| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

即戦力

 
前書き
全然水の滅竜魔導士の方がモチベーションが上がらない件について 

 
カキーンッ

快音を響かせ左中間を抜けていく打球。明里とライトからレフトへと回っている友里恵が追いかけ処理するが、打った陽香は楽々二塁を陥れていた。

「すみません!!」
「いいよ楓!!打たれるのはしょうがない!!」

伊織からボールを受け取った少女は目に見えて気持ちがしょげている。マウンドに上がった先頭打者にこれだけ簡単に打ち返されては、投手としてそうなってしまうのも無理はない。

「楓さん!!切り替えていきましょう!!ここからです!!ここから!!」

そんな彼女に懸命に声をかけ落ち着かせようとする莉愛。しかし、その声を出す彼女も頭の中では困惑していた。

(どうしよ……ストレート以外カウントが取れない……)

楓の球種はストレート、スライダー、カーブだがボールが手に付いておらずストレート以外ストライクに入ってこない。そのせいでカウントを悪くした結果が今の痛打なのだ。

(そうなるとストレートを軸にしていくしか……)

四球連発が一番避けなければならい展開。それもあって莉愛はストレートを厳しいコースに要求するが、当然それは読まれておりーーー
















「やっぱり楓じゃダメかもな」

ネクストバッターズサークルでレガースを着けながらマウンド上を見ている莉子。彼女の目に映る少女は顔面蒼白といった言葉が似合ってしまうほどに動揺していた。

(センターラインが安定してるから2アウトまで漕ぎ着けたけど、この投球じゃまだまだ公式戦で使うのは厳しいな)

二年生である楓は本来ならば次のチームでマウンドを任せるために今年のうちから試合に出ていなければならない選手だった。しかし、彼女はいまだに公式戦での登板はない。理由は簡単、安定感がないからだ。

ガキッ

内野に転がったゴロ。優愛がこれを処理して一塁をアウト。それを見て莉子はヘルメットと手袋を外しベンチからプロテクターが来るのを待つ。

(優愛と葉月は球が速いがとにかく荒れている。明里は総合力はあるがスタミナに課題がある。楓と結月(ユヅキ)はとにかく基本的な能力が足りない。こいつらがなんとかならないと私たちが勝ち進むことは難しいと思っていたけど……)

攻守交代に伴いブルペンからマウンドへと駆けてくる黒髪の少女。落ち着いた佇まいがそうさせているのか、彼女がマウンドを慣らすその姿は絵になって見えた。

(まさかこんなにいいピッチャーが入ってきてくれるとはな。噂通りの力か、見せてもらうか)

期待の新入生(ルーキー)の登板。これにはバッテリーを組む莉子も、後ろを守る選手たちも、そして対する少女たちも全員が注目を寄せていた。

















陽香side

投球練習を行う少女。ゆったりとしたフォームからキレのあるボールを投げ込む瑞姫。男子に混じって全国大会でも投げたこともある彼女の力に私たちは期待の眼差しを向けている。

(しかもこの回は優愛と栞里に回ってくる。この二人をどう抑えるのか)

運がいいのか悪いのか、クリンナップからの攻撃。選手の都合上2イニングしか投げさせることができないことを考えるとこの打順の巡り合わせは最高だろう。

まずは三番の恵から。初球は外角のストレート。スピードもそこそこあり、コースも高さも完璧だったボールに手が出ない。
莉子から返球を受けると速いテンポですぐに投球に入る。

「ストライク!!」

続くボールを恵は振っていくが外に逃げていくスライダーで空振り。あっという間に追い込むと続く三球目も外へ逃げるスライダー。リリースの時は甘いボールに見えたからか、これにも手を出してしまい空振り三振に倒れていた。

(これくらいはやってもらわなきゃ困るか)

クリンナップに入っているが恵の打力はそこまで高くはない。同じ三年生として栞里と伊織が押し込んだといった感じだろう。問題はここから。打席に入るのはこのチームトップクラスのスラッガー優愛。彼女はいつも通りのユルッとした表情で打席に入る。
















莉子side

(ストレートは120km弱くらいか?スライダーもいいし決め球もあるとは……)

