花の雪
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第二章
宮中の者達にだ、こう命じた。
「国中にアーモンドの木を植えるのだ」
「アーモンドですか」
「それをですか」
「そうだ、それを植えてだ」
そうしてというのだ。
「国を満たすのだ」
「アーモンドですか」
「その木ですか」
「わかりました、ではです」
「その様に致しましょう」
「うむ、その様にするのだ」
王は宮中の者達に告げた、そうしてだった。
国に多くのアーモンドの木が植えられた、そのうえで春を待った。するとだった。
王妃は春になった今の自分達の国を見てだ、目を丸くさせて言った。
「これは」
「どうだろうか」
王は王妃に馬車で共に国を見て回る中で尋ねた。
「これは
「アーモンドのお花が咲き誇って」
「そうなってだな」
「まるで、です」
その花達を見て話した。
「雪がです」
「国を覆っている様だな」
「私の故郷の冬の様です」
「この国に雪は滅多に降らない」
王はこのことはどうしてもと話した。
「しかしな」
「それでもですね」
「余も雪が白いとわかっている」
「白く冬は全てを覆います」
「それならと考えてな」
「白いアーモンドのお花で、ですか」
「国を覆ってみようと思ってな」
そう考えてというのだ。
「アーモンドの木を国中に植えてな」
「春に咲いて」
「国を白くしようと思ったが」
「まるで、です」
王妃は王にうっとりとした笑顔で話した。
「故郷に戻った様です」
「そうなのか」
「はい、まさに」
その通りだというのだ。
「この上ないまでにそのままです」
「それは何よりだ、ではこれからもな」
「春になればですね」
「こうしてだ」
「アーモンドのお花がですね」
「雪の様にだ」
まさにその様にというのだ。
「白くだ」
「国を覆いますね」
「そうしてくれる」
こう王妃に話した。
「だからな」
「春にですね」
「喜んでくれるか」
「冬を悲しむ代わりに」
「どうだろうか」
「喜んで」
王妃は笑顔で答えた、そうしてだった。
王妃はもう冬に北を見ることはなくなった、冬は春になることを待ち望み。
春になるとアーモンドの白い花達を見て楽しんだ、そうして王と共に末永く幸せな日々を過ごし国を治めていった。
今もポルトガルのこの地域はアーモンドの木が多い、そして。
春になれば多くの白い花を咲かせてまるで雪が降って積もった様になる、全てはこの時からはじまる。ムーア人の心優しい王の愛する妻への思いやりから。
花の雪 完
2022・9・12
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