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おっちょこちょいのかよちゃん

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213 戻ってきて欲しい

 
前書き
《前回》
 義教の襲撃を受ける冬田、三河口、湘木の三人は応戦するが、敵の兵士の数が多く、片付けきれずにいた。その時、イスラムの能力(ちから)を行使するサラディンという男に救われ、彼の救援によって形勢逆転に成功する。そしてフローレンスはふと「ある用事」ができ、生前の世界へ赴く。向かった場所は静岡県の清水だった!! 

 
 レーニンは和光によって杉山の過去を映像化された物を視聴した後、別の地へと向かっていた。
「何だここは?」
「ここには私が『貴様がいる生前の世界』での家族の祀っている。貴様が杖の持ち主の小娘と共に倒した兄さん、姉さんもいるのだ」
 そこには墓石のような物がいくつかあり、ロシア語アルファベットが刻まれている。
「何だその文字は?」
「我が家族の名前だ」
 レーニンは墓石のうち二つに手を置いた。
「この仮を必ず返す、兄さん、姉さん・・・」
 その時、レーニンの手に黒い光が放った。
「これで杖の所有者への怨念がまた蓄積した。殺しがいが出てきたという事だ」
(こいつ、山田を殺す気か・・・?)
「そうだ、まず杯を持ってるりえの所に行かせてくれよ」
「妲己の屋敷に?あの小娘に会って何をすると言う?」
「ああ、殺すのは勿体無かったみたいだからな。会っておきてえんだ」
「貴様、もしかしてあの杯の所有者の小娘に恋でもしているのか?」
「ち、ちげえよ!兎に角会わせてくれ!山田達に先越される前に確かめておく必要があるんだ!」
 杉山は反論した。
「そうか、こちらもあまり暇はないぞ。何しろ剣を取られた上に領土を分捕られ続けているのだ」
「解ったよ」

 入江小学校の3年4組の教室。たまえととし子は寂しくなった教室で二人は休み時間に雑談する。
「はあ―、まるちゃん達、大丈夫かな・・・?」
 たまえは数日も親友に会えなくなると心配で仕方なかった。
「うん、私達も今どうなってるか知りたいんだけどね・・・」
 とし子も落ち着かない様子だった。
(まるちゃん、お願い、早く帰ってきて・・・!!そうじゃないと、私どうすればいいの・・・!?)
 たまえは現実逃避したい気分になった。
「たまちゃん、大丈夫?ボーっとしてるけど」
「あ、うん、大丈夫・・・!!」
 とし子に呼ばれてたまえは我に返った。
「そうだ、たまちゃん、今日うちで遊ばない?お母さんがクッキー作ってるんだ」
「いいね」
 その一方、かよ子達とは異なり、年明け最初の登校日以来、全く学校に姿を現さない藤木に関して山根強と永沢君男が喋っていた。
「藤木君、もう何日もいないと心配になっちゃうよな」
「ふん、別にいいのさ。僕は別に藤木君なんていなくても平気だよ」
 笹山が永沢の言葉に反応した。
「永沢君、それはどういう事だい!?」
「藤木君のような卑怯者なんかいてもいなくてもどうって事ないだろ?それに僕にはもう藤木君に会う事がないって思うと心底嬉しいのさ」
(永沢君・・・!!)
 笹山は永沢の心無い言葉に体が震えた。たまえととし子も永沢の発言が許せなかったらしく、永沢に詰め寄った。
「ちょっと、永沢!いくら何でもそんな言い方ないよ!」
「そうだよ、そこまで言う事ないよ!」
「何言ってるんだい?君達は卑怯な藤木君なんて別にいても迷惑かけられるだけだろ?前にもクリスマスの合唱コンクールで歌い遅れて皆に迷惑かけたし、山田かよ子が野良犬に襲われてる所を自分だけ逃げたじゃないか」
「でもだからって、何日もいないと心配じゃないの?」
「別に。藤木君なんて友達でもなんでもないさ。だからどうなっても僕には別に良い事なのさ」
「永沢君、それは少し言い過ぎじゃないのかい!?」
 山根も反論した。
「どこがだい?君達も藤木君が卑怯な事をして散々迷惑を掛けられてきたじゃないか」
「それはそうだけど・・・」
「ならむしろいなくていいじゃないか。君達はせいぜいさくら達の心配でもするんだね」
 笹山は聞いてるだけで我慢が出来なくなった。
「永沢君、もう藤木君の悪口言わないで!」
 笹山は永沢を非難した。
「藤木君の事で一々卑怯とかいなくなってもいいとか、どうしてそんな事しか言えないの?永沢君はいつも藤木君と一緒にいるじゃない!」
「何だよ、笹山まで・・・」
「笹山さん、落ち着いて!」
 たまえが笹山を宥めた。
「ええ、ごめんなさい・・・」
 笹山は自分の席に戻った。

