?」

「助けたのはお前だからな、お前が責任もって更生させろ。異論は認めん」

「はぁ!?」

「ついでに監視が面倒だ。お前の家で面倒を見ろ。イズミも居るのだ、一人増えたところで構わんだろう」

「ちょ、いいのか、ソレ」

「かまわん、火影命令だ。お前はどうせイズミには敵わんだろう?」

俺が女の尻に敷かれてると申されるかっ!…当たってるけど…イズミに勝てた試がないけどっ!

と言うか、最近はスイはともかくとしてヒナタやハナビにも勝ててないような…

ぐはっ…マジか…

病室のベッドの上で上半身を持ち上げて入室してきた俺を睨む多由也。

「誰だテメーは」

「日向ナツ。木ノ葉の上忍で、お前の身元引受人だな」

「はぁ?何バカな事言ってんだよ、ウチは大蛇丸さまの配下だぞ。木ノ葉を襲った大罪人だ」

「まぁな。とは言ってもお前は大蛇丸の元に戻れるのか?任務を失敗したお前を大蛇丸は諸手を挙げて迎えてくれるのか?」

「それは…」

まぁ無理だわな。

「でも、それがウチを生かしておく理由にはなんねーだろ」

「それについては木ノ葉には理由がある。お前がうずまき一族だからだ」

「なんでそれをっ!」

記憶を覗いたとは綱手も言わない。

「その赤い髪を見てみろ。その髪を見ればうずまきの一族だと誰もが分かる」

あ、そうなの?でもナルトは金髪だよね?

「木ノ葉と盟友関係にあった渦潮隠れの者と分かれば色々とやっかいだ。今回の事はあの大蛇丸に責任のすべてを被られせる。洗脳されていた、とでも言えば良い。いや、実際マインドコントロールはされていると見て間違いはない。それを解いてやるのも私の役目だ」

と綱手。

「マインドコントロール…」

「恐怖による支配、痛みによる支配などだな」

「それでもっウチがお前らの言う事を聞く必要があると思うかっ!」

瞬間、呪印が解放されたのか自然エネルギーが多由也へと集まって行った。

それもすぐに状態2へと以降しているっ!

ヤバッ!

俺は多由也をすぐさまベッドへと押し倒すと動けないほどに拘束し、そのまま多由也から自然エネルギーを抜き取り仙人化。

「なっ!?」

すぐに呪印が押し戻されて力なく倒れる多由也。

「お前…おじいさまと同じく仙人化を…しかし、その呪印…自然エネルギーを集めるものだったか。しかし…」

綱手はため息を付いてジト目で睨む。

「その恰好は犯罪臭いぞ。責任、取ってもらえ」

傍から見ればベッドの上で多由也を組み敷いてなにかエロい事をしているようにも見えた。

「あ…」

「っ…!このっヘンタイっ!」

「ぐっはぁ…」

放物線を描いて転がる俺。多由也を見れば顔を真っ赤に染めていた。


とりあえず、退院と言う事で家へと多由也を連れて帰る。

道中多由也が何度もこちらを殺そうと狙って来るが、その悉くをしのいでいる。

「あ、家には一人居候がいるが…まぁ命が惜しければ逆らわんことだ」

「はぁ?なんだそれは」

家の門をくぐると居間へと上がる。

「ナツ、その娘…」

「誰だテメーは」

「私はうちはイズミ。…あまり良い教育は受けてないようね」

生意気だわ、と。

「な、うちはだとっ!」

呪印が発動。イズミに食って掛かる。

ダンッとイズミに足を払われ腕を取り畳の上に拘束される多由也。

「くそっ…」

「相手はうちは…それも写輪眼を持っているんだぞ?真正面からじゃ勝てねーよ」

「本当、だれなの、この娘…」

イズミに縄を掛けられて引きずられて入室する多由也。

「あ、お帰り」

お帰りって…スイさん…さも自分の家のように出迎えるのはなんでだ?

