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英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

作者:sorano
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第143話

同日、PM2:00―――――



アリサ達が西ゼムリア通商会議に向けて話し合っているその頃、メンフィル帝国軍本陣から招集の指示を受けたリィンは指示された場所――――――メンフィル帝国軍の旗艦であるモルテニアのある部屋を訪れていた。



~メンフィル帝国軍旗艦・始まりの方舟”モルテニア”・第1会議室~



「―――――失礼します。へ………」

部屋に入ったリィンは部屋にいる面々――――――リウイ、リフィア、セシリア、ギュランドロス、ルイーネ、ミルディーヌ公女と連合とヴァイスラント、それぞれのトップクラスの地位の面々が揃っている事に思わず呆けた声を出し

「お疲れ様です、リィン少将――――――いえ、”将軍閣下”もしくは”総督閣下”とお呼びすべきでしょうか♪」

「フフ、”その呼び方は少々早いですわよ。”」

「”将軍”に”総督”………――――――!そ、それってもしかして昨日の大戦後エーデルガルト達が俺達に教えてくれた……!」

リィンにウインクをして挨拶をするミュゼにセシリアは苦笑しながら指摘し、二人の会話を聞いたリィンは一瞬呆けたがすぐに心当たりを思い出して血相を変えた。

「色々と聞きたい事はあるであろうがまずは席に着くがよい、リィン。」

「ハッ。――――――失礼します。」

そしてリフィアに指摘されたリィンは返事をした後着席した。



「さて………――――――まずはリィン。昨日の連合、ヴァイスラント、王国軍共同によるエレボニアのリベール侵攻軍に対する迎撃戦を敵軍の総大将であるヴァンダイク元帥を討ち取る事で終結させた事、見事だった。」

「……恐縮です。自分のような若輩者がそのような大手柄を挙げる事ができたのも多くの仲間達もそうですがギュランドロス陛下やオーレリア将軍の加勢、そしてカシウス中将の献策のお陰です。」

「クク、相変わらず謙虚だねぇ。お前は大戦を終結に導き、”激動の時代”を終わらせた”ゼムリアの新たな大英雄”になったんだから、もっと堂々としていいんだぜ?」

「フフ、”鉄血宰相はまだ死んでいません”から、”激動の時代を終わらせた”という言葉は”少々”時期尚早ですわよ、ギュランドロス様。」

リウイに労われたリィンが謙遜した様子で答えるとギュランドロスは口元に笑みを浮かべて指摘し、ギュランドロスの指摘に対してルイーネは苦笑しながら答えた。

「別にちょっとくらい早くてもいいじゃねぇか。なっ?」

「え、えっと……?」

ルイーネの指摘に対して答えたギュランドロスはリィンに話を振り、話を振られたリィンは戸惑いの表情で答えを濁した。するとその時リウイが咳ばらいをして話を始めた。

「――――昨日の作戦時”灰獅子隊”の一部の者達が”紅き翼”の足止めをした際にセシリアが口にした話――――――メンフィルが考えている戦後のエレボニアもそうだが、リィン。お前自身の将来についてもその場にいた灰獅子隊の者達から既に聞かされていると判断していいのだな?」

「!はい。教官がアリサ達に語った話――――――我が国の思惑についてはエーデルガルト達からは一通り教えてもらいました。その……先程のミュゼの自分への呼び方も考えると、やはりメンフィル帝国政府はエレボニアの存続を許してくださるのですか……?」

リウイの問いかけに対してリィンは表情を引き締めて答えた後懇願するかのような表情を浮かべて訊ねた。

「うむ!余や父達――――――メンフィル帝国政府や皇家の思惑も関係してはいるが、何よりも幾ら”祖国を正す為”とはいえ、祖国を滅ぼそうとしていた余達メンフィル・クロスベル連合と共に祖国であるエレボニアと戦ってきたヴァイスラント新生軍もそうじゃが、お主の配下としてエレボニアと戦い続けたアルフィン皇女達の連合に対する今までの貢献も考え、様々な条約をエレボニアに呑ませる事にはなるがエレボニアを存続させる事をメンフィルもそうじゃが、クロスベルも同意した事で満場一致でエレボニアの存続は決まった!」

