DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~
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仲間意識
前書き
野球はもうやりたいと思わないのにこういう創作が捗るのはこのスポーツなんだよね……
真田side
重心がブレることなく引き上げられた左足。その足を真っ直ぐ踏み出すと、ロスなく身体を回転させながら振り下ろされた右腕。そこから放たれた白球に打者は触れることができず空振りに倒れる。
「ナイスボール!!」
あまりに理想的な投球に彼女の相方も返球の際に甲高い声をかける。打ち取られた打者はダッシュでベンチに戻ると、それに代わるようにニコニコ笑顔の少女が打席に入った。
「よろしくお願いします!!」
「はいはい」
左打席に入った水色の髪をした少女はヘルメットのつばに手を当てながら深々と挨拶すると、バットをしっかりと握りピッチャーへと相対する。
(なんでこいつ左なんだろうな)
初めて見た時からずっと疑問だったが、なぜ彼女は左打席に立つことに拘っているのか。野球を始めたばかりの右利きの選手は通常右打席に入る選手が多い。もちろん左打者に憧れて野球を始めればそうなるが……
(左打ちでキャッチャーか……)
頭の中に一人の少年の顔が脳裏を過る。初めて会った時から才能が溢れていた彼をかつて指導したことがあったが、その期間はわずかなものだった。
(左打ちでキャッチャーだと比較的打てる奴の印象があるが……初打席だしな)
プロ野球では打てるキャッチャーが近年減ってきている。それはポジションによる負担が大きいこともあるが、打力があるとそれを生かして外野手に転向させられることが多いからだ。ただ、キャッチャーのままその打棒を遺憾なく発揮した選手もおり、その中にいる左打ちの選手は長打を放つホームランバッターの印象がある。
人生の初打席でどんなバッティングを見せるのかと期待しながら見てみるとその初球……
バシッ
投球は外角へのストレート。かなり厳しいボールだったが振っていきストライク。
(ブンブン丸かよ)
初球から振っていくのは悪いことじゃない。しかし、難しいボールに最初から手を出すのはよくない。自分から凡打を打ちにいっているのと同じだからだ。
莉子もそれを察したのか次のサインを出すと中腰になる。高めのボール球でフライを打たせる作戦だろう。
(空振りそうな気がするけどな)
高めは長打になる確率が高い。そのことがわかっているからか陽香はこの投球を力をいれて投じた。打者の目の高さに投じられたストレート。案の定莉愛はそれに手を出し……
キーンッ
バットからは快音が響いた。
「「え?」」
二球続けてボール球に手を出したにも関わらず打ち返されたボールはセカンドの頭を越えていく。打球に勢いがなかったため右中間を抜けることはなかったが、打者は一塁に残ることができた。
「マジかよ」
典型的な打てないタイプかと思っていただけにこれには驚かされた。たまたま振ったところにボールが来たのか狙っていたのかはわからないが、ますます彼女の底の見えなさに驚きの表情を浮かべていた。
莉子side
「マジ?」
一塁でガッツポーズをしている少女を見て唖然としてしまう。高めの釣り球に手を出させることに成功したのに、打球は内野を越えてヒットになってしまった。
(うわっ……めっちゃ陽香睨んでる……)
要求通りの投球……しかもMAXを投げたにも関わらずヒットにされたらそりゃ怒るか。相当怒っているようでサインを覗きながらも目は笑っていない。
(こりゃあいつを返したら何か言われそうだな)
一塁ランナーの莉愛が生還したらベンチに帰った時に確実に何か言われる。ここは何とか無失点で切り抜けたいが、このランナーが何か仕掛けてきそうな気がする。
(優愛タイプのような気がするんだよな……)
優愛なら盗塁もしてきそうだが、初めての出塁でそんな勇気が……いや、こいつならやってきそうな気がする。
(明里ならエンドランもありか……なら……)
初球はウエストする。警戒しすぎと言われるかもしれないが関係ない。この一球で相手の狙いを探る。
クイックで投げさせ大きく外す。その結果、ランナーにもバッターにも一切の動きは見られなかった。
(ここは明里に任せるみたいだな)
向こうも一球目は様子を見ただけとも考えられるが、この一球でこちらも十分に警戒していることは印象付けることができた。となれば迂闊にランナーを動かしてチャンスを潰したりはしないはず。