「あ、お帰りなさい…ナツ兄さん」

「お帰り、ナツにぃ」

「あ、うん…ただいま、ヒナタ、ハナビ」

きっとこの家はもう俺の家じゃないんだな…他人の家で皆くつろぎすぎじゃねーだろうか…

「で、この娘は誰なの?」

「うずまき一族の多由也だ。綱手さまから面倒を見るように言われた」

「そうなの?でもこの娘…」

「あ、この前結界を張っていたっ!」

イズミとスイは気づいたようだ。

「まぁ、細かい話は色々あるんだよ。助ける理由も里のメンツと言う所が情けないがな」

「クソッ、離しやがれっ」

暴れる多由也は縄抜けの術でイズミの拘束を抜けるが…

「なっ!コイツはあのクソヤローの!」

スイの影縛りの術が多由也を縛る。

「女の子がクソとかあんまり使わないのっ」

「お前は次郎坊かよ…」

それから多由也との同居が始まったのだが、事ある事に諍いが絶えない。

しかし、俺に、イズミに、スイに負け、ついでいヒナタやハナビにすら負けてしまってショックを受けて茫然自失。

「なんなんだお前らはっ!」

「何って…木ノ葉の忍?」

「ですね」

とイズミとスイ。

「そう言う事じゃねーよっ!なんでウチの呪印状態を悉くしのぎやがんだよっ」

「だって、それ仙人化でしょ?私たちも使えるし、ねぇ」

「うん」

「は、はい…」
「そうだよー」

「だぁーーーーっ!」

ヒナタ、ハナビにすらバカにされたように感じたのか大声で叫んだ多由也。

この瞬間、多由也のこの家での順位が決まった瞬間だった。


サスケの里抜けの後、ナルトが自来也と修行の旅に出るようだ。

と言うか、自来也と一緒なら里の外へ出るのも里抜けとは言わないのだな…なんて事は言わない。

ぐでっと縁側で寝そべる多由也。緩みすぎだろう…

いや、きっと何もする気が起きないのだろう。

生きる気力が出ないのだと思う。

「多由也」

「なんだよ…お前か」

ここ俺の家、ね?

「とりあえず、ゆっくり慣れるといい。先の事なんて誰も分からないしね」

「訳わかんねー事言うなよ…だが、まぁとりあえずはオメーら全員ぶっ飛ばす」

「ま、今のままじゃ無理だな…頑張れ」

「くそっ今に見てやがれ」

多由也の目に力が戻った。少し生きる活力が沸いたようだった。

「何か目的は無いのか?」

「オメーをぜってーにぶっ殺すっ」

おいおい、それは勘弁。

「…他の事でお願いします」

「他の事って言ってもな…そんなの…」

と考えて、やはり何も思いつかないようだ。

「…そうだな…渦潮隠れの里の復興」

「お?」

「な、なんでもねーよっ!」

「いや、確かに聞いたぞ。渦潮隠れか」

「ち…」

と悪態を吐く多由也。

「ま、いいんじゃないの?目標なんてそれぞれさ」

「とは言ってもあんまり覚えちゃいねーんだがよ」

殆どは自分の両親からしか聞いた事が無い話らしい。それでも、彼女の源流なのだろう。

「行ってみるか」

「はぁ?今のウチはこの家からすら出られないってーのに」

「まぁ、そこは綱手様に頼んでみるよ」


まぁ、問題は多くあって、まずは呪印だ。

「あ、ちょうど良い所に。イズミ」

縁側に歩いて来たイズミを呼び止める。

「何よ」

「多由也の呪印を視てやって。大蛇丸が付けたやつなんだが」

「しょうがないわね…」

と万華鏡写輪眼で多由也の呪印を調べる。

「解呪出来そう?」

「ぐぇ…これと大蛇丸自身のチャクラが相当練り込まれていて気持ち悪い…解術すると大蛇丸のチャクラが出て来ちゃうから封印準備をお願い」

「了解」

「おい、何すんだっ!」

「何って…多由也の呪印を引き剥がす?」

封印の巻物を順位するとイズミの万華鏡が回転し始めた。

「っ…!」

多由也が首筋に痛みを感じて顔を歪めると、何かが蠢動し始める。

「出るわよ」

「うああああああっ!」

絶叫を上げる多由也の肩から何かが這い出す。

「ウォオオオオオオオオオオ」

地獄の底の亡霊の怨嗟の如き唸りを上げて這い出て来た大蛇丸のチャクラ。

「封っ!」

気持ち悪いそれを急ぎ巻物に封印する。

「終わりかな」

「何しやがったっ」

「何って…呪印を引き剥がした?」

「おい、なんて事をしやがんだっ」

まぁ多由也にしてみれば死にそうな思いまでして身につけ呪印である。

それをあっさりどうにかされて良い思いはしないのだろう。

「引き剥がしたのは呪印と大蛇丸のチャクラだけだ。命の心配はない。無くした力は…要修行って事で」

「ううううううっ…」

怒ろうにも呪印はもうない。火事場のバカ力…いや圧倒的なパワーアップ要素を取り上げられては上忍であるナツ達に敵う訳もなく。

怒りの向ける矛先が見当たらないのだろう。

「大体分かってると思うが、お前の呪印は自然エネルギーを誘引するものだ。自然エネルギーを混ぜ込む仙術チャクラは呪印が無くても使える。あんなものに頼る必要はないぞ」

「…ほ、本当に?」

ぐっ…しおらしい多由也…破壊力が半端ないぜ。

「あだっ!」

イズミに殴られた。なぜ殴ったし。

「本当よ。仙人モードは修行次第で物にできるわ。呪印で体が慣れている分私たちよりも覚えが速いかもね」

まぁ、相応にデメリットは有るのだけどね。とはまだ教えなくていいか。

と、それよりもこの大蛇丸のチャクラは要らないが、この呪印、自然エネルギーを取り込むと言う一点の効果自体は本当に高い。

有効活用できればいいが…無理か。

音の里が大蛇丸の失踪で事実上崩壊した事、多由也の出自の特異性、また大蛇丸によるマインドコントロールが抜けた事を鑑みて多由也は木ノ葉の下忍として働く事に。

木ノ葉の額あてを難しい表情で眺めていた多由也。…まぁ死んだと思われているはずで、使い捨ての駒としか考えていない多由也に大蛇丸が接触して来る事も無いだろうし、安定して幸福を感じられる今を自ら壊す事もあるまい。

