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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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隠し球

 
前書き
この試合が終わったら水滅竜を再開する……かも。 

 
莉愛side

「ナイスピッチ!!」
「ナイス瑞姫!!」

ノーアウト満塁でクリンナップ。絶体絶命のピンチを無失点で切り抜けた私たちはまるで勝ったかのような盛り上がりでベンチへと戻る。そんな私たちを監督は拍手で迎え入れてくれた。

「よく堪えた。瑞姫、最高のピッチングをしてくれたよ」
「いえ」

満更でもない表情の瑞姫。それも監督の指摘があったからこそなんだけど、彼はそんなことなど口にすることもなく次の話に移る。

「最終回だ!!ピンチを凌いだ。あとはお前たちの持てる力を全部ぶつけてこい!!」
「「「「「はい!!」」」」」

この回は7番から。本来なら美穂さんの打順だけどここは恵さんが代打として打席に向かう。

「莉愛、繋ぐからね」
「はい!!」

恵さんはバッティングなら莉子さんたちにも決して劣らない。ただこの打席がこの大会での初打席。緊張しているかと思ったけど、そんな様子もなく彼女は打席でソフィアさんと相対する。

「狙うなら初球だな」

防具を外しているところで監督がボソリと呟いた。ほとんどデータがない打者が打席に立てば相手は無難な攻め方しかできない。逆にいえばそこを突けばヒットを打つことも可能だ。

しかしその狙いを読んでいたのかバッテリーが選択したのは内角低めへのストレート。これに恵さんはバットを出しかけるも腕を畳み切れなかったため空振り1ストライクとなった。
















第三者side

「いいスイングするねぇ」

初球から振ってくることは想定していたが、予想よりも打撃が得意そうなバッターのスイングを見てカミューニは驚いたような声を出す。

「でもミートは弱そうですね」
「そうかなぁ?俺にはわざと空振りしたように見えたけど?」
「えぇ?そうですか?」

あのまま打っていれば内野ゴロになっていた。それを避けるために軌道修正したと読んだカミューニ。その予想は当たらずも遠からずといったところ。

(ストレートだったから振りにいったけど、あまりにもコースが良すぎた。空振りしようと思ったけどそもそも当たらないくらいに)

ソフィアの投球は読み切れていなければ捉えられないほどの球速とコースに決まっていた。そしてそれに気が付いていたのは恵とリュシーだけだった。

(変なスイングになってたけど、この人反応もいい。これは下手な投球をするのはよくないなぁ)

リュシーはここでムービングを選択。バットコントロールがうまいならとそれを逆手に取ることを選んだ。

(引っかけてくれ)

祈るような気持ちで選んだ配球。この判断は決して間違いとは言えないだろう。しかしそれはピッチャーが失投をしなければである。

(アウトローに……ムービング!!)
(うっ!?高い!?)

これまでほとんどなかった失投。それがこの場面で来てしまい、恵はそれを逆らわずに流し打つと打球は一、二塁間へと向かっていく。

「セカンド!!」

ファーストもセカンドもボールに向かって飛び付く。しかし打球はその二人のグラブの先を掠めるようにライトへと抜けていった。

「やったぁ!!」
「ヒット出たぁ!!」

莉愛以外についにヒットが出たことで明宝ベンチは大盛り上がり。そして一塁に出た恵を見てすぐさまベンチが動く。

「莉愛、翔子、任せるぞ」
「はい!!」

タイムをかけ一塁へと走り出すのは背番号19を着けた黒い髪を長く伸ばした少女。恵とハイタッチをして入れ替わる彼女にカミューニは目を細める。

「またデータがない奴……確か一年生だよな?」
「はい、5人入っているうちの一人です」

この場面での代走で考えられるのは二通りの考え方。一つは盗塁でチャンスを拡大できる選手。もう一つは当たっている莉愛が長打を打った場合、一気にホームまで来れるベースランに長けた選手。

「3点差で盗塁はリスキーだと思うが、あいつが長打を打てるかと言われると微妙だよなぁ」

誰に言うでもなく呟くカミューニ。しかし莉愛はソフィアに相性がいいと考えると、大きい当たりではないものの野手の間を抜けていく打球を打つ可能性は十分にある。

(そもそも走られたらリュシーの肩では刺せねぇか……ソフィアもクイックは得意じゃねぇし、バッター集中でいいよ)

