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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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奇策

 
前書き
GW?何それおいしいんですか? 

 
「ナイスピッチ、いい守備じゃった」

拍手で選手たちを迎え入れる老人。その言葉を受けた少女たちは笑顔を覗かせていた。

「さて……次はあの投手の攻略じゃな。今まで通り自信を持って攻めていこう」

ほとんどミーティングをすることもなく円陣が解ける。それを見ていた町田は違和感を感じ始めていた。

(初回から全然ミーティングらしいことをしていない……それなのにこれだけ徹底した戦いができるのは何なんだ?)

始めから戦い方を決めているのかとも思われたが、それでも全てが完璧に戦えるわけではない。それを見極めながら試合の展開を見て修正をしていくはずなのにそれを行っているように見えない。

(ここまでは全て予定通りってことか?もしそうなら今日の萌乃(モエノ)の投球は生きるぞ)

とても押されているとは思えないほど余裕の佇まいを見せる指揮官。その不気味さには常成学園の指揮官も気が付いていたが、あえて見ないようにしていた。

(嫌な予感はするが……ここまではあの男の言う通りになっている。まだ信じてやる……まだな)
















ガチャッ

扉の開く音がしてそちらを向くとそこには赤色の髪をした青年が何食わぬ顔で戻ってきていた。

「大丈夫でした?」
「あぁ、アップに行かせたから戻ってきたわ」

年齢が近いからか先程から仲良さげに話している青年とやり取りをしながら席に着く。

「お前の予想通り、常成が一歩リードしてるな」
「上で見てたからわかるよ」

試合前には予想できていなかった展開に驚かされた面々だったが、その予想をしていた青年は一切気にした様子もなくメンバー表を取り出すと、目の前に対戦相手がいるにも関わらずせっせと書き出していた。

「まだ書いてなかったんですか?」
「あいつらめっちゃ話しかけてくるから書く暇なかったわ」

佐々木の問いに答えた後彼は真田の方を見たが、彼は既に記入済みのメンバー表をヒラヒラと見せ、青年の焦りをさらに引き出していた。

ガキッ

そんな中球場からは鈍い音が響いていた。先頭打者がセカンドゴロでアウトを一つ取られている。

「この後だもんな?メンバー交換」
「なので早く書いてください」
「はいはい」

そんなやり取りをしている最中、またしてもグラウンドから鈍い音がする。それを聞いた瞬間、カミューニは下げていた顔を勢いよく上げた。

「あれ?サードフライ?」
「そうだな」
「打った球種は?」
「あの緩い変化球だ」
「……そっか」

それだけ言うとまたメンバー表を書くために顔を伏せる。その動きがどうにも気になった真田と佐々木は顔を見合わせていた。
















莉愛side

「四回まで試合終わりました」

アップをしているとスタンドから降りてきた光吏が莉子さんにそう声をかけていた。身体を温めるために走っていた私と瑞姫も気になってしまい近くに寄る。

「どんな感じ?」
「4対0のままです」
「そうか……わかった」

どうやらあの後も試合に特段変化は起きていないらしい。それを聞いて莉子さんたち上級生たちは眉間にシワを寄せている。

「やっぱり東英が来てくれないとちょっと……ねぇ?」
「もうリベンジできる機会もないしね」

三年生たちにとっては春のリベンジができるのはこの大会だけ。その肝心の相手が敗退してしまうと多少なりともチームの士気に関わってくる。

「相手のことを心配してる場合じゃないよ。私たちが負けたらそこで全部終わるんだからね」

そうは言うものの、キャプテンである陽香さんが不在だからか莉子さんもどこか気負っているように見える。それがどう試合に影響を与えるのか、それが気になってしまった。
















第三者side

「ノート通りじゃなくなってませんか?」

守備に向かう常成学園。そのベンチでは指揮官に対し部長である女性がそんな問いかけをしていた。

「あのピッチャーになった途端、彼の読み通りじゃなくなっているな」
「じゃあどうするんですか?」

心配そうにしている部長に対し老人は小さく笑ってみせる。それを見て不思議そうな顔をしている彼女に対し、彼はゆっくりと話し始めた。

「あの青年の予想が外れ出した以上、我々のいつも通りの攻め方をさせてもらおう。それで点が取れれば決勝に向けて自信が付く」

決してネガティブに考えることをしない指揮官に部長は笑顔を見せる。それでも彼はまだ浮かない顔をしていた。

(さてさて……そろそろ点が取りたいねぇ)

打席に入る鈴川。春までは3番を打っていたがこの大会からは5番へと打順を落としている。

(と思っているならやりやすいんだけどなぁ)

