下馬評を覆し

「奥川もいいが勝てるか」
「山本に勝てるピッチャーいるか」
「絶対にうちが勝つ」
「やっぱり一勝は間違いなしだ」
　先勝を確信していた、そのうえで遂にプレーボールとなり。
　始球式の後で試合がはじまった、ヤクルトはまず二回表にツーアウト一塁二塁とした。だがこの時は攻めきれなかった、それでも高津はバッター達に話した。
「山本を投げさせろ」
「そして出来るだけ疲れさせる」
「そうさせますね」
「一球でも多く投げさせますね」
「そうしろ、そうすれば山本を打つ機会が出来る」
　無敵のピッチャーなぞこの世に存在しない、高津はこのことがわかっていた。山本に絶対の信頼悪く言えば慢心している者には気付く筈のないことだった。
　それでだ、高津は言うのだった。
「いいな、奥川は頑張っている」
「それならですね」
「俺達は出来る限り粘る」
「山本に一球でも投げさせる」
「そうしていきますね」
「そうしろ、チャンスはまた来る」
　こう言ってだった。
　高津は山本を出来るだけ多く投げさせた、そのうえで。
　チャンスとバッター達がやってくれることを待った、オリックスの攻撃は宮本丈の好守備で阻んだ。そうしてだった。
　六回表ヤクルトは山田哲人とＤ＝サンタナが四球を選びワンアウト一塁二塁とした、ここでキャッチャーの中村悠平マウンドで好投している奥川をリードしている彼がだった。
　山本のボールを捕らえた、無敵と言われた敵のエースのボールをセンター前に弾き返した。そうしてだった。
　山田がホームに駆け込んだ、これにヤクルトファン達は歓喜した。
「やったぞ！」
「先制点だ！」
「あの山本から一点取ったぞ！」
「よくやった！」
　彼等はまさかと思った、そして山本もオリックスナインやオリックスファン達もだった。
　驚愕した、自分達の絶対のエースがまさか一点を奪われるとは思っていなかった。完封するものと思っていや確信していたのだ。しかも先制点を奪われるなぞ尚更であった。
　それが打たれた、それで彼等は驚愕した。
　この先制点にヤクルトナインはわかった、無敵のピッチャーなぞ存在しないそして自分達も出来るのだと。
「やってやる！」
「何がオリックス有利だ！」
「そんな下馬評糞くらえだ！」
「日本一になるのは俺達だ！」
　こう言い合った、チームの雰囲気は一気によくなりオリックス何するものぞとなった。七回裏にオリックスに同点に追いつかれたが。
　もうマウンドに山本はいない、高津はここで言った。
「随分投げさせたからな」
「ええ、流石にですね」
「こう降板しましたね」
「今マウンドにいるのは三番手のヒギンスです」
「もう研究しています」
「山本は随分調べた」　
　高津は今はベンチにいる彼を見た、そのうえでコーチ達に話した。
「しかし調べたのは高津だけじゃない」
「他の選手達もです」
「全員です」
「そしてこっちの選手も皆わかっています」
「そうしています」
「敵も知ってこっちも知っている」
　高津は今度はマウンドにいるヒギンスを見て言った。
「ヒギンスだけじゃなくてな」
「こっちのバッターもです」
「誰がどうヒギンスを打つべきかわかっています」
「それならですね」
「同点にされましたが」
「やれる、ここでもな」
　こう言ってだった、バッター達を送った。するとノーアウトランナー一塁になって村上宗隆がであった。