「フフ、恐縮ですわ。――――――メンフィル・クロスベル連合によって滅ぼされて当然だった我が国が存続する事を許して頂いたのも、リィン少将。貴方のお陰でもありますわ。このお礼は後で必ず私がヴァイスラント――――――いえ、エレボニアの全国民を代表して”私自身の身体を使って”返させて頂きますわね♪」

「オレ様達の目の前で堂々と誘惑するとはやるじゃねぇか!だぁはっはっはっ!」

「ふふっ、初対面でありながら忠誠の証として処女を捧げろと言われたその日にヴァイスさんに処女を捧げたユーディットさんの従妹だけあって、大胆な所もそっくりね♪」

(そんなことをしていたのですか、お父様……)

「ちょっ、よりにもよって陛下達がいる前でいつもの調子でからかわないでくれ!?そ、それよりも自分がこの場に呼ばれた理由は殿下が先程口にされた”エレボニアが存続する代わりに呑む事になる条約”の件と関係があるのでしょうか?」

リィンの問いかけに対して堂々とした様子で答えたリフィアの話を聞いたミルディーヌ公女はリフィアに会釈をした後妖艶な笑みを浮かべてリィンにウインクをし、ミルディーヌ公女の行動にリウイとリフィア、セシリアが冷や汗をかいて脱力している中ギュランドロスとルイーネは呑気な様子で笑いながら見守り、ルイーネの話を聞いていたメサイアは呆れた表情で溜息を吐き、リィンは慌てた様子でリウイとリフィアを気にしながらミルディーヌ公女に指摘した後気を取り直してリウイ達を見つめて訊ねた。



「ええ。その事について説明する前にシルヴァン陛下より下りている貴方への新たな”辞令”を今この場で伝えさせてもらうわ。」

「―――――はい。」

自分の問いかけに答えた後席を立ったセシリアの言葉を聞いたリィンは席から立って姿勢を正した。

「『灰獅子隊軍団長としての今までの功績を評して現メンフィル皇帝シルヴァン・マーシルンの名において、リィン・シュバルツァーを”少将”から”将軍”に昇進する事とする。並びにリィン・シュバルツァーをエレボニア総督に任命する。』――――――以上よ。」

「リィン・シュバルツァー、皇帝陛下からの辞令、謹んで受けさせて頂きます……!」

「お主は今まで”将軍”に就いたメンフィルの将達の中でも最年少かつ歴代最速じゃ!そんなお主が所属している期間が短かったとはいえ、余を護る親衛隊の一員であった事は余も誇らしいぞ、リィン!」

「フフ、改めてにはなりますが、”将軍”への昇進、そして目的を果たした事、おめでとうございます、リィン将軍――――――いえ、総督閣下♪これからも”末永く”よろしくお願いしますわね♪」

懐から書状を取り出して宣言したセシリアの宣言に対してリィンは迷う事なくその場で敬礼して同意し、その様子を見守っていたリフィアは自慢げな様子でリィンを見つめ、ミルディーヌ公女は微笑みを浮かべて拍手をしながらリィンの昇進を祝福した。

「――――――今から”エレボニア総督”の件を含めた戦後のエレボニアの処遇についての詳細な説明をする。二人とも席に着け。」

「「はい。」」

そしてリウイが指示をするとセシリアとリィンはそれぞれの席に着席した。

「まずは我らメンフィル・クロスベル連合に敗戦したエレボニアに調印させる予定である”仮の条約”が書かれている写しを渡すから、それを確認してからお前がわからない事や疑問に思う事を説明する。」

「―――――拝見させて頂きます。」

着席したリィンはリウイから渡された書状を確認した。





メンフィル・クロスベル連合との戦争に敗戦したエレボニア帝国が敗戦国として承諾しなければならない条約は以下の通り





1、”四大名門”の前当主の内、ヘルムート・アルバレアとクロワール・ド・カイエンの身分を剥奪し、更に二人の身柄をメンフィル帝国に引き渡し、メンフィル帝国が二人に与える処罰内容に反論せずに受け入れる事



2、レグラムを除いたクロイツェン州全土と第二海都フォートガードを始点としたラマール西部全土、ルーレ市からラウス市までのノルティア東部全土の領地の統治権、”ザクセン鉄鉱山”の所有権の80%、アルバレア公爵家の全財産の80%をメンフィル・クロスベル連合に贈与する事