 下校中、たまえととし子は藤木の話をする。
「まるちゃんやかよちゃん達も心配だけど、まず藤木がいなくなったのが心配だよね・・・」
「うん・・・」
 その時、反対から見慣れた女性とすれ違う。まる子の母だった。
「あら、たまちゃん、とし子ちゃん、こんにちは」
「こんにちは」
 たまえはある事を聞こうとした。
「あの、おばさん、まるちゃん、心配ですね・・・」
「あら、まる子の事心配してくれてるの?ごめんね。あの子ったら本当に面倒臭いとか呑気に言ってたんだからしょうがないわね。お姉ちゃんは行かなきゃいけないって緊張してたのに」
「そうなんですか・・・」
(まるちゃん、大丈夫かな・・・?)
 たまえはそう言われて心配になった。
「あ、そうそう、それからおじいちゃんがいなくなっちゃったのよ。警察には届け出はしたけど、もしかしたらまる子とお姉ちゃんが心配になってその異世界とかに行っちゃったんじゃないかって思ってね」
「はあ、そうですか・・・」
 たまえもとし子もおそらくその予想は当たっていると察した。
「私達、まるちゃんはきっと戻ってくるって信じてます!」
 とし子は答えた。
「ありがとう。まる子が帰ってきたらまた宜しくね」
「はい!」
 たまえととし子はまる子の母と別れた。

 笹山は下校しながら永沢の藤木を批判する言葉が頭に何度も蘇って来た。
《藤木君のような卑怯者なんかいてもいなくてもどうって事ないだろ?それに僕にはもう藤木君に会う事がないって思うと心底嬉しいのさ》
《卑怯な藤木君なんて別にいても迷惑かけられるだけだろ?》
(それでも藤木君がいなくなって皆は嬉しがっているの?)
 そしてあの手紙の文章を思い出した。「僕にとって君は過去の人なんだ。もう君の前には顔を出さないので許してください。僕も君の事は忘れるよう努力するよ」という文言である。その時、二人組の女子中学生がすれ違い、その会話を耳に挟む。
「ねえ、詩織、元気出してよ。もっとマシな男子見つかるよ」
「うん、ごめん・・・。でも山中君、いくら私とちょっと喧嘩したからって後輩の女子と付き合い出すなんて・・・」
「そうよね、仲良しになれば喧嘩もあるのに」
「一緒の高校行くって約束したのに・・・」
「女子校行きましょうよ。そうすればもう会う事ないし忘れられるわよ」
「うん、そうするわ」
 二人の中学生が遠ざかっていく。
(もう会わないようにすれば忘れられる・・・。私は藤木君に忘れられて欲しいのかな・・・?)
 笹山は自問自答を続ける。
(野良犬から逃げる藤木君は私だけ連れて逃げて山田さんを置いて行った時、最初は藤木君を責めたけど、それで藤木君を傷つけたのかしら・・・?合唱コンクールの後の藤木君は何て言おうとしてたのかしら・・・?)
 合唱コンクールの後、自分が独唱のパートを皆から褒められた時、藤木は自分に話しかけた。しかし、永沢が藤木のミスを指摘した事で皆から責められる事になり、結局藤木は自分に何て言いたかったのか聞く事はなかった。
(やっぱり私は、藤木君に戻って来て欲しい・・・。卑怯な事をしたからっていなくなれば永沢くんはそうでも皆が嬉しい訳がない・・・!!)
 笹山は家に帰り、机の引き出しにしまっていたボールペンのような道具を出した。異世界から来たという女性・フローレンスによって貰った物だった。
(決めたわ・・・!!)
 笹山は道具のスイッチを押した。そしてその道具から光が出る。
「ご決断されましたみたいですね」
 フローレンスがその場に現れた。
「フローレンスさん・・・」
「で、答えは?」
「私・・・。異世界に行きます!藤木君を取り戻しに、そしてもう一度会いたいです!」
「解りました。準備ができましたらまたお呼びください。共に三保神社に行きましょう。その道具も忘れませんでくださいね」
「はい!」
 笹山は準備を始めた。そしてフローレンスをもう一度呼ぶ。
「準備できました」
「では、お連れ致します。私にお掴まりください」
 笹山はフローレンスに掴まった。フローレンスは飛び立ち、三保神社に向かった。
「御穂津姫、お願い致します」
「はい、お通り下さい」
 御穂津姫は蒼い穴を出した。
「この先に私達の住みます世界があります。行きましょう」
「はい」
 二人は穴の中へと入った。
(藤木君・・・、待っていて・・・!!) 
 

 
後書き
次回は・・・
「仲間がいなくなれば」
 異世界へ行く事を志願した笹山はフローレンスによって異世界へ連行された。そしてシャルル・リゴーとの戦いで意識を失っていたかよ子はある人物の声が聞こえてくる。その声が放った言葉とは・・・!? 
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