ベンチから試合の展開を見守る町田。彼は相手の入り方をまずは見極める。

「ストライク!!」
(外角低めへのスライダー。こりゃあ愛が調子を崩して5番になってると思ってるな)

それを見て彼は勝利を確信した。なぜなら彼女がこの打順に入っているのには別の理由があるのだから。

(次は萌乃だからなぁ……連打はまず無理。可能なら甘い球を長打にしたいけど……)

リリーフの佐藤が6番に入ってしまっているため多少打力が落ちてしまう。そのことをわかっているからこそ彼女はより自身のやるべきことがわかっていた。

「ボール」
(また外。決め球は内角かな)

右投手対左打者。内角に切り込んでくるスライダーが決め球になると呼んだ鈴川はその周辺に意識を向ける。

(次は内角にスライダー。外れてもいいから低くね)

バッテリーは内角を勝負球とは考えていなかった。外から内に切り込ませてカウントを整えて外で勝負。内に意識がいきつつあった鈴川を仕留めるには完璧な攻めだった。しかし……

(来た!!内角!!)

追い込まれる前から内角に意識を向けていた彼女には、それが裏目に出てしまった。

カキーンッ

高々と打ち上げられた打球。掬い上げる形になったにも関わらず打球はぐんぐんと伸びていき、フェンス上部へと直撃する。

「うわっ!!届かなかった!!」

会心の当たりだっただけに悔しそうな声を上げながら二塁へと向かう。ボールが戻ってくるよりも早く二塁ベースへと到達した少女はエルボーガードを外しながらタイムを要求していた。

「送りますか?」
「いや、二塁なら打たせていいだろ。萌乃だし」

楽観的な町田とは対照的に部長である女性はソワソワしていた。それは打席に向かう少女に原因がある。

「もえちゃん……いつぶりの打席でしたっけ?」

指名打者制度がある女子野球。後藤は打力があるため彼女の登板時は指名打者を使用しない東英学園だが、佐藤は打力が格段に落ちてしまう。そのため普段は指名打者を採用しているが、この日はリリーフのためそれが出来ない。

「打席に立ったことなんてあったかなぁ?ほとんど投げるだけだったしなぁ」
「バントは練習してるから安全にいった方が……」
「大丈夫だって。だって萌乃……」

広めの足幅で構えに入る佐藤。データのない打者だけにバッテリーは無難に外角へのストレートを投じるしか出来ない。

「外角打ちしか練習させてないもん」

キンッ

会心とは言い難い当たり。しかし打球は一、二塁間へと見事に転がり鈴川は難なく三塁へと進む。打球が弱いためセカンドに捕球されアウトにはなったものの、最低限度の仕事をしたことになった。

「じゃあここからはうちの攻撃タイムだ。攻めて……ん?」

ここから反撃と思ったところで相手のベンチに動きが見えた。マウンドに選手たちが集まったかと思ったところでブルペンから投球を終えたサウスポーがマウンドへと向かう。

「え?ピッチャー交代?」
「早くない?」

ヒットが続いたわけでもないのにここで継投に出た相手ベンチに東英ベンチは困惑してしまう。新たな投手がマウンドに上がったため投球練習が始まったので、町田は次の打者である後藤を呼び寄せる。

「気にしなくていい。向こうはここまで継投で勝ち進んでるから験を担いだだけだろう」
「じゃあ狙いはスライダーのままでいい?」
「あぁ。スライダーを合わせてレフト方向に流してやれ」
「オッケー」

投球練習に合わせながら素振りをしてから打席へと向かう。1アウト三塁のチャンスだがスクイズの気配はない。それだけ確認してから西はサインを送る。

(スライダーを流すなら外に来てほしいなぁ。それならより流しやすーーー)

意識が外に向いていたところで来た投球は内角へのストレート。それに思わず腰を引いてしまうが判定はストライク。

(いきなり強気じゃん!!でも狙いはあくまでスライダー……)

バシィッ

二球続けての内角へのストレート。これにより後藤の思考に迷いが生じてしまった。

(スライダー……来ない?)

