ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね(お試し版)
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三話「絶望の時間」
何の因果かメラゴーストに転生してしまった元人間の俺は、暫くの放心と現実逃避の後、自身が危うい立場にあると気づいて慌ててたき火への擬態を試みる。
(だが、不要な発言をしてしまったためかそこに何と弟子を連れた勇者が現れてしまうのだった)
もしナレーションが入るとしたら、そんな感じだろうか。ただひたすら無心でたき火の擬態と言うのは、元々一般人だった俺にはきつかったのか、意識の何割かが現実逃避気味にそんなことを考えだして、いかんいかんとと俺は動作ではなく脳内で頭を振る。この身体、脳もなさそうだけどそこは言葉のあやだ。
「けど暗くなってましたし、こんなとこにたき火があるなんて助かったっスね、先生」
出来るなら、呑気に師に語りかける少年の言葉に聞き耳を立てて更に情報収集もしたいところだが、圧倒的格上を前にこれ以上余計な気を散らすのは、避けたい。
「はっはっは、そうですねと言いたいところですが……」
避けたいところなのだが。
「ところでポップ、ここにたき火がある訳ですが、火を熾された方はどちらにいらっしゃるのでしょうね?」
まるで世間話の様に放られた、勇者の疑問に俺は凍り付いた。
「えっ、そう言えば」
「ついでに言うなら、人のモノはおろか魔物のモノらしい足跡もありませんよ」
ハッと顔を上げる少年に勇者はさらに不審な点を挙げて行く。それは当然俺の擬態の粗であり、人の様に顔色が変わるなら、俺の顔は今頃青い炎になっていたことだろう。
(終わった)
この勇者、絶対俺の擬態に気付いている。言われてみれば、確かに不自然な場所のオンパレードだ。だが、仕方ないじゃないか。
(とっさの機転で身を隠そうとしたんだぞ?!)
そんなところまで考えられないし、時間的な余裕もない。ついでにこの身体には足もないので腕に見える炎の部分で延々足跡を付ける作業をするしかない訳だが、足跡がないことに気付いて作業をしていたら確実にポップにそれを見つかっていただろう。
(そもそもこの身体、腕力ないしな)
足跡と言っても全体重をかけたモノではなく、申し訳程度に靴底を形どった跡を地面につけるだけになっていた可能性も高い。いつ目の前の勇者師弟に攻撃を繰りだされてもおかしくない状況に遠い目をしてしまうのは、きっと現実逃避だと思う。
「先生、それじゃこのたき火は一体」
「そうですね、私が思うに――」
だから、動揺を隠せぬ少年としかつめらしい表情で顎に手を当てる勇者の様子なんて視界に入って居なかった。きっと魔物でしょうなんて続いたあげく剣の一振りで真っ二つにされる展開が待っているとしても、俺は目を背けて居たかった。
「お手洗いに行っているのでしょう」
「だぁっ?!」
だが、勇者のつづけたトンでも推理に少年はずっこけ、俺も若干傾いだ。
「切羽詰まって、火だけつけてどこかに行ったとすれば、足跡が殆どない理由にもなります」
「なる、ほど?」
少年は微妙に納得がいっていない態だったが、その辺りは俺もだった。見逃されたのか、それとも。だが、わざとか天然か、いずれにしても俺はただたき火のフリを続けるしかできず。
「さてと、そろそろ行きましょうか、ポップ」
勇者の方が突然口を開いたのは、それから暫くしてのこと。
「もしこの火を熾された方が戻ってきて『この火は俺が熾したんだ。火あたり料を貰おうか』などと言い出されても何ですし」
「はぁ? そんな人いるんッスか?」
「永く旅をしてますとね、色々あるんですよ」
真面目な顔で告げる内容に素っ頓狂な声を上げる少年へ、勇者は口元に苦笑を乗せ遠くを見ると。
「では、これで失礼しますよ」
俺の方を一瞥してから勇者は弟子を連れて去ってゆく。
「はぁ、助かったぁ」
思わずへにょりと崩れ落ちた俺が、色々なことへ気づいたのはその後、二人が完全に見えなくなってのことだった。
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