| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

エターナルトラベラー

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

エイプリルフール番外編 「夢」その1

 
前書き
エイプリルフールです。本編とは何も関係ありません。
本当はこちらを先に書いていたのですが、着地地点が見つからずお蔵入り。
あくまでエプリルフールです。
ギャグっぽいのが書きたかったのですが、どうでしょうか。
楽しんでもらえれば幸いです。 

 
「はっ!」

とベッドから上半身を起こすモンテ。

「ゆ……夢…?」

辺りを見渡すとどうやら自室のようだ。

「どうしましたか。お嬢様」

そう問いかけたのは、寝坊したモンテを起こしに来たお手伝いさんの日向ナツである。

「ナツ…さん…ほっ」

彼女を上から下まで見つめ、胸のふくらみが有る事に安堵した。

「どうかなさったのですか?」

とナツが言う。

「うん、ちょっと変な夢をみちゃって」

余りにもリアリティがありすぎてまだ覚えている、とモンテが言う。

「へぇ、どんな夢だったんですか?」

「そうね…」


………

……




これは俺のハーレムの物語だ。

しかし、ちょっとは日向とうちは、木ノ葉の里の物語だ。



さて、転生と言う言葉をご存じだろうか。

そう、記憶を持ったまま生まれ変わるヤツである。

憑依と言う言葉もご存じだろう。

他人の体に乗り移るヤツである。

では憑依転生は知っているだろうか?

それは漫画やアニメのキャラに生まれ変わるヤツである。

さて、ここまで言えばオレが何を言っているか分かるかな。

そう、俺は記憶を持ったまま漫画の中の人間に生まれ変わったのだ。

え、誰に生まれ変わったって?

「ナツ、またこんな所で昼寝して、風邪をひくぞ」

と父であるビイチが縁側で寝転ぶオレを見つけ心配そうに抱き上げた。

「とうさま?」

眠気眼で彼の顔を見れば薄紫に反射する虹彩。

なんどこの父親の顔を見て落ち込んだことか。

「さ、布団に行きなさい」

そう言うと日向ビイチは抱き上げた日向ナツを愛おしそうに布団へと移動させた。

ビイチの気配が遠ざかるとオレは盛大にため息をつく。もう何度目かも分からない。

「なんでNARUTO…しかもよりにもよって超モブだし…と言うか、ナツって男だったっけ?」

日向ナツ。本来はヒナタやハナビの世話役の女性であったはずであるが、どう言う訳か男として生まれたのだ。

「しかも白眼(笑)の一族…どうせなら写輪眼が良かったです…」

写輪眼、万華鏡写輪眼、輪廻眼、輪廻写輪眼と能力がインフレするうちは一族に比べ、日向一族は遠視と透視の能力だのみの感知くらいしか出来ない一族…

「日向は木ノ葉にて最強…どうやったらそんなセリフが出るんだろうね…?」

ハァと深いため息をつく。

「忍術は使ってみたいが忍者にはなりたくない…」

だって死ぬの怖いし…

生まれ変わっての第一目標が生きるに決定してしまった瞬間である。

「だけど、家がそんな事を言わせてくれない…」

あの才能がないと言われた日向ヒナタですらアカデミーに入学して下忍になっている。

「死なないためには強くなるしかない…だけど強くなったらなったで死ぬ確率の高い任務が待っている…参ったね、こりゃ…完全に詰んでる…」

とは言え、弱ければ抵抗も出来ずに死ぬのが忍の世界だ。

今のナツにはすでに母は居なかった。父に聞いたら月に帰ったらしい。

子供に死んだ事をやんわりと教えているのだろうか。

そう言えば月と言えば…

「転生眼…かぁ」

ふっとナツの頭にそんな言葉がよぎった。

転生眼。写輪眼の究極が輪廻眼ならば白眼の究極は転生眼に他ならない。

「月の大筒木のチャクラが無いと開眼出来ないとか言われていた気がするけれど、そもそもどちらもハムラの子孫のはずだろ。だいたい月の大筒木一族自体に白眼は宿っているはず。…生まれながらにくり抜かれるらしいが」

うーむと布団に入りながら唸り声を上がるナツ。

「輪廻眼もだが、アシュラやらインドラやらのチャクラを混ぜて六道仙人のチャクラを導き出して、とかこじつけだろ。どちらも大筒木の一族…カグヤの子孫である事には変わりはない訳だし。千年間、多くの人間と混ざっても能力の劣化が見られない白眼を受け継いでいるんだから、超がんばれば転生眼の開眼…いけるか?」

だいたい大筒木トネリが日向ハナビの眼球を移植しただけで転生眼を開眼している。

もっと簡単に物事を見てみよう。

「写輪眼の開眼はうちは一族が自己を喪失するほどの精神的ショックを受けた時に脳内で湧き上がる特殊なチャクラが視神経を刺激して変化したもの。ここから考えればハナビの眼球を移植したトネリはハナビのチャクラとは違うチャクラで白眼を刺激した?」

うーむ…

「そのチャクラがハムラの物と言う事になりそうだが、さて…」

そもそも…

「特殊なチャクラってなによ…」

チャクラとは精神エネルギーと身体エネルギーを混ぜたものである。自身が生み出すチャクラは何度練っても同じエネルギー体と言う事になるだろう。

「チャクラの性質変化と言うのもあるけど…そのチャクラを眼に誘導…眼から炎が出たりするのか?」

天照じゃんそれじゃ…

あるいは、もっと強力なチャクラエネルギーを取り込む。

「尾獣を封印した人柱力になればあるいは…これはまず無理だな」

殆どの尾獣は人柱力に封印されている。

「となれば後は…仙術チャクラか…」

ナツはチャクラを練る事は少量であるが既に出来ている。

「理論は分かっているんだよな…仙術の…動くな、感じろってね」

自然エネルギーを感じ取り、集めて精神エネルギー身体エネルギーと混ぜたものである。

ただ危険は多い。自然エネルギーの取り込みに失敗すると石化して二度と元に戻れなくなるのだ。

「仙境での修行は今のところ不可能…となれば自己流だが…取り込みミスの危険が…」

柔拳法は全身のチャクラ穴からチャクラを放出する技。

まずこれを習得すれば危なくなったら排出が可能かもしれない。

「さらに問題は、籠の鳥の呪印が刻まれてしまうと転生眼に至れないらしいと言う所か…」

嘘か真は分からないが、時間はあまり無いらしい。

「となれば柔拳からか…はぁ、明日からとうさまに修行をお願いしてみようかな」

と言うか…

「どんな修行をするにしてもまず影分身、これが鉄板っ!これだけは何としても覚えるっ!禁術だろうと何だろうとっ!どんな手を使ってでもっ!」

そこまで考えてからナツは考えすぎて頭が熱くなったのか知恵熱を出したように倒れるように眠りについた。



息子のナツは日向の才能をどこかに落っことして来たのではないか?と思うほどに才能がない。

柔拳の修行からもすぐに逃げ、一族の中でも最弱の代名詞になっていた。

逃げた先でなぜか忍術を一生懸命覚えようとしていたようだが、そんな事より柔拳の修行が重要だろう?お前は日向の一族なのだからさぁっ!

と思っていたが、ナツは本当に変わった子だったようだ。

まさか練習していた術が影分身の術だったとは…いったいどこで影分身の印を覚えたのだろうか。禁術だぞ、一応。

しかし、上手く影分身が出来上がるまでに一年以上かかっている事態にやはり才能の面では恵まれていないのではないかと言う疑念が沸いてくる。

こんな息子を持った事を恥たが…それでも我が子、可愛くないはずはない。せめて健やかに成長してくれれば…いや、せめて白眼だけでも使えてくれれば…

親の心配は尽きない。




さて、皆も影分身の印くらいは漫画やアニメで知っているだろう。

手を十字に組むあれだ。

しかし、術の発動は印のみで行うのではなく、チャクラを練ったりチャクラをコントロールしたりと難しい。

それを覚えて影分身の術がちゃんと出来るまでに一年。

四歳になった事で刻まれた籠の鳥の印。

これを施されると分家は宗家に逆らえない。逆らおうとしても宗家の印に反応して脳に激痛が走るのだ。さらに死んだ時は白眼を封印してしまうオマケ付きだ。

あー、だめだー…もうダメぽ…

呪印が有ると転生眼は開眼出来ないらしい。…まぁ、試したことが有る訳じゃないのだけれど…

転生眼は諦めたほうがよさそうだ…ちぇ。

もう白眼(笑)でいくよ、もう。


さて…影分身と、とりあえずチャクラ穴からのチャクラの排出は覚えた事で仙術の修行を始める事にする。

ナルトは妙木山でガマの油と言う自然エネルギーの誘引剤が有った訳だが…今のナツにはそんなものを得る機会は無い。

綱手、自来也はすでに木ノ葉にはおらず、大蛇丸の元に走るのはイヤだ。寧ろ実験材料にされて殺されるか、白眼持ちとして研究材料にされてしまうだろう。つまりどうやっても仙境へ乗り込むことは出来ない。

そしてまだナツは木ノ葉の外へ出る事は禁止されているた。まぁ子供だし仕方のない事と諦めるほかない。

と言う事でナツは木ノ葉の里の幾つかある深い雑木林の奥にある小高い丘の上にある石の上で胡坐を組んで自然エネルギーの感知、取り込みの修行をしていた。

危なくなったらそく柔拳の応用ですぐ排出。なんとか石化せずに済んでいた。

「影分身を使って二年…ようやくか…」

手鏡で確かめると目元に少し赤い化粧を施したような隈取が浮かんでいた。

修行の途中で仲良くなった喋る猿と言う謎生物の助言を聞きつつ修行する日々。

「…もしかして結構うまく練りこめてる?俺って天才!」

「まだまだ練り込みが甘いのう」

「先生、そりゃないよ」

ナツはいつの間にか先生と言うあだ名が付いた喋る猿にごちる。

「でも確かにね。まだ少し猿化してるし」

腕が紅い体毛で覆われていた。

「でもなんで猿化してるの?」

「そりゃお主は仙猿の弟子じゃしな」

「え?」

「…もしかして気づいておらんかったんか?」

なんか先生がドン引きしている気配を感じる。

「どう言う事?」

と問いかければ、どうやらたまたま木ノ葉の里を訪れた先生は小山の上で仙術修行をしている危なっかしい子供を発見したらしい。

散々注意をしても聞かないので諦めて修行を見ていたそうだ。

「え、マジ?」

「マジマジ」




最近柔拳の修行はサボりっぱなしだ…父上も心配しているようだが…

日向一族なぞ本当は柔拳なんぞを修行するくらいならば感知精度を上げてくれ、と小隊では思われているだろうし、実際その方がバランスの良いパーティーになる。

遠視、透視による感知。これが白眼の正しい使い方なのだ。

そもそも順番が逆だろう。白眼が有るから柔拳がある。白眼を開眼していないナツは柔拳など必要ないのだ。

と言うか、白眼使えるなら早く使いたいよっ!

え、白眼(笑)だろって?

何を言う、遠視と透視の能力だと言っただろ。と言う事はのぞきほうだいだろうっ!

え、何をって?皆まで言わせるなよっ!

「あ…よく見える…えー…」

まさかエロスでの情熱で開眼とか…まさかの展開ですよ。…まぁいいんだけどね?

