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冥王来訪

作者:雄渾
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第二部 1978年
ソ連の長い手
  雷鳴止まず

 
前書き
 次元連結システムがあればG元素は必要ないんですが、盛り上がりに欠けるので絡ませました。 

 
 マサキはハバロフスクから遠く離れた西ドイツのハンブルグに転移した。
間もなく始まるB-52『ストラトフォートレス』爆撃機による絨毯爆撃に先立ち、地上のBETA群掃討の連絡を受けたためであった。
 昨晩より一睡もしていない彼は、命令を伝達した珠瀬と綾峰に一度抗議する為にわざわざ基地に戻ってきたのだ。

 だが基地に戻るなり、彼はCIAの工作員と引き合わされた。
「貴方が木原博士ですね」
背の高いの白人の男が、声を掛ける。
右手にホンブルグを持ち、金縁のレイバンのサングラスをかけ、ブルックスブラザーズの背広姿。
如何にも映画に出てくるような、工作員風の姿格好であった。
 
 マサキは椅子の背もたれに寄り掛かると、気怠そうな顔をして男を見つめる。
大きな欠伸をした後、紫煙を燻らせながら、応じる。
「手短に頼む。俺は昨日から寝ていないんだ」
男はサングラスを取ると、茶色の瞳でマサキの顔を伺った。
「左様ですか。では貴方にこのハイヴ攻略が成就なさった後、米国で我等が研究のお手伝いをしてほしいのです」
たどたどしい日本語で話しかける工作員の方を振り向くと、こう告げた。
「俺は、あの化け物共が持ち込んだ物質がどんなものか、さっぱり分からぬ。
その研究とやらを詳しく教えてくれ」
左手に持ったコーラを一気飲みする。

「実は我々は5年ほど前、ハイヴから特別な物質を発見いたしました。
ロスアラモス研究所のグレイ博士が発見した『G元素』と呼ばれるものです」

『G元素』
 1974年、カナダ・サスカチュワン州アサバスカにBETAの着陸ユニットが落着し、核飽和攻撃で殲滅した際、残存物から人類未発見の物質が発見された。
米国のロスアラモス国立研究所のウィリアム・グレイ博士が研究し、それをG元素と名付けた。
重力操作や強力な電磁波の発生など未知の領域の技術の発展の可能性を秘めた物質である。


「ほう。俺に化け物の巣穴を掘り返せと……」
タバコを灰皿に押し付けてもみ消すと、斜め後ろに立つ美久に声を掛ける。
「美久、俺の部屋からファイルを持ってこい。それを此奴らの親玉に暮れてやれ」
野戦服姿の彼女は一礼をすると、部屋から出て行った。
「BETAの不可解な行動から、俺はある推論を立てた。
遠く銀河系の果てから来て、自己増殖を繰り返す化け物……世間はそう見ているが違う」

「奴等の狙いは地球上の資源集め。
カシュガルハイヴでの人民解放軍の調査にも協力したが、大変な量の埋蔵資源が持ち出された形跡がある。
中ソの核爆弾投下作戦失敗から2週間足らずで光線級と言うレーザーを出す化け物を作った所を見ると少なくとも奴等の中継基地は14光日、或いは情報が往復することを考えて7光日の距離にあるとみることが出来る」
胸ポケットより、ホープの箱を取り出すとタバコを咥える。
ふたたびタバコに火を点けて、紫煙を燻らせる。
「ただ、この世界のロケットエンジンがいかに進んでいるとはいえ、打ち上げ準備期間や燃料の問題からそんな短期間で奴等の基地を破壊することは困難であろう」
唖然とする工作員を前に、不敵の笑みを浮かべる。
「そうなって来ると、この俺に頭を下げに来たと言う事か」

マサキは、勢いよく立ち上がる。
「良かろう。この際、俺が露助共に先んじてG元素とやらを盗み出して、それをシベリア中にばら撒いてやる」
一頻り笑った後、再び男の顔を覘く。
「強力な磁場を発生させて、二度と蛮族しか住めぬような土地に変えるのも悪くはあるまい」


「只今お持ち致しました」
美久が持ってきた資料を一瞥した後、胸に刺したボールペンを取り、白紙に文字を書く。
「これをグレイ博士とやらに見せてくれ。俺からの頼みはそれだけだ」
そう言って白紙をファイルの中に挟むと、男に渡した。

 CIA工作員の男が部屋から退出した後、奥で座っていた綾峰に声を掛ける。
「おい綾峰!この世界の三菱重工か川崎重工でもいい。とにかく戦術機の研究をしている会社に連絡してくれ」
「木原よ、何故にそんな会社に連絡をするのだ。俺を通して陸軍の技術本部でも良いゾ」
「一か所に限定すれば恐らくKGBに情報を素破抜かれる。それに俺は陸軍内に燻っている親ソ派の連中が怖い」

