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軽蔑

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第五章

「それにしても明るくなったな」
「そうかな」
「今はな」
「大学でサークルに入ってお寺でも周りはいい人ばかりでね」
「それでか」
「そうなったかもね」
 笑顔でこう言うのだった。
「僕も」
「そうなんだな」
「お義父さんもお義母さんもいい人達で」
「奥さんと息子さんもか」
「それで檀家の人達もね」
 皆そうだというのだ。
「出身の大学で仏教の講義も持ってるけれど」
「そちらでもか」
「いい学生さん達ばかりで」
「それでか」
「毎日充実もしてるしね」
 浩紀は今も笑顔で語った。
「明るくなったって言われたら」
「そうか」
「自分でもそう思うよ」
 和彦に明るく話した、それでだった。
 和彦がトイレに席を立って浩紀が一人になった時に。
 美佳は決意していたことを実行に移すことにした、それで友人達と別れて彼の傍に来てそうしてだった。
 浩紀に挨拶をしてだ、それから彼に言った。
「あの、私のことだけれど」
「覚えてるよ」 
 浩紀は自分から言ってきた。
「長谷美佳さんだよね」
「ええ、あの時は御免なさい」
 美佳は彼の前に正座して謝った。
「本当に酷いことして、大学に入った時に」
「・・・・・・・・・」
 美佳は自分のことを話した、そして。
 浩紀は黙って聞いていた、その彼に最後まで話して。
 正座したまま深々と頭を下げてだ、あらためて言った。
「本当に御免なさい、自分がそうなってわかったわ」
「ふざけるな」
 すぐにだった、浩紀は。
 頭を下げる美佳の頭彼から見れば後頭部にだった。
 自分が持っていたコップの中のビールをかけた、それから怒った顔で怒鳴りだした。
「お前が俺にしたこと忘れてないからな!」
「一瞬でも忘れたことないぞ!」
「よくもあれだけやってくれたな!」
「謝っても許されるか!」
「絶対に忘れるか!」
「何があっても許さないからな!」
 ビールをかけてから怒鳴り散らした、そして。
 そこからは何を言っているかわからなかった、完全に理性を失くして怒鳴り散らしていた。それがあまりに凄まじく。
 男子のクラスメイトだった者達が慌てて彼のところに来た。
「お、おい待てよ」
「落ち着けって」
「お前がやられたことはわかってたよ」
「俺達も観てたからな」
「気持ちはわかるよ」
「けれど落ち着けよ」
「もう十年は前のことだろ?」
 こう言って彼を抑えて宥めにかかった。 
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