ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね(お試し版)
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二話「それで、ここはどこ?」
「誰も来ないな」
身体が地面を照らす中、俺は木の枝を集めた上でポツリと呟いた。
「炎としての身体が隠せないならとたき火のふりをしてみたんだが、うん」
何かがやってくるようなことはなく、ただ木々の枝が風にザワザワ騒ぐだけ。
「ちょっとビビりすぎたかな? いや、そもそも今の俺は脆弱なんだから、用心にこしたことはない筈なんだ」
平穏上等。唐突に通りすがりの勇者とかが現れて、隠れてたのを見抜かれた上で襲いかかってこられたら目も当てられない。
「って、今のフラグじゃ――」
割と見通しの暗い現状において、何故俺はあんなことを言ってしまったのだろうか。もし近くに鏡があったら、俺の顔は、たき火に化けたメラゴーストの表情は引きつっていたに違いない。
「先生、あそこにたき火がありますよ」
嫌な予感程、現実になるものだ。何故か不思議と聞き覚えのある声に一瞬身を固くした俺は細心の注意を払いつつ声の方を窺い見る。
「あ゛」
思わず変な声が漏れた。緑の布の服の上から黒い貫頭衣のようなモノを身に着け、山吹色に近い黄色の鉢巻を頭に装着した少年が、俺を指さしつつ近づいてきているのだ。
「確かにあれもドラクエって言えばドラクエだよなぁ」
頭の中の妙に冷静な部分が納得する。少年の名前はおそらくポップ。メラゴーストも登場するゲームであるドラゴンクエストを下敷きにしたマンガの主要登場人物であり、故に俺は今何の世界に居るのかを知らされた。
「だ、ダイの大冒険の世界……」
世界を滅ぼそうとする巨悪に勇者が挑み倒すというところはゲームを含んでドラクエの共通点だと思うのだが、その作品では、巨悪の打倒までに割と綱渡り的な場面が多い、加えて。
「確かこの世界のモンスターって魔王の邪悪な意思の影響を受けて凶暴化、自分の意思とは関係なく人間を襲うんじゃなかったっけ」
今の身体は、モンスター。下手をすれば、魔王の意思によって自制がきかなくなり人間に襲いかかったところを雑魚モンスターとして返り討ちにあって滅ぶ可能性が高い。
「うん、それだけでも詰んでるんですけどね」
おや本当ですねぇと言いつつポップの後ろから現れた髪がカールした眼鏡の人物は、俺の記憶が確かなら、アバン。タイトルにも名の出ている主人公ダイの師になる人物であり、フルネームは確か――。
(アバン・何とか・ジュニアール何世、だっけ?)
はっきり思い出せないが、ともかく原作開始前の時点で仲間たちと共に魔王ハドラーに挑み、打倒した正真正銘の勇者だった筈だ。
(終わった)
ぶっちゃけ、そのアバンを先生と呼ぶ教え子の少年の呪文一つで消し飛ぶわが身だ。オーバーキルってレベルじゃねぇ。
(終わる、モンスターだってばれた時点で終わる)
人魂の身体、見た目は炎だって言うのに俺の身体に寒気が走る。心臓がなさそうな身体だが、元が人間であったからか早鐘のような鼓動の音の幻聴まで聞こえる気がする。既にポップの方に発見されている以上、逃げようとしたところで背中にむかって呪文が飛んできてお陀仏だろう。夜の暗闇の中、発光する俺の身体は隠しようがない。
(逃げられないのは、大魔王だけじゃなかったんですね、うん)
それが呪文と言う広いリーチを持つ攻撃手段及び、「逃げ足」と書いて「素早さ」と読むソレに絶望的な差がある俺を含む一部の弱者にのみ限定されるモノだったとしても、なんの慰めにもならない。
(たき火だ、俺はたき火だ)
出来るのはただ、無心でたき火のフリを続けることだけだった。
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