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展覧会の絵

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第十六話 最後の審判その四

 では絵にある何を見ているか。それが問題だった。
「そこにある心を見ています」
「絵にある心を」
「そうです。この絵にもあります」
「ミケランジェロの心が」
「描いてはいませんがラファエロの絵ですが」
 ミケランジェロと同じくルネサンス期の芸術家だ。この二人とレオナルド=ダ=ビンチでルネサンスの三大芸術家と称されている。そのラファエロのことを言うのだった。
「アテネの大聖堂がありますね」
「ああ、あの絵だね」
「はい、あの絵にはプラトンとアリストテレスがいますね」
「中央の二人だね」
 尚プラトンの顔はレオナルド=ダ=ビンチになっている。ルネサンス期最大の万能の天才と古代の大哲学者を重ね合わせて描いたのである。
「その絵にもなんだ」
「はい、ラファエロの心が出ています」
「確かに。ダ=ビンチへの尊敬の念が出ているね」
「彼はダ=ビンチを尊敬していました」
 だから偉大な哲学者と重ね合わせたのである。
「自分やミケランジェロも描いていますが」
「ミケランジェロは端役だね」
「はい、そうです」
「そこにも彼の心が出ているというんだね」
「彼はミケランジェロとは仲が悪かったです」
 尚ミケランジェロはダ=ビンチとも仲が悪かった。ミケランジェロは中々難しい性格だったと言われており二人と直接言い合いというか二人に悪口を言った話が残っている。
「そしてラファエロ自身もまた」
「少しだけ描かれているね」
「彼の控え目な性格が出ています」
「あの絵にもそうした心が出ているんだね」
「あれは彼の人柄や他社への感情が出ていますが」
「絵に出るのはそれだけではないね」
「はい、そしてその心をです」
 描いているというのだ。十字は。
「そうしています」
「そうなんだ。心を描いているんだ」
「絵柄も確かに重要ですが」
「絵にあるのはそこからさらにだね」
「はい、その中にある心が大事なのです」
「成程ね。確かにその通りだね」
 先生も頷くことだった。十字のその言葉に。
 そのうえで彼が描いたミケランジェロのその絵をさらに観る。そして。
 そのうえでだ。こうも言ったのだった。
「心を見て描けばどんな絵でもだね」
「模写できます」
「だから君はどんな絵でも模写できるんだ」
「そうなります」
「わかったよ。ただ君は」
「何でしょうか」
「模写はしているけれど」
 だがそれでもだというのだ。先生の話がここで変わった。
「君自身の絵は描くのかな」
「僕のですか」
「うん。君が自分の絵を描いたところは見ていないけれど」
「僕は。それは」
 ミケランジェロの、自分が模写した絵を観ながらの話だった。
「できないのです」
「自分の絵は描けないのかな」
「心が。僕の心は」
「君の心は描けない?」
「描けないのです」
 だからだ。自分の絵は描けないというのだ。
「料理もそうですが」
「あっ、君お料理もできないんだったね」
「はい、作ることができません」
 感情を何処にも見せず。淡々と話すのだった。
「それはどうしても」
「お料理も心が出るからね」
「僕は心を出すことができないのです」
「表に?」
「出せるのはあの時だけです」
 ぽつりと。こう言ったのだった。ここで。 
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