内を意識させてからの外のボールも考えられるがここまで内角に一切反応できていないところを見せてしまったため同じボールが来ることも脳裏を過る。そのせいで彼女は立ち位置をわずかに下げてしまった。

「あのバカ……」

それに気づいていた指揮官はタメ息をついた。案の定外に逃げていくスライダーにバットが届かず空振り三振に倒れる後藤。自身の失点を取り返すことができなかった彼女は悔しそうに空を仰ぎ見た。

(迷った時点で負けたようなもんなんだ。元々バッティングなんて三割打てればいい方なんだから)

自身の狙いに迷いを持ってしまった彼女はベストなスイングをすることも許されず打ち取られた。打席に向かうのは一年生でスタメンに選ばれている三人目の選手、今野(コンノ)

(真帆の足ならセーフティもありか?でもここまで裏をかかれてると逆に読まれている気がする……)

内野の位置を確認する町田。その守備位置は定位置のように見える。

(真帆の足にかける。頼むぞ)

サインを受けた右打者は特に挙動を見せずに構えに入る。まるでサインが出ていないかのような振る舞いは演技とは思えないほど。

(左ピッチャーは取ってから遅れる。絶対決められる)

投球に入ったと同時にバントの構えに入った今野。しかし彼女はストライクに入ってきたストレートを見逃した。

(うわっ……チャージが……)

サードとファーストが構えを見た途端にダッシュで突っ込んで来たのだ。これではいくら足に自信があってもセーフティを敢行することは出来ない。

(どうしましょう?マッチー)
(……)

しばし沈黙した町田。彼は長考の後、覚悟を決めた顔付きでサインを送った。

「「「「「え……」」」」」

そのサインを見て選手たちは驚き顔を見合わせる。それはフィールドにいる二人も動揺だった。

(公式戦でやるのは初めてだな)
(うまく決まるかな)

二人が視線を交わしたことに常成学園の監督は気が付いた。それを受けすぐに西へとサインを送る。

(何か仕掛けてくるぞ、気を付けてな)
(わかりました)

王者として高い実力で敵を圧倒してきた東英学園。そんな彼女たちが小技を仕掛けてくるとは思えなかったが今は状況が状況である。何が来ても大丈夫なように西は内野手にサインを送り、ウエストのサインを送った。

















「このチャンスで1点も取れなかったら、もう常成の勝ちは決まりだな」

メンバー交換を終えた本部席は再び各校の指導者のみになっていた。その中でカミューニがニヤリと不敵に笑いながらそう呟いた。

「確かにもう残りイニングも少ない。このチャンスは確実に生かしたいよな」
「でもここからは下位打線ですよ。しかも今野さんの足が封じられると苦しいですよ」

高い守備力と走力でレギュラーの座を勝ち取った今野。しかし長打力は落ちるため下位打線に甘んじる形になっている。

「ここまで来たら打たせるしかないだろう。一年で東英のレギュラーになっているんだ、期待していいはずだ」

真田の言葉に多くの指導者が頷いた。そんな彼らを見ながら赤髪の青年は勝ち誇ったように口角を上げている。

















(一球外して様子を見よう。でも仕掛けられることなんてあるかな?)

ウエストのサインを送りながら西はそんなことを考えていた。2アウトでランナーは三塁。何かを仕掛けようにも仕掛けられるような状況ではない。

その中で一体どうしようというのかと見ていると、案の定ウエストされたボールに動きを見せることはなく平然と見送る。

(やっぱり警戒しすぎか。いや、もしかして油断させてセーフティスクイズとか?)

ランナーにもバッターにも動きが見えなかったことを確認しつつ、立ち上がってわざとらしくホームベースの横まで出てボールを返球する。相手の動きを全て見ていることを見せつけるようにした行動だった。彼女は自身のポジションに戻りながら相手のベンチを確認しようとしたその時、

「走った!!」

後ろからそんな声が聞こえ慌てて振り返る。三塁方向を見るとこちらに向かって猛然と突っ込んでくる鈴川が目に入る。

「なっ……」

慌ててマスクを投げ捨て捕球体勢に入る。ピッチャーの岩瀬(イワセ)もサードからの声で気が付いたようで慌てて送球していた。

(ギリギリ……)

見かけによらず足の速い鈴川がホームへと迫る。慌てて投げたために逸れてしまったボールを捌いてタッチへ入る西。しかし彼女のそれよりも早く鈴川の手がホームベースへと到達した。
















「セーフ!!セーフ!!」

両手を広げる球審。目の前で起きた出来事に彼らは信じられないといった表情を見せている。

「ホームスチールかよ……」
「一か八かすぎるでしょ」

何としてでも1点を取りたいという執念が見える。普段の町田からすればありえないような攻めに真田も佐々木も言葉を失っている。そんな中もっとも驚いていたのはカミューニだった。

「まさかまだ奥の手を残していたとは……だが、俺の敵にはまだなれないかな?」

なおも余裕の笑みを見せるカミューニ。その異様な様子に真田たちも違和感を感じ始めていた。



 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
やりたいことが多すぎて全く話が進まない今日この頃ですm(__)m 
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