おっちょこちょいのかよちゃん
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255 戦の中の祝言
前書き
《前回》
ヴィクトリア女帝との激闘と死闘の末、かよ子は杖の奪還に成功した。激戦の反動で意識を失い、戻った時には既にヴィクトリアの館はなく、七つの泉がその場にあった。かよ子はクイーン・ベスの提案で杖を七つの異なる色の泉に浸す。その時、杖はいつでも炎、氷、雷、石、棘、丸鋸、剣の七つの能力が使用可能になった!!その裏で、杉山はとある目的で紂王の屋敷へと向かっていた!!
かよ子は本部からの手厚めの用意を受けて(風呂や簡易ベッドなどを用意された)、七つの泉で休んでいた。そして朝食を終え、それぞれ出発の時となる。
「それじゃ、ウチらは別の方向へ向かうさかい、またお別れやな」
「はい、お元気で!」
「杖の所有者よ、またいつでも力を貸そう!それでは失礼する」
ラクシュミーは上市、高田の兵と共にその場を去って行った。
「それでは私とクイーン・ベスも次の仕事に行くとしよう。次は杯の奪還に手を貸しに行く」
「では私は戦う者達の手助けに行くとする」
オットーはまた別の方向へ向かった。
「杖の所有者・山田かよ子さん。あの学舎のお祭り以来の共闘、光栄でした。ではまた別々になりますが、お探しの少年の奪還をお祈り致します」
「かよちゃん、頑張ってね・・・!!」
すみ子達は山口、川村、ヤス太郎、エレーヌにジャンヌと領土の奪還に進んだ。
「杖の所有者よ、またいつか戦おう。あの忌々しい女王がやられて倒された我が好敵もきっと喜んでいる筈だ」
輝虎はそう告げた。
「私は他の者の助太刀に走る。さらばじゃ!」
「私もこの平和の世界を取り返す為に動き続ける。お前らの任務の成功はムハンマドも願っているだろう」
輝虎、サラディンとも別れた。
「じゃ、私達も行くね」
スケッチブックの少女は隆盛、利通と共にかよ子達と別れる。
「・・・私達も行こう!」
かよ子達藤木救出班は本来の目的の為に東の方角へと進んでいくのだった。
(もう杖を盗られるおっちょこちょいなんてしないよ・・・。強くなった杖と一緒にもっと使い熟して藤木君と杉山君を取り返す・・・!!)
本部の管制室。まき子達は朝食を終えて入って来た。
「さて、かよ子達は東の方に向かい直したわね」
「それにしても七つの泉が元に戻ったか」
「七つの泉?」
「この泉は相手の力を貸す夢の泉なのだよ。ただ私利私欲すぎる夢には応えられないのだが」
イマヌエルが説明した。
「おそらくクイーン・ベスやブランデー・ナンは山田かよ子君に杖を泉に浸すように助言をした筈だ。杖は山田かよ子君の望みに応えて強くなっている筈だよ」
「どんなふうに?」
「まあ、連絡を取ってみよう」
イマヌエルがテレパシー能力を使う。
「クイーン・ベス、こちらイマヌエルだ」
『おお、イマヌエル』
「剣や杖の奪還に色々と協力してくれて色々感謝しているよ」
『いえいえ、こちらこそ。今度は杯を取りに行くよ』
「ところで山田かよ子君は七つの泉に杖を浸したのかい?」
『ああ、勿論だ。炎や氷、雷などを出す能力など七つの能力を自在にあつかえるようになったのだ』
「そうか、ありがとう」
そして先代の杖の所有者は娘に無言のエールを送る。
(かよ子、頑張るのよ・・・。杖が強くなったなら私よりも上手く使いこなせるはずだわ・・・!!)
こちら紂王の屋敷。藤木は緊張していた。婚礼衣装の着付けを奉仕係の遊女に手伝って貰っていた。
(僕はりえちゃんと一緒なんだ・・・)
「茂様、顔がにやけていますね」
「え、あ、その・・・」
藤木は言い訳が浮かばなかった。
「解りますよ。今日は大事な日ですからね。最高の祝言にしましょうね」
遊女はそのまま笑っていた。
「う、うん、そうだね!」
そして婚礼衣装の着衣が完了した。深紅の礼服だった。自分がよく知る西洋式のタキシードとか和式の袴姿とはまた違うので新しさや違和感をも藤木はまた感じていた。
一方、同じく別室で婚礼衣装の着付けを遊女に手伝って貰っていたりえはこの日も落ち着きがなかった。祝言とはまた異なる胸騒ぎだった。何しろ自分は藤木との祝言を挙げる気は微塵にもない。
(藤木君と結婚なんて・・・。そんな・・・!!)