 マサキは親ソ反米派の独断行動を恐れたのだ。
元の世界で、嘗ての世界大戦の際も各国に居た容共親ソの工作員の為に避けられる戦争が避けることが出来ず、一千万単位の人命が失われた事を苦々しく思い起こしていた。
 ルーズベルト政権下で辣腕を振るったハリー・ホプキンスやアルジャー・ヒスなどがGRUやNKVDの工作員であったのは公然の事実。
ソ連を生き延びさせた武器貸与法(レンドリース)や原爆開発へのソ連側の協力等は、ホプキンスの独壇場だった。
防諜関係の甘い日本にも、KGBの間者が居ないとは言い切れない。


綾峰はひとしきり悩んだ後、引き出しからラミネート加工のされた紙を取り出す。
そして、マサキに渡した
「光菱重工に富嶽重工、河崎の連絡先だ」
日本の主要な国防産業の連絡網だった。
「何がしたいが分からないが、俺の名前を出して電話しろ。取り次いでくれるはずだ」

マサキは、まじまじと電話帳を見る。
「綾峰……」
綾峰は引き出しから、ラッキーストライクを出すと、封緘紙を切り、開ける。
両切りのタバコを机に叩き付けながら、告げる。
「お前の頼みは聞いた。今度は俺の頼みを聞く番ではないのか」
コツコツとタバコを叩き付ける音が響き渡る。

 マサキは冷笑を浮かべた後、一言漏らした。
「ミンスクの化け物を消したら、暇をもらいたい」
そう言うと、彼は立ち上がる。
立ち竦む美久の手を引いて、ドアを開けると、部屋を後にした。













 同じ頃、ウラジオストック要塞では、数時間後に始まるミンスクハイヴ空爆の対策を練っていた。
その場に伝令兵が駆け込んで来る。
「同志大将、一大事に御座います。米海軍第七艦隊が日本海軍と一緒になって、日本海上で軍事演習を開始しました」



 ミンスクハイヴ空爆と時を同じくして、日米両国は動く。
サンディエゴを母港にする揚陸指揮艦『ブルーリッジ』の元、多数の空母機動部隊を引き連れて、日本海に展開した。
帝国海軍も旧式ながら、戦艦大和を始めとして数隻の戦艦と重巡洋艦が随伴した。
  
 1961年に相次いだベルリンの政治的緊迫と、1962年のキューバ危機。
核戦争の危機を覚えた米ソは、1963年の『部分的核兵器禁止条約』を皮切りに、対話を通じた軍縮を図った。
それが、世にいう『緊張緩和(デタント)』である。
 
 本来ならば、軍縮によって帝国海軍は大規模な戦艦の退役を行う予定であった。
建造から30年近くが経つ超弩級戦艦・大和、武蔵。
大東亜戦争を生き延びた同艦は、呉や横須賀と言った鎮守府で静かな余生を過ごす筈であった。

 しかし、1973年のBETA地球侵略によって、運命は変わった。
カシュガルハイヴの建設と、それに伴う中ソ両国々民の3割が死ぬ事態に、世界は身構えた。
 また帝国も例外ではなく、再び軍事力強化に舵を切る。
永い眠りに就こうとしていた戦艦大和、武蔵や重巡洋艦三隅の近代化改修を行い、戦列に復帰させることにしたのだ。




「どうしたものか。前に進んで東欧に一撃を加えるか、それとも背後の日本野郎(ヤポーシキ)に対応するか……」
 赤軍参謀総長は、狭い室内を何度も往復しながら考えた。
背後から迫る天のゼオライマーと木原マサキ。
ソ連に対して積年の恨みを晴らさんとする東ドイツをはじめとする東欧諸国。
 眼前の日本海上には既に日米両軍が陣取って攻撃を伺うばかり。
 
 この5年に及ぶBETA侵略のせいで、米ソの軍事力均衡は既に虚構の産物に成り代わっていた。
10年来の穀物輸入は、石油危機による資源価格の高騰による差額で得た外貨を失わせ、嘗ての活力は損なわれ始めていた。

脇に居る、副官が告げた。
「恐れながら……当面最大の敵はBETAです。
東ドイツには、シュトラハヴィッツの親書を受け入れたと見せかけて、一旦兵を引き、恩を売れば、あの男の事です。
後ろから我が国を襲う事はありますまい。
むしろ、今は全軍を挙げて、ミンスクのBETAを討つべきです……」


男は一頻り顎を撫でた後、納得したように告げる。
「よし、その線で行こう」
右の食指で指し示すと、命令を出す。
日本野郎(ヤポーシキ)毛唐人(アミェリコース)の動きは引き続き、注視しろ」
副官は、彼に敬礼をした後、部屋を去って行った。

「木原マサキよ……何れや、貴様にも地獄を見てもらおうぞ」
男は窓を開けて、一人呟く。
要塞から望む、金角湾の方角をただ眺める。
時刻は午前4時になる頃であった。

 
 

 
後書き
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