それよりも問題は仙術の方だ。

覚えはしたが、仙術チャクラを練るのは動くなが基本。動きながら仙術チャクラを練るのは不可能に近いくらい難しいのです。

まぁ解決法は原作のナルトが見せていたが…それでも根本的解決にはなっていない。

となれば他の手を考える訳で。

その1 「陰封印」で仙術チャクラを貯める。

…そもそも三年間と言う時間一定量貯めなければいけないため仙術チャクラではまず不可能。三年座りっぱなしは無理ですわい。

その2 「影分身」を待機させる。

…まぁ、ナルトがやってたやつだ。ただ、速攻性にやや欠ける。

その3 自然エネルギーの誘引速度を引き上げる。

…要するに慣れろって事だ。補助術式を構築できれば良いのだけれど…今のところどうすればいいかも分からない。

猿仙人の秘術としては、金剛の術で自身の体を鋼鉄に変え、その間に仙術チャクラを練るのは基本らしい。

だが、やはり即効性には欠けるのでマジで慣れるしかないのかもしれない。

方向性は見えた。総合してみても要修行と言う言葉以外ないよね。

先生は金剛の術、仙法・筋斗雲の術などいくつかの猿仙人の術をナツに教えると役目は終わったと木ノ葉を去って行った。

さて、思いのほか仙人化に手間取ったが、ここまで基礎を増やして来たらやる事は一つだろう。

そう、みんな大好き螺旋丸の習得だ。

螺旋丸の修行方法は皆良く知るところだろう。

縁日で手に入れた水風船を片手に螺旋丸の練習をしてみた人も居るのではないか?

え?自分の事だろうって?バカ、お前、バッカッ…コホン。

と言う事で水風船をいっぱい買い込み螺旋丸の修行。なんか父上からの視線が痛いが…うん、俺に柔拳の修行をつけるのは諦めてくれ。興味ない。

俺は世紀末覇王になる気は無いのだよ。はっはっは。

でもお前が見えているのは線だけかっ!はやってみたいね。

螺旋丸の修行はやはり困難を極めたが、影分身と言う奥の手が有る。どれほど時間が掛かろうとも会得して見せるさ。



父が死んだ。

第三次忍界大戦は日向一族にも多数の死傷者を出した戦いでの事だ。

この戦いは凄惨なもので、日向の一族にも多大な死傷者を出すことになったのだ。

父もその犠牲の一人で、木ノ葉の慰霊碑にその名を刻んでしまっていた。

…涙は出ないよ。でも…

「俺は生きるよ。…生きるから」

それだけが父へ送る言葉だった。

その後、母を早くに無くし、父もなくした俺は日向宗家の家に厄介になる事になる。

まぁ立場は使用人だ。分家の人間だしね。


あー、くさくさする…エロ本でも落ちてないだろうか…

「こ、これは…」

と道端に落ちていた本を拾う。

「男女の産み分け方…っていらねーっ!!」

ぶぅんっ!と力いっぱい放り投げたその雑誌は放物線を描きたまたま運の悪い事に人に命中する。

「痛いってばねっ!誰、あたしにこんな物を投げつけたヤツはっ!」

怒髪天を突く鬼の様な底冷えのする声に冷汗が流れる。

やっばっ!逃げるが勝ちか?これはちょっとヤバ目…

白眼を使いスイスイと人ごみをかき分けて逃げていき事なきを得たのだが、この事がまさかあんな事になって帰ってくるとは思いもしなかった。





俺が六歳になった頃、第三次忍界大戦の傷跡もようやく繕って来た頃に、木ノ葉の里を揺るがす大事件が起こった。

そう、九尾の襲来だ。

俺はこの事件の顛末を知っている。

この事件で四代目は九尾の半分を封印して死に、九尾の半分はナルトに封印される。

そしてナルトを助けたければここで四代目には九尾の半分を封印して死んでもらわなければならない。この結末は変えてはいけない。

「なんで、こんな日に限ってお使いに出させるかねっ!」

俺は焦りながら走っていた。ヒアシに所用を頼まれて木ノ葉警務部へと来ていた帰り道に九尾の襲来したのだ。

避難所にはまだ遠い。

「デカいっ…」

遠目に見た九尾はその巨体と禍々しいチャクラは周りに畏怖を与えるには十分で、その巨体で薙ぎ払われた街並み、尾獣玉の脅威はもう天変地異そのもの。

「俺だったら…」

倒せるだろうか?

仙術チャクラが練れると言っても技にキレは無く、また九尾を倒せる術など持っていない。

今は本当に逃げるしか出来ないのだ。

「弱いなぁ…」

ドドーンと瓦礫が舞い上がる。白眼を開眼していたおかげか何とか瓦礫にぶつからずに済んでいるが、早く避難所までたどり着かないとどうなるか分からない。

ドドーンッ

九尾の攻撃で瓦礫が舞い上がる。

「パパッ…」

白眼の視界に父を呼ぶ少女が写った。振り返らずに見れば、彼の半身はがれきに埋もれ、もう助からないだろう。

「イズミ、お前は逃げなさい」

厳格そうな父の言葉もどこか弱弱しい。

「おまえ、イズミを連れてこの場から逃げるんだ…」

「あんた…」

母親だろうか、その彼女に父親の彼が娘を連れて逃げるように説く。

「やだ、やだぁ…」

「行けぃ、イズミ、そして生きろっ!」

「っ!!」

だが無情にも落下してくる瓦礫の塊。

くっそ…見てしまっていなければ…見捨てるのか?

どうする…

逡巡するより先に体が動いてしまっていた。

落下する瓦礫に向かって右手を突き出す。ナツの突き出した右手に乱回転するチャクラの塊が瓦礫を粉砕させた。

「きゃっ」

「行くぞっ!」

俺は少女の手を取ると走り出す。その後ろから彼女の母親も駆けてきていた。

「待って、お父さんがっ!」

ドドンとさらに降りかかる瓦礫。

ナツは力の限りで少女を連れて走る。

走る。

走る。

そうして命からがらようやく避難所へと到着。そこで少女の手を放したのだが、避難所はごった返してしまっていて、白眼でも探しきれなかった。


「九尾…」

振り返ると山をも越える巨体の九尾。

そんな圧倒的な九尾を踏み潰す存在が空中に現れた。

「蝦蟇っ!?そうだった、四代目も口寄せ契約してたじゃん…てか仙術つかえたじゃんっ!!」

蝦蟇を見るまで忘れていたナツであった。

しかし、もう遅い。ナツは結界の中であり、九尾は四代目火影の力でどこかに飛ばされていったようなので、そろそろ九尾も封印されるだろう。

「妙木山…いや…仙術チャクラ練れるからいいんだけどね?いいんだけどさ…」

完全な負け惜しみだった。



九尾事件が終わり、復興へと進み始めた頃、本家に跡取り娘が生まれた。

名を日向ヒナタと言う。

お披露目の儀に出席したのだが…ちょー可愛かった。

酒も入っていたのでつい宗主であるヒアシに「娘さんをくださいっ!」

と頭を下げたら柔拳でぶっ飛ばされたのはいい思い出。

近づけさせたくないのかすぐさま忍者学校(アカデミー)にぶち込まれてしまった。

ヒアシめ…だが俺はあきらめんぞっ!絶対に隙をついてヒナタのほっぺをぷにぷにしてやるっ!


透遁術の授業は超真面目に受ける俺がアカデミーに居た。

まぁ、それ以外の授業もそれなりに楽しく受けている…影分身が。


「またこんな所でサボって」

アカデミーの端っこにあるそよ風の吹く大木に腰を掛けチャクラを練るナツに降りかかる声。

「サボってないぞ。今も俺は授業を受けているはずだ」

「そうね、影分身がね」

声の先を見上げると赤い眼をした女の子がナツを見下ろしていた。

「ああ、ああ…その眼はズルいよイズミ」

ナツを見つけ出した人物はアカデミーの同期の女の子でうちはイズミと言う。

アカデミー入学時点ですでに写輪眼を開眼しているうちはの女の子だ。

そしてどうしてこうもナツを気にかけるのかと言えば、そうこの少女はあの九尾事件でナツが助けた少女なのだ。

「ほら、ちゃんと授業に戻りなさいよ」

「まて、なぜ俺だけに言う…イタチも影分身だろう」

「イタチくんね…」

「どうかしたか?」

「イタチくんの本体はアカデミーにすら来ていないのだもの。…注意のしようもないわ」

「天才にアカデミーはつまらなすぎたか。まぁいい、今度イズミがデートしてくれれば今日の所は教室に戻ってやってもいいよ」

「はぁ、何を言ってるのよ!行くわよっ!」

「お、おお…ちょ、ま…」

からかってみただけなのだが、真っ赤になったイズミに引きずられるように教室へと戻されてしまった。

とは言え、アカデミーの授業なんて小学校のそれに近い。それでいて木登りの行、水面歩行の行など、本来ならばアカデミーで教えろよと言いたくなるチャクラコントロールは教えてくれない。

そんな事なので放課後の自主練習中。

なぜかイズミも一緒だ。

「はぁ…はぁ…なんでナツはそんなに…チャクラコントロールが上手いのよ…」

はぁ、はぁと息を吐きながらスイが抗議する。

「そりゃ、一日中チャクラを練っていればね。流石に慣れるよ」

「はぁ?一日中…?それってどういう意味よ…どうしてそんな事を?」

イズミの質問…と言うか尋問。

「チャクラは精神エネルギーと身体エネルギーの合成エネルギー。その総量を増やすにはどうしたら良いか」

「えっと?」

「チャクラ量は確かに遺伝や先天性の物は大きいだろう。だが、だからと言って増やせないのかと俺は考えた訳だ」

「う、うん…それで?」

「身体エネルギーは体が成熟すれば増える。精神エネルギーも成長すれば増えるのは一緒だ。で、話は変わるが筋肉がどうやって付くか分かる?」

「それは腹筋や走り込みとかで…」

「えっと本当の所は筋肉を使い一度過負荷をかけて筋繊維を壊してから超回復させているから筋肉が増えているんだが…まぁそれはどうでも良い。つまり、使えば伸びる。使わねば伸びない。だったらやる事はひとつだろ」

「……走り込みって事?そんな事をずっとやっていたの?」

「まぁね」

「呆れた…」

とイズミが言う。

「で、チャクラコントロールの修行だけを続けていたらこんな事も出来るようになった」

印を結ぶとチャクラ穴から噴き出したチャクラを薄く身に纏う。

「すごい…ここまで精密なチャクラコントロール…」

「とりあえず、この状態を俺は『纏』と呼ぶ事にした」

纏とはあれだ。皆なら分かるだろう?

「てん…?」

「ああ、チャクラを纏っているからね」

「へぇ、私にも出来るかな?」

「さあ?」

「さあって…」

「忍者はあまりチャクラ穴からチャクラを放出しないものだから何とも…逆に日向一族はチャクラの放出に長けた一族だから」

そのままチャクラを飛ばす攻撃なんかもあるくらいだ。…その究極が回天と言う事なのだろうが。

だが、逆に回天は自身に留め置けないチャクラを回転させて無理やり防御に使っているのではないか、と纏を覚えてからは思えるようになってきた。

「まぁ、修行次第じゃないかね?」

「なるほどね。と言うか、ナツに出来て私に出来ないのは納得がいかない」

「えー…」

イタチが一年でアカデミーを卒業して行ったが、そんな事は本当にイレギュラーな事。

さて、螺旋丸の次の段階に必要なのが性質変化だろう。

こっそりとチャクラに反応する紙を拝借して調べた結果はなんと水と土。

「二つあるってすごいの?」

とイズミ。

いまだ師匠と呼べる者のいないアカデミー生にはよくわからないものだった。

「少ないよりは多い方がいいだろ」

と言うか、水と土かっ!