昨年の登板過多で肩を壊したリュシー。マウンドにはこの春から野球を始めた未経験者。もし相手から盗塁に優れた選手である場合は阻止しようがない。ならば捨てると割り切るカミューニ。

(一応ストレートを外角に)
(クイックなんて久々かも)

カウントを取ることを最優先に、ただし無警戒というわけにはいかない。一度牽制を挟んでから、この試合初めてとなるクイックで投球に入る。

「「「「走った!!」」」」

様子見することもなく初球から盗塁を試みる翔子。ある程度想定していた事態ではあるが、それでもこの積極的な動きにカミューニは驚いている。

(3点差の最終回で打席には当たっている城田。普通ならじっくり行くところなのに迷いなくリスクを背負ってくるたぁ……)

バッテリーがランナーがいる状況に慣れていないことを察していた真田は初球から仕掛けることを決めていた。そしてその予想通りだった。ここまで無双を続けてきたバッテリーは綻びが見えた。

決して早くないクイック、投球こそストレートだったもののストライクに決まっている。おまけに打者は左で送球の邪魔になる上に二塁へと送球したリュシーのそれはコントロールこそ完璧だったものの、強いとは言えないものだったために蜂谷は翔子にタッチすることすらできなかった。

「な……速ぇ……」

狙い通りの展開に持っていけた明宝。ただ、カミューニは翔子の脚に驚愕の声を漏らす。刺せるとは思ってはいなかったもののそれでも彼女は余裕を持って二塁ベースへと到達していた。それは万が一の確率すら許さないほどに。

(ソフィアもリュシーもベストを尽くした。それであの差となると……三盗もあるか?)

彼女がホームインしたところで点差は2点。気にすることはないのだが……

(三塁に行ってくれれば気にしなくていいが、二塁にいる状況じゃあ投球に集中できない!!まさかこんな隠し球を用意していたとは……)

ソフィアは右投げ。二塁ランナーは必然的に視界に入る。そのランナーが脚がある上にうろちょろと動かれると気にするなと言う方が難しい。

(次のこいつは当たっている。いっそのことタイムリーを打ってくれた方が楽……か?)

これだけの脚があれば外野に抜ければホームまで来るだろう。莉愛は脚が速いタイプではない上に彼女が生還してもまだリードがある。

(このランナーは牽制しなくていい。バッターにだけ意識を向けろ)
(わかってるけど……気になっちゃうなぁ……)

カミューニの言いたいことはわかるがソフィアの真後ろにいる彼女に意識が行ってしまう。ただ、ランナーがいないものとして考えるなら配球も変わってくることは確か。

(初球はストレートで空振りを取れた。次は落とす!!)

前の二打席莉愛は球一つ外したストレートを打っている。ならばストレートをこれ以上いれる必要はない。近いスピードから変化するスプリットでカウントを取りに行った。

(スプリット……)

ソフィアはセットポジションに入ると一度ランナーを目で制してから投球に入る。しかしーーー

(ワンバンにはならないように)

彼女は二人の考えを把握できていなかった。

(ん?甘い?)
(ゲッ!?ベルト高!!)

キンッ

打球は小気味いい音を残して三遊間へと転がる。盗塁を警戒していたサードは反応が遅れたがショートを守る蜂谷が懸命に飛び付く。
それでも打球は振り抜いたこともあり、レフト前へと抜けていった。

「やった!!」
「バックホーム!!」

ゴロを捕球してすぐさまバックホームに入ろうとしたレフト。しかし彼女は送球をやめると、サードを守っていた少女へとそれを投げる。

「今のは無理」

三遊間に飛んだことでスタートを切れなかった翔子。俊足の彼女でもそれではホームへと突入することはできず三塁で止まっていた。

「くっ……どうせならホームまで行ってくれればよかったのによぉ……」

ノーアウト一、三塁。なんでもできる状況を作られたことでカミューニは隠す素振りもなく大きなタメ息をつき、ベンチに寄りかかる。

「……仕方ねぇ、リスクを背負うしかないか」

しばしの沈黙の後、覚悟を決めた彼はタイムをかけ、マウンドへと伝令を走らせた。






 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
話数的には準々決勝の方がまだ多いことに驚きを隠せない……そして恐らくあと2話でこの試合も終わるのでほぼ同じ話数で終わりそう。 
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