3、エレボニア帝国の内戦とメンフィル・クロスベル連合とエレボニア帝国の戦争の影響でメンフィル帝国領に避難してきた難民達へのメンフィル帝国の援助による生活費等の支払いとその利息の支払い(難民達に対して消費したメンフィル帝国の財産は5000億ミラ相当で、利息は10割として5000億ミラとして、合計1兆ミラ)



4、エレボニア帝国の内戦によってメンフィル帝国で起こった国際問題の謝罪金とメンフィル・クロスベル連合とエレボニア帝国による戦争賠償金としてメンフィル帝国に5000兆ミラの支払い(なお、支払い方法として現金だけでなく、物資の引き渡しによる物納も認める。また、分割での支払いも可能)



5、ユーゲント・ライゼ・アルノール皇帝はユミルに自ら赴き、”シュバルツァー家”にメンフィル帝国領であるユミルを自分の不徳によって起こったエレボニア帝国の内戦に巻き込んだ事を誠心誠意謝罪し、エレボニア皇家の財産からシュバルツァー家に謝罪金並びに賠償金を支払う事



6、メンフィル帝国領内でエレボニア人(皇族、貴族、平民問わず)が犯罪を犯した場合、通常の判決より厳しい判決が降される事を承認し、メンフィル帝国領内で犯罪を犯したエレボニア人がエレボニア帝国の領土に逃亡した場合は犯人逮捕に積極的に協力し、犯人の引き渡しをする事



7、エレボニアの皇族、貴族がマーシルン皇家とメンフィル帝国が指定する貴族から嫁もしくは婿に来てもらう場合はマーシルン皇家の許可を必ず取る事。注)メンフィル帝国が指定する貴族は以下の通り。シュバルツァー公爵家、フレスベルク侯爵家、コーデリア侯爵家、アルフヘイム伯爵家、ディアメル子爵家、レンハイム子爵家、ヴィント男爵家、モリナロ男爵家



8、エレボニア帝国はメンフィル帝国が定めた期間、メンフィル帝国による”保護”を受け入れ、”保護”の間の統治権はメンフィル帝国がエレボニア帝国に派遣するメンフィル帝国の駐留政府、軍に委ねる事 ※なお保護期間中にメンフィル帝国に対して申請して受け取った支援金の返済は第4条の謝罪金並びに戦争賠償金の支払いとは別途扱いである



9、メンフィル帝国に対する謝罪金並びに戦争賠償金の支払いを完遂するまでにエレボニア帝国で内戦、反乱、他国の侵略による戦争が勃発した際にメンフィル帝国の判断によってメンフィル帝国軍の武力介入による早期解決を決定した場合、反論する事なく受け入れる事



10、メンフィル帝国が指定するエレボニア帝国の領土内でのメンフィル帝国大使館の設立並びに大使館守護の為のメンフィル帝国軍の駐留許可、大使館設立の際の費用、大使館に駐留するメンフィル帝国軍の軍費の内50%をエレボニア帝国が負担する事





※また、戦争勃発前に実行済みのアルフィン皇女の処罰もこれらの条約に含まれているものとみなす





「これは…………」

書状に書かれている条約内容を確認したリィンは真剣な表情を浮かべ

「―――――何から聞きたい?今のお前は”エレボニア総督”だ。エレボニアを救う為に今まで我が軍で功績を挙げ続け、その結果俺やシルヴァン達に今までの功績を認められた事で”エレボニア総督”を任命されたお前には”全て”を知る資格がある。遠慮する事なく、何でも聞くがいい。」

「……では恐縮ではありますが、早速自分が抱いた疑問等について問わせて頂きます。まず第2条に書かれている領地贈与の件ですが、戦争勃発前に陛下達がエレボニア帝国政府に送った戦争を回避する為の条約と比べると相当”譲歩”されているようですが………もしかしてヴァイスラント新生軍やアルフィン達のメンフィル・クロスベル連合に対する貢献が関係しているのでしょうか?」

「うむ。お主も知っての通り我が国は”実力主義”。メンフィルに対して”実力”を示し、信頼を勝ち取る事ができれば我らメンフィルはその功績に対して出自関係なく、正当に評価し、相応の礼をする。ヴァイスラントもそうじゃが、アルフィン皇女達もそれぞれ理由は違えど、余達メンフィルの戦友として戦争初期から今までも祖国の(つわもの)達を自らの手で葬り続け、祖国の領土が占領されることに手を貸したのじゃから、そんな彼らの努力を無下にする事はできないとメンフィルは判断したのじゃ。」