「そう言えば私は…?」

「しらん、調べてみれば?」

「そうする」

と言うとイズミもチャクラを紙に通すと皺が入った後に燃え上がった。

「雷と火だね。うちはは先天的に火の性質変化を持つ一族。それは家紋が証明しているだろ」

「う、うん。火遁が使えて初めて一人前ってうちはでは言うみたいだし。それにしても私も二つ持っていたわ。これって多いの?」

「…分かりません」

「使えない男ね」

「ぐは…今ので俺のガラスのハートは粉々に砕け散ったよ?」

「ちっちゃい男」

「おふぅ…」

やめて、再起不能になりそうです。

「しかし、水と土かぁ」

とニマニマとするナツに気持ち悪いとでも言うように表情をゆがめるイズミ。

「何?そんなに二つの属性があった事がうれしいの?」

「いや、水と土と言えば初代様と同じなんだな、これが」

「はぁ?何言ってるの。初代様と言えば木遁でしょう?あ、でもそう言えばチャクラの性質変化って火風水土雷でしょ?木遁ってどの系統になるの?」

「ん、木遁は水と土の混合性質変化だ」

「え、そうなの?でも忍の長い歴史の中でも木遁を使えたのは初代様だけ。でも水と土の性質変化を持つ忍は他にもいたでしょう?だから初代様だけの血継限界って言われているのだし」

身体的な血継限界ではない混合による性質変化は血脈による補助が有るだけ、と俺は考える。

となれば。

「まぁ、そうだな。だが、実は木遁は水と土、後は陽の三種混合なんだよ」

「陽?」

「性質変化はさっきの五つと陰陽を合わせて本来は七つ。これを知っているのはあまり居ないけれど、つまり水と土を持つ俺は木遁を使えるっ!」

陰陽の修行も地道にしてきたしなぁっ!とナツは少々ハイテンションになりながらチャクラを練り始めた。

「水と土と陽で木遁と言うナツの説は面白いけど、出来るの?」

とイズミ。

「見てろよっ!はぁあああああっ!木遁っ!」



……

………

着いた掌からチャクラが地面に浸透し…地面が泥沼と化した。

イズミの白々しい目が向けられる。

「要修行って事で…ひとつ…」

「使えないわよね、結局」

イズミの言葉が無情にもナツのガラスのハートに尽き刺さった。

「くっそ、くっそー!今に見てろーっ!」

ナツはそれだけ言うとイズミの前から走り去って行った。

「ああ、行っちゃった…いじめすぎちゃったかな?」



「あうー、だうー」

「おー、かわいい、かわいい」

日向家の縁側でヒナタのゆりかごを押している。

宗家の使用人なのでこういった仕事もあるのだ。

ダダダダダッ

「またお主かっ!」

「げぇ、ヒアシぃ!?」

「当主に向かってなんて口をっ!と言うかヒナタに寄るな、変態めっ!」

「普通にあやしているだけだろっ!それにこれは奥様から面倒を見るように言われている宗家の任務…」

「問答無用っ!」

振るわれる柔拳。

「大人げないぞっ!」

「ええい、ヒナタにお前のような虫を近づけさせはせんっ」

「ちょ…そこは休止の点穴…ごはぁ…」

「ふん、ヒナタに近づく男は皆殺しだ」

ヒアシの大人げない攻撃でナツはノックアウト。その場に崩れ落ち…ボワンと煙と消えた。

「なっ!影分身っ!?」

白眼ではチャクラを均等に割り振る影分身を見破るのは難しい。

「本体はどこにっ!?」

「あばよっ!とっつぁーん」

ヒナタを抱き上げて塀垣の上に立つナツ。

「きゃっきゃ」

「こんな状況で笑えるとは、実は大物なんじゃねいのか?ヒナタって」

「甘いわっ!」

急に背後に現れるヒアシ。

「なっ影分身っ」

ボワンと地面にいたヒアシは姿を消した。

「ふははははっそしてー、ヒナタに触るな、ゴミ虫めがっ!」

「ちょっ!やっぱり休止の点穴…ぐふぅ…」

「ヒナタは返してもらうぞっ」

ヒナタをキャッチして地面に着地するヒアシと、受け身も取れずに転がるナツ。

「ふん、ヒナタに近づくからだ」

身の程を知れとヒアシ。

「あなた…」

ゾクリ、とヒアシの背後…白眼では見えているので振り向かずとも分かるはずのその人物に、グギギと首を回転させながら振り返る。

「お、おまえ…これは、その…な?」

「な?ではありません。ナツくんをこんなにして。ナツくんには私がヒナタの子守を任せたのですよ。それにあなたは今日とても重要な会議が有ったはずね」

「それは…その…な?」

「な?ではありません。お仕置きです」

「ま、まて…話せばわかるっ」

「問答無用」

「ぎゃー」

いつの世も嫁が最強と言う事なのだろう。


さて、修行の続きだ。

「陰陽遁の性質変化はずっと練習しているんだ…陽の性質変化自体は出来てるはずだ。…あとは水と土としっかり練り合わせてやればいいだけ…理屈ならね」

理屈は分かるが、そこからはやはり失敗の連続。

混合バランスが分からずに何度も繰り返す日々。

「泥にはなるんだよな…泥遁とでも言うのか…つまりちゃんと水と土は混ざっている。しかし、木遁にはならない…木遁は生命を操る忍術…もしかして逆なのか?」

だいたいこちとら白眼を受け継ぐ日向の一族。つまりは大筒木一族の血が濃いはずなのだ。

千手一族なぞ鼻で笑ってやるわっ!

水と土に陽を合わせるのではなく、陽のチャクラに水と土を合わせる。

「これかっ!」

木遁の術っ!

地面から勢い良く木が伸び始め…そして…

「え、あれ…あれれ…?」

目の前にはたわわに実った日向夏の木が現れた。

「ナツー」

タイミングの悪い事に、このタイミングでイズミの登場である。どうやらナツの修行の成果を見に来たらしい。

「なにこれ…ミカン?」

「日向夏だ」

「へ、それってあなたの事よね?」

「いや、これ」

そう言って指をさすナツ。

「えっと?これ、どうしたのよ」

時期的に柑橘類が実をつける季節ではない。

「……生やした」

「どうやって?」

「木遁で生やした」

「ええー!?本当にっ!すごいじゃんっ!それじゃ、初代様みたいな木遁が使えるようになったのっ!?」

「まぁ、な。見てろ」

再びチャクラを合成。

「木遁の術」

ドドンと生える日向夏。

「すごいすごいっ!本当に地面から生えてるっ!でもなんでミカン?」

「日向夏だっ!」

「あ、うん…それで?日向夏以外は…て言うか攻撃に使えるの?これ」

「意外においしいぞ」

実った日向夏の実を向いて口に入れるナツ。ほれと一つイズミに投げ渡した。

「あ、本当。意外とおいしい…じゃなくてっ!」

「別に俺も日向夏が生やしたい訳では無かったのだが…今の所これくらいしか出来ないらしいな」

「は?」

それから何度やっても日向夏が増えるだけだった。

「うーむ…まぁ、非常食には困らないって事で…どうだろうか」

「チャクラを消費してちゃ意味ないでしょっ!使えないわねっ!」

「俺もそう思う。だが、印も何もなく木が生やせたってすごくねぇ?」

「知らないわよ。まさか初代様は日向夏で木ノ葉の里を築いた、何て事…無いわよね?」

「………」

「ちょっと、なんでそこで黙るのっ!?」


さて、木遁への性質変化自体は可能にはなったものの、必要な物が俺にはなかった。

「印がまったく分からん。しかも木遁は三代目が禁術指定していて印を知る機会もない」

早々詰みそうである。

「誰か木遁の印を知っている人居ませんかね…あ、ヤマトか」

でもこの時期は暗部に居るだろうし…知り合うのは無理かな。

「となると自己開発となるんだけど…」

術の開発は実はすごく難しい。幾通りもある印を組み合わせて術を完成させるのだが、術として結実させるのは難しい。

もう当たりを引くまでトライ&エラーの繰り返しだ。

まぁ、術の系統で使う印も決まってくるのだが、それでも何千、何万通りもある。

独力で木遁を使いこなしていた初代火影はものすごい天才だったのだろう。いや、もしかしたらあの卑劣で有名な二代目様が助力したのかもしれない。あの人、卑劣な術をいっぱい作ったみたいだから。そっち方面で天才だったのだろう。

そうそう、木遁の性質変化チャクラを練ると身体活性が見られる。これは大量に練り込んだ陽のチャクラの効果だろうか。

傷はみるみる治るし、ある種のゾンビアタックも可能になるのではないだろうかと言うほどだ。

と言うか、未知の木遁印を探るより、既存の水遁、土遁を覚えた方が強くなれるんじゃないかと思って来た…

いや、よそう…イズミにあれほど啖呵切って来たのだから、やっぱり出来ませんでしたーじゃ恰好つかない。

影分身を出来るだけ出してもう本当に手あたり次第でやるしかないな。

…ぜったい水遁、土遁を覚える方が早いとか、絶対知らない。知らないったら知らない。


すごく微妙だが、木遁は覚えた。となれば次だ。

さて、覚えたい忍術の中で五指に入るだろう忍術。

そう、それは飛雷神の術。

飛雷神の術を使えた四代目は既に死亡しているが、その痕跡は至る所にある。

四代目の勇名を轟かせた術であるために仕方のない所だろう。しかし、自分の優位性を薄めさせない為かある種禁術クラスに厳重な極秘事項となっていた。

まぁあんな一人が居るだけで戦況が一変するような術、おいそれと普及できるわけないよね。習得難易度も高いんだろうけれどさ。

で、誰も教えてくれないなら自分で開発するしかない訳で。

「こんな所で何をしているのかと思えば…今度は時空間忍術?」

とイズミ。

ここは木ノ葉忍術図書館。オープンにしても良い忍術を本にして貯蔵してある場所である。

「そんな物を調べて今度はどんな術を習得しようと言うのよ」

「四代目の飛雷神の術ってどんな術だと思う?」

四代目の勇名をイズミはしっかりと知っていたので少し考えてから答えた。

「ええっと、すごく速い瞬神の術?」

「ぶぶー」

「ええっ!?」

「正解は空間転移でした」

「ええっと…それってどう言う…」

「あー、そこからか」

つまりどちらかと言えば口寄せの術に近い術なのだ。

マーキングした地点へと自身を一瞬で転移させているのであって、決してすごく速く動いている訳じゃないのである。

原理が分かれば飛雷神の術も使えるようになるはず、と最近は図書館に通い詰めていたのであった。

マーキングしなければ飛べないのは、口寄せ獣の契約巻物を持っていれば逆口寄せが出来るのと似たような原理なんだと思う。

「う、うーん…それじゃあ、完成したら教えて?」

「おーい、おいしいところだけ持っていこうとするなよ。教えないぞ、絶対」

「そんな簡単に出来るわけないし、無理でしょ。がんばってね」

くっそ。その言葉はいつかも聞いたぞ。今に見ていろよっ!


