DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~
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気付き
前書き
やりたいことが多すぎてどの試合でやる展開だったかわからなくなりつつある件について
「2アウト!!陽香さん!!ここで切りましょう!!」
マスクを拾い上げ声をかける少女。そんな彼女を見ながら赤髪の青年が口を開く。
「あのキャッチャー、お前と同じ一年生だそうだぞ」
「そうなんだ!!キャッチャーならワンチャン接触できるかな?」
「無理なホーム突入はやめてくれ……」
クロスプレーになればケガのリスクが伴う。コリジョンルールにより大きく緩和されたものの、送球が不安定な高校野球においては完全なものとは決して言えない。
「冗談だよぉ!!2割くらいは」
「ほとんどマジじゃねぇか」
的確な突っ込みをする青年とボケなのか本気なのかわからない少女のやり取り。それを横で聞いていた黒髪の少女は二人の会話を楽しそうに聞いていた。
「笑ってないで妹のお守りくらいしてくれ」
「えぇ。でも好きにやらせてあげたいし~」
食えない二人の少女の相手に疲れきった表情を浮かべる青年。そんな彼はイニングを確認し、スタンドを見回す。
「日帝大の奴らは全員アップに行ってるみたいだな」
「うちが悠長に構えすぎなんじゃない?もう三回だし」
「そろそろ行くか?」
「そうだね。試合は十分確認できたし」
試合を控えている身とあってこの後の展開よりも自分たちの調整を優先しなければならない立場である三人は近くにいた仲間たちを連れてスタンドを後にする。最後に外に出ようとした青年はセカンドへの凡フライを上げた打者を確認してから背を向ける。
(やっぱり俺たちの野球に比べれば落ちるな。まぁ仕方ない。俺がやるのはこいつらを勝たせることなんだからな)
誰にも見られないように真剣な表情を見せる青年。その顔は勝負師のそれを彷彿とさせるものだった。
無事に3アウトを取りベンチに戻ってきた明宝ナイン。彼女たちは失点のピンチを切り抜けたことで盛り上がっていた。
「陽香、ちょっと引きずったな」
「すみません」
チャンスで凡退したことで投球に影響を与えてしまった陽香。そんな彼女を咎めながらもそこまで気にした様子ではない真田は淡々と話をする。
「翼星は守備力が高いからな。そんなに何度もチャンスは来ないと思っていい。あってあと二回……次のチャンスを逃したらやられるぞ?」
脅しているわけではない。本当にその通りなのだ。これ以上ないチャンスを逃した前の攻撃。同じことを繰り返してしまえば守備に定評のある相手が有利になる。
「狙い球はカーブとシュートだ。これ以外は三振してもいい。とにかくこいつが来た時にしっかり捉えろ」
「「「「「はい!!」」」」」
簡単な指示を出し選手を送り出す。この回先頭の明里は足場を均しながら思考を巡らせていた。
(シュートよりはカーブの方が打ちやすいかな?まぁ球が遅いからどっちでも対応できるんじゃないかな?)
球速のある投手の方が優れているように感じてしまうのは無理もない。ただ、そのスピードによっても武器にもなりうる。
(遅っ……)
十分に引き付けているはずなのに初球のチェンジアップが全く待ちきれておらず空振りする明里。ランナーがいなくなったことで遠藤はテンポが上がっており、すぐに次の投球に入る。
(間が……)
続くボールは狙い球であるカーブ。しかしテンポの早さに構え遅れた明里はこれを見送らざるを得なくなる。
「ボール」
(ラッキー)
運良くボールの判定だったことに安堵する明里。しかし、息もつかせぬようにバッテリーは次々に投球をしていく。
(テンポ早いな。これだとすぐに構えないと差し込まれちゃうかも)
ネクストから明里の打席を見ていた莉愛。そのテンポの早さは彼女にも伝わったようでそんなことを考えていた。
「ファール!!」
高めのライズボールに食い付くもののバックネットへのファールが精一杯の明里。そのボールの打ちにくさは端から見ても明らかだった。
(でも手が出ちゃうってことは見分けがつきづらいんだろうなぁ……これはカーブが来ることを祈りながら振るしか……あれ?)
冷静に分析をしながら試合を見ていた莉愛。そんな彼女はある一人の少女を見て、違和感を覚えた。
(次のボールは……シュート系?)