「――――――私達もそうですが姫様達の”想い”をリフィア皇女殿下を含めたメンフィル帝国の上層部の方々からそのように評価して頂き、光栄ですわ。」

リウイの問いかけを聞いた後早速質問をしたリィンの最初の質問にリフィアが答えるとミルディーヌ公女はその場で恭しく頭を下げた。

「我が国はそれでいいとしても、クロスベルも相当”譲歩”されたのですね?クロスベルは我が国と違い、新興の国家の為、支配する領土は多いに越した事はないと思われるのですが……」

「逆だ逆。”クロスベルは新興の国だからこそ、譲歩する必要があるんだぜ?”」

リィンの質問に対してギュランドロスは苦笑しながら答えた。

「?それは一体……」

「リィン君も知っての通り、クロスベルは他国への侵略によって広大な領土を得たわ。その件からクロスベル帝国はゼムリア大陸の人々からは”侵略国家”として見られる事で警戒されたり、国交の許可を中々出さなかったりと様々な”支障”が出る事が十分に考えられるわ。だけど相応の理由があれば滅ぼす予定だった国が存続する事を認め、制圧した領地の一部を返還する事でクロスベル帝国には慈悲深さや寛大な心を持っている事を世間に印象付ける事ができるでしょう?」

「それとリベールに対する配慮もだな。リベールは今回の大戦では協力したとはいえ、”不戦条約”を提唱したリベールが戦争に参加せざるを得なくなった理由はオレ様達の戦争に巻き込まれたというのもあるからな。慈悲深い事で有名なアリシア女王なら、戦争で勝利したとはいえ、”エレボニアの友好国として”敗戦後の連合によるエレボニアの領土割譲の件に口出ししてくることは目に見えているからな。だったら先にこっちが戦争で奪う予定だった領土を”エレボニアの友好国にして不戦条約を提唱したリベールに対する配慮”という意味でも減らしておけば、リベールのような今回の戦争に関して”中立”の勢力の連中も文句を言えないだろう?」

「それは…………――――――第2条の件は理解しました。次に伺いたいのは第4条の賠償金の件、そして第4条に関連していると思われる第9条の戦後のエレボニアに反乱等が起こった際のメンフィル帝国による武力介入の件です。これはもしかして、エレボニアが反乱等で滅亡する事で今回の戦争で勝利したメンフィルが得るはずだった利益――――――つまり、戦争賠償金の回収が不可能になる事を防ぐ為でしょうか?」

ルイーネとギュランドロスの説明を聞いて複雑そうな表情を浮かべたリィンだったがすぐに気を取り直して新たな質問をした。



「ええ。今回の戦争で国力、戦力共に著しく衰退したエレボニアで”新たな戦争”が起これば、”エレボニアが国として滅びる事”は目に見えています。そしてエレボニアが滅びれば、当然今回の戦争でエレボニアが調印する事になるこの条約書もただの紙切れと化し、戦争賠償金等の回収も不可能になってしまいます。………今回の戦争で費やした莫大な戦費の回収もそうですが、貴方もエーデルガルト達から既に知らされている我が国の”思惑”の為にも”戦争賠償金の回収が不可能に陥る事は絶対に避けなければならない事態”である事は理解しているでしょう?」

「………はい。」

セシリアの指摘に対してリィンは複雑そうな表情を浮かべた後静かな表情で頷き

「エレボニアとは対立関係であったカルバードは連合によって滅びた事で他国がエレボニアを侵略するといった事態は少なくても周辺各国の王達が”代替わり”をするまでは起こらないだろう。だが、今回の戦争の件もそうだが内戦の件でエレボニアの国民達はアルノール皇家、政府に反感を抱いていてもおかしくない。そしてそんな者達が現状に耐え切れず暴発して反乱や内戦を起こす事は十分に考えられる。――――――そんな愚か者達を牽制する意味でも、シルヴァン達は第9条を定めたとの事だ。」