改めて陽香と瑞姫をこっちのチームに集めた理由がわかった。確かにこれだけのレベルでは初心者キャッチャーにバッテリーを組ませるのは酷だ。だから投手力に差が出てもいいから私と二人を組ませることにしたんだろう。

(それにこいつとやれるのはいい経験になる)

日本代表に選ばれるほどのスラッガーである優愛。彼女とこんな実践でやれる機会はそうそうない。

(まずはこれからだ)

もっと我が強い奴かと思っていたがすんなり頷くのを見るとそうでもないらしい。もしくは配球の意図をしっかりわかっているかのどちらかか。

「ストライク!!」

外から入ってくるスライダー。これには手を出すことはわかっていたので低めに外れるように指示をしていたが、寸分違わずそこにコントロールされてくる。

(コントロールは陽香よりもいいかもな。なら……)

もう一球スライダーを続ける。ただし今度はワンバウンドするくらい低くだ。

「わぁ!!」

早打ちの優愛はこれにも手を出して空振り。見逃せば二つともボールだが、逆にこれで追い込まれると打者としては辛いだろう。

(瑞姫に振らせるキレがあるのも確かだな)

次は高めにストレート。これにも手が出かけていたが何とか止まって1ボール2ストライク。だが、瑞姫にはもう一つの決め球がある。

(あとはこれで三振だ)

高めに速い球からのフォークボール。真ん中から落としてやればどんな打者だろうと食い付く。ましてや追い込まれているとなればなおさらだ。

追い込んでからの四球目。瑞姫の投じたボールは理想通りの高さに来た。そして思惑通りに優愛はスイングに入る。

(決まった)

ゆっくりとボールが降下し始める。それに合わせてバットの軌道を修正していくが、ボールはワンバウンドするほどの落下を見せーーー

キンッ

小気味いい音を残して打ち上げられた。

「は?」

空振り確実と思われた投球だったが諦めずに振り抜いた優愛のバットにそれが当たってしまった。力なく小フライとなった打球は内野の頭を越えそうになるが……

「オッケー!!」

葉月が背面でこのボールを捕球しなんとかアウトになった。

(珍プレーじゃないんだから……)

ここまでの落差があるフォークボールもなかなかだがそれをバットに当てるのも相当のセンスがある。能力が高い二人だからこそ起きた珍プレーといったところだろうか。

(次の栞里はそんなことは起きないだろ)

一瞬ヒヤリとさせられたが気にせず次の栞里に挑む。初球ストレートを外角ギリギリに決めてストライク。次のスライダーは外に外れて1ボール1ストライク。

(どのボールも一級品といっていい。これは面白くなりそうだ)

まだ追い込めてはいないがここでフォークを選択。わざと振らせることに慣れているのか、手元を離れた瞬間は甘いボールに見える。しかし、そこから落ち始めるそのボールは打者を嘲笑うように落下していき、相手はそれを捉えることができず空を切ることしかできない。

(もう一球いってもいいが、ストレートの力も見てみたいな)

制球がいいことは十分にわかった。変化球のキレもストレートの速度も十分。あとはこれにどれだけのパワーがあるか。

(試させてもらうか)

サインを出し中腰に構える。あえて打者に気付かせるように分かりやすくミットを構える。

(これなら栞里も絶対手を出す)

高めに最速のストレート。それも打者がそれを察知している状況ならば力勝負になる。長打になるか凡打になるか、上にいった時に通用するボールかを見極めさせてもらう。

しなやかな腕を目一杯振り抜いて放たれたストレート。高さもストライクとボールの際どいところに来たベストボール。栞里もこれを捉えようとバットを振り抜く。

バシッ

「ストライク!!バッターアウト!!」

バットがボールの下を通過し空振り三振。受けている手に痺れが残るほどの力のあるストレートに私は思わず笑みを浮かべいた。

(ストレートにも力がある。これはすぐにでも試合で戦えるな)

私たちの最大の弱点だった投手の不足。それをすぐにでも塞いでくれるほどの即戦力の登場には私も、ベンチにいた陽香も笑みを浮かべずにはいられなかった。


 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
今回は準主人公に焦点を合わせるお話でした。そろそろ次のステップに進めればいいなぁと思いながら次も書こうと思います。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