突然そんなことを思いながらじっと投球を見つめる。アンダースローから繰り出されたボールは明里の胸元に食い込むように変化する。
ガキッ
内角のそれを根っこで捉えたことでサードへのボテボテのゴロ。面白い当たりではあったがサードが手早く捌きアウトにした。
「守備が固いね、翼星は」
ネクストにやってきた伊織がそう言う。ここまで攻守にも阻まれなかなか得点を奪えない展開ではあるもののそれは相手も同じ。そう考えている彼女はまだ焦っている様子は見えなかった。
「若菜!!」
「?何?」
伊織に気が付いていないのか、明里のバットを回収していた若菜を呼び止める莉愛。呼び止められた彼女は首をかしげながら何かを話している。
「バッター!!」
「はい!!今行きます!!」
試合のスピーディーな進行を求められる審判団はこういう行動に対して注意することがある。それがチームに必要なことであっても日程がギリギリであるためこれは仕方のないことである。
「若菜、莉愛に何言われたんだ?」
前の打者から情報をもらうために声をかけるならまだしも試合に出てすらいない若菜に問いかけた意味がわからず戻ってきた真田が直接声をかけた。
「それが……莉愛がもしかしたら球種わかるかもって言い出して……」
「え?」
若菜のその発言に信じられないといった表情で打席の少女へと視線を向ける。一方そんなことなど知るよしもない岡田も先程の彼女の行動に違和感を覚えていた。
(てっきり菊池のバットを借りるのかと思ったが結局いつものバットで出てきた。じゃああれは一体なんなんだ?)
莉愛の行動の意味がわからなかったが、それが攻略に繋がるとは到底思えない。岡田はいつも通りの形で配球を考える。
(こいつは前の打席で送りバントだった。それにここまでヒットもなし。警戒する必要もないか)
手っ取り早く終わらせようとライズボールを要求する岡田。場合によってはこれを三つ続けることも考えているほど莉愛の打撃には警戒をしていない。
「狙っていこ!!莉愛!!」
「莉愛!!狙って!!」
先程よりも明宝ベンチから声が出ていることに違和感を覚えたが気にすることなくプレーに入る。中腰に構えた状態で高めへと投じるライズボール。これを莉愛は反応すら見せず見送る。
(キャッチャーだけあって目はいいな。ライズは捨ててるみたいだ)
今の見送り方を見てライズボールが見えていると考えた岡田は高めにストレートを要求する。
(一応力は入れてくれよ)
(一応とか言うな!!)
球が速くない遠藤は球威もそれほどない。ゆえに本来なら高めのボールは危険なのだが、ライズボールを捨てているなら見送る可能性は十分にある。
「来るよ!!莉愛!!」
高めへのストレート。ただしカウントを取るために真ん中寄りに入れている。これを莉愛はスイングしていくが空振りに終わる。
(ストレートをしっかり見極められたのか。この目の良さがレギュラー入りの要因か?)
一年生であり背番号も大きいのに初戦からスタメンマスクを被る彼女には同じ捕手として何か武器があることはわかっていた。それが少しずつ見えてきたことに岡田は笑みを浮かべる。
(次はスローカーブだ。引っかけさせるよ)
ここでの緩急でベストなスイングをさせない。それもストライクに確実に入れることで球数の節約を目論むバッテリー。
「行くよ!!莉愛!!」
(残念だけど、この子じゃ無理だよ)
打てない打者であることはこれまでのデータが物語っている。そんな彼女を打ち取ることなど造作もない。
(早く早く~)
勝利を確信する岡田だったが莉愛は別の感情を抱いていた。その楽しそうな表情がマウンド上の少女に嫌な予感を過らせる。
(何をそんなに喜んでるんだろ?ストライク指示だけど、低めに丁寧に行かないと)
慎重に行かなければ捉えられる。そう予感した遠藤はストライクを取りながらもギリギリの高さへとコントロールする。
(これはいい!!絶対手を出す!!)
低めギリギリだがコースは真ん中。普通の打者なら食い付きたくなるボールな上に先程のストレートからの緩急で体勢が崩れるはず。打ち取ることは必須のボールのはずだったのに……
(え?待ててる?)
莉愛はスイングを開始しておらず、スローカーブに合わせたようにバットを振り出した。
カキーンッ
快音を響かせ宙を舞う打球。それはライトとセンターの真ん中を真っ二つにした。
「ボール三つ!!」
センターが一直線でボールを処理し内野へと返す。しかし莉愛はすでに二塁を陥れており、スタンディングでの二塁打としていた。
「イエーイ!!やったやった!!」
この大会初のヒットを放ったことで喜びを爆発させる莉愛。そしてこの一打が大きく試合の流れを変えることになるとはこの時誰も予想することができなかった。
後書き
いかがだったでしょうか。
莉愛ちゃんこの大会での初ヒットがようやく出ました。そもそも打席に立ってる描写がないからイマイチ実感はないんですけどねww
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