「そうですか………ちなみにミュゼは第4条と第9条の件についてどう考えているんだ?」

リウイの説明を聞いたリィンはミルディーヌ公女に意見を求めた。

「賠償金の件に関しては、領土割譲の譲歩の代償、そして内戦でメンフィル帝国に迷惑をかけた件の賠償を無視して戦争を強行したエレボニアの責任の為これに関しては譲歩を引き出すべきではないと判断した上、第9条の件は逆に考えれば賠償金の支払いが続いている間に内戦と今回の戦争で衰退した挙句、国民達の信頼も地に堕ちたエレボニアに反乱、内戦、他国からの侵略による国家存亡の危機が訪れた場合、メンフィル帝国軍の介入による早期解決という手段に頼れるのですから今のエレボニアにとってもメリットがあると考えていますわ。……まあ、”他国からの侵略”に関しては少なくても”ヴァイスハイト・ギュランドロス両陛下とお二人の跡継ぎが現役の間は無用な心配”だとは思っておりますが。」

「クク、そこでわざとオレ様達を名指しするとは、公女が想定している”他国からの侵略の他国はクロスベル”って事か。」

「でも実際ミュゼちゃんの推測は妥当なものなのよね。ギュランドロス様とヴァイスさんもそうだけど、私達の息子や娘の代に関しては衰退したエレボニアを侵略しない保証はできるけど、さすがに孫以降の代に関してはその頃になったら私達は寿命でこの世からいなくなっているでしょうから、そんな遥か未来の事まで保証できないものね。」

「メンフィル帝国への賠償金の支払いが内戦と今回の戦争で衰退したエレボニアにとってはある意味、反乱や内戦勃発の阻止もそうだが他国からの侵略の”盾”にもなると考えているのか……セシリア教官、賠償金の支払い方法として”物納”も認めているとの事ですが……やはりこれは、将来勃発する事が確実視されているマーズテリア神殿――――――いえ、光陣営との全面戦争の件が関係しているのでしょうか?」

ミルディーヌ公女は苦笑しながら答えた後意味あり気な笑みを浮かべてギュランドロスとルイーネに視線を向け、視線を向けられたギュランドロスは不敵な笑みを浮かべ、ルイーネは苦笑し、ミルディーヌ公女の考えを知ったリィンは静かな表情で呟いた後セシリアに訊ねた。

「ええ。まだ大分先の話になるでしょうけど、光陣営との全面戦争が勃発すればメンフィルはエレボニアに賠償金の代わりとして様々な物資による”物納”で支払うように交渉する予定よ。その際は勿論賠償金から支援物資分の資産額は減少させるし、要求するにしてもエレボニアの財政や経済を破綻させないように細心の注意を払うわよ。」

「ちなみにですが、メンフィル帝国は将来勃発することが確実視されている戦争はいつ頃起こると想定されているのでしょうか?」

リィンの質問に対するセシリアの答えが終わるとミルディーヌ公女はリウイ達を見つめて訊ねた。



「父上やメンフィル帝国政府の上層部達は最短で20年後に勃発すると想定しているとの事じゃ。」

「最短で20年後ですか………」

「マーズテリアの規模を考えたらマーズテリアがメンフィルと”本気”で戦争する事を決めたとしたら、そのくらいが妥当だな。」

「そうですね。マーズテリアはディル=リフィーナの各地にマーズテリア軍を派遣しているのですから、メンフィル帝国程の大国との戦争になれば当然各地に派遣したマーズテリア軍を招集しなければならないでしょうし、その招集によって起こる引継ぎ等様々な問題の解決の為には相当な年数が必要である事は明白ですものね。」

リフィアの答えを聞いたリィンは考え込み、ギュランドロスとルイーネはそれぞれ納得した様子で推測を口にした。

「もう一つ質問がありますわ。もし、光陣営との全面戦争が勃発した際、”エレボニア帝国政府による物資の支援とは別の個人の取引”に関してはミラ等と言った正当な対価を支払って頂けるのでしょうか?」

「?それって一体どういう事だ……?」

ミルディーヌ公女のリウイ達への質問の意図がわからなかったリィンは不思議そうな表情で首を傾げた。

「多分ミュゼちゃんは戦争が勃発した際、”カイエン公爵家自身の取引”で”カイエン公爵家としての莫大な利益”を得る事を考えているのだと思うわよ。”戦争”はあらゆる物資を大量に必要とするから、周辺国や関連国からすれば経済を活性化させる好機でもあるのよ?」

