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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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まだ見ぬ球種

 
前書き
溶けたはずの雪が一日で元に戻りました。何なら越えてる説あります。 

 
二塁上でガッツポーズをしている少女。そんな彼女に拍手を送る明宝ベンチは大いに盛り上がっていた。

(1アウト二塁で高嶋か。さっきいい当たりされてるだけにちょっと怖いわね)

前の打席では鈴木のポジショニングにより事なきを得たが飛んだコースや当たりの強さはヒット性のものだった。さらには彼女の後には上位打線に繋がるだけに怖さを感じる。

「莉愛のこのヒットは大きいな」
「ただのヒット以上のものがありますよ、これは」

真田と陽香が冷静に試合を見つめながらそう言う。実は明宝ベンチが盛り上がっていたのは莉愛に初ヒットが生まれたからだけではない。もっと大きな意味が含まれている。

「この回にできるだけ点取るぞ。できることならコールドで決めてやれ」
「「「「「はい!!」」」」」

サインを受けた伊織はバントの構えを見せる。それを見て岡田は安堵の息を漏らした。

(高嶋に送りか。確かに三塁に進めればこっちの投球に制限をかけれるからな。ただ、バスターの可能性も十分にあるな)

足元がすぐ打撃に移れる位置のままになっている。1アウトなためただ送るよりもバスターでチャンスを広げた方がいいことは間違いない。

(2アウト三塁ならいい。右方向にゴロを打たせよう)

選んだ球種はカーブ。これを低めに集めることでゴロの確率を上げていく。

「行こう!!伊織!!」
「行くよ行くよ!!」

チャンスの場面では間合いを持ちながら攻めていきたい。ランナーを目で牽制しつつ遠藤が投球に入る。それと同時に伊織はバットを引いた。

(やっぱりバスター!!引っかけろ)

遠藤の投球は高さもコースも完璧。そのボールを伊織はしっかり引き付けると最短コースで捉える。

「なっ……」

セカンドの真上を嘲笑うように越えていく打球。これを見て莉愛が三塁を蹴る。

「勝ち越し!!」

ライトが回り込んでこれを処理したがホームはどうやっても間に合わない。伊織の進塁を防ぐためにセカンドに返すだけになり、莉愛は勝ち越しのホームを踏んだ。

















「狙い球が当たりだした感じかな?」
「そうかもしれないですね」

笠井に話しかけられ後ろにいた金髪の少女が頷く。それに呼応するように他の少女たちもこの連打には驚きを隠せずにいた。

「カーブ系に的を絞ってるのかな?」
「でも城田はストレートにも振っていってたよ」
「掠りもしなかったけどね」

球速に差のあるストレートとカーブ。そのどちらにも手を出した打者がいる以上、狙い球を決めているとは言いきれない。

ランナーが一塁になったため、クイックでの投球を行う遠藤。アンダースローである彼女はクイックも速く、初球のライズボールであってもスタートを切ることができない。

「ライズに手を出さなくなったね」
「ようやく目が慣れたってこと?」
「でもここまでは一巡目ですよね?慣れるも何もないと思いますけど」

突然の打線の変化に東英ナインも困惑を隠しきれない。しかし一人だけ……大河原だけはその理由に気付いていた。

「ふっ……なるほどな」
「ひとちゃん何かわかったの?」

含み笑いをする大河原に対し笠井の後ろにいた金髪の少女が不思議そうに問いかける。それを受けて彼女は頬杖を付きながらグラウンドを指さす。

「こんなに簡単な癖が露呈しているとは思ってなかった。誰が気付いたのかはわからないが、相当目の長けてる奴がいるらしい」
「遠藤に癖があるってこと?」
「いや、遠藤に癖はない」

どこに癖があるのかと遠藤に視線を集めた途端にその発言。訳がわからず全員が顔を見合わせ言葉の意味を理解しようとしていた。

「癖はないってこと?」
「いや、癖はあるんだ」
「え?意味わかんないんだけど」
「確かに……あ、そういうこと?」

言ってることが矛盾しており頭を悩ませる一同。そんな中でようやく意味を理解したのはガッチリとした体格の少女。

「え?愛もわかったの?」
「クリンナップでわかんないの望美(ノゾミ)だけみたいだよ?」
「うぐぐぐぐ」

小さな体躯の薄茶色の髪をしたショートヘアの少女。野外スポーツをしているとは思えないほどの白い肌をした彼女は、笠井からの言葉に悔しそうな顔をしていた。

「まぁ球種が完全に分かるわけではないみたいだけどな。次はストレートかな?」
「え?まだモーションに入ってないよ?」

後藤が不思議そうな顔をする。大河原は遠藤がモーションにすら入っていないのに球種を宣言したことが不思議でならない。

そして遠藤が投じたのは本当にストレートだったのだ。

「アウトローギリギリ」
「今のは打っても内野ゴロでゲッツーだったね」
「でもタイミングは合ってたよね?」

スイングにこそ出なかったが動き出しはストレートに照準を合わせていたそれだった。つまり本当に明宝は球種がわかっている。そして言い当てた大河原も同様に把握していることを思い知らされる。

「でも瞳、気になったんだけど……」
「どうした?」

となると今度は何が球種を判別する材料になっているのかが気になる点だが、鈴川は別のことが気になっていた。

「どうやってバッターに球種を伝えるの?」
「「「「「え?」」」」」

鈴川のその言葉は今までの大河原の発言よりもさらに意味がわからない。それに対し大河原は腕を組んでいる。

「そこなんだ。私にもそれがわからない」

二人の会話のせいでますます意味がわからなくなっている面々。彼女たちが何に気付き、どのような攻めを見せているのかわからないモヤモヤした気持ちを抱えたまま試合を見て観察するしかなかった。
















