正之と朱の盆
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第二章
そこにその顔があった、そうしてこう言ったのだった。
「こうした顔では」
「むっ!?」
供の者は今正之が言ったままの顔に仰天した、それで思わず刀の柄に手をかけようとしたがその前に。
正之は悠然と笑ってだ、その供の者実は朱の盆に答えた。
「そうじゃ、まさにその顔じゃ」
「えっ、今何と」
「だから言ったままじゃ」
悠然としたままさらに言った。
「今のお主の顔のままじゃ」
「この顔に驚かないのかと」
「今言った顔がそのまま出てどうして驚く」
逆に聞き返す正之だった。
「それには及ぶまい」
「そう言われると」
「さて、社に参ろうか」
正之は唖然とする妖怪を見ることもせず社の中へと足を進めた、真の供の者はその正之に家臣としてついていった、自然と柄にやっていた手は収めていた、そしてだった。
正之は供の者を連れてそうしてだった。
社の中に入った、ここで供の者が先程のことを正之に言った。
「殿、先程のことは」
「ははは、あやかしも面喰っておったな」
「あれでよいのですか」
「よい、しかもこれで終わりではない」
「そうなのですか」
「うむ、では先に進もう」
こう言ってだ、そしてだった。
正之は境内の中を進んでそのうえで。
そこにいた巫女に声をかけた、巫女は正之に背を向けていたが供の者はまさかと思ったが正之は構わず声をかけた。
「先程社の前で面白い者に会った」
「どういった方ですか」
「うむ、それはな」
何かとだ、正之は自分に背を向けたままの巫女、黒髪が奇麗な彼女に自分に背を向けたままを非礼とも言わずそうしてだった。
先程のことを全て話した、すると。
巫女はここで振り向いてだ、こう言ってきた。
「かような者ですか」
「またかっ」
「そうじゃ」
驚く供の者と正反対にだった、正之は。
ここでも笑ってだ、こう言った。
「その顔じゃ、いや社の前からここにわし等が来る前に入って待っておったか」
「な、何故そこまで」
「ははは、妖怪とは悪戯好きなもの」
正之は自分が驚く妖怪にさらに言った。
「だからそうして来るとな」
「察していたと」
「左様、それでお主は人を驚かすだけか」
妖怪に自分から問うた。
「それだけか」
「はい、他は何も」
妖怪朱の盆はあっさりと答えた。
「しませぬ」
「ならよい、お主が何もしないならな」
「よいですか」
「人を驚かすだけならよい」
別にと言うのだった。
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