と言う事で口寄せの術を基本に飛雷神の術をオリジナルで制作するのにつぎ込んだ時間はおよそ二年。

どうにか飛雷神の術をものにしました。

飛雷神の術が他の忍に使えないのは時空間忍術が相当難しいのと、チャクラを結構使う点。それと、この忍術習得するためにかかる時間を考えれば他の忍術をいくつも習得出来てしまう点だろうか。

習得さえしてしまえばかなり有用なのだろうが…影分身を踏まえた修行で二年ですぜ…この術を軽々扱っていた四代目と開発した二代目様はどんだけだったよ…

才能の差を感じてならない。


そんな感じで月日は過ぎて。

ヒナタ様3歳。

「ナツ兄さまー」

トトトと歩いてくるヒナタさまマジ天使。

抱っこと腕を上げるので子どもながらに抱き上げる。忍の体は丈夫らしく、このくらい平気だ。

きっとチャクラで筋力を増強しているのだろう。

「ヒナタさま。ナツ兄さんが困っていますよ。お降りください」

「こら、ネジ。俺は別に困ってない。…それに、お前もちょっと前は俺に登ってきていただろう」

あの頃は可愛かったのにとナツはしみじみと思う。

「いつの事ですか?分家の我々が宗家のお嬢様に簡単に触れていいはずが有りません」

「おーい、ネジ…おまぇ…もうちょっとこう…な?」

ネジィ…ちょっと大人すぎじゃなかろうか。

そう言えばネジのお父さん。ヒザシさんって亡くなってたよね?たしかそれが原因でネジがぐれたはず。

俺としてはヒザシさんくらいは助けられるのではと思ってならない。思い上がりかもしれないが。

しかし、なぜヒザシさんは死んだんだっけ?

えっと…えぇっと…確か…ヒナタが攫われた事で何かひと悶着があるはず。

だが、いったいいつ?

攫われると言ってもこの日向の屋敷、引いてはこの木ノ葉の里から?

…九尾事件からまだ三年。入り込む隙は有りすぎるほど有るか。

そもそもなんでヒナタが攫われるのとヒザシが死ぬのが関係が有るのかさっぱりだ。

「でも用心の為に…ごめんね」

「…?」

目立たない所に飛雷神の術のマーキングをヒナタに施す。

これで万が一攫われても一瞬でヒナタの所まで飛べるだろう。


失敗した。失敗した、失敗した。

ヒナタの誘拐事件でヒザシが殺された…訳では無かったのだ。

ヒナタの誘拐事件は起こった。

ああ、確かに俺はちゃんとヒナタを飛雷神で飛んで助けたさ。

でもそれじゃ意味がなかった。意味がなかったんだ。

相手にしてみれば木ノ葉にいちゃもんが付けられればよかった。

ヒナタの誘拐に失敗しても任務で外交の為に訪れていた忍頭が死ぬ事。そこまでが計画だったのだ。

たとえほぼ自害だったとしても…その事実をもってヒナタを誘拐した雲隠れの里の里長の雷影は日向家宗主の死体をよこせと言って来たのだ。自陣の事は棚上げして、だ。

そこまで白眼の秘密が知りたかったのだろうか。

しかし忍界大戦、九尾襲来と里の力が落ちていた木ノ葉としては今戦争する訳にはいかなかったのだろう。

考えて、考えて、どうにか戦争を回避しようとして…結局は自身が死ぬと宗主ヒアシが決断した所、ヒザシが自ら名乗りを上げた。

ヒアシの双子であり、遺伝子的には同一で、さらに日向の呪印が刻まれているので死ねば白眼の秘密を封印する。

うってつけではあったのだ。

宗主であるヒアシは最後まで反対していたが、それをヒザシがヒアシの意識を狩る事で封殺した。

「戦争なんてしたくない。でも…あなたが…あなただけが死ぬ必要があるのですか?」

ヒザシが自害する寸前にナツが吐いた言葉だ。

「子より早く死ねるのだ。忍としては上々の生き方だろう。それも、ネジに少しであっても平穏な日常を与えてやれるのだ。願ってもない事だよ」

「宗家が憎くないんですか?」

「…そうだな…俺は今でもどう思っているのか。自分でさえ分からない。でも、最後は自分の意志で、自分の兄と、自分の子の未来を守れるのだ、後悔なんてあろうものか」

このまま自身の闇が強まればどうなるか、それを考えると恐ろしいとヒザシが言う。

「そうだな…死に行く俺を哀れと思うのなら…そうだな、ネジの事を頼むよ。あいつは日向の才能に恵まれた子だ。宗家に産んでやれなかったことを不憫に思うほどにな」

「出来るだけの事は、してみます」

としかナツは答えられなかった。

多感な時期に親が宗家の為に死ぬ。そんな事実を彼が受け止めきれるだろうか。

「頼むよ」

と、ナツにはそれだけを言うとヒザシは屋敷の奥へと自ら歩いて行った。


出来るだけの事、とは言ってみたものの。ヒナタに懐かれたナツにネジはあまり寄ってこない。

近づいても避けられるだけだった。

坊主憎ければ、と言う事なのだろう。そういう状況にイライラしてナツはネジを呼び出すとゴチンとネジの頭にゲンコツを落とした。

「いっ…あが…」

頭を押さえてうずくまるネジ。

四歳児にこのレベルのゲンコツは少々大人げなかったか。まぁ、俺も10にもなっていないのだが。

「何をするっ」

「ヒザシさんにネジの事を頼まれたので」

「父さんが…父さんがなんと…?」

「お前の事を心配していた。お前の事を最後まで愛していた」

「だったらなぜ…なんで自ら死ぬようなことを…」

「さあ?それはネジが自分で見つけると良い。きっとネジになら分かるだろ」

「そんな…じゃぁ一つだけ教えてくれ。…父さんは宗家を恨んでいたのだろうか」

と言うネジの言葉にナツは一呼吸おいてから答える。

「恨んでなかったと言ったら嘘になるだろう」

我が意を得たりとネジの表情がこわばる。

「だが」

と言葉を繋げるナツ。

「最後は兄と、息子の為に死ねることを誇りに思っていたよ」

「父さんが…そんな事を…?」

その言葉が理解できたか、飲み込めたかはナツには分からない。しかしこの日を境にネジの態度は少し軟化していき、ヒナタとも表面上は以前と変わらないくらいで落ち着いた。

宗家に対するわだかまりが完全に無くなったわけではないのだろうが、ナツの言葉が…ヒザシの最後の思いがネジに少しは届いたようだ。


日向本家。

座敷に呼ばれナツはヒアシと、先代宗主の前に座っていた。

「それで、今日お主が呼ばれた要件は分かっているか?」

「ええっと…?」

「分かっておらぬのか、とぼけているのか」

何かやったか?いろいろ隠している事は多いのだが…

「ヒナタが攫われた時、一番最初に駆けつけたのはお前だ。しかし、どうやって私たちを抜いて敵へと追いついた?」

「それは…ええっと?」

「お前の瞬身の術はまるで四代目のそれ。まさか」

これはごまかせないか…

「ええ、はい…飛雷神の術ですね」

「なんと、覚えたのか。四代目の飛雷神の術を」

「ええ、まぁ…苦労はしましたが。なんとか」

「四代目の飛雷神の術はマーキングした所に飛ぶ術式と聞く…お主、ヒナタに…」

「あは…あはは…」

やべぇ…死ぬかも…

「まぁ良い。お前をヒナタ付きとする。死んでもヒナタを守るように」

「は…はぁ」

なんかよくわからないやり取りの後、日向での俺の立場が決定した瞬間だった。

「でも、どうして俺なんです?」

「飛雷神の術が使えるお前が適任だ」

なるほど、ね。確かに適任だ。



今日はアカデミーの裏の森で仙術チャクラを練る修行中。

大きな切り株を背にあぐらをかいてチャクラを練っている。

「ナツ…幼女誘拐は犯罪よ?」

とナツに声をかける少女。

「イズミか」

イズミの指摘通り、ナツの膝を枕に寝入っている女の子が一人すやすやと気持ちよさそうに寝息を立てていた。

「今から警務部に…」

「ちょ、やめてくれませんかねっ!?」

回れ右をして通報に行こうとしたイズミを全力で止める。

ナツの膝の上の少女がビクリと体を震わせたが、眠気には勝てず再び夢の世界へ。

「じゃあその子は誰なのよ?」

「日向家宗家の娘さん。一応俺は彼女の付き人一号と言う事になっている」

「はぁ?アカデミーを卒業もしていないあなたが?」

「…まぁ、色々あってな」

「うーん、それじゃ修行の相手は無理そうね」

「影分身で良ければ付き合うぞ」

「そう、ありがとう」

キィンキィン

投げ込まれてきたイズミのクナイを手に持ったクナイで弾くナツ。

「よっと」

白眼の透視能力で見つけたイズミに向かって手裏剣を投げつけた。

「うそっ」

投げた手裏剣はさらに投げた手裏剣をぶつけて軌道を変えイズミに襲い掛かる。

「でも甘いっ!」

イズミは手に取ったクナイでナツの投げた手裏剣を弾く。

さらにナツが手裏剣影分身も使って二十、三十と投げた手裏剣。しかし、その全てをイズミは悉く避け、また撃ち落としていった。

「良く避ける…写輪眼か…」

白眼で見ればまだ基本巴にはなっていないようだが、写輪眼は写輪眼。その洞察眼は驚異の物だ。

ナツの投げたクナイの軌道などすべて視えているのだろう。

「写輪眼ズルくね!?」

「白眼のあなたに言われても説得力がないわ、よっ!」

クナイどうしがぶつかり合う音が響き、距離を取ったイズミは火遁の印。

「火遁・豪火球の術っ!」

「おわーっ!?ちょ、それはひどくねぇ!?いくらこっちが影分身だからって。つうか普通アカデミーで使える術じゃねーよっ!これだからうちははっ!」

瞬間、ナツの影分身が消え去る。

「勝ったっ!」

「それはどうかな?」

瞬間、背後に現れたナツはイズミにクナイを突き付ける。

「うそ、どうして…私の写輪眼でも見切れないっ…まさか完成させていたの?」

と言ったイズミの足元のクナイの一本には特殊な術式が刻まれていた。先ほどの手裏剣の応酬の時に地面に投げたものだ。ナツはそれを目印に飛雷神の術で飛んだのだ。

「そ、飛雷神の術」

「参った、降参よ」

はぁとため息をつくとイズミはクナイをホルダーにしまって本体のナツへと歩き出す。

「お二人ともすごいですっ!」

そこにはいつの間に起きたのかヒナタが二人の模擬戦を見て拍手をしていた。

「日向宗家の子供にそんな事言われると照れるわね。それにものすごくかわいい」

「だろ、ヒナタさまにこんな事を言われて頑張れない訳がない。うむ、これはもう宇宙の真理だ」

「ダメだコイツ…はやく何とかしないと…」

いっちゃってる発言をしているナツを半眼に睨むイズミ。

「しかし白眼を持っているナツが飛雷神の術を覚えるとすごい事になりそうね」

「白眼を過大評価してくれてありがとう。だが同じ瞳術なら写輪眼が良かったよ…」

それは皆も分かるだろ?なんせ白眼(笑)なんだからさ。

「…?何よ、何が言いたい訳?」

「白眼は術のコピーは出来ないし幻術も掛けれない。見つめただけで燃やしたり出来ないし、睨んだだけで物体を飛ばしたりもできないんだぞ?」

「時々あなたが言う言葉の意味が本当に分からない時があるわ…最初の二つはまだしも後半は写輪眼でも無理でしょう…」

「いや、そんな事は無い。写輪眼のチート具合は白眼(笑)と言われるほどだぞ?」

まぁ、透視の能力は大事だよ。うん。もうそこだけは修行しまくってグレースケールを回避しています。

だろぉ、みんなぁ!白黒モノトーンなんてくそくらえっ、だっ!