おそらく多由也は大丈夫だろう。



しばらくして、渦の国への旅がようやく許可された。

許可された理由の一端として俺が飛雷神の術が使えるのが大きい。

いやぁ、本当に便利です飛雷神の術は。

家に戻れば野営の心配も無く、補給の心配も無く旅ができるのだから。

任務が無い時にちょっとずつ旅をして渦の国に入る。

なぜかイズミやスイ、カイユ、ヒナタ、ハナビといつものメンバーが一緒なのだが、もう今更か。

「ここが渦の国…渦潮隠れの里、か」

「見るからに廃墟だな」

自分のルーツとは言え両親に聞いた伝聞のみ、懐かしいなどと言う感情は無いのだろう。

「人の気配がしませんね」

「国自体が滅んだからな」

ハナビの言葉に返す。

「ふん、やっぱり弱ければ何も残らない。忍の世はそう言うものか」

と多由也が廃墟を見て言った。

「ま、そうだな。でも」

「でも、なんだよ」

「忍者はそう言うものなのかも知れないけれど、忍術は違うと俺は思う」

「はぁ?どう言う事だよ」

「なになに、またあなたの持論?」

「ま、ナツですしね。頭のネジが基本的にズレてますし」

多由也はまだ良いが、イズミとスイは…

「何かするんですか?ナツ兄さん」

「土地はいっぱいあるんだし、ここに別荘を作るのも良いかなぁと」

「は?」
「へ?」

「ほら、またバカな事を…」

「ほら、忍術を使えば意外と出来るんじゃないかなぁと」

「はぁ?」

皆の視線が痛い。こいつバカだと皆が言っている。

くっそっ!今に見ていろよっ!

まず土遁で地場を固め、整備し、堀を掘って河から水を引き入れ飲み水を確保。

土遁で家の基礎を作り木遁で建造し泥遁で土壁を葺(ふ)きつけ、また土遁で瓦を敷いていく。

また泥遁で田んぼを作り、土遁で土を耕し、木遁で防風林や雑木林をつくったりしりして耕作地帯を広げて行く。

そんな事をしていると人手が足りなくなってくるので口寄せした仙猿達にも手伝ってもらい、そうなると家が必要になってきて増築。

実をつけ始めた田畑に釣られるようにどこからか野党が現れたのでとりあえずボコると食い扶持に困っていると言う事なので田畑を提供すると、やはり住宅が必要。

そしていつの間にか人口が増えていると言うミステリーに苛まれつつ、人口が増えれば商店や娯楽施設が必要になり区画を再整備。

そして金の匂いを嗅ぎつけた商人が店を構えるようになり…

以下エンドレス、とやっていると二年ほどで…

「…もはや街ね」

とはイズミの呆れた声。

「こいつバカだと思っていたが…本物のバカだったか」

この一年で多由也も慣れたのか俺に容赦が無い。

「いえ、これは…街と言うよりも」

「何?姉さま」

「あー、これは隠れ里よね…」

「こくこく」

ヒナタの言葉に聞き返したハナビ。その質問を横からスイが答えて、カイユはあきれながら頷いていた。

「襲って来た野党は一族が衰退した忍者の末裔だったりしたからかな…食い扶持に困るのは仕事のもらえない忍者と言う…ね?」

「ねっ!じゃぁなぁい!」

ひぃ!?

「い、イズミ…?」

「どうすんのよ、こんな物作ってっ!」

「い、一応…別荘と言う事で、一番いい所に屋敷を用意してる…けど…」

「アホかっ!」

「あだっ」

イズミの鉄拳制裁。

「み、皆も手伝ってくれたじゃんか…」

「それはそうなんだけど、ここまで来て正気に戻ったのよ」

あ、そう…

「で、でもほら、当初の俺の目的は達成できた訳で…」

「なに?」

「あー、アレじゃないですか。忍術の可能性ってヤツ」

とスイ。

「た、確かに…ここまで急速な発展はナツ兄さんの土木忍術があってこそですけど」

「ぐはっ…」

「ヒナタ姉さま…土木忍術なんて言ったからナツ兄さま落ち込んじゃってるよ?」

「あ、違うの…で、でもイズミ姉様達が…」

あ、そう…言い始めたのはそっちですかとジロリと睨めば呆れた顔で返された。ちくせう。

「…はぁ…でもまぁ確かにこう結果が見えると忍術を戦いに使う方が間違っているように思えるな」

「そうだろ、分かってくれるか多由也ちゃん」

「どさくさでウチに抱き着くなっ!」

ぐは…い、痛い…

多由也は真っ赤な顔で俺に一撃を入れていた。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