「そんでもってその戦争関連で得た利益の一部を賠償金として政府の代わりにメンフィルに支払う事でエレボニアの政府や皇家に対する大きな”貸し”を作ろうって腹なんじゃねぇのか?」

「それは………」

「フフ、誤解なさらないでください。私は皇帝陛下達に対して”貸し”を作るなんてそんな恐れ多い事は考えていませんわ。エレボニアの為に……そしてカイエン公爵家の為にもメンフィル帝国とは今後とも長いお付き合いになるでしょうから、メンフィル帝国に新たな危機が訪れた際には少しでもお力になりたいと考えているだけですわ。」

ルイーネの説明とギュランドロスの推測を聞いたリィンは真剣な表情でミルディーヌ公女を見つめ、リィンに見つめられたミルディーヌ公女は苦笑しながら答え

「……まあ、公女自身はそのつもりはなかったとしても、実際にそのような事を公女が行えばアルノール皇家もそうだが政府も公女に対して大きな”貸し”を作ってしまったと判断するだろうな。」

「とはいえ、そういった貴族としての強かな部分はリィン、将来の為にもお主も見習うべきだと余も思うぞ。」

「……はい。」

「フフ、先程の政府とは別口の取引の件に関してだけど、その時は当然正当な対価を支払う事はこの場で約束できますし、必要でしたら後でシルヴァン陛下にも伝えておきますわ。」

「ありがとうございます。でしたら是非ともシルヴァン陛下にその旨、お伝えくださるようお願いしますわ。」

リウイは静かな表情で推測を口にし、リフィアの指摘に対してリィンは静かな表情で頷き、苦笑しながら答えたセシリアの答えを聞いたミュゼはその場で会釈した。

「……第4条と第9条の件も理解しました。次は第7条について伺いたいのですが……これは一体何の為にこのような条約を定めたのでしょうか?俺達シュバルツァー家が将来公爵家に爵位が上がる事は既に存じていますが、エーデルガルトやリシテアの実家まで爵位が上がっている上、”平民”だったフォルデ先輩達まで爵位を与えられているようですが……」

「だったら、先にエーデルガルト達の爵位の事に説明するわね。――――――実は貴方をここに呼ぶ前にレン皇女殿下とプリネ皇女殿下を除いた灰獅子隊の部隊長達全員と個人面談を行っていたのよ。」

「個人面談ですか?面談内容はどのようなものなのか聞いてもいいのでしょうか?」

セシリアの説明を聞いて眉を顰めたリィンは質問を続けた。



「構わないわ。貴方の将来に直接関係しているもの。」

「俺の将来というと………俺が将来クロイツェン州統括領主に就任する件ですか?」

「ええ。既に貴方も知っているように、メンフィル帝国政府は将来の光陣営との全面戦争に備えてクロイツェン州を含めたゼムリア側の外交並びにメンフィル帝国の領土の統治の管理はリィン、今までの戦いでの戦功もそうだけど先日の大戦での戦功でゼムリア大陸にその名を轟かせる事になった貴方に任せたいと考えているわ。」

「……………………」

セシリアの説明を聞いていたリィンは昨日の出来事――――――ヴァンダイク元帥を討った事をふと思い出して一瞬だけ複雑そうな表情を浮かべたがすぐに気を取り直した。

「勿論、貴方一人に”全て”を任せるなんて無茶な事は考えていないわ。外交・領土の統治を行う為には”主君”もそうだけど、主君を支える”家臣”も必要となるわ。」

「………話の内容から察するに、エーデルガルト達との面談内容はエーデルガルト達が俺を支える”家臣”になるかどうかについてでしょうか?」

「簡潔に言えばそうなるわね。ちなみに面談の結果はフェルディナントの正妻として婚約しているドロテアを除けば”全員承諾したわよ。”勿論、その”全員”の中には当然既に貴方の家臣として契約したベアトリース殿も含まれているわ。」

リィンの質問に対してセシリアは驚愕の答えを口にした――――――

 
 

 
後書き
第7条の結婚の件でこれだとミュゼもリィンと結婚できないんじゃね?と思った人達もいるかと思いますが、ミュゼに関しては”例外”でそれについての説明は次回でするのでご安心ください。



 
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