「まったく、ナツの習得忍術はどうなってるの?初代様の木遁、二代目様の影分身、四代目様の飛雷神の術…あなた、火影にでもなるつもりなの?」

「え?やだよ、そんなの…面倒くさい」

「変な奴。それで完成した飛雷神の術は」

「教えねーよっ!?」

「けちっ!」

「ケチじゃねぇ。俺が二年かけて習得した術だぞっ!それも裏技を使ってなっ」

「裏技?…何?何かあるわね、教えて?いえ、教えなさい」

「しまった…」

とは言っても影分身の術の有用性を教えただけで、そもそも影分身の術を覚えるのは難しい。さらに実践でチャクラを均等に割り振るのだからリスクも高い為に覚えない忍者も多いのだが…修行での利便性だけを追求するのなら覚えて損は無いのだ。

と言うのを洗いざらい吐かされてようやくイズミの追求が終わると、遅ればせながら影分身を覚える修行を始めた。

そうなると近くに居たヒナタもとなる訳で。

ボワンと現れる影分身二体。しかしそれはイズミだけの物ではなく…

「おかしい…イズミはともかくなんでヒナタまで…」

ヒナタは落ちこぼれなのではなかったのか…

「えっと…ダメだった?」

とヒナタ。

「いや、そんな事無いけど…俺が苦労して覚えたのを…なぁ?」

「ダメじゃないよ。ヒナタ、頑張ったものね」

おいそこ、何お前だけお姉ちゃん面しているんだよっ!納得いかんぞ。


遅ればせながら今日はヒナタの公園デビュー。

はい。なぜ奥様はおられないのでしょうか…いや、ヒナタの外出を渋るヒアシ様を折檻しているためなんだけど…

基本的にシャイなヒナタは公園デビューはレベルが高すぎるようだ。

ぎゅっと俺に抱っこされたまま離れません。

「ほんとう、保護者みたいね…あんた」

なぜか道中で見つかりついて来たイズミがそんな事を言う。

保護者だぞ。

「あれ、あれって…イタチくん?」

何かに気が付いたようなイズミの声で振り向けば、ヒナタと同じくらいの子供を連れた男の子が公園の入り口から入って来た。

よく見れば一応クラスは一緒だったうちはイタチである。まぁ一年でアカデミーを卒業を卒業しているので、接点はあまり無かったのだが、イズミは同じうちはの一族。良く知っているだろう。

「イズミとたしか日向の…」

「日向ナツ。一応アカデミーでは同じクラスだった」

「そ、そうか…すまん」

クールであまり人付き合いをしないイタチとはあまり接点がなかった為にナツの事をよく覚えていないのだろう。

「その子は?」

「ああ、オレの弟のうちはサスケだ。ほら、サスケ」

とイタチに促され自己紹介の為に前に出るサスケ。

「うちはサスケ、さんさいです」

「良くできたな、サスケ」

「兄さんっ」

抱き

何だろう…兄弟仲がちょっと…イタチもなんだか印象がガガガガ…

とりあえず俺はヒナタを降ろすと背中を押した。

「な、ナツ兄さんっ」

「自己紹介。出来るだろう」

「う、うん…でも…」

「ほら」

と促すと一所懸命前を向いて自己紹介を始めるヒナタ。

「ひゅうがヒナタ…さ…さんさいでしゅっ」

噛んだ…

「噛んだわね」

「ああ…かわいいだろ」

それに恥ずかしくなったのかヒナタは俺の後ろに隠れてしまった。

「サスケ、ヒナタちゃんを誘って遊んでおいで」

「えー」

「こら」

と言って額を小突くイタチ。

「わ、分かったよ。ほら」

「う…えっと…ナツ兄さん…」

「ヒナタも、ほら行っておいで」

ナツはここでは自分の味方になり得ないと悟ったヒナタはおずおずとナツから離れサスケと一緒に遊具へと走って行った。


「それにしても久しぶりね、イタチくん。下忍の任務はどう?」

「任務…か…」

とイズミの問いに影を落とした表情で言葉を詰まらせるイタチ。

「何か、あったの?…イタチくん」

「いや、…なんでもない」

それは何かあったと言っているようなものだが、聞けないよなぁ…

ヒナタたちの方を見ればサスケが金髪の子供と取っ組み合いでもするかの如く遊具の使用権を争っていて、それをヒナタがオロオロと見ていた。

それでも言い合いをやめない二人をヒナタは止めようとして…あ、当たり所が悪いな。ダブルノックアウト。

ヒナタが止めに入った掌に押されて遊具に頭を打ち付けているサスケと金髪の子供。うーむ、大丈夫だろうか。あ、復活したみたいだから平気か。

「あ、イタチくん。私たちこの後修行で演習場に行こうと思ってるの。イタチくんも一緒にどう?」

「おーい。俺らはアカデミー生、イタチは既に下忍。そのイタチを誘うとか」

「い、いいじゃないのっ!ね、どう、イタチくん」

「……別に構わない」

あ、そう…

アカデミー所有の演習場に場所を移した三人と幼児二人。二人には遊具で遊んでもらっていても良いのだが、二人とも忍術に興味深々のようで。

そして始まった模擬戦は、俺とイズミ対イタチの二対一での模擬戦だ。まぁ、あちらはうちはでもその才能をいかんなく発揮して一年でアカデミーを卒業した天才である。このくらいで丁度良いだろう。

「はっ」

「よっと」

イズミとナツの二人で投げ放たれた手裏剣をイタチは最小の動きで避ける。

「まだっ!」

イズナはもう写輪眼を使ってまだ空中にある手裏剣に手裏剣を当てて軌道を変えイタチを狙った。

「…っ」

刃は落としてある練習用の手裏剣だが、当たれば痛い。刺さりにくいだけで普通に凶器だからな。

が、この軌道を変えた手裏剣もいとも容易くイタチは避けた。

それ所か空中にあった残りの手裏剣に自分の手裏剣を投げこちらに軌道を変えてくる始末。

白眼で捉えていたために向かって来るものはクナイで叩き落したが、なぜ避けれた?

と見ればイタチの両目もイズミみたいに真っ赤に染まっていた。

「写輪眼…」

「イタチくんも開眼したんだ。道理で強い」

ぐんと地面を蹴って現れたイタチは接近戦を仕掛けて来た。それをナツは受けて立って、後ろのイズミは火遁の印。

「「火遁・豪火球の術」」

「ちょっ!」

一瞬早く距離を取ったイタチは、イズミの印を見て取ると彼女より素早く印を組み上げたようだ。

挟まれる火球に焦るナツ。ぎりぎり瞬身の術で避けれたものの今のは酷くないかっ!?

「てぇっ!燃えてるっ燃えてるぅー!?」

ゴロゴロと地面を転がって消火。

「…ナツ兄さん、かっこ悪いです」

「ひ、ヒナタがひどい事をいう」

無様に転がるナツに留めの一撃を喰らわせたのは外野の口撃だった。

「イズミはうちはだ。それも写輪眼を開眼している。しかしナツはどうしてそこまで動ける。最後の瞬身の術はこの眼でも見えなかった」

おーい、白眼はスルーですか。まぁ白眼(笑)だけどさっ!どんだけうちは一族は眼にプライド持ってんだよっ!

「う、うーん…努力の賜物?」

「そうなのか?オレの眼で見切れないのはシスイくらいのもののはずだが…そこまで動けてアカデミー生と言うのは…」

あ、バレてないと思うけど最後のはマジでやばかったので飛雷神の術で飛びました。

「俺基本的に忍者になりたくないんで、飛び級はちょっと…」

あとイズミはすでに父が他界している。母はうちはからは距離を置いていたくらいなのでアカデミーを飛び級で卒業はさせないのだろう。

「変わったやつだ」

一年で卒業したお前ほどじゃない。

イズミがどうやってイタチを誘って来るのかは分からないが、なぜか結構な頻度でイタチと修行をしているイズミ。

うん、まぁ同じうちはだしね。いいんだけどさ?ただちょっと、なんかモヤモヤ。

そこに何と今日は講師役にうちはが一人増えてました。

「お前の瞬身の術はどこかおかしい」

イタチが考え込んでいる。

「あはは、なるほど。君も瞬身が得意なんだね」

そう言って笑っているのがうちはシスイ。瞬身のシスイだ。

「なんかうちは率が高いんですけど…」

「そんな事を言えばここには瞳術使いしかいないわよ」

とイズミ。

「だから、白眼(笑)を写輪眼と一緒にしないで…」

そして始まる模擬戦。

「だから、おかしいだろっ!なんで俺とイズミなんだっ!」

「コンビネーションはいつも一緒に修行しているあなたたちの方が得意だろう?」

シスイさーん、そんな事言ったらイタチとのコンビネーションはそっちが得意でしょ。

「何よ、私じゃ不満?」

「いや、ただ相手は下忍と上忍。対する俺たちはまだアカデミー生」

「なら、全力でやるっ!気合を入れるわよ」

しかし相手は瞬身のシスイ。その身のこなしは里一番だろう。

白眼では…写輪眼を持っているイズミでも反応しきれない速さで動くシスイ。また、その鋭い攻撃につい飛雷神の術で避けてしまう。

「驚いた」

「シスイ兄さん…」

「これは飛雷神の術だな」

「げぇ、一発でバレますか…」

「俺はお前らよりは年上だからな。四代目が使うそれを見たことが有る」

「あら、バレちゃったわよ?ナツ」

「あはは…と言う事は、弱点も分かっちゃってたり…?」

「ああ。その術はマーキングのある所しか飛べない。つまり…」

ゴウッとあたり一面に火遁が炸裂。投げたクナイが熔けてしまっていた。

「一度付けたマーキング自体は解術できないけど、呪具はどうだ?」

マーキングされたクナイが熔けて破損、マーキングが乱れてしまっていて飛ぶことが出来ない。

「なるほど、そう言う事か」

と言うとイタチも火遁で燃やしていく。

「あはは…はぁ…もうやだ、うちは一族…」

的確にマーキングを施したクナイだけはボロボロにされちゃってるし…その眼は卑怯…きっと呪具に刻まれたチャクラが色で見えているとかその辺なんでしょ。ズルいわ…





なんて日々を過ごしていると宗家に第二子が誕生した。

名前を日向ハナビと言う。

「うおー、かわいい、かわいい。ヒアシ様、ハナビ様を俺にくれませんかね?」

「まぁ」

奥さんは笑っていたがヒアシ様の眼力がすさまじい。

それよりもすさまじいのは白眼で睨んでいるヒナタなんだが…

「ナツ兄さん…」

「は、はい…」

ビキビキと視神経に近い経絡系が膨れ上がり瞳孔にチャクラが通いだす。

「ひ、ヒナタさま…びゃ、白眼をかいが…」

「ナツ兄さん」

「はいっ!」

何だろう、えも言えぬプレッシャーをヒナタから感じる。

「ナツ兄さんはわたしの付き人ですよね?」

「ええっと…?」

「兄さんっ!」

「は、はいっそうですっ!」

「ではこの場はどうするか、分かりますね」

ええっと…分からないのですが?

「はっはっは、ヒナタよ、以前教えたあれでナツを少し懲らしめてやるとよい」

「あれですか…本当は、本当に使いたくないんですよ?でも、これは仕方のない事なのです」

おーい、何かいやな予感がするぞ。

と言っている間に何やらヒナタが印を結んだ。

「あだだだだdgぁkつおあうたtぁkj」

額の呪印が軋みだし酷い頭痛に襲われる。

「ちょ、ヒナタさま…それは…ちょっと…あだだ」

ナツが痛がるとすぐに印を解いたが、まさか籠の鳥の印を起動させるとは…

「良いですか、ナツ兄さん。わたしの付き人であると言う事は…」

となぜか始まった幼女の説教を正座して聞いているナツ。ちくせう…籠の鳥は卑怯だって…

「聞いているのですかっ!」

「聞いてる、聞いてるからっ!」

幼女にトラウマを植え付けられた瞬間だった。




ぼんやり修行をしていたアカデミーもついに終わりを迎え、アカデミーの卒業試験を迎える。

卒業試験自体は基礎忍術の採点のみで行われ、ほとんどのアカデミー生が卒業資格を得て下忍となる。

ナツもここで手を抜くと日向の恥と立場的にヤバいのでちゃんと卒業する事になる。

…しかしなぜ一年早く卒業試験を受けされられてるのかね?…ああ、授業に俺を連れ戻すイズミの所為か。

ついでに手を抜くと烈火のごとく怒るのだ。イズミ怖い…ブルブル…


担当上忍は猿飛シズマ。

猿飛一族で三代目火影の甥だそうだ。

「それじゃ自己紹介から」

とシズマ。

「うちはイズミです。好きな物は…うーん…なんだろう?お団子かな。嫌いな物は理不尽な暴力。将来の夢は皆が笑顔に生きられればいいなって」

そううちはイズミが自己紹介。

「次はボクですね。ボクの名前は奈良スイ。好きな物はお昼寝。嫌いな物は目玉焼きの白いところ。将来の夢は女性初の火影になる事です」

奈良スイ。あの奈良一族の女性くの一だ。

優秀だったために今期飛び級で卒業した一つ下のくノ一だ。

「ぼ…」

「ぼ?」

「ボクっ娘だっ!」

いきなりテンションを上げたナツにたじろぐ小隊員。

「ちょ、いったい何なんですかっ!」

「いや、つい?」

「ついで抱き着かないでくださいっ!」

「あ、すまん」

さて、最後だ。

「じゃ、最後は俺か。俺は日向ナツ。好きな物は柑橘類、嫌いな物は…うーん…」

「無いの?」

「いや、いっぱい有りすぎて困る」

「ずこー…」

ガクリと脱力するスイ。

「将来の夢はハーレム王になる事です。と言う事で」

ばっとスイに向かって両手を広げるナツ。

「な、なに…」

身の危険を感じたのか、両手で身を隠して遠ざかるスイ。

「スイ、俺のハーレムに…あだっ」

「バカ言ってるんじゃないのっ」

とイズミがぶん殴ってナツを止めた。

「ついでにハーレム一号はこのイズミだ」

「そんな訳あるかっ!」

さらに凶悪なアイアンクロー。

「や、やめて…脳汁でる…籠の鳥の呪印よりも痛いっ…」

「だ、大丈夫なの…この人達」

「だ、大丈夫だと良いな…」

スイとシズマが肩を落とした。

とりあえず、人数の都合か班の能力を平均にした結果かどうかは分からないがナツの班は女の子が二人と他の班とは違っていた。


「まぁ、とりあえず、卒業したからといってそのまま下忍になれるかと言われればNOだ」

「ええっ!どう言う事ですか?」

とスイ。イズミは真剣にシズマの言葉を聞いていた。

「最終試験はオレとの模擬戦だな。オレに一発でも入れられればお前ら全員合格だ」

「もし不合格なら…?」

「アカデミーに戻ってやり直してもらう事になる」

とイズミの言葉にシズマが答えた。

演習は午後からと午前中は解散となりシズマは瞬身の術で去っていく。

「ど、どうしよう…せっかくアカデミーを卒業したのに…」

「相手は上忍…アカデミーを卒業したばかりの私たちじゃ絶対に太刀打ち出来ない」

とスイとイズミが言う。

「とりあえず皆の忍術の確認かな」

とナツ。

「なんでよ」
「なんでですか?」

「え、あれ…?俺がおかしいのか…?いや、だが…うん?」

え、もしかしてこれは個人技を見る試験だったか?いやいやいや。

「何よ、何かあるなら言ってみなさいよ」

とイズミ。

「だって、シズマ先生は一発入れたら全員合格って言ってたから…」

ナツのその言葉に二人とも驚いた顔で「あ」と声をそろえた。

「もしかしてみんなで一撃入れればいいの?」

とスイ。

「と言う事は、これはチームワークを見る試験?でもこの初めてチームを組んだ三人で?」

そうイズミも言う。

「即席でもちゃんとチームとして行動できるか。それも忍者に必要な事、なのかもしれない」

「なるほどね」

それじゃあと言ってイズミはどかりと地面に座り込む。

「…?」

その行動にスイは疑問顔。

「試験は午後からなんだし、午前はみんなの手持ち忍具、得意忍術を確認しましょう」

「なるほど、それは確かに必要ですね」

コクコクとスイも納得がいったようだ。

「私は火遁を使う。得意忍術は火遁・豪火球の術」

「まぁイズミはうちはだからね」

「ちゃちゃを入れない。それと結構手裏剣術が得意。それと私はうちはだから…」

そう言って一度閉じた瞳を再び開けるとその両目が赤く染まっていた。その巴模様は基本巴まで成長している。

「わ、写輪眼…ボク初めて見ました。その年で使えるなんてすごいですね」

「う、うん…」

何も知らないスイは単純に尊敬の眼差しを送っているだけ。

しかし、真相を知るナツは感慨が深い。

写輪眼の成長は必ずしも喜ばしい事では無いからだ。


「次はボクだね。ボクはこれ」

そう言うと伸ばされるスイの影。

「ちょ、おまっ!」

ギュォンと伸ばされた影がナツの影に触れると体の自由が奪われた。

「あだだだだだっ!!」

そして這い上がった影がナツの頬をつねりあげた。

「奈良一族の秘伝、影縛りの術」

「ちょ、分かった、分かったから…もう解いて」

「えー…」

「えーって…ちょっと…スイさーん…」

スイはクスクス笑うと影縛りの術を解いた。

「最後は俺か…あー、まぁ言われなくても知っていると思うが。日向一族は白眼の一族だ。遠視と…」

ボソリと透視、と続ける。

「あ、あれ?ボクの記憶違いかな。日向一族って白眼と柔拳が有名ですよね?白眼は使えるのにナツは柔拳使えないんですか?」

「うん、もうさらりと俺の事を呼び捨てにしているのが気になるな」

「あはは。ナツはもう本当におかしな事ばかりしているからね。柔拳が使えないのよ」

「は、はぁ」

「でも、習得忍術は一級だから、頼りにはなるわ」

「何が使えるんです?」

「ええっと、確か。影分身と木遁、後は飛雷神の術だったかしら?」

「実は螺旋丸も使えるぞ」

どうだとばかりに胸を張る。

「最後のは知らないわ。いつの間に?」

「え?結構前だけど?と言うか飛雷神の術より前?」

「と言うかどういう技なの?」

ぐるんぐるんです。

実際俺が使える忍術は少ないよな…影分身と飛雷神の術、螺旋丸とその性質変化だけ。他は出来の悪い木遁を少々。

うん、偏っているな。

「と言うか、知らない術ばかりなのですが…と言うか木遁?それって初代様の血継限界ですよね?」

「良く知っているわね。ナツいわく正確には水と土の性質変化に陽を足したものらしいわ?」

やって見せればと言うイズミに仕方ないと披露するナツ。

「すごいですっ!本当に木が生えたっ…でもなんでミカン?」

「日向夏だっ」

「それはあなたの事ですよね?」

「それはもうイズミが一度やっている」

「ぐは…」

「とは言え、木遁はあまり戦力に数えないでくれ」

「どうしてです?」

「これが使えるのがバレると色々と面倒な事になるだろ?イズミも人に言うなよ」

「しょうがないわね」

実際はまだ木遁が完璧ではなく使える術に乏しいから見栄を張っただけなのだが…

「スイちゃん、本当はナツ、ミカンを生やす事しか出来ないのよ」

「へぇ…そうなんですか…使えない男ですね」

ちょ、聞こえているからっ!それに流石に成長しているからっ!

「まぁ、とりあえず作戦は決まったな。スイの影縛りの術が決め手だろう。俺とイズミはスイの援護。動きを止めてしまえばいくらシズマ先生が上忍と言えど一撃くらい入れられる」

「うん」

「はい、そうですね」

と言う作戦会議の後無事にシズマに一撃入れて下忍になったのだった。





下忍の任務はDランクが多い。Dランクには命の危険性はほとんどない。

だって任務は迷い人探しとか農家の手伝いとかそんな物ばかりだし。

そういう軽めの任務の合間に忍者としての修行が入る。

とは言っても木登りの行や水面歩行の行なんかはナツやイズミは完璧にこなしている為に割と手持ち無沙汰だった。

「と言いますか。アカデミーで教えてもらう事は全部こなしていたはずなのです。と言う事はこの修行はアカデミー卒業後に教えてもらうと言う事のはず。なのにどうしてお二人は出来ているんですかっ!」

と一人遅れていたスイが吼える。

「ええっと…私はナツがやっていたから?」

「じゃあナツさんは?」

「えーっと…あはは」

「ごまかしたーっ!ずっこいっ」


「さて、今日からは性質変化の修行に入る」

とシズマが言う。

「性質変化?」

とスイがシズマに質問を返す。

「チャクラを火風雷土水の属性を持つチャクラに変化させる事だ。猿飛やうちはは先天的に火の性質変化の適正を持っている者が多い。…まぁ、イズミはあれほどの火遁が使えるのだからまず間違いなく火の性質変化だろうが」

ごそごそとチャクラに反応する特別な紙を人数取り出し各々にわたすシズマ。

「これは?」

とスイ。

「これにチャクラをながすと自身の性質変化がどれに適応しているか分かる」

やってみろと言うシズマの言葉にまず最初にチャクラを流したイズミの紙は皺が入ったあと炎で燃え上がった。

「見るからに火と後は雷の性質変化だな」

「知ってます。やったことありますから」

「え、イズミはもうやった事あったの?」

「昔、ナツと一緒に調べました」

「じゃあボクが」

スイがチャクラを紙に流すと、紙が真っ二つに裂ける。

「風の性質だね」

「じゃぁ…最後は俺か」

チャクラを流し込むと濡れた後に崩れ落ちた。

「へぇ、珍しい。水と土の二重属性だ。初代火影様といっしょだな」

「そうですね。でも初代様の忍術って言えば」

「木遁ですよね」

とスイ。

「木遁は特殊でね。水と土を合わせた性質変化だと言われているが、初代様だけの血継限界とされていて、実際ほかに使えたものはいない」

「へー、そうなんだ」

「そう言えばそう言ってましたね」

とスイ。

「あれ、反応が薄い?」

そうシズマが少し焦った風。

「それじゃあ奈良一族の影縛りの術とかってどの分類に入るの?」

そうスイがシズマに問う。

「ええっと…それは…」

「それは…?」

冷汗が流れ出すシズマ。

あ、これは知らないんだな。

「陰の性質変化。無から形を作る性質変化だ」

そうナツが言った。

「陰?性質変化って火風雷土水の五つじゃないの?」

「そこに陰と陽の二つが入る。とは言え、陰と陽は忍術の根底にあるものだから、他の忍術と違って覚えるのが容易ではない反面、強力なものが多い。奈良一族の影縛りの術のような隠遁や秋道一族の倍化の術のような陽遁みたいなね」

「よ、よく知っているね…」

「まぁね」

「じゃあボクが使っているのは隠遁の性質変化の一種なんだ」

と納得するスイ。

「じゃあナツが使う木遁は?」

「木遁は水と土に陽を混ぜた三種混合チャクラ。ただ陽に水と土を混ぜるのが難しいからほとんど使い手が居ないね」

「ちょ、ちょっとまって木遁っ!?えっとナツは使えるの、木遁」

「え、あ…」

イズミやスイとの会話だとナチュラルに返してしまっていて木遁を秘密にしている事を忘れてしまっていたナツである。

「あ、ははは…」

「使えるのっ!?」

「ええ、まぁ…」

シズマにすごまれて果樹園降誕(ひゅうがなつのじゅつ)を使って見せるナツ。

「ど、どうして…?」

「だから、木遁は水、土、陽の三種混合。だから使い手が居なかっただけ。日向一族のチャクラコントロールはどちらかと言えば陽遁。だからがんばったら、こう…できた?」

「いや、でも…おまえ、他に何か隠してないか?ああっ!?一度俺と模擬戦しよう。無論オレは本気で良く」

「大人げねーなっ!?」


「おいおい、まさかそれは飛雷神の術かよ。まさかそんな…」

呆れたシズマの声が練習場に響く。

マーキングした丸太の近くに一瞬で飛んで現れたかと思うと再び別の丸太へと飛ぶ。

「初代様の木遁を使ったかと思うと今度は四代目様の飛雷神の術だとっ!?イズミ達から聞いたが影分身も使えるんだってな?お前は火影にでもなるつもりなのか?」

シズマの攻撃を飛雷神の術で避けつつ反撃の機会をうかがう。

「えー、そんな面倒なものにはなりませんよ。と言うかですね、実は俺の木遁は柑橘類を生やす事しか出来ない訳で」

「そうなのか?」

「だって印知らないですもん」

「あー…そうだなぁ」

一応ナツも自己流でいくつか開発しているのだが、原作の術の再現とは行かない。そこに来てこの飛雷神の術はまだ覚えやすかったのだ。

「うーん…今度伯父さんに聞いてみるか…」

彼の伯父さんとはもちろん三代目火影様の事だ。

「お願いします」

木遁は禁術なので教えてくれるか分からないけれど。いや、そんな事を言ったら影分身も飛雷神の術も禁術レベルか。

「それよりもシズマ先生も飛雷神の術覚えてみませんか?便利ですよ?」

「ばっか、それが出来てれば俺は今頃火影だ」

「ですか…」

つまりは試してみたことが有ると言う事か。

「ちょっとっ!私は教えてって言ったわよっ」

そうだったか?

背後の丸太に現れたナツの右手には螺旋丸が浮かんでいた。

「その術ッ!螺旋丸かっ」

ガガガガガっ!

ボワンと音を立てて消えるシズマ。どうやら影分身だったらしい。

スタっと木の上から飛び降りて着地するシズマはどこかあきれ顔。

「お前の取得技術はおかしい。本当に火影になるつもりは無いのか、お前は」

「え、ありませんよ?死にたくないし、面倒くさいですよね」

「お前はもう少しやる気を出せば立派に火影をやれように…」



「それで、結局性質変化の修行は…?」

とスイが言う。

「イズミは雷、スイは風の修行をした方がいいか。使える忍術は増やしたほうが良いだろう。ナツは…もう知らん…」

おーい…シズマさーん…

木遁についてはシズマ先生がこっそりと写し取って来た初代様の手記で、おおよその術の印は覚えることに成功したのだが…これなら俺の数年の努力を返せと言いたい。いや、相談しなかった俺も悪いのだが…

で、覚えた結果。本当凶悪だね、木遁って。

攻守共に利便性に富み、汎用が効く。はっきり言ってずるいです。

これを極められれば尾獣?ちっちゃいね、てな感じで無双出来るらしいです。でもまぁそれは初代様ほどのチャクラレベルになればの話だけどね。さすがにナルトの前のアシュラの転生者であった初代様のチャクラ量は目が飛び出るくらいだろうし、今の俺じゃ全然追いついてないよ。まぁ、一応他の人よりはチャクラ量は有る方だけどさ、でも、ねぇ?



…あの時、あの九尾襲撃事件の時助けなければどうなっていだだろう。

アカデミーに入らなければ、アカデミーで声をかけられなければどうなっていただろうか。

時間はもうあまりない。

ナツはどうすればいいかひたすら考え続けていた。



ヒナタ様も六歳になり、アカデミーに通う事になった。

と言う事は、うちは一族が滅亡する頃なのだ。

そう、うちは一族はイタチによってサスケを残し皆殺しにされる。

生き残ったのはイタチだけ。と言う事はつまり…

「イズミ…」

うちは一族で写輪眼の開眼者。うちはイズミは確実にこの事件で殺される。

相手はあのうちはイタチ。万華鏡写輪眼の開眼者だ。

天照と月読と言うチート瞳術の使い手になってる事だろう。

問題の一つはイズミがうちはによる木ノ葉の里のクーデターに関わっているかどうか。

よし、ここは中央突破してみよう。

ある日、イズミを呼び出すと直球で聞いてみた。

「イズミ」

「ん、なに?」

「最近警務部のきな臭い噂をよく聞くんだが、何か知ってる?と言うかぶっちゃけうちはって何かよからぬ事を考えているんじゃ?」

「何をバカな事を言っているのよ。うちははみな警務部で一生懸命里の安全を守っているのよっ」

その自意識の高さが問題なのだが。

「よし、もう直球で聞こう。うちはは木ノ葉に対してクーデターを企んでないか?」

「はぁ?バカな事言わないで、頭大丈夫?ナツ」

バカにされた…

「と言うかうちはの噂ってそんなに悪いの?」

「ん、どちらかと言えば、な」

「そうなんだ…最近、任務とナツ達との修行で一族の会合も結構すっぽかしてるから…」

なんとっ!それはナイスだ。

よしよし、この調子でうちは一族から距離を取らせよう。

もう長期任務をバリバリ受けよう。

こうなればスイも巻き込んでしまえ。出来るだけイズミを家に近づけさせない。

うん、まずはここからだ。




ある日の任務の帰り道。スイは先に家に戻ったようだ。

「なぁ、イズミ」

「何?」

「イズミってイタチの事好きなのか?」

ぶはっと飲んでいる物を吐き出したイズミ。

「汚い」

「ごめん、でも突然変な事を聞くから」

「変か?」

「変よ」

「で、答えは?」

「…尊敬はしている」

「それだけ?」

「それだけ、かな」

うーむ…女心の機微は分からないが…繕っていると言う感じではないような。

「それじゃ、私も帰るわ」

「おい、甘味屋はあっちだぞ?」

「ちょっといつも買い食いしてる訳ないでしょっ!それに、今日は一族会議に呼ばれているの」

「…よし、俺とデートしよう」

と言ってイズミの手を握るナツ。

「ちょ、何やってるのよっ!だから今日は用事が有るんだって」

「サボれ」

「一族会議なの、サボれる訳ないでしょ」

しかし強引にしばらく連れまわした後腕を離した隙にイズミは走り去って行った。

それを見送ったナツはひとりごちる。

「なんだろう、すごくイヤな感じがする…まさか、今日じゃないだろうな…」




……

………


「結局集会には間に合わなかったか」

ナツに呼び止められ時間を食った結果、集会はもう終わっていた。

速く帰ろうと急ぎ足で家へと向かう。

空を見上げれば月が真っ赤に染まっていた。

「いやな月…」

誰の気配も感じないその道に、誰かが動くかすかな気配。

イヤな予感にとっさに写輪眼を発動したイズミは音もなく着地したその誰かを発見した。

「イタチ…くん?」

イタチの顔は鬼気迫るものがあり、衣服は所々真っ赤に染まっていた。

「もう、お前で最後だ…」

「なに…を?」

「すまない」

「…え?どうして…」

自分に刃を向けるのか。

次の瞬間、イズミの目の前は真っ赤に染まる。

血が大量に噴き出していた。

しかし、それはイズミの血ではなく…

「…ナツ…?」

「よう、イズミ…ちょっと飛雷神の術で飛ぶ場所を間違えちまった…ぜ」

イズミの目の前にはイタチの忍刀が胸に深々と刺さったナツの姿がそこにあった。



……

………

ナツはイヤな予感がしてうちはの部落へと歩を進めていた。しかし、特に問題は無く家には帰り着いたようで、しばらく時間をつぶしていたのだが、再び感じたイヤな予感にナツはイズミのもとに駆けた。

そしてようやく見つけたイズミ。だがナツの目の前で彼女はイタチの凶刃に倒れそうになっていた。

そこからはもう何をやったのか、自分でも分かっていない。いや、本当は分かっている。飛雷神の術でイズミの目の前に飛んだのだ。

イタチの凶刃からイズミを守るために。

術式は幾度もやった模擬戦の際にイズミに気づかれないように写してあった。

「よう、ぶじ…か?」

「ナツ…いや…いやぁ…何よ、これ…」

ナツは背後に引き抜かれる忍刀を胸の手前で右手で握りしめると、抜けぬと悟ったイタチは忍刀を手放して距離を取る。

「どうしてだ」

間に入ればそうなると分かっていただろう?

「さて、な…そもそもそれは俺の言葉…なのだが…どうしてイズミを…?」

「イズミだけじゃない。うちは一族は滅びねばならない」

ああそうかよ。やっぱりそういう結論になったかよ、イタチ。

「逃げるぞ、イズミ…」

「ナツ、その傷でどうやって…」

「逃がさないお前はここで死ぬ」

「しまっ…」

天照か、月読か。イタチの万華鏡写輪眼はどちらだとしても凶悪だ。

ナツは再びイズミの前に割り込んだ。

「ぐぅあああああっ!!」

突如大声を上げた後地面に倒れ込み意識を失うナツ。

「イタチくん、ナツに何をしたのっ!」

イズミの見上げた先に居たイタチの写輪眼は基本巴でなくなっていた。

「幻術、月読。この幻術は体感時間さえ操る。もうそいつが起き上がる事は無い」

ナツの表情は虚ろになり、もはや生気が感じられなかった。

「ナツ…ナツっ…」

「無駄だ。最初の一撃がすでに致命傷。そこに月読で精神を殺した。もうそいつは死んでいる。お前の母親ももう俺が殺した」

無情なイタチの宣言。

「そんな…ナツ…?おかあさん…っ」

「お前も二人と同じ所へ送ってやろう」

茫然とするイズミにあらがう術はなく…今度こそイタチはナツから引き抜いた忍刀で止めとばかりに振り下ろした。

キィン

忍刀とクナイのぶつかりあい火花が散った。

「お前、どうして」

イタチの驚愕。

「…っナツ?」

「精神は完全に死んでいたはずだ」

「ああ、死んでいたな。だが、影分身は自分の精神もコピーする」

「まさか、解いた影分身で精神を上書きしたのかっ!?」

「ああ、それからここから本気モードだっ」

ナツの瞼のあたりに濃く朱が塗られたような隈取が入っている。

仙人モードだ。隠していた影分身に自然エネルギーを集めさせておいたのだ。

ついでに木遁…陽遁で活性化させた細胞が傷口をすでに塞いでいた。

「ふん」

「きゃあ」

しかしイタチは冷静にナツと刃を交えている為に使えない両手の代わりにイズミを蹴り飛ばし、ゴムボールのように弾かれたイズミはそこで気絶する。

「これでうかつに飛雷神の術も使えまい」

飛雷神の術がどこに現れるかさえ分かっていればイタチなそのタイミングで次こそナツを必殺するだろう。ゆえにイズミの所へは飛べない。

「これは…お前を倒すしかなくなったのか」

「ああ、だがお前に俺が倒せるか?」

手練れのうちは一族を皆殺しにしてきたイタチだ。下忍のナツなど本来相手にもならないだろう。

「俺は別にお前と敵対したい訳じゃない。イタチが何をどうしようと勝手だ。うちはの一族がどうなっても俺はどうとも思わない」

「なら」

「だが、イズミはダメだ。もう知り合っちまった、関わっちまった。イタチ、お前もだ」

「そんな事でお前は命を捨てるのか?」

「まさか、だから引いてほしい。俺はまだ死にたくないしな」

「…それは無理だ」

「サスケ…あいつも殺したか?」

「………」

「答えられないか」

「サスケはこの里で生きていても問題ない。だがそいつは…イズミは無理だ」

「何か裏取引があったようだな。…だったら日向で守るだけだ」

「出来るのか、お前にっ!」

「かっこ悪く宗主にすがってでも守って見せるっ」

「ならばまずこの俺からイズミを守って見せろっ」

「言われなくともっ!」

ナツは思いっきりクナイを振りぬくと互いに距離を取りナツは印を組み始める。

「写輪眼に忍術は無駄だっ」

どんな忍術も即座にコピーして真似てしまう。

「だが、コピーできない忍術もあるだろう?」

陰陽遁のコピーは写輪眼でも難しい。だから…

「木遁・樹界降誕」

「なにっ!」

写輪眼でコピーした印を組んでも不発し、なおかつナツが発動した木遁により地面から巨木が乱立し、またしなるようにうねりイタチを襲う。

「木遁だとっ!」

さらに気絶するイズミをその根が完全に覆い地面の下へと姿をくらました。


「白眼っ」

そこへ白眼による透視と、仙術による感知でこの常人には見つけられないイタチの場所を探り当てる。

さあ、どうするよイタチ?こう離れていれば月読は効かないし、天照でも一瞬で燃やし尽くせはしないだろう。燃やし尽くせなければ再成長させてしまえば事足りる。

うねる根を操るとナツはイタチを拘束しようと操った。

だが…

斬ッ

巨木が何か巨大な剣で切られたかのように根元から伐採されてしまった。

「まさか…」

視線を向ければそこには巨大な剣を持った益荒男の姿が…

「須佐能乎…もう使えるのか…」

「ほう、これを知っていたか。なら…」

斬ッ

再び振るわれた十拳剣。草薙の剣の異名を持つだけはある。

再び振るった一振りで一重の巨木が薙ぎ倒された。

だが、相手の視界は塞ぎ、こちらは動かずとも時間が稼げた。

ナツは両手を目の前で合掌させると隙を逃すまいと自然エネルギーを貯めていたのだ。

相手はうちはイタチ。今のナツの全力でも倒せるか分からない相手だ。油断はできない。

仮想的として何度も脳内シミュレーションして来たんだ。

この状態ならまだ須佐能乎は弱点があるっ!

ナツは印を組み上げると再び地面に手を付いた。

「木遁・木人の術」

現れる巨大な木製の人型。大きさはイタチの須佐能乎と遜色がない。

形は須佐能乎を意識しまくった結果修験者のような形だが、これは仕方のない事なのだ。

しかも、まだ扱いきれて無いから巨木の先にくっついているようないびつな感じである。つまりはパペットみたいに修験者の上半身が巨木に彫られている感じだ。

須佐能乎と木人が組み合う。互いにその力量は譲らない。

「まさか、須佐能乎すら互角に封じ込めるとはな、だが…」

悲しいかな木人は木で出来ている。生木は燃えにくいとは言え、相手の炎遁は特異であった。

燃え上がりその体積を減らしていっているが、まだすぐに力負けはしないだろう。だから…

イタチの足元から突如弦が伸びあがり、イタチの足に絡みつくと勢いよくしなり放り投げた。

「なっ!?」

放り投げられたイタチは須佐能乎から引きはがされて驚いている。

ヒュンと虚空に空気を割く音が響く。

クナイだ。

しかしイタチはその写輪眼の動体視力で見切り体をよじる。

それは陽動であったようで、クナイの影から現れる人影。そう、ナツだ。

ナツはここぞとばかりに駆けだし必殺の一撃を喰らわせるべく食らいつく。

ナツの右手にはグルグルと乱回転するチャクラの塊。螺旋丸だ。

「だが、甘い」

イタチも万華鏡写輪眼のピントが合った瞬間飛雷神の術で飛ぶよりも早くナツが燃え上がる。

「ぐあああああっ!」

「終わりだ」

「お前がなっ!」

カンッと真後ろの木に突き刺さったクナイには術式がマーキングされていて、それをめがけて飛雷神の術で飛んだナツの螺旋丸が迫る。

「何っどうして、本物だったはずっ」

飛雷神の術・二の段。

「そっちは木分身だ。それは写輪眼でも見切れねぇ」

「ぐはっ…」

そして螺旋丸に吹き飛ばされるイタチの体は何本かの細い幹をなぎ倒して巨木にぶつかりようやく止まった。

「ぐはっ…」

さらさらと巨木が枯れて散っていく。

「油断したね、まさか君がやられちゃうとは」

「誰だ…」

イタチのそばに現れた面の男に驚愕する。

「俺か…ふむ…俺は…」

「マダラ…何しに来た」

イタチが呼びかける。

「君の帰りが遅いから心配で見に来たんだよ。そしたら案の定ってね」

「…そうか」

「それで、目的は達したのかい?」

と言うマダラと呼ばれた男。

「ああ、だが最後にあいつに見られてな…」

イタチ…?

「なるほど。使えるやつが居る事には驚いたが、まぁ木遁使いが相手では仕方ないよ。だけど目的は達したのだろう?じゃあアイツは俺が処理しておこう」

「ヤバッ…!」

グンと幻術に掛けられた後に悠々と近づいて来たその男は何かの瞳術を発動したようでそのグルグルのお面に吸い込むようにナツの体は消え去った。

「さて、用事は済んだ。行くか」

「…ああ」

そうして木ノ葉を去っていくイタチとマダラ。

この日、うちはの一族はうちはイタチによる皆殺しで木ノ葉の里の歴史から幕を閉じる事になった。

二人が立ち去ってしばらくして地中から現れる蓮の花。それは花開いたかと思うと中から二人の人物が姿を現す。

気を失っているうちはイズミとさきほど吸い込まれて消えたはずの日向ナツだ。

「あぶな…木分身で良かった…じゃないと死んでる…絶対死んでる…」

吸い込まれて殺されたナツは精巧に出来た分身。木分身だったのだ。

「まさかあそこにオビトが出てくるとは…やはり万華鏡写輪眼はチートじゃんよ…」

さて、と。

「とりあえずイズミを家に運ぼう。…ここに居ると面倒なことになりそうだ」

まぁいなくても面倒な事にはなるのだろうが。

だがその前に…

イズミの家に飛雷神で飛ぶ。

イズミが気を失っていて良かった。この目の前の惨殺死体を見なくて良いのだから。

「小母さん…ごめん。きっとイズミが必要になるだろうから…」





今度こそナツは飛雷神の術で家まで飛ぶ。

今は一刻も早く自分の家に帰りたかった。


イズミをベッドに寝かせるとようやく緊張の糸も解ける。

「ぐっ…」

今更になってイタチに貫かれた胸元を押さえ蹲るナツ。傷はとっくに塞がっていたがあの時の光景がフラッシュバックして幻痛に襲われたのだ。

「…はぁ…はぁ…良かった…生きてる…俺も…イズミも」

スゥと規則正しい寝息を立てているイズミに安心し、さらに脱力。

だが小母さんは…

コチコチコチと時計の音だけが部屋に響く。

その静寂を打ち破ったのは宗家からの伝令だった。

「ナツ、至急屋敷に上がれ」

と言ったのは年上の日向コウさん。

「構いませんが、影分身でもいいですか?今の俺はここを離れられない」

「何を…まさかうちは一族か?」

コウさんはベッドに寝かしつけられたイズミを見て言う。どうやらうちは一族惨殺の事件の事なのだろう。

ナツの小隊員にうちはの一族が居る事は皆が知る事実だ。

「影分身、出来たのだな…だがダメだ。どうしてもと言うならそのお嬢さん事来てもらう。…日向の屋敷の方が安全だろう」

「分かりました…」

まだ起きないイズミを担いで日向宗家へと移動する。

移動すると他の使用人が驚いたように、しかし意識の無いイズミを引き取り布団に寝かしつけてくれた。

それを見てからナツは日向の皆が集まる会場へと足を向ける。


集められた理由はやはりうちはの一族の事件の事だ。

「うちはで生存が確認されているのはうちはサスケと…」

ヒアシの視線がナツをとらえる。

「うちはイズミ。ナツの小隊員だな?」

「はい。偶然イズミと行動を共にしていた時に襲われました。相手はうちはイタチです」

あの…うちはの鬼才か。とか口々に上がる。

「すでにあの年で暗部の部隊長に就任したと言う噂もある。そんな相手によく逃げおおせたものよ」

と先代様。

「あは、あはは…逃げるのは得意なんで」

とりあえず笑ってごまかしておいた。

「じゃが、それはそれで困った事態になったの」

困った事態?

「今回のうちは虐殺はクーデターを企てたうちはの粛清だと言う話もある」

と先代様。

「うちはの写輪眼はやっかいじゃ。普通の忍では写輪眼の相手は務まらん。ならば同じ写輪眼をあてがうのが良いじゃろう」

「つまり木ノ葉隠れの里の意志、だと?」

とナツが確認する。

「いや、ワシは一部の暗部の暴走じゃとおもうておるよ。ヒルゼンは確かに最後の最後では木ノ葉の里を取るじゃろうが、話し合いを放棄するやつじゃないからのぅ」

昔なじみなのだろうか。三代目様の事を良く知っている風である。

「最近「根」と言う暗部の一部が暴走しているようじゃ。おそらくはそやつらにイタチも煽られたのじゃろうて」

そうなるとイズミの立ち位置は本当に微妙だ。

このままでは本当に里に殺されかねない。

だから彼女には彼女を守ってあげられる後ろ盾が必要になる訳で。

「日向で守ってやれませんか?」

とナツが言う。

「…それは少し無理じゃろう。日向が動く理由が無い」

「俺がイズミと結婚します。そうすれば彼女は日向の一員だ」

「ナツ、お前…」

「それに、日向に写輪眼を取り込む良い機会です。白眼に写輪眼が加わったら面白いと思いませんか?」

「ナツ、お主…」

「生まれた子供には籠の鳥の呪印を刻んでも構いません、どうか…そうでなければ俺がイズミを連れて日向を出ます。籠の鳥の呪印で縛ろうが、ここの半数を殺してでもイズミを守ります」

半分はただのでまかせ。はったりだ。だが、ヒアシはナツが飛雷神の術を使える事を知っているし、それがどれほど凶悪かも知っていた。

宗主様、先代様、と日向一族が口々に賛否両論の言葉が飛び交った末にヒアシが口を開いた。

「今ナツを日向から出す訳にはいかん。…よかろう、そのイズミは日向で守ってやろう。だが…今はまだ婚約者候補としておけ」

「…ありがとう…ございます」

とナツは床に頭をこすりつける勢いで頭を下げ続けた。

「そう言う事だ。皆、解散」

ヒアシの言葉で一人、また一人と去っていく。

「まったく、お前は頭が痛くなる事ばかり私に持ってくるな」

飛雷神の術しかり今回の事しかり。

「申し訳ごぜいません」

「よい。だが、お前は日向だ。それを忘れぬように」

「はい」
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