展覧会の絵
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第十七話 死の島その十六
その強さを感じていた。それで言ったのである。
「強くなれそうだわ。一人よりもずっとね」
「そうだよね。しかもその強さはね」
「優しい強さよね」
「そうだね。優しくて暖かくて」
そしてだというのだ。
「柔らかい。そうした強さだよね」
「そうした強さもあるのね」
「僕、強さは硬くて厳しいものだと思っていたよ」
空手、武道での修業のイメージからだ。猛はそう思っていたのだ。
だが強さはそうしたものだけではなかったのだ。その武道の強さの他にも絆の強さがあったのだ。その愛情という絆の強さを確かめ合いながらだ。猛は言うのだった。
「けれどこの強さって」
「いい強さよね」
「そうだね。武道の強さとはまた別にね」
「それじゃあこれからは」
「二人でいようね」
「そうして。ずっとね」
雅も微笑みだ。そのうえで猛の手を握ってきた。
猛もその手を握り返す。二人は今はその絆を確かめ合っていた。暖かい強さを。
塾についてだ。十字は教会に帰ってから神父に尋ねた。神父はこう十字に答えた、
「弟さんが継がれる様です」
「そうなんだ。あの人が」
「はい、他の家に養子に行かれていた」
「お兄さんじゃないんだね」
「大学で教授をしておられるあの方ですか」
「確かあの理事長は次男だったから」
優秀な兄弟に囲まれていたのだ。そのコンプレックスもあったのだ。
「塾を継ぐのは」
「元々は長男の方の筈だったというのですね」
「それが筋だった筈だけれどね」
「しかしそれがです」
「違うというんだね」
「はい、ご長男は大学でその才覚を認められ」
学者としてのそれをだというのだ。
「大学院に進みそうしてです」
「教授になったんだね」
「そうです。そして三男さんもです」
その今度塾を継ぐだ。彼もだというのだ。
「立派な方として養子に迎え入れられたのです」
「そして残った彼がなんだね」
「塾を継いでいたのです」
「そうしたことなんだね。そしてその彼が死に」
十字に裁きの代行を下された。それによってだった。
「三男、副理事長のあの人が跡を継ぐんだね」
「そうなります。ご長男は大学教授に専念されるとのことで」
それでだというのだ。
「三男が跡を継がれます」
「成程ね。そうなるんだね」
「ですが元々問題はないかと」
何故そうなのかもだ。神父は話した。
「あの熟は元々副理事長が運営されていましたから」
「そうだね。だからね」
「はい、しかもあの三男の方は立派な方です」
由人と違いだ。そうだというのだ。
「ですから」
「あの塾は健全化するね」
「そうなります。ただ理事長の正体ですが」
それはだ。どうなるかというのだ。
「どうされますか」
「あの理事長のことが公になれば塾は潰れるね」
「確実に」
そうなるとだ。神父も答える。
「そうなってしまいます」
「では十階に行って来るよ」
「そしてですか」
「悪事の証拠は消しておくよ。ただ汚された少女達の心は」
「それは私にお任せを」
神父が言って来た。そのことは。
「迷える子羊達の心を救うことが」
「君の役目だからこそ」
「そうです。ですから」
「わかったよ。それではね」
「お任せ頂きますか」
「頼むよ。僕が彼女達のところに行くのもいいけれど」
だがそれでもだというのだ。
「それもまたね」
「こうした場合はですね」
「そう。年配の人の方がいいからね」
人を救うにはだ。そうだというのだ。
「心の傷は身体の傷よりも癒しにくい」
「はい、それもかなり」
「彼等の心は救えたけれど」
猛、そし望達四人のことだ。彼等は宋出来てもだというのだ。
しかし他の少女達、彼女達はだというのだ。十字が今言うのはこのことだった。
「彼女達はね」
「そうですね。おそらくまだ救われておらず」
「傷はさらに浸透していっていますね」
「頼んだよ。彼女達の心のことは」
「それとなく赴き救っていきます」
「そうしてくれると有り難いよ。ではね」
「はい、それでは」
こうした話をしてだ。そのうえでだった。
十字は今は休息に入った。しかしその休息は次の裁きの代行への息抜きに過ぎなかった。その代行は着々と進んでいた。神が見ている罪人達に対するそれは。
第十七話 完
2012・5・30
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