漁師とイフリート
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第二章
「わしは結婚もまだだぞ」
「わしもだ」
「まだ女も知らん」
「富も知らん」
「それでまだ死ねるか」
「とんでもないことを言うな」
兄弟でサクルに抗議した。
「それが助けた者にすることか」
「死に様を選べとは何だ」
「恩人を殺すのか」
「そんなことをアッラーが許されるのか」
「わしは決めたのだ」
だがサウルはその二人に腕を組み傲然と返した。
「その様にな」
「一体どうしてだ」
「どうしてそう決めた」
「そんな無茶苦茶なことを何故決めた」
「へそ曲がりでは済まんぞ」
「理由を話せ、理由を」
「理由か、では話そう」
サウルは弟の方に応えた、そうして語りだした。
「かつてわしは預言者スレイマーン逆らい壺に封じられカスピ海に沈められた」
「何だ、預言者に逆らったのか」
「それはあんたが悪いぞ」
「そうなったのも自業自得」
「封じられたのもな」
「何が自業自得だ、それから千八百年だぞ」
イフリートはその歳月に抗議した。
「それがどれだけ長いかわかるか」
「それはわかるがな」
「わし等ではとても生きられんからな」
「それはあまりにも長い」
「気の遠くなる長さだ」
「それでわしは考えたのだ」
ハーシムとクサムに話した。
「わしを壺から出した者には莫大な富を与えようとな」
「おお、富か」
「それはいいことだ」
「何しろわし等は貧乏人だ」
「貧しい者へのそれはいいことだ」
「そう考えていた、しかしだ」
サウルはさらに話した。
「それは百年、次の百年は地中の宝物を探して与えるつもりだった」
「それもいいな」
「宝物とは有り難い」
「わし等はそれでもいいぞ」
「貧しいからな」
「それが百年、しかし誰も来ず」
それでというのだ。
「次の四百年は三つの願いを適えることにした」
「富と宮殿と美女だな」
「その三つだな」
「よし、わし等二人にそれぞれ頼む」
「その三つをな」
「聞け、ここまで六百年まだ千二百年もある」
サウルは二人に腕を組み述べた。
「六百年考えて来なかった、それでわしは怒った」
「後の千二百年怒っておったか」
「それは少し怒り過ぎだな」
「そこまで怒っていいことはないぞ」
「だから性格も捻くれたのか」
「怒ってわしを助けた者に自分の死に方を選ばせることにしたのだ」
サウルは二人に話した。
「それで二人に聞きたい、どんな死に方がいい」
「全く以てふざけた話だ」
「助けてどんな死に方がしたいとはな」
「ここまで聞いて尚更思った」
「こんな理不尽な話はない」
「死ぬなら今死にたくない」
「長生きしてだ」
そうしてとだ、二人でイフリートに言った。
「美味い料理と酒、富に宮殿に美女に囲まれ」
「日々アッラーへの祈りを欠かさぬ」
「そして天寿を全うする」
「そうした死に方がいいに決まっている」
「というかどんな死に様がいいというのならだ」
「こんな死に様も入る筈だ」
「そういえばそうだな」
イフリートも言われてはっとなった。
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