りえは藤木の事も「(一応ではあるが)友達の一人」ではあった。だが恋愛だのそこまでの好意とまではいってはいない。
「茂様は大層お楽しみにしておりますよ」
それまで無言だった遊女が話しかけた。
「貴女は茂様とは以前にもお会いしているとお聞きしていますが、あまり好みではないのですか?」
「そうとも言い切れないけど・・・」
「まあ、結ばれてみればあの方のいい所も見えてきますよ」
「・・・」
りえは無言だった。
(いい所・・・でも、私が何とかさせないと、藤木君は戻りたがらないはず・・・)
りえは不毛な対立は避けたいと思うものの、どうすれば藤木を自分達の方へ引き入れるか悩み続けていた。また、それ以上に大事な杯が一体どこにあるのかでそわそわしていたのだった。
一人の男が紂王の屋敷へと入っていた。
「レーニンだ。紂王はいるか」
「はい、暫しお待ちを」
番兵が紂王を呼びに向かう。
「おお、レーニンか」
「この日は私と同化する少年の意向もあり、祝言に参加させて頂く。ところで例の杯は貴様の方で保管しているのか?」
「はい」
紂王はレーニンを案内した。そこは地下室だった。レーニンの中に宿る杉山は確認した。
(ここにりえの杯があるのか・・・)
「どうなされる、つもりかね?」
「今は貴様らに任せておこう。だが一つ、やっておきたい事がある」
レーニンは杯に手をかざす。
「これで杯の能力は吸収させて貰った」
戦争を正義とする世界の長は剣に続いて杯の能力を吸収した。これにより世界最上位のアイテム二つの能力を手にした事になる。
「では、会場に案内してくれ」
「了解」
祝言の会場へ二人は進む。
来賓が次々と訪れていた。遊女が受付係を行う。
「ようこそお越しくださいました」
「ここか」
「これはレーニン様」
遊女はお辞儀をした。別の男が入ってきた。
「ほう、レーニン、お主も参加して悠長だな」
「煬帝か。貴様も呼ばれていたのか」
「ああ」
そして会場に入った。
「では私はあの少年の所へ向かわせていただこう」
紂王はその場を離れた。
そして紂王の屋敷の大広間。進行の遊女が壇上に立つ。
「皆様、お越し頂きありがとうございます。それでは新郎新婦の結びをお楽しみください。新たなお嫁さんとお婿さんのご入場です!」
花婿と花嫁が入る。花婿は藤木、花嫁はりえだった。藤木は紂王に、りえは妲己に連れられて入場した。藤木はいろいろな人物の見世物になる事に緊張が解けなかったが、りえと一緒になれる事にニヤけてもいた。一方のりえは全く落ち着かなかった。りえは周囲を見る。結婚式というのはこんなにも来賓が来るものとは解ってはいた。だがその場にいる来賓は屋敷の遊女や衛兵だけではない。戦争を正義とする世界の人間がこんなにもいる。そしてこんなに敵はいるのだとりえは改めて思った。
(あれはっ・・・!!)
りえは一人の男に目を付けた。そこには嘗て自分の杯を狙って現れた事のあるエルデナンドだった。
(あいつが来てるって事は、私の杯が取られた事を知ってるのっ・・・!?)
他にもりえは恐ろしそうな人間を見回す。そしてその場にはあのレーニンもいた。
(す、杉山君っ・・・!アンタはっ、本っ当にっ・・・!!最低っ・・・!!何なのよっ、こんな事させて・・・!!)
「お似合いなお二人ですね。それでは結びの誓いとして祝いの酒をお飲みください!」
二人の元に枡入りの酒が運ばれた。
「ええ!?ぼ、僕、お酒、飲めないよ!!」
藤木は戸惑った。
「大丈夫だ、これは偽物だ。少年のような童でも飲めるものだ」
「う、うん・・・」
藤木は枡を手に取り、飲む。桃の味がした。おそらく桃のジュースだったと藤木は思った。しかし、りえは全く手を出していなかった。
「りえちゃん、飲まないのかい?」
「・・・」
りえは黙って枡の酒を飲んだ。
「では、この結びの暁として婿から嫁への素敵な贈り物を用意された。持ってきておくれ」
妲己は手を叩いて四人の兵に用意させた。
「え、贈り物?僕は何も用意してないよ・・・」
藤木は戸惑った。
「何を言っている。前に会食した時にお嬢に楽器を弾いてほしいと申していたではないか?坊やの願いを叶える為にもこちらで用意しておいたわよ」
「え・・・!?」
そして戸が開いた。それはアップライトピアノだった。
「これは新郎から新婦への贈り物だ」
「こ、これをっ・・・!?」
りえはその場にピアノが用意された事に驚いた。
「りえちゃん、これでいつでもピアノが弾けるよ」
「う、うん・・・」
りえは複雑だった。久々にピアノが弾けるようになるのは嬉しい。しかし、それならば元の世界に帰れたらいいのにと思った。
後書き
次回は・・・
「その結びは仮初か」
かよ子は本来の目的の藤木の奪還に路線を修正し、東進する。たまえは友人達と暫く会えずに寂しく今日も学校で過ごす。紂王の屋敷では藤木とりえの祝言が催されていた。現代風の式の行い方を行い、式は新郎新婦からの一言に入る・・・!!
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