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第十三話 ベアトリーチェ=チェンチその一

                第十三話  ベアトリーチェ=チェンチ
 望は学校に来なくなった。そうして数日経った。
 春香は自分の席で一人弁当を食べるばかりになった。その彼女を見て友人達は心配する顔でその彼女に問うた。
「ちょっと、神崎君どうしたの?」
「インフルエンザ?それとも別の病気?」
「わからないの」
 戸惑いつつ沈んだ顔でだ。春香はそうした問いに答えていた。
「一体何があったのか」
「何があったって。お家行ったの?」
「それで様子見てきたの?」
「行ってるわ。毎日」
 幼馴染らしくだ。そうしているというのだ。
 だがそれでもだとだ。春香は沈んだ顔で言うのだった。
「けれどね。お母さんが出て来てね」
「彼のお母さん?」
「その人が出て来て?」
「そう。どうしても動けないって」
 そう言うというのだ。
「それで全然ね」
「春香でも会えないのね」
「今は」
「そうなってるのね」
「そうなの」
 その通りだとだ。暗い顔で話す春香だった。
「お弁当も作ってるけれど」
「ううん、どうしたのかしらね」
「病気よね」
「病気にしても結構重くない?」
「何日も来てないなんて」
「私もね」
 どうかとだ。春香は暗い顔のままで述べた。
「心配だけれど」
「そうよね、奥さんとしてはね」
「世話女房としては」
「そんなのじゃないけれど」
 そうした囃しの言葉もだ。今はだった。
 春香の心をいい意味で騒がせることはなかった。それでだった。
 春香は俯いた顔でだ。こう言うのだった。
「お弁当も。折角作ったけれど」
「やっぱりトマト入れてるわよね」
「そのお弁当にも」
「トマトだけじゃないから」
 望のことを考えながらだ。春香は友人達に話していく。
「望の好きなものは何でもね」
「入れてるの?」
「そうしてるの?」
「ほうれん草のおひたしとか。ゆで卵とか」
 そうしたものがだ。望の好物だというのだ。
「それに御飯も。お握りにして海苔を巻いてね」
「そうして彼が好きなものも入れてるのね」
「そうなのね」
「望の嫌いなものばかり入れないから」
 それはしないというのだ。
「トマト以外にも入れてるわよ」
「それで彼に食べてもらうようにしてたの」
「そうしてるの」
「だから余計になのよ」
 曇った顔での言葉だった。
「早く学校に来て欲しいけれど」
「家に行っても会えないんじゃね」
「仕方ないわね」
「うん、どうしたものかしら」
 不安に満ちた顔でだ。また言う春香だった。
「望には早く来て欲しいけれど」
「大変な病気じゃないといいよね」
「そうよね」
 春香は気付いていなかった。望の異変に。そのうえで彼に会えないことに不安と辛さを感じていた。そこにあるのは純粋な感情だけであった。
 そんな彼女を見てだ。雪子は一郎に話した。この日二人は昼休みに学校の屋上で会っていた。そしてそこで話していたのだ。
 青空には白い雲もある。だがそれでもだった。雪子は邪悪に満ちた笑み、青空には全くそぐわない笑みでフェンスにもたれかかりそのうえで一郎に話していた。その話は。
「成功したみたいね」
「彼は登校してこないね」
「もう何日もね」
「壊れたかな、彼は」
 一郎はベンチに座っている。そこから妹に尋ねた。 
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