(次はこれだ。入れろよ)
内角から真ん中に入ってくるカットボール。定石としては外に逃がすのだが、それでは空振りされる可能性がある。ここはわざとバットに当てさせてゲッツーを狙う。
「ストライク!!」
コースが良すぎたのか明里はピクリとも動かない。ならば次は外にカットボールで逃がしてみるか。
ギンッ
次のカットボールには手を出してきたがファール。これでカウント的にこちらが有利。
(これはスライダーで三振取れるな。外に逃がせよ)
ピッチャーが陽香……1アウトランナー一塁……このランナーを生かそうと色々と考えているんだろうけど、そのせいでスイングが鈍い。
(次からピッチャーも代わるだろうしな。残塁を減らしたい気持ちもわかるけど……)
真ん中から外へと逃げていくスライダー。身体に力が入っていた明里はそれに手を出し、空振り三振に倒れた。
第三者side
アウトカウントを増やし顔をうつ向けながら帰ってくる少女。そんな彼女に真っ先に声をかけたのはニヤニヤとした笑みを浮かべた少女。
「ダメだよ明里!!あんな半端なスイングしちゃ!!莉愛ちゃんみたいに振りきらなきゃ!!」
「うるさいなぁ……優愛と違って私は色々考えてるんだよ」
帰ってきて早々に同級生からの言葉にムッとして返す明里。このやり取りで一年生たちはハラハラしていたが、彼女たちをよく知る者たちはいつも通りのやり取りに笑っている。
「これで明里2三振だからなぁ。今日全部三振かな?」
「それはない。次は打つ。絶対打つ!!」
選手としてのタイプは全く違うのにまるでライバルのようなやり取りをする二人。初めて見た一年生たちからは喧嘩のように見えたが上級生からすればこれは彼女たちなりのコミュニケーションだということがよくわかっている。
特に気持ちが落ちているようだった明里に気合いが入り直したことで、チームとしても士気が上がるのを感じていた。
キンッ
その間に打席に入っていた伊織は快音を響かせるが、打球はセカンドの正面へのライナー。紗枝がこれをガッチリキャッチしチェンジになる。
「若菜ちゃん、ごめんだけど交代ね」
「はい。わかりました」
高校生になってから初めての試合だった若菜に声をかけ、ブルペンで肩を作っていた楓を呼び寄せる栞里。彼女は次のピッチャーである楓にボールを渡すと、ベンチに残っている面々の方に向き直る。
「この回終わったら後半戦だからね。奈央以外は次で全員出るから準備しておいてね!!」
「「「「はい!!」」」」
まだ試合に出ていない選手たちにしっかりと気持ちを作らせたところで守備へと向かう栞里。そして彼女の代わりにマウンドに向かおうとする楓を莉愛が呼び止める。
「楓さん!!サインは……」
「あ!!そうだったね!!」
莉愛が出塁していたこともあり事前にサインを決めておくことができなかったため、防具を着けながら球種とサインを確認する二人。対してピンチを脱した少女たちはというと……
「全く……お前のせいで危なかったぞ」
「仕方ないだろ。まさか内野の頭を越えるとは思わなかったんだ」
最後のイニングは三人で絞めていきたかった陽香は不満げな表情を、莉子は責められることがわかっていたからか不貞腐れた表情を浮かべていた。
「それで?次から守るか?」
「いや、この打席だけ立ったらあとは任せるよ」
次の打者は陽香から。そして彼女は次の回からマウンドを譲るため、それに合わせてベンチへと下がる判断らしい。
「葉月と曜子は最後まで出れるだろ?」
「大丈夫で~す」
「もちろん!!」
明宝学園の女子野球部の部員数は全部で31人。紅白戦はそれを半分に分けているため、半分のイニングで下がる選手とフルで出る選手とが現れる。
「それだと瑞姫がそのまま三番でいいのか?」
「あぁ。次の回からな?」
陽香は最後に打席に立ちたいらしく念を押してからバッティング手袋をはめ始める。
「陽香さん、最初の打席根に持ってるみたいですね」
「聞こえるから、葉月」
彼女は後ろから聞こえてきたそんな声を気にすることなくヘルメットを被り、準備を進める。彼女のスイングは女子野球のそれを越えるほどに鋭く、気持ちが全面に出ているのが感じられた。
後書き
いかがだったでしょうか。
次からは一気に加速していきそうな気がします。莉愛の打席もしっかり書きましたのでとりあえず満足してるのでww
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