キンッ

「ライト前ヒットですか」
「桃子がこんなに連打されるのは初めて見たな」

こちらは本部席から試合を見ている各校の顧問たち。その中で町田は他校の部長と話しながら試合を見ている。

「明宝はまるで球種がわかっているかのような打ち方ですね」
「かのようなじゃなくて本当にわかってるんだよ。もっとも、おおよそにはなるがな」
「おおよそ?」

もちろんこれには男性も意味がわからない。他の本部席にいる者たちもそれが気になり二人の会話を盗み聞きしていた。

「桃子が球種が多いからな、岡田を責めるのはできないかな?」
「岡田に原因があるんですか?」

そうだ、と頷く町田。それを聞いて全員が岡田に視線を送る。

「ライズボールの時は上からボールを見たいからどうしても立ち上がってしまう。ストレートの時は思い切り投げさせたいから一度両手を広げてからミットを構える。その他の変化球では低めを意識させたいから極端に姿勢を低くするんだ」
「それだとカーブとシュートの見極めが難しいですけど」
「あのくらいの球速で変化量も大きいからな。投げた瞬間にどっちか見極めるのはそう難しくない」
「なるほど」

言われてから見てみると確かに一球ごとに構えが違う。しかしそれは投手の力を最大限に活かすものだと考えると彼女のことを責めることはできない。

カキーンッ

1アウト一、三塁から紗枝が三球目のシンカーをうまく捌いてレフト前へと運び伊織が生還。なおもチャンスのままクリンナップを迎えた。

「伝令が出てきましたね」
「継投にでないあたり相当桃子を買ってるんだな」
「それは町田先生もですよね?」
「まぁ……これだけ制球力があればな」

遠藤は多彩な球種に加えてほとんど四死球を出さない制球力が評価されている。それは他校の監督から見ても目を見張るものがあるようだ。

「佐々木さんは気付いてますかね?」
「気付いてても迂闊なことは言えないだろう。岡田が気にしすぎてプレーに集中できなくなったら元も子もない」

果たしてどんな伝令が飛んだのかはわからないがすぐにマウンドから散る選手たち。岡田の表情を確認するが、何か気にしている素振りは見られない。

「桃子を落ち着かせるための伝令か?」
「でも球種がわかっていたら抑えきれないですよ?」

ここまでの結果がそれを物語っている。このままでは試合が決まりかねない状況にも関わらず、指揮官は得意の継投に出ない。

「球種がバレてても問題ない。桃子にはわかっていても打てない球種が二つ……それの相乗効果で三つ使える球種がある」
「え?ライズボール以外にもあるんですか?」
「あぁ。ただ、ここまで岡田が要求できないってことは捕球できる自信がまだないんだろうな」

残念そうにタメ息をつく町田。彼の言う球種が何なのかわからない面々は一体それが何なのかを知るために試合へと視線を戻す。

「来るな、フォークが」

先程の解説から岡田の構えを見て球種を見分ける町田。そして彼の言葉を聞いた本部席にいたものたちは彼女の持ち球のことを思い出していた。

「そういえば遠藤はフォークを持ってたんでしたね」
「あぁ。去年の強化指定選手の集まりの時に教えてやった」

U-18の日本代表監督だけでなく秋季から春季に行われる東京都の強化指定選手のチームでも監督を務めている町田。彼はその時に伸び代がある選手にはさらなるテクニックなども積極的に教えている。この遠藤もその一人。

「明宝も構えが変わったことには気付いてるがここまで投げてなかったからな。掛け声が統一されてない」
「そういえばいつの間にかベンチの声がみんな一緒になってましたね」

この日の明宝は一塁側ベンチ。そのため右打者にはサインで岡田の構えから推測された球種を伝えることはできるが左打者にはそうはいかない。そのため常にベンチから聞こえる声を統一させることでそれを行っているのだ。

「この2点で終わるかはたまた追加点を奪えるか。それによっては翼星にもまだ勝ち目はあるよ」

















打席に立つ莉子。彼女はマウンド上の少女を見ながらベンチの声へと耳を傾ける。

(カーブかシュートが狙い目だがストレートも十分にありだ。ライズだけは手を出さないでおこ)

前の打席でライズボールで仕留められているだけにそのボールには手を出さないことを心に決めた彼女。そんな彼女の耳に聞こえてくる仲間たちの声は……

「行っていいよ莉子!!」
「来るよ来るよ!!」
(??あれ?声が混ざってる?)

明宝ベンチでは《狙う》の場合はライズボール、《来る》はストレート、そして《行く》が緩急を付けるボールで統一させた。それなのに、二種類の声が聞こえる現象に莉子は困惑していた。

(考えられるのは二つ。向こうがこれに気が付いたか、もしくはまだ投げてない球種……フォークが来る場合!!)

まだ一球も来ていない球種がある以上、一概にバレたと決めつけるわけにはいかない。

(ここは一球見る。それで状況を判断する)

冷静さを失わない莉子。見ることに徹すればそれだけ得られる情報も増えてくる。ランナーを二人背負った状態での投球は真ん中へのハーフスピード。

(甘い球!!……いや、浮いてきてる)

前の打席の記憶が甦る球筋。しかし、そのボールは前の打席よりも浮き上がりが早い。

(投げ急いだのか?それとも外すためのーーー)

様々な思考が脳裏をよぎる中、突然目の前から白球が消える。何が起きたのかわからずにいると、後ろからミットにボールが収まる音が響いてきた。

「ストライク!!」
「何!?」

そのコールでキャッチャーの方を見ると確かにボールがミットに収まっている。自分の目で見ていたはずの出来事なのに、彼女は何が起きたのかわからなかった。






 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
勝ち越したもののまだまだ試合はわからないといったところです。やりたいことが多すぎてまだまだ先が見えません。 
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