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第十八話 我が子を喰らうサトゥルヌスその一

                第十八話  我が子を喰らうサトゥルヌス
 一郎と雪子は今は共にベッドの中にいなかった。二人で自分達の家のリビングにいた。
 そこで向かい合ってソファーに座っていた。その中でだ。
 一郎はブランデーを飲みながらだ。こう雪子に言った。
「困ったことになったね」
「ええ、藤会もあのお店も四人もね」
「そして叔父様もね」
「お薬が手に入らなくなったわ」
 まずはこのことを話すのだった。二人の愉しみの一つであるそのことをだ。
「どうしたものかしらね」
「塾の方はね」
「ええ、副理事長のあの叔父様がそのまま継ぐのね」
「あの人は真面目だから」
 だからだとだ。一郎はブランデーを飲みながら淡々と話していく。
「お薬のことも宴のことも知らないよ」
「まして私達の話に乗ってくることもね」
「ないよ。絶対にね」
「じゃあこれからは私達だけでやるしかないのね」
「お薬については」
「今入手ルートを探してるから」
 雪子自身がだ。そうしているというのだ。
「少し待っていてくれるかしら」
「じゃあ見つかるまでの間は」
「ストックを使っていきましょう」
「まだ少しあるけれどね」
「あと叔父様のお屋敷のも十階にあったのもね」
 由人が死んでから即座にだというのだ。
「こっちに持って来たから」
「この家の何処に隠しているのかな」
「家の裏庭に。埋めて隠しているから」
 そう簡単に見つかる様な場所には置いていないというのだ。
「お父さんやお母さんにもね」
「見つからないね」
「絶対にね。だから大丈夫よ」
「それを聞いてそのことは安心したよ」
 自分もブランデーを、ただし兄とは違い勢いよく煽る様に飲む雪子にだ。一郎は言った。
「けれどそれでもね」
「ええ、四人に叔父様を殺した奴ね」
「誰だと思うかな」
 一郎は雪子の顔を見て問い返した。酒で赤くなってきているその顔を。
「一体」
「わかる筈ないじゃない。わかることはね」
「殺している人間は多分同じだね」
「ええ。しかもそいつはね」
 どうかとだ。雪子はオンザロックにしているブランデーを勢いよく飲みながら話していく。風呂上りでローブだけの肢体も赤くなってきている。
「いかれてるわね」
「そしてあの文字だね」
「次は君達よ、ね」
「それが一体誰なのか」
「まさかと思うけれど」
 左手にブランデーが入っているそのグラスを持ってだった。雪子は眉を顰めさせて述べた。
「私達のことかしら」
「僕達が彼等や叔父様の一味と知っていて」
「まさかと思うけれどね」
「それは有り得ないけれどね」
 絶対だとだ。一郎はその可能性を否定した。
「確かに僕達は叔父様と一緒に楽しんでいたけれど」
「そうよ。写真とかの資料は全然残していないし」
「麻薬の取引もね」
「向こうの事務所ではしてないし書類での契約とかもしていないから」
 闇の取引だから当然だがそうしたことには細心の注意を払ってきていたのだ。由人は己の悪事の隠蔽には実に慎重で用心深かったのである。
 それは一郎も知っていた。だからこう言うのだった。
「有り得ないね」
「そうなのよね。警察だってね」
「見つけられない筈だよ」
「日本の警察で見つけられないなら誰が見つけられるのよ」
「そう。だからその可能性はないよ」
 自分達が由人達と共に悪事を働いていたことが察知されている可能性